しばらくして、オレたちは新居にいた。ここは空気がいい。まわりの自然も豊かだし、庭先で農園だって作れる。
「さあ、越してきたし、まわり近所への挨拶も終わった。ペルーへ行こう。」
「ワタル、ありがとう。」
だが、ペルーまでは、24時間以上かかるフライトらしい。直行便はないので、乗り継がないといけないらしい。オレたちは、ロスでの乗り継ぎを選択した。そういえば、最近はトラブルがない。いいことだけど、なんか嫌な予感がする。でも、そんなことマリアに言えないしな。
長いフライトの中で、オレはかおりちゃんのことを考えていた。彼女がヨーロッパに行きたいと言わなければ、オレは絶対に行ってなかった。オレとマリアとの出会いは、やっぱり、かおりちゃんが仕組んだことなんだろうか。そう思ったら、オレはマリアを大切にしないとと思うのだった。
ようやく、ペルーについた。マリアは自分の庭のように、迷うことなく、タクシーに乗り、家まで走った。ここが、マリアの実家だ。結構、豪邸じゃん。オレはマリアに多少習ったスペイン語で挨拶し、家に入った。すごい、歓迎っぷりだ。オレが想定していた通り、日本のマリア状態だ。数日間のペルー滞在と結婚式、宴会をやり遂げ、オレたちは帰りの飛行機に乗った。ようやく、日本へ帰れると思うと、かなりほっとしている自分がいる。
だが、その飛行機に嫌なヤツらが乗っていたのだ。ハイジャッカーだ。オレもマリアも気づいていた。犯人が何人いるのかはまだわからなかったが、オレがわかっているだけで、2人。マリアもその2人には気づいていた。
「マリア、何もするなよ。」
「わかった。でも、どうするの?」
「何人いるかを先に突き止めないと。」
「そうね。」
だが、それは簡単にわかることになった。突然、何かの合図で、ハイジャッカーたちが立ち上がったのだ。3、4、5、6人。6人だ。オレはすぐに、両手肘を爆弾化しようと思ったが、あんまり血肉が飛び散るとまずいので、両手首の小さな骨にした。すぐさま、爆破した。連中は刃物や拳銃を落とし、顔をゆがめて呻いている。近くの人たちが、凶器を取り上げ、犯人を押さえてくれた。だが、まだ、いたのだ、多分、主犯格だ。そいつか、取り押さえている乗客1人に切り付けた。オレはすぐさま、同じように爆破。ソイツも刃物を落とした。くそ~、7人いたのか。乗務員は医者がいないかと声を上げた。たまたま、医者と看護師が乗っていたので、救急救命をすることができた。
「また、ワタルの守護霊?」
「ああ、そうだな。」
「すごいね、ワタル。」
飛行機は最寄りの空港に一旦着陸することになった。結局、全員から聞き取りが行われ、数時間、拘束された。日本まで遠いな。
ようやく、アメリカのロスで日本行きの飛行機を待っている時だった。変質者が子供を盾に大きなナイフを振り回している。またか。と思ったら、オレたちの近くで殴り合いが始まった。どうなってるんだ。オレはとにかく、変質者の手を爆破。刃物を落とし、痛そうにうずくまったところを、警官が取り押さえた。で、こっちは?殴り合いは2人だったのが、広がっている。まずいぞ。オレは目についた連中全員の手首を爆破。そのとたん、殴り合いはおさまった。だが、新たな暴徒が殴り合いを始めたので、それも爆破。沈静化するのだ。ようやく、誰も殴り合いをしなくなった。なんてところだ。
「ワタル、もしかして、ワタルがやったの?」
えっ、しまった。マリアに気づかれた?
「いや、オレじゃないよ。」
「でも、そうにしか見えなかった。守護霊なんて、うそじゃないの?」
だめだ。完全にわかってしまったみたいだ。
「いや、オレは知らないよ。」
「私にだけ、本当のこと、言って。」
どうしようか。マリアはどう思うんだろう。困った。
「ねえ。」
まずいな。もう、隠すことはできないよな。
「わかった。マリアにだけ、言うよ。」
「うん。」
「オレの能力なんだ。相手の骨を爆弾化して破裂させることができるんだ。」
「ほんとなの?」
「ああ、小さな骨なら、体の中で弾けるだけだから、血が出ることがないけど、大きな骨を破裂させたら、吹っ飛ぶ。」
「あの時の人たちの腕が飛んだのも、ワタルがやったのね。」
マリアは震えている。オレは別れを覚悟した。
「そうだ。ハイジャッカーたちもそうだ。オレがやった。」
マリアは震えて、手に顔をうずめて泣き出した。
「オレにはどういうわけだか、トラブルが多い。そんな時、身を守るためにしか、使っていない。今の場合は、沈静するためだ。トラブルが起こらない限り、こんな能力は使わない。でも、マリアがそんなオレが嫌なら・・・仕方がないな。」
「・・・」
「黙ってて、すまなかった。」
マリアはオレから去っていくだろう。仕方がないことだ。こんなヤツ怖いだろうしな。
「ワタル。」
「んっ?」
「でも、愛してるの。」
「どんなワタルでも、私は愛してるの。」
そういうと、オレに抱き着いた。オレはキスをした。
「ありがとう。」
長い抱擁とキスのあと、マリアは微笑んだ。
「私だけの秘密にしてあげる。」
「ありがとう。」
長いフライトも終わり、ようやく日本に帰り着いた。オレたちは、新しい新居へと向かった。もう、何も起こらないでほしいと思った。マリアにしてみりゃ、オレがたくさんの人を殺したり、傷つけているのが嫌だろうし、やっぱり、警察官なんだからな。
K市の警察に行くと、マリアは大歓迎を受けた。東京の前田刑事からの口添えだけじゃなく、ペルー警察からの推薦状もあったらしい。マリアはK市の警察官として、働けることになった。まあ、こんな田舎だからマリアを知らない人はいない。みんなに声を掛けられる。
オレはオレで、今までと同じ仕事を続けた。長らく、休んでいたんで、かなり、お客さんたちは待っていたみたいだった。で、寝る暇もしばらくなかった。ようやく、落ち着いて、普段通りの仕事に戻ってからは、のんびりした生活が待っていた。オレはマリアと、たまに近くのスイスを見に行く。いいところに越してきたもんだ。マリアもうれしそうに景色を眺めている。オレは時たま、マリアからの連絡で、犯人逮捕を手伝ったりしている。それくらいはいいだろ。マリアも容認しているしな。この先、大きなトラブルはごめんだ。オレは、マリアと楽しく、暮らしていきたいのだから。
おわり