「おい、おまえ。」
その冷静な犯人と目が合ってしまった。やばいなぁ。
「お前だよ。立てよ。」
仕方ないから、立ち上がった。
「なんか、お前、やけに冷静じゃん。」
「あんたもね。」
あっ、余計なこと、言っちゃった。
「おもしれぇ。」
「あと、30秒で、コイツ、殺すよ。だから、早く詰めてね。」
ついにオレがターゲットか。仕方ない、やるか。オレは、この冷静なヤツの両腕の骨を、爆弾に変えた。残りの3人は、片足を爆弾にした。
「あと、10秒だよ。早くしてね。」
周りのお客は、みんな震えあがって顔を伏せている。と、遠くからサイレンが聞こえてきた。警察、遅いよ。
「はい、時間切れです。」
ソイツが引き金を引く前に、オレは爆破した。両腕は木っ端微塵に砕け散った。傍にいたオレも血だらけだ。残りの3人も爆破。周りは血だらけだ。伏せていた客の手元に、手や足が飛び散っている。それを見たお客は、この世とは思えない叫び声を上げている。卒倒してしまった人もいる。オレは、冷静だったヤツを見て、ニヤリと笑った。ソイツもオレの仕業だと悟ったみたいだ。
「これは、どういうことだ?」
「さあな。」
しばらくして、警察が踏み込んできた。銀行マンの説明で、犯人連中は救急車で運ばれて行った。血だらけのオレも救急車にと言われたが、なんともないと言って、断った。結局、行員1人が死に、2人が重症で、犯人は4人とも、めっちゃ重症ということだった。これから、一生、不自由な生活が待っているということだ。死ななかったことだけ、幸いと思ってほしいもんだ。
オレの血だらけの姿が、報道の中にあったらしい。明子さんが来た。
「わたるサン、大丈夫なんですか?」
「ああ、なんともないよ。だから、トラブル・アトラクターだと言ったろ?」
「・・・」
「帰りな。」
オレは玄関越しに明子さんを追い返した。もう、来ないだろう。それがいい。
しばらくして、警察が来た。
「犯人の1人が、自分たちの手や足が爆発したのは、あなたの仕業だというんです。」
「オレはほかのお客と同じで、たまたま居合わせただけですよ。」
「それはわかるんですが、犯人の一番傍にいたんですよね。」
「それに、次に殺されるかも知れない状況だったんですよね。」
他のお客の証言かもしれないな。
「確かに、その通りです。でも、それでどうやって爆破するんです?」
「そうなんですよね。でも、犯人の言うことも、まんざら嘘だと思えないんです。」
「オレは爆弾なんか持ってないですよ。」
「ですよね。」
まあ、長々と同じ話の繰り返しになったが、オレはお役御免となった。どんなに防犯カメラを確認してもらっても、オレがやったという証拠はどこにもない。
ただ、面倒臭いのは、オレがトラブル・アトラクターだということだ。今までもこういう場面に何回も出くわしている。だから、警察もオレに疑問を持っている。多分、「また、コイツか!」と思っているに違いない。
警察も一回じゃ終わらない。オレはまた呼び出しを受けた。
「何度、質問されても同じですよ。」
「なんで銀行にいたんだ?」
「だから、記帳ですよ。個人事業主ということはご存じですよね。」
「じゃ、なぜ、犯人に標的にされていたんだ?」
「そんなことはオレにもわかりませんよ。犯人に聞いて下さいよ。」
「君と目が合って、笑っていたと言ってたよ。どういうことなんだ?」
「確かに、目が合ったように思いますが、笑ってないですよ。」
「ほんとにいつも君は、事件の時にいるね。」
「オレもなんでそうなるのか、わかりませんよ。」
「君も犯人の一味じゃないの?」
「違いますよ。本当にたまたまなんです。」
まいったな。まあ、相変わらずだけどな。
「犯人はみんな腕や足が、まるで破裂しているんだ。いままでの事件と同じだ。」
「不思議ですね。」
「おかしいだろ?君が関係している事件はみんな、犯人が手や足を失っているんだ。」
「そんなん、オレも知りませんよ。」
「どうしてなんだ?」
「だから、知らないって言ってるでしょ?」
「こんな不思議な事件は、今までなかった。だけど、君がいるときにだけ、そんなことが起こるのはなぜなんだ?」
「知らないことを、どうやって答えるんです?」
「君は犯人の手や足をなんらかの方法で破裂させ、事件を解決させているんじゃないか?」
まあ、当たりだけどね。
「どんな方法で?破裂って、医者が言ってるんですか?」
「君は知ってるんじゃないのか?」
「どんなふうにです?オレは破裂させるための何かなんて、持ってないですよ。調べてもいいですよ。」
「う、う、もういい。わかった。帰っていいよ。」
まあ、そんなもんでしょ。
(つづく)