小説 「アレスグート」  第6話

 そんなオレの予感が的中することになってしまった。恵美とのデート中に見知らぬ男がつけてくる。恵美はまだ感づいていなが、間違いなくつけてくる。通りに面した明るい喫茶店に入って、ちょっと休憩したら、その男なんと大胆にもそばの席に座った。オレが知っていることに、気が付いていないようだ。
 恵美とは他愛もない話をしていたが、その男、録音マイクをオンしたみたいだった。こいつはいったい何なんだ。知らないふりもこれまでにして、オレはいきなり、
「あの、何か用ですか?」
さすがに男はびっくりしたようだ。感づいていないと思っていたようだったからね。
「いえ、何も。」
「でわ、そのマイクは何ですか?聞きたいことがあるなら、そんなことしないで聞いてくれたらいいじゃないですか?」
さすがに観念したのか、
「あ、すみません。私、こういうものです。」
差し出した名刺には、○×テレビのディレクターと書いてある。恵美もびっくりしてた。

「テレビの方がどういうご用件ですか?」
「実はちょっとうわさを聞きつけまして、ことの真相を調べてます。」
「どんな?」
「あなたが不思議な能力をお持ちだとか?」
いったい誰が言ったんだよ。
「何かの間違いじゃないですか?人違いかも知れませんね。」
「いえ、高橋洋さんでしょ?」
名前まで知ってやがる!
「確かにそうですが。」
「死に瀕した人を救ったとのうわさを聞きました。」
もう、かなわんなあ。誰が言ったんだろう?
「間違いだと思いますけど。」
あくまで、しらを切り通そうとした。

 「あの、奥様ですか?」
今後は恵美に矛先を変えてきやがった。恵美は奥様と言われてまんざらでない顔をした。
「いえいえ、違います。」
明らかにうれしそうだった。やっぱ、そろそろ、結婚しようかな。いや、それどころではない。
「こちらの高橋さんの不思議な能力をみたことがありますか?」
おい、言うなよ。
「いいえ、知りませんが。」
よしよし。
「そうですか!わかりました。また、お目にかかるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします。」
そう言って、引き下がってくれた。これって、本当にやばいな。ここで、その話はできないと思って、恵美に目配せして、店をでた。

 オレの家に着いて、
「どうなってんのやろ?なんで、あんな知らん人にこの話が伝わったんやろ?」
「私じゃないわよ。」
「分かってるよ。」
これを知っているのは、長田とその友人のみ。明らかに長田が怪しいと思えた。だって、長田はその友人に話をしたもんな。

「恵美、もし、この話がバレたとしても、もうその能力はなくなったことにしとこうと思う。」
「そうね、その方がいいわね。」
「オレらの将来のためだから、絶対に死守せんとな。」
「オレらの将来?」
「あ、ごめん。勝手にそう思ってます。ん~、オレと結婚してほしいと思ってるんだ。」
さっきのことで、OKしてもらえると思ってた。

「何勝手なこと言ってんのよ。私がOKするとでも思ってんの?」
えっ、そんな。
「そうか、ごめん。今のことは忘れてくれ。」
かなり、ショックだ。今日はヤケ酒だな。
「な~んてね。ありがとう。ヒロシ、よろしくね。」
そう言って抱き着いてきた。
「え~、マジ、ショックだったぜ。」
「ごめん、ごめん。本当はうれしかったのよ。ありがとうね。」
マジ、泣きそうだ。してやられたという感じだ。シリに敷かれるのかな。

 翌日、長田に電話した。
「昨日、テレビ局の人がオレを調べにきた。もしかして、何か言った?」
「私知らないわよ。」
「本当だな。そうなると、長田の友人だけだな。」
しばらく、沈黙、
「高橋クン、ごめん。私です。」
「おい、頼むわ。こんなことバレたら、オレはもう普通の生活できなくなるんだからな。」
「本当にごめん。」

 どうやら、病院で白血病末期患者が奇跡の生還を遂げたことが、テレビ局のターゲットになったらしい。そのインタビューで長田が言ってしまったということだ。テレビ局が調べたところ、そんな患者が2人はいるとのことで、いったい誰が?ということで、番組にしたいらしい。

「今はもうできないんだ。次やったら、オレ死ぬから。」
うそだけどね。
「前も言ってたね。わかった。そういうことにしとくわ。もう、何聞かれても言わない。」
あたりまえじゃ!もう遅いわ!

 だが、事態はもっと進行していた。ある日、オレの家に見知らぬ男が訪ねてきた。インターホンごしに確認すると、雑誌社の者だという。オレは、
「用はない。」
と追い返したが、買い物で家を出ると、そいつは待っていた。

「どうしてもお時間お取り頂きたいんですが、お願いしますよ。」
「何も言うことはない。帰ってくれ。」
そういって、近くのスーパーにいこうとしたが、必要に追いかけてくる。なんども同じ質問を繰り返す。いい加減にしてくれ。マスコミは絶対に好きになれない。オレは振り向いて、
「何を聞きたいのか知らないが、迷惑なんじゃ。」
「末期患者を直したって本当ですか?」
「だから、そんなんできるわけないじゃん。医者でもないんだし。」
「長田さんとお友達なんでしょ?」
「それはそうだけど、それだけだ。」
「本当のこと、教えて下さいよ。」
「もう、いい加減にして下さいよ。」

