小説 「アレスグート」  第2話

 会社に着くと、早速、先輩に見つかった。

「もう、大丈夫か?直ってよかったな。え?おい、マジか?」
 その声にみんなが集まってきた。そりゃそうだ。20キロ近くやせたんだからね。

「めっちゃ、やせたやん。だいじょうぶか?まだ、無理せんと休んでおけよ。」
「そんなにやせれるんなら、おれも?!」
「あほか!」
みんな、好き放題、言ってる。
 社長もえらいびっくりしてた。
「そんなんだったら、誰か看病にいかせたのに。」
「ありがとうございます。お気持ちだけで。」
「ほんとにしんどかったら、もう2~3日休んでええぞ。」
「いえいえ、もう大丈夫です。見た目はやせちゃいましたが、もう元気です。」

さすがに、びっくりするよな。でも、みんなに心配されたのは当日だけで、私の働きぶりに安心したのか、もう何も言われなくなった。慣れってすごい。普通は病気でやせても、すぐに元にもどるもんだけどね。オレはもどらない。これからも。へっへっへっへ。


 冬が近づいたある時、不思議な感覚を感じた。私の中に不快なものが入ってきた。そいつはなんとか私に取りつこうとしている。あまりに気色悪いので、追い出した。そんな感覚だった。

 いままで、そんなことは一度も感じたことはない。追い出す時は脂肪と同じで便意をもよおす。不快だから早めに追い出したいが、トイレが近くにないと非常に困る。便意を止めることが非常に難しい。

 まあ、そんなことがあって、病気になることはほぼない。空気感染は感覚でわかるし、変なもの食べても分かる。恐らく、毒であっても、排せつできると思う。ってことは、体調が悪くならないじゃん。なる前に排せつできるんだから。

 それからというもの、自分の感覚が変わっていくのを感じた。会社でインフルエンザにかかったヤツがわかるんだ。体調の悪いヤツのからだに病原菌がはびこっているのが見えるのだ。

「先輩、それ、絶対インフルだから病院行った方がいいっすよ。」
「そうかな、なんか調子悪いんだよな。」
「絶対そうですよ。いまからでも行って下さいよ。」
「いやいや、会社終わってからにするわ。」
「周りに移したら、やっばいですよ。会社、操業停止になっちゃいますよ。こういうときは、無理せず、すぐにいく。」
「おまえ、ただの風邪だったら、覚悟しておけよ。」
「はいはい、この勝負私の勝ちですから。」
と言って、無理やり、会社から追い出した。

 どんどん、変化して、空気中の細菌みたいのも、見えるようになっていた。それを吸い込んだヤツが調子悪くなっている。明らかにインフルのウィルスなんだろう。あっちこっちのドアノブとか、人が触りそうなところにたくさんいる。アルコールの除菌は結構役に立つ。しっかり、拭いてまわっておこう。
 しかし、なんで、冬にこんなに飛沫状態で、飛んでるんだろう。マスクは侮れないな。しっかり、菌を受け止めてる。すごいもんだ。

 外からの病原菌は見えるので、対処できるようになった。要は、からだのいらないものを排せつできる能力を持っているということみたいだ。

 あるとき、なんか違和感を感じた。この違和感は外からのものではなく、内から湧いたみたいなものだった。そいつをギュっと絞って、切り取って、ポイと捨てるイメージだ。そんなときは、相変わらず、うんこがしたくなる。もう、大丈夫。

 でも、それって、どこかでみたことがあるような気がする。ネットで調べてみると、あった!それはガン細胞だった。おいおい、オレはガンだったのかよ。でも、からだに必要ないものを感じると排せつできる能力はなかなかいいぞ。これで、病気で死ぬことはないのだろう。へっへっへっへ。


 オレの生活パターンは相変わらずで、いつものように工場との往復と、週に1~2回の居酒屋通い。ある時、居酒屋からの帰りにコンビニに寄った。帰ってから食べるカップラーメンを物色していたら、すぐ左の女性から病気のメッセージが出ていた。それも、軽くない。やばそう。

「あの、大丈夫ですか?」
そう言うと同時に倒れ込んだ。やっば!
「おーい、店員さん救急車呼んで!」
「はい。」

 オレは、この女性がどんな病気なのかすぐにわかった。最近は手に触れるだけで、イメージが流れ込んでくる。腸が途中で途切れて、その先が腐りかけている!
 救急車がくるまで、すっごく長く感じられる。こんな時は、誰であってもそう感じるものだ。やっときた救急隊員に言ってしまった。
「腸が途切れてて、とても危険な状態です。一刻も早く、手術が必要だと思います。」
「あなた、医者ですか?」
「いえ、違います。」
やってもうた。へんなふうに見られたやろな。
「一緒に来て下さい。」
「へっ?」


 初めて救急車に乗った。やっぱり、意識があるかどうか尋ねるんやな。とにかく、私が最初に言った一言が決めてとなって、緊急手術ができる病院へ。
「なんで、腸閉塞ってわかったんですか?」
「なんでやろ?感かな?」
「でも、あれだけ、しっかり限定的に言えるなんてなかなかないですよ。」

 救急隊の人に疑われたと思った。しかし、病院の医師が診断した内容も同じだったので、すっごくびっくりされてしまった。だって、見えるんだもん。なんて、言えないし。

 すぐに手術が始まった。これで、ひと安心だ。帰ろうと思ったら、ちょっと待ってくれ!って、拘束された。オレ、この人知らんし、もうええやん。手術は3時間くらいかかったと思う。出てきた医者は
「もう大丈夫です。」
と言った。
 そこへ、年配の夫婦がやってきた。あの女性の両親だろうことはすぐにわかった。じゃ、もう解放ですよね。

ということで、帰ろうとすると、手術をした医者が、
「あなたのおかげであの女性は助かったんです。本当もどうもありがとう。でも、すぐにあの症状を見抜きましたよね。医学を勉強されていたんですか?」
「いえいえ、たまたまです。親戚に同じ病気の人がいて、その症状によく似ていたんでそうだと思っただけですから。」
「あなたが娘を助けてくれたんですか?本当にありがとうございます。」
おいおい、オレそんなにお礼言われることしてないし。
「ちょうど、飲んだ帰りで遭遇しただけですから。でわ、失礼します。」
「あの、ちょっと。」
もうこれ以上、ゆるしてくれ!と小走りで帰途についた。しかし、もうこんな時間(3時を回ってる)電車ないし、歩くか?それも、遠いし、タクシーしかないか?お金、微妙。


 それから、しばらくして会社にお客さんがきた。とてもきれいな女性だった。
「おい、高橋、お客さんだ。」
社長から言われたときは、オレにお客って、いったい誰だ?全然、知らん人だと思った。
「高橋、いったい誰だ?めっちゃかわいいぞ。」
先輩は冷やかすし、ますますわからん。応接セットに座っているその女性は、確かにとってもきれいな女性だった。思わず、見とれてしまった。

「あの、高橋さんですか?」
「はい、そうですけど。」
「先日は助けて頂いてありがとうございました。病院の先生に死ぬとこだったと言われました。それを、あなたが助けてくれたと聞いて、すぐにでもお礼に行きたいと思っていたんですが、退院するまで行けず、申し訳ありません。」
「そうなんですか?コイツがそんなことを。」
横から、社長が口をはさんだ。

「あの、これ。」
彼女が差し出したのはオレの名札、代わりの社員証。そうだよな、これがないとわからんわな。あのとき、何も言わず帰ったんだから。
「名前も言わず、立ち去ったと聞いて、でも、これが落ちていたと伺って、ほんとにうれしかったです。」
「いえいえ、当たり前のことをしただけですから。」

散々、お礼を言われ、お礼の品まで頂いて、逆に恐縮してしまったわい。あとで、社長にもあれこれ聞かれ、散々な日だった。でも、社長に褒められ、食事とお酒をおごられ、まあ、いい日だったのかもね。

 それ以来、オレはあの能力をあまり出さないようにしている。自分にはしょっちゅう使っているが、人に対してやり過ぎると、なんかヤバイ気がしてね。



(つづく)


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