小説 「アレスグート」  第4話

 この先、オレはどうしたらいいのだろう。この能力を封印して生きていった方がいいのだろうか?とは言うものの相変わらず、自分には使っている。やっぱ、変に太りたくないからね。周りには「やせの大食い」とか言われても、実際はその都度、脂肪を排出している。でも、他人には使っていない。


 ある時、長田から連絡があった。
「高橋くん、お願いがあるの。」
「よう、久しぶり。元気にしてるか?」
「私はとっても元気なんだけど。」
まさか、オレの話を他人にしたのか?
「ちょっと待って。キミだからやったんだぜ。」
「そう言わずに、お願い!」
「だめだ。他の人にはできない。」
「でも、話だけでも聞いて。」


 聞いたら、絶対やってしまう自分を知っている。結局、待合せて話を聞くことになった。
 長田の高校の友人だという。ガンが見つかってかなり進行しているんだという。おいおい、あんまりこの能力のことを他言するとえらい目に合うのが分かっているから、もうしたくない。
「あのさ、この能力を使うとオレの人生が短くなるんだ。だから、めったに使えない。」

 うそだけどね。
「えっ、そうなの?それじゃ、無理にお願いできないよね。」
「キミの時はオレがそうなっても治したいと思ったからやったけど、この能力のことが公けになってしまったら、オレはもうまともな人生を送れないだろ?」
「そうよね。ごめんなさい。」
「ん~~、絶対、今後だれにも言わないって約束してな。」
「わかったわ。」
「じゃ、その子に会わせてくれよ。」
「えっ、やってくれるの?」
「だから、絶対、誰にも言わない。その子にも約束させてくれよ。」
「ありがとう。高橋くん、ごめんね。」
結局、この話、受けちゃったよ。

 しばらくして、ホテルで会うことになった。ロビーでその子を紹介してもらい、長田にはそのままホテルの喫茶店で待ってもらい、オレとその子で部屋に向かった。
「大丈夫ですか?しんどくない?」
「はい。」
とは言うものの弱弱しい声だった。部屋について、彼女をベットに座らせ、手を取った。ちょっと待ってよ、これひどいわ。あちこちに転移してる。かなりしんどいはずだ。

「あちこちに転移してるね。めちゃしんどいはずだけど。」
「なんでわかるんですか?」
「きみの手から伝わってくるんだ。」
「そうなんですか?すごいですね。」
「これで信じてもらえたかな。あなたが信じないと治るものも治らない。」
「分かりました。お願いします。」
彼女は目をつむって、キスしていいという体勢をとった。

「いや、指を針で突くだけだよ。」
長田のやつ、そんなことまで言ってたんだな。
「えっ、キスするんじゃないんですか?」
「今はこれでやれるんだ。」
彼女はほっとしてた。オレは、彼女の指を取って、安全ピンの針で突いた。そこから流れ出る血を確認して、指を口にくわえた。


 やっべぇ。すさまじいくらいオレの中にガン細胞が流れ込んでくる。オレ、もつんかな?段々、不安になってきた。
 彼女の臓器のすべてに転移しているあらゆるところから、ガンが流れこんでくる。ガンじゃないものも入ってきた。放射線だ。正常な細胞を傷つける放射線も吸い取ってしまう。

 だんだん、頭がぼーっとしてきた。これ、絶対にやばいかも?本当に不安になってきた。全部、吸い取れるのかどうかわからないという気持ちが段々大きくなってきた。
 すると突然、彼女の手からスーッときれいな感覚が流れ込んできた。終わった。彼女はいつの間にか、横たわり、寝息を立てていた。オレはこれからが大変なのだ。

 ユニットバスに入り、全部脱いだ。できる限り、トイレに排せつし、吐いて、飛び散った汚物はシャワーで流し、あまりの苦痛に記憶が飛びそうになったが、なんとか持ちこたえた。でも、今回はあまりに苦しい。自分のからだに汚物は残っていないことがわかると、ほっとした。
 シャワーでからだを洗い流し、消臭剤を撒きまくった。ようやく、トイレから出てきたが、彼女は眠ったままだった。今度は鍵をもって、喫茶店で待つ長田のもとに行った。

「終わったよ。もう大丈夫だ。彼女のもとに行ってあげて。オレは帰って休むわ。」
「ありがとう、本当にありがとう。」
そう言って、別れた。帰る前に、腹減ったし、ラーメンを食べにいこう。今日はめっちゃ、疲れたわ。


 数日経って、長田から連絡があった。
「彼女ね、奇跡が起こったって。」
「オレはめっちゃしんどかったわ。」
「ごめんね。本当にごめん。でも、本当にありがとう。もう、秘密にするから。彼女にもね。」
「頼むぜ。」
もう、これで終わりだよな。


 オレにそんな不思議な能力が出てきてから、数年が経っていた。相変わらず、工場勤めで、ちんたら暮らしている。この方が気楽でいいや。
 自分のからだの中で不要な菌やウィルスをほっておくこともできた。それが繁殖するとさすがに、風邪になったり、熱が出たりする。だけど、やっぱ、排出する。そうすると、今まで通り元気になる。薬なんかいらんやんけ。なんか、自分のからだで実験しているみたいだ。てか、普通の人はこうなんだよな。


 最近は人助けはしていない。でも、注意喚起はしている。だって、手にふれると分かってしまうからね。みんなからは
「高橋の見立ては間違いない!」
と言われている。まあ、これくらいにしておくのが一番いいや。


 そんなある日、近所のコンビニでオレにしてみりゃ、運命の出会いがあった。横の女性が偶然、同じ飲み物に手を伸ばした。
「あ、ごめんなさい。」
「いえいえ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」

 手が触れたんで、すべてわかった。彼女は肩こりで、その原因が腰だ。
「肩こりは、腰あたりのインナーマッスルを鍛えたら治りますよ。」
「えっ?」
しまった、またやってしまった。
「いえ、聞かなかったことにして下さい。」
気持ち悪いと思われるやろな。失敗、失敗。
「そうなんですか。やってみようっと。ありがとうございました。」
なんて、思ってもみなかった答えが返ってきた。それが、彼女との初めの出会いだった。

 2~3ヶ月後ぐらいにまた、彼女にコンビニで出会った。私を見つけるなり、
「あ、先日はどうもありがとうございました。おかげ様で、しっかりよくなりました。」
にこやかな笑顔が印象的な彼女はそう言った。

「でも、あの瞬間でなぜそんなことが分かったんですか?」
やっぱ、そう聞かれるわな。
「企業秘密なもんで。」
「え~、教えて下さいよ。」
「いやいや、無理ですって。」

 すっかり、打ち解けて食事をしながらお話しをする約束をした。
 彼女は佐々木恵美さん。商社OLだそうだ。オレにとっちゃ、これから先、いいことだらけのような気がしてきた。



(つづく)


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