 なんとか振り切って、スーパーに飛び込んだ。ふ~、やっとのがれたよ。たまらんな。と、思ったら、今度はあの時のテレビ局のディレクターが待っていた。もうげんなりだ。
「こんにちわ、そろそろ教えて頂けませんか?」
「何をですか?」
「またぁ。しらばっくれなくてもいいですよ。知ってますから。」
「じゃ、私は必要ないでしょ。」
「そういわずに、お願いしますよ。」
「いい加減にして下さい。」

 オレは声を張り上げたもんだから、買い物客が一斉にオレの方を向いた。その中に会社の先輩もいた。
「どうした、高橋、嫌がらせ、うけてんのか?」
「そうなんですよ、助けて下さい。」
ディレクターは一目散に逃げていった。
「ありがとうございます、助かりました。」
「いいってことよ。」
こういうときは、大声を張り上げるに限るな。

 翌日もオレは狙われた。こっそり、写真を撮られた。でも、全然こっそりじゃないし。しばらくすると、ついに事件は起こった。

「ねえ、大変。週刊誌に載ってるわよ。」
恵美からの電話でびっくりして本屋に飛び込んだ。週刊誌を立ち読みすると、オレのことが載っている。病気を吸い取って治すことができる男が現れた!だと。もう、お手上げだ。
 手を触るだけで病気かどうか分かることも書かれていた。で、オレの写真もでてる。目を隠しているけどね。たまらん、犯罪者じゃないのに、逃げ惑わなければいけないのか?しばらく、落ち着くまで普通の生活なんかできないぞ。

 恵美に電話した。
「しばらく、会わない方がいいな。恵美にも迷惑が掛かるしな。」
「わかった。じゃ、電話か、SNSで。」

 とぼとぼ、家に帰ると、げげげっ、家の前にたくさんの人がいる。マジ、困った。考えろ、ヒロシ、考えろ!ふと、浮かんだ、先輩の顔。そうだ、先輩にお願いしてみよう。

「あ、高橋です。ちょっとお願いが。」
「おまえ、めっちゃ有名人だぞ。」
「テレビで、出とんぞ。」
「あちゃ~、そうですか。家の前にたくさんいるんで帰れないんです。社長んとこ、行っていいっすか?」
「いいよ。来いや。」
ありがたい。この先輩は、今は社長なのだ。とにかく、先輩の家におじゃますることにした。

「よう、上がれや。」
「お邪魔します。」
先輩んちは社長といってもこじんまりした家で、奥さんとお子さん2人の家族だ。

「で、本当に治せるのか?」
「社長まで、やめて下さいよ。そんなことできるわけないじゃないですか。」
「そうだよな。でも、病気かどうかわかるんだろ?」
「それも、ほとんどあてずっぽっす。」
「そっか。」

「あら~、高橋クンいらっしゃい。」
奥さんが買い物から帰ってきた。
「おじゃましてま~す。」
「高橋クンって、すごいのね~。」
「奥さんまでやめてくださいよ。そんなの、ないっすから。」
「そうよねぇ。ごめんなさいね。」
2人に半分からかわれて、いっしょにワイドショーをみると、まさに全部ばれている。週刊誌に書いてあった通りだ。実際にもその通りなのだ。もう、たまらんわ。

「このままだと、仕事場にも押し寄せてくるだろうな。明日は様子見ということで、休んでいいぞ。ここにおれ。」
「いや~、そこまで迷惑掛けれないっすよ。」
「あほ、仕事のじゃまになるだろ。」
「そうですよね。」
本当に困ったもんだ。

 しかしだ、ふと、ある考えが頭をよぎった。このことで、治すことはできないとして、どんな状態か見ることは苦じゃないから、それだけをするのはどうだ?それを商売にするのはどうなんだ?別にいいよな。料金はお任せということで。これはオレにしか、できない能力なのだ。それを仕事にして悪いことないよな?まあ、今まで通り働いて、空いている時間にやるというのはどうだ?予約制とか?恵美にマネージャーやってもらおっかな?そう考えると、このままマスコミに出るというのはすごい宣伝になる。それも無料の。あ、もしかしたら、出演料もらえるんかな?とにかく、恵美に相談するか。

 恵美と話をして、ついに取材に応じることにした。とりあえず、社長には半分ホントのことを話した。手を触ると体調が分かるといういうことだけ。社長の家族全員、触ってみたが、なんともなかった。至って健康家族だ。で、一旦帰ることにした。あのマスコミの中へ。

 家の前にはまだたくさんのマスコミがいた。オレの姿を見るや否や、駆け寄ってきた。
「あの記事は本当なんですか?」
と、同等の質問のオンパレードだ。こんなにたくさんの人がここにいたんじゃ、みんなの迷惑だろ。

「ここでは迷惑なので、どこか記者会見できる場所を作って下さい。そしたら、そこでお話しします。」
と言うと、若い男がすぐにこう言った。
「でわ、すぐに用意させて頂きます。」
すげ~、そんな権限あんのかよ。その彼から名刺をもらって、家の中に入った。

 ふ~、まいった。ちょっと、水を飲んで自分の気持ちを落ち着かせた。さて、言うことは健康状態だけのことだけ。治すことは絶対言わない。これだけだ。あの名刺の男はいったい?と思って、名刺を確認したら、西都テレビの人だった。なかなかやるなぁ。




(つづく)

この記事へのコメント