変わりゆく未来 第41話(最終回)

 みんなはにこやかに接してくれた。私はそれがうれしかった。そこへ、見たことのある青年が入ってきた。社長だ。
「社長、遅いですよ。」
「いや~、悪い、悪い。」
「じゃ、改めて、かんぱ~い。」
私はすぐさま、社長のもとへ。
「初めまして、青木千鶴子です。よろしくお願いします。」
「君が青木さんか。うわさは聞いているよ。」
「社長、この子、凄すぎですよ。」
「こんなにできる子、いませんよ。」
「そんなことないです。」
「でも、みんなの話を聞いていると、あの人を思い出すね。」
「あっ、やっぱり、そうですよね。」
「思い出した、20歳で亡くなってしまった伝説の・・・」
「そうそう、丸山さん。」

 私はもう耐えられなくなってしまった。みんなからそんなふうに思われていたなんて。
「あれ、この子また泣いてる。」
「おかしな子。」
「だって、20歳で亡くなったなんて、かわいそうで・・・」
「うんでもね、ものすごくできる人だったんだ。わが社にとっては、ものすごく痛手だったけど、彼女の働き振りを見習って、みんなそれを目標に頑張ってくれたんだよ。」
「そうだったんですか。」
「その人の働き振りが、君によく似ているということだ。よろしく頼むよ。」
「承知しました。よろしくお願いします。」
「その言い方、なんか、なつかしいなあ。」

 私は、みんなのところに帰ってこれた。それが、とってもうれしかった。ブランクはあるけれど、仕事のやり方は変わっていない。だから、何をするにも、問題なくできる。やがて決算が終わり、毎年やっている決算賞与の時期になった。

「みんなのおかげで今年も利益が出たので、賞与を出せる。本当にありがとう。」
社長からみんなに明細を手渡しだ。私はびっくりした。まだ数か月なのに、こんなに頂けるのか。

「あの、私まだ働き始めたばかりなのに、こんなに頂いてよろしいのでしょうか?」
「何言ってるの?立役者なのに。」
「えっ?」
その時、拍手が起こった。みんな、こちらを見ている。
「青木さんは期間こそ短かったけど、ものすごく貢献してくれた。それは、みんなが賛同しているんだ。」
私はまた涙が止まらない。
「あれま、また泣いてるよ。」
「ほんと、泣き虫だね。」
この会社で「泣き虫の私」は定着してしまった。

 それからというもの、会社は楽しいし、カズちゃんとの時間も私にとっては、本当に生活の一部になっていった。だが、会社でも男の人と二人になってしまうと、震えが起こる。そばに誰かいてくれると大丈夫なんだけど、いないと顔色が変わって、震えが起こってしまう。こればかりは、未だに治らない。

「ねえ、青木さんは男の人と二人になると、なんでそんなに震えるの?」
「ごめんなさい。」
私はそれしか言えなかった。みんなも、必ずそばに誰か女性がいてくれるようにしてくれた。日中はみんながいるので、全然平気なんだけど、帰宅時間が過ぎて、私と誰か男の人だけになったりすると、震えが起こる。

「過去に何か、あったの?」
だが、私はどうしてもその話ができない。だから、みんなはそのことだけ、気を使ってくれる。なんか、申し訳ない。

「だけど、過去にほんとにひどい目に合ったんじゃない?そうじゃなかったら、ああならないわよね。」
「うん、私もそう思う。」
「多分、PTSDじゃない?」
「そうか、そうかもね。」
みんなの推測は大当たりだけど、そんなことまで話ができない。

 ある日のこと、私は社長に呼ばれた。
「今まで、秘書なんかつけてこなかったんだけど、秘書やってくんないかな?」
「えっ?」
どうしよう、震えがきたら。私はそれが一番怖かった。

「どうかな?」
「でも・・・」
「聞いているよ、二人っきりになると、震えちゃうんだって?だけど、それを克服するの、手伝うよ。どうかな?」
この人は、なんて優しい。私は、また涙が止まらなくなってしまった。

「君は本当に泣き虫だね。みんなが言っていた通りだ。」
「・・・」
こうなると、私はもう、しゃべれない。自分ながら、困ったことになった。でも、ずっとそんなわけにはいかない。
「無理・・・かも知れませんが、・・・」
「うん。」
「がんばります。」
「オーケー、よく言った。がんばろうね。」
この人は本当に社員に優しい。なんとか、克服できそうな気はしてきた。

 次の日から、社長と同行した。ふたりになっても、私は仕事、仕事と思って、接したからなんともなかったので、いけるかもって思った。あまり、男の人とふたりという意識を持たずに、今は仕事をしているんだという意識を強く持って頑張ることにした。

 それからというもの、私は社長と一緒に行動することが多くなった。お客様との接待までお付き合いすることもあったし、接待が終わってから連絡を受けることもあった。でも、なんとかやれた。今までの経験がすべて糧になっている。

「君はすごいね。私のしてほしいこと、なんでもかなえてくれる。」
「いえ、そんなことないです。」
「いやいや、このままずっと、どこにも行かないでほしいね。」
「私、転職するようなことはありませんので、ご心配なく。」
「ははは、そりゃ助かるよ。」

 私は、社長がどうしてほしいのか、なんとなくわかる。今、こう言ったということは、きっと次はこうしてほしいというに違いないということがわかる。それも、ほとんど外れない。さらに、例のPTSDの症状は出ることがなくなってる。この社長となら、そんなことは起きない。だから、安心して仕事ができると思う。このまま、もう誰にも移動しないでほしい。それだけが私の唯一の願いだった。でも、そんな不安を感じることもなく、忙しいけれど楽しい日々を送れた。

 たまに、カズちゃんにも会えるし、本当楽しい。ふとした時に誰かに移動したらどうしようという不安が出てくるのだが、それ以外はとっても充実した日々が続いている。思えば、何回移動したことだろう。私は女性として生きていくことも、今や普通にできるようになっている。考えてみれば、稀有な人生だったけど、すべて受け入れて、今後も生きていこう。



(おわり)

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