小説 「よく眠れた朝には」 第2話

 翌朝、目覚めると、奇想天外なことが待ち受けていた。
 オレはベッドの中で窓からの光を見て、多分寝坊?した感を目一杯感じていたが、休むかどうか葛藤していた。今日はだるい。やっぱ、休もう。そう思ったとき、また声が聞こえた。
「・・・なんて気持ちのいい布団・・・」
「・・・とっても暖かい・・・」

 オレはぎょっとした。昨日、女の子連れ込んだっけ?あわてて、布団の中を探ったが、オレひとりだった。そうだよな、昨日合コンなんて行ってないし、彼女もいないし、そんな訳ないよな。
「・・ここはどこでしょうか?・・」
また、聞こえた。この子はいったいだれなんだろう?
「・・私にもわかりません・・」
そうか、名前もわからないとか言ってたよな。
「・・はい、わかりません・・」
えっ、オレしゃべっていないんですけど。
「・・でも、聞こえております・・」
どこにいるんだ?オレは何回も部屋を見渡した。でも、オレしかいない。
「・・ここがあなた様のお屋敷でございましょうか・・」
お屋敷ってほどでもない、マンションの1LDKだし。
「・・わんえるでーけー?・・」
部屋の広さってこと。一部屋とリビングダイニングってこと。
「・・りびんぐだいにんぐ?・・」
この子、何も知らんのかな?っていうか、何でオレの心に直接話してくるん?どうなってんの?
「・・どういうからくりか、わかりませんが・・」
「・・あなたの見ているすべてが、私に見えているようでございます・・」
オレ・・・、もしや二重人格になってしまったのか?こいつとこの体を使い分けるってことか?映画で見た「〇〇〇の名は」のように。ということは、何か起こるのか?
「申し訳ありません。何をおっしゃっているのか、わかりません。」

 落ち着け、オレ。こういうときはどうすればいいんだ?まずは状況把握からだ。さっき、見えているものがどