小説 「アレスグート」  第3話

 同窓会の案内に誘われて、久しぶりに同窓会にいくことにした。中学の時から会ってないヤツもいるし、だいぶ変わったんだろうか?

 夕方、会場に着くと、全然変わってないやんけ!さすがにまだハゲはおらんな。女性陣はみんなきれいに変身だね。すぐに誰でもほれてまうやろ!って感じだ。

 だが、ひとり、問題を抱えているコがいた。おいおい、大丈夫か?オレは飲み物を持って、彼女の元に行った。やけに顔色が白い。
「やあ、ひさしぶり。」
そう言って、飲み物を渡した。そのとき、彼女の手に触れた。すべてわかった。

 彼女はやけに白血球が多い。多分、白血病なのだろう。今日、この場に来るのもどうかと思うほど、ヤバイ。

「ああ、高橋くんね。お久しぶり。」
オレは彼女に近づいて
「調子悪いんだろ。無理すんなよ。」
って言った。あ~、また、やってしまった。

 彼女はびっくりした顔をして、こちらを凝視した。それから、ふっと笑って、
「やっぱり、分かる?」
「血液の病気だろ。」
「え、高橋くん、お医者さん?」
「いや、違うけど、分かるよ。」
「そうなの?すごいね。誰もわからなかったのに。」
「こっちにおいで、椅子がある。立っているのもしんどいんだろ?」
彼女はうなずいた。オレにエスコートされ、椅子に座った。

「あのね、あと6ヶ月なの。」
「マジか。でも、治せるよ、オレなら。」
「やめて。医者も見放したのよ。」
「信じてくれたら、治せる。」
なんの確証もなかったけど、この口が勝手に言いやがった。

「もし、長生きしたくなったら、オレに連絡くれ。」
そう言って、スマホの連絡先を渡した。オレって、ブラック・ジャックか?!なんて、あほなことしてしまったんだ。オレのアホ。

 1週間もしない間に、彼女から連絡がきた。彼女は長田育子。中学時代は足が速くて有名だった。
「ほんとに治してくれるの?」
「ああ、治る。」
「じゃ、治して。」
「君の白血病はオレが治してやる。」
「どうして、病名まで?」
「だから、信じろよ。オレには不思議なちからがあるんだ。」
「オレを信じて、すべて任せてくれ。」
「どうしたらいいの?」
「二人だけになる場所が必要だから、ホテルを取るよ。」
「やっぱり、いやらしいことしたいだけなんでしょ?」
「だから、オレを信じろっていったろ?真剣に治してやりたいんだ。」
「わかった、いくわ。」

 オレは近くのホテルを取った。ホテルのロビーで待合せた。彼女はとってもしんどそうだった。ほんとに1ヶ月で亡くなってしまいそうな気がした。
「やあ。来てくれたね。」
「お願いね。」
「信じてくれてありがとう。」

 彼女を連れて、部屋に行った。
「ベットに寝てくれる?」
彼女は横たわった。
「はだかになればいいの?」
「いや、そこまでしなくていいよ。」

 手をふれると病気がわかるけど、これを治すためには、オレが取り込んで、トイレに出すしかない。どうやって取り込むのか?聞くと彼女の血液型はA型だという。オレはO型だ。となると、血液交換みたいなことはできない。
「君の口から病気を吸い取る。」
「うん、わかった。」
ほんまにそれでいいのか?適当なこといってるよな、オレ。

 彼女は抵抗もできないくらい衰弱していた。本当は退院なんてできないくらいな状態なはずだ。オレは彼女にキスをした。舌を入れて、彼女の舌にからめた。その時、彼女の病気をオレがどんどん吸い取っていくのがわかった。こいつを全部排せつするのだ。かなり長い間、キスをした。握っている彼女の手から、病気がなくなっていくのが分かった。

 本当に長い長いキスだった。女の人とキスなんてしたことがないのに、オレとしたことがこれがファーストキスになるなんて。

 ようやく、全部、吸い取った。とたんに、もよおしてきた。トイレに駆け込み、いつものとおり。しかし、今までに感じたことないくらい、苦しかった。口からも吐いてしまう感覚が起こった。トイレを流しながら、トイレに顔をうずめて、吐きまくった。あまりにきつかった。今度はオレが死ぬかと思った。

 ようやく、落ち着いた。全部流して、シャワーを浴びて、ほっと一息した。でも、ひどい匂いだ。持ってきた消臭剤をまいて中和して、なんとか匂いを消した。こんなにしんどいなんて、もう絶対やめよう。これで、終わりにしよう。

 バスルームから出てきた時、彼女はベットで眠りについていた。手に触れてみて、もう病気がなくなっているのを確認できた。よかったな、長田。

 オレはたまらなく腹が減っているのに気が付いて、食事をしに行くことに。
ホテルからでて、近くのラーメン屋へ。なんとか、生き返った気分だ。

 ホテルの部屋の前で、アホな自分に気が付いた。鍵を持ってでるのを忘れてた。しかたないや。このまま、帰ろう。ロビーで精算だけして、帰った。
「治ってよかったな。これから、楽しい人生を送ってくれ。see You」
って、キザなメールを送っておいた。


 次の日、長田から
「本当にありがとう。病院で先生が奇跡だって。詳しいことは聞かないけど、本当にありがとう。」
よかったな。オレももうなんともないし。
「とにかく、検査する間は入院するけど、問題なければすぐに退院できるみたい。」
長田の声には、とても元気があった。うれしそうだった。


 だんだん、自分のことがわかってきた。他人の病気を吸い取るときは体液を接続しないといけないらしい。だから、キスもそうだけど、例えば、針で指先を突いて出てきた血液をなめる程度でも可能だということ。相手に触れるだけで相手の健康状態がわかってしまう。吸い取った後はえげつないくらい強烈な便意をもよおすし、ひどいときは吐いてしまう。その匂いも強烈なので、脱臭剤も必要だってこと。
 だけど、なんでオレはこんな能力があるんだろうか?人助けをしろってことか?でもまあ、あんまり目立つことはやめておこう。


 長田のことがあって、間がない頃、会社で社長が倒れた。いつも世話になっている人のいい社長だ。みんなの前では明るく元気なふりをしていたが、そうではなかったようだ。オレもそれに早く気付けばよかったけど、いままで全然気づかなかった。

 病院に見舞いにいくと、相変わらず元気そうに振る舞っていたが、なんかヤバイ!そんな気がした。
「社長、早く元気になって下さいよ。」
といって、手を握った。やっぱ、そうだ。ガンだった。かなり進んでいる。この病室からトイレまで、結構遠い。排せつするのに、持たないかもしれないな。でも、なんとかしないとな。でも、この能力をバラすことになるけど、この人には本当に世話になっているから、なんとかしたいよな。もしかしたら、一度にやらなくても、2~3回ほどに分けてやれば、なんとかなるかも?

「社長の病気、オレが治します。」
「何言ってんだ?」
「実はその病気、ガンですよね。それもかなり進行していますよね?」
「なぜ、それを?」
「オレ、その病気を吸い取れるんです。」
「はっ?」
「オレを信じてくれませんか?」
「いったい、何言ってんだ?」
「だから、オレがその病気を治しますから、信じて下さい。」
「おまえは、気にせんと頑張って働いてくれ。」

 全然、信じてもらえない。無理もないよな。その後、なんとか説得したが、信じてもらえない。無理にでもやってしまったほうがいいのか?だけど、やはりちゃんと話をしてわかってもらった方がいいよな。

そのうち、だんだん、様態は悪くなっているのが見て取れた。放射線の治療でもともと薄かった頭はみごとにつるっぱげになった。見舞いに行くたびに、社長にお願いしたが、全然、信じてもらえない。オレもあんまりこのことが公になってしまうと、大変なことになると分かっていたので、それ以上どうしようもなかった。

 冷たい雨の降る日、社長は亡くなった。病室で次の社長に指名された先輩が、会社のかじ取りをすることになった。
 この能力は相手が信じてくれて、初めて発揮されるものだ。オレが無理やりするわけにはいかない。でも、オレは社長を見殺しにしてしまったという罪悪感はぬぐい取れなかった。できるのにやらなかった自分は卑怯者だ。そんな感覚がしばらく抜けなかった。



(つづく)


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