変わりゆく未来 第4話

 父親の顔、そう、武田貴洋だ。私が中学の時の同級生だったヤツだ。だから、今の私は武田洋なのか。おいおい、なんてこった。おまえの息子になってしまったのか!

 ユミの簡略化した説明を聞いて、
「ヒロシ大丈夫なのか?おとうさんはわかるのか?」
「ごめんなさい。全然、覚えてないんだ。」
「明日、ちゃんと病院行って検査してもらわないといけないな。でも、どうして?」
「ボクにもわからないんだ。突然、すべてが飛んでしまって、何もかもわからなくなってしまったんだ。今のボクの家族がここでいいのかもわからない。」
「おまえはうちの家族だ。それは間違いないから、安心してほしい。」
 武田もいい父親になっているんだな。それに引き替え私はというと、多分一生独身でひっそりと暮らしていくことだけで満足していたんだからな。なんか、複雑な気持ちだ。

「お父さん、お母さん、今日は早めに休ませてほしい。いいかな?」
「そうした方がいい。おやすみ。」
「ゆっくり、休んでね。」
 ふたりともいい人でよかった。私は二階へ上がって、自分の部屋に戻った。

 さて、これでなんとか、今までの性格と違ったことについて、特に違和感なく受け入れてもらった気がする。これから、友人関係や学校関係でうまくやっていけるんだろうか?あ、今の中2はどんな勉強をしてるんだろ?私はついていけるのかな?さすがに不安になった。いきなり、劣等生になってしまいそうだ。運動部に所属していなかったのだから、スポーツはそんなにうまくなくても大丈夫だろうけど、勉強はどれくらいの成績だったんだろうか?中2の勉強なんて、遠い過去のことだから覚えてないし、四苦八苦しそうだ。ちょっと、くじけそうになった。

 ところで、この部屋、どうなっているんだろうか?ちょっとした探検だな。どんな少年なのかを知る手がかりになる。そういえば、福田クンに連絡しておかないとな。スマホの操作も教わったし、ラインの電話で掛ければいいらしいし。なんとか、福田クンにコール。

「おお、ヒロシ、どうだった?」
「明日は病院にいくことになった。」
「まあ、そうだろうな。記憶がないんじゃ、仕方ないよな。」
「すまんね。よろしく頼むよ。」
 何をよろしく頼むのか?自分でもよくわからないけど、彼にまかすことにした。
「了解。まかしとけって。また、病院の結果は教えてな。」
「うん、わかった。じゃ。」
「じゃ。」

 短い会話だったが、いきなり親友になっている気がした。こいつはいい家族の中で育って、いい友達もいるじゃん。その人生を私が取ってしまったんだよな。なんか、orz の気分だ。本当のコイツはどこにいってしまったんだろう。私が入ったことで、消滅したんだろうか?なんか、めっちゃ罪悪感で落ち込んだ。でも、私が故意でしたんじゃないし、私も被害者なのだ。私のからだはもう死んでいるし、戻ることさえできないのだ。

「お兄ちゃん。」
ユミが入ってきた。
「ん?」
「いつもノックしろって怒るのに、今日はやっぱり違うね。本当に記憶がないの?」
「今日、帰ってきてユミに会うまで顔さえわからなかったんだ。」
「そんなことって本当にあるんだね。で、初めて見るユミはどんなふうに見えた?」
「可愛い妹だと思ってるよ。」
「ホント?」
ニコニコ上機嫌のユミに、なんでこんなにコロコロ変わるのか。女心ってそんなものかもね。
「今までのお兄ちゃんも好きだけど、今の優しいお兄ちゃんはもっと好き!」
おいおい、そんなものかな。今まで全然もてなかったけど、どこかで好意を持っている女性もいたかもね。しかし、子供の扱いもどうしていいのかよくわらなかったが、適当に合わせることで切り抜けれそうだ。
「もう、寝るからまた明日な。」
「わかった。おやすみ。」
ようやく、出て行ってくれた。なんとか、落ち着ける場所も確保できたし、しばらく普通に暮らしていけそうだし、かなりほっとできた。本当に福田クンには感謝だ。

 翌朝、やはり私は少年だった。14歳の少年だ。でも、心は40過ぎのオッサンなのだ。今日は、どこかの病院へいく。母親がついてこなくても、自分でいける。でも、それを許してはくれないだろう。もしも、もしもだ。治療することで、少年が戻って私が消えることになるのかも知れない。そうなったら、それが自分の運命だったのだということで、あきらめるしかないのだろう。

 朝食を食べ、やはり、母親と一緒に近くの市民病院へいくことになった。こういう病院はものすごく待たされる。多分、終わるのは、昼過ぎになるのだろう。まあ、仕方がない。ユミはあきらめて、学校へ行った。父親の武田は、今忙しいらしく、だいぶ朝早くに出勤して行った。まあ、この年代が働き盛りということだし、仕方ないのかも知れない。

 病院に着くと受付を済ませ、自分の番がくるまで、やはり、かなり長いこと待たされた。最初は問診だったが、電車で仲間とワイワイやっていたところ、突然、意識が亡くなったこと、その後は自分が誰なのか、どこに住んでいるのかなど、さっぱりわからない状態になったことを話した。やっぱり、CTスキャンすることになった。ついでにMRI検査も行われた。その結果は、どこにも異常がないとのこと。これも想定内のことだ。生活するぶんには問題ないし、どこにも異常がないのだから、母親には納得してもらって、そろそろ帰りたかったが、なかなか納得してくれない。記憶を失った原因は、深層心理から解きほぐすしかないと母親は思ったみたいだった。それなら、この市民病院ではその担当医がいない。ここで、一旦帰ることになった。

「深層心理から解きほぐすって、もしかしたら、精神が壊れる危険性もあるかもしれないらしいよ。ちょっと、そうなるとボクはともかく、家族に迷惑がかかるから、やめとくよ。」
「本当にそれでいいの?」
「だって、健康状態は問題ないみたいだし、頭の中にも異常はないし、恐らく一旦リセットされているだけのようだから、新鮮な気持ちでこれからの人生、楽しめそうだよ。」
「なんか、ずいぶん大人になった気がするわね。」
「そうかな?でも、こんな自分を家族が受け入れてくれないなら、どうしようもないね。」
「そんなことないわ。ヒロシはヒロシだもん。愛する家族の一員なんだがら、今のヒロシをちゃんと受け止めてくれるわよ。」
「そうなら、もういいよね、病院は。ボクもまだわからないことがあるけど、福田クンもいるし、学校のことは少しづつ教えてもらって頑張るから。」
「あなたは偉いわね。」
 母親はまた泣き出した。結構、涙もろい人なんだ。

 とにかく、今日はのんびりできる。自分の部屋の状況をしっかり確認しないとな。しかし、今時の中学校はいじめとかあって大変らしいけど、コイツは大丈夫だったのかな。あんまり、変なことに巻き込まれてなければいいけど。机の上、本棚、引出し、衣装ケース、このくらいの子ならどこかに何かを隠していてもおかしくない。

 それなりに調べてみたけど、まあ、普通の中学生のようだ。あとは、スマホの中だけど、まあ、興味をそそる写真はいくつかあった。住所録にも疑問が残る人がいた。まあ、これはおいおい調べて行こう。結構、おしゃれな服が多い。まあ、そんな年頃なんだろう。自分はというと、着れたらいいと思うタイプだ。だから、今後はだいぶ変わっていくだろうと思う。

(つづく)

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