変わりゆく未来 第30話

 私は部屋に帰って、家からの手紙を探した。いくつか見つかって、中身を確認すると、旅館名や場所なんかが確認できた。ネットで調べてみると、かなり大きい。多分、従業員もたくさんいそうな気がする。

 で、私の家族はどうなっているのだろう?それも、手紙から探そうとしたが、あまりわからなかった。スマホに家の連絡先があった。恐らく、母親の名前だ。信じてもらえるかどうか、わからなかったけど、一度、連絡してみることにした。

「もし、もし、直美だけど。」
「えっ、珍しいわね。電話してくるなんて。」
「ちょっと、困ったことが起こったの。」
「お金?ないわよ。」
「いえ、違うの。信じてもらえるかどうかわからないけど、朝起きたら、記憶がなくなっていたの。だから、私の部屋に置いてあった手紙を伝手に電話したの。」
「大丈夫なの?」
「うん、生活する分には何も問題ないけど、過去の記憶がないの。」
「いったい、どういうことなの。」
確かに、こんなことって普通あり得ないから、わからないよな。

「一度、そちらに行ってもいい?」
「そりゃいいよ、お前の実家なんだから。」
「私の過去を教えてほしいの。」
「とにかく、帰っていらっしゃいよ。」

 うまく、帰れることになった。私は土日と1日休みを付けて、実家に戻ることにした。
実家は都会の日常からかけ離れた、緑豊かな山並みの裾野にあった。時間がゆっくり流れているような感じのところだった。

 最寄の駅からはタクシーしか交通手段はない。私が、旅館につくと、お客と勘違いしたのか、従業員の方に出迎えて頂けた。でも、気持ちがいい。玄関に入ると、私を知っている人がいた。

「ナオちゃん、お帰り。」
 周りの従業員の方は私を知らなかったようだ。私はよっぽど、長いこと、帰ってなかったんだ。
「ただいま、帰りました。」
私は、自宅の方に案内された。通された部屋で正座して待っていると、父親らしい人と先ほどの母親が入ってきた。

「久しぶりだな。」
「ご無沙汰しております。」
「で、ナオちゃん、大丈夫なの?」
「ごめんなさい。お二人とも覚えがないの。」
「なんてことなんだ。」
「もしかしたら、寝ている間に脳梗塞が起こって、過去の記憶する部分がだめになってしまったのかも。」
「病院は行ったのか?」
「ううん、行ってない。だって、日常生活する分には何も問題ないんだもん。」
「何を言ってるんだ。病院に行ってちゃんと見てもらえ。」
「わかった。帰ったらちゃんといくね。」

「ところで、いつまで居れるんだ?」
「明後日までよ。それまでに、私の過去を教えてほしいの。私に兄弟はいるの?」
「おまえは一人っ子だ。だから、ここに帰ってきて旅館を手伝ってほしいんだ。」
「今までの私は、どんなんだったの?」
「会社の方が好きみたいだったわね。」
「なかなか、帰ってくるとは言わなかった。」
「そうなの。」
「今はどう思っているんだ?」
「まだ、わからないわ。しばらく、考えさせて。」
「あんまり、長いことは待てんぞ。」
「わかったわ。」

「私の部屋はまだあるの?」
「そのままにしてあるわよ。」
母親は私を案内してくれた。
「ここが私の部屋だったところね。」
なんか女子高生っぽい部屋だった。

「しばらく、この部屋にいてもいい?」
「ナオの部屋なんだから、好きなだけいるといいわ。」
「ありがとう。」

 この子はどんな女の子だったのだろうか。机の上の本は多分、高校の時の教科書などが多い。机の中は、文房具や写真、ノートなどが入っている。丸っこい字を書く子だったんだ。勉強のノートはしっかりまとまっている。真面目だったのかな。私はこんな子の人生を乗っ取ってしまったのか。でも、私のせいじゃない。この子も、そう遠くない将来、私が出て行ったら、亡くなってしまう。それなら、両親の元で過ごしてあげた方がいいのかも知れない。会社の仲間は、あれはあれで楽しい仲間だけど、私はこの両親のそばにいてあげた方がいいような気がしている。もしかしたら、この田舎には幼馴染もいるかもしれないし、そんな人との交流も楽しいかも知れない。私にプロポーズしてくれたトシ君にはまた別の彼女を見つけてもらった方がいいのだろう。私はまだ男だ。女にはなれていない。
この部屋のいろんなものに触れて、そんなことを考えていた。

「ナオちゃん、ご飯よ。」
 母親が呼んでいる。もう、日が暮れようとしていた。旅館はこの時間、忙しいのでは?と思いながら、食事の用意されている部屋に行った。

「この時間、忙しいんじゃないの?私はまだ、もっと後でいいのよ。」
「せっかく帰ってきてくれたんだから、みんなで頂きましょう。」
「ありがとう。」

 今は大半を従業員に任せているのだという。だから、たまにはこんなふうに夕ご飯を食べるようだった。私は、父親にビールをついてあげた。
「ナオも飲めるよな。」
「うん、頂くわ。」

 私は両親との食事を頂きながら、ここに戻ってくる気持ちを固めていった。二人は私の小さい頃の話をしてくれた。私はそんな子供だったんだ。ううん、自分ではない、この子の人生だ。私は、この子の、この両親を安心させてあげなければと思った。少しでも長く、移動せずにいたいと思った。

 休暇も終わり、私は一旦、ひとりの部屋に戻った。なんとなく、こちらの生活も私なりに、充分満喫しておきたいと思ったからだ。会社の生活は、同じ年代の友人たちとワイワイ楽しめる。それはそれで、楽しい。いろんな出来事を仲間で乗り切っていく。恐らく、いずれ、それぞれが別々の道を歩いてくのだろうけどね。

 私はカズちゃんと二人で話をすることにした。
「私、家に戻ろうかと思ってるの。」
「ナオの様子を見てて、多分、そうだろうと思った。」
「ごめんね。」
「なんで、謝るのよ。あなたが決めたことでしょ。」
「自分のこととはいえ、みんなに悪くって。」
「みんなだって、そのうち、それぞれの道を歩んでいくのよ。今だけ、たまたま、同じ道になったんで、ワイワイ楽しんでいるだけじゃん。」
彼女は本当に優しい。

「ありがとうね。」
「淋しくなるけど、また、会おうと思ったら、会えるじゃん。今はネットでつながっていられるしね。」
「そうだよね。でも、本当に今までありがとう。」
「何言ってんのよ。ささ、飲も!」
私は本当にいい人に恵まれたものだ。

「でもさ、トシはどうするの?」
「あ、忘れてた。」
「ひど~い。彼、泣いちゃうよ。」
「ほんと?」
「うそ。ww」
「こら~。」

 私はこんな楽しい日常から離れて、両親の元に行こうとしているのだ。でも、カズちゃんの言った通りで、仕方ないことなのだ。


(つづく)

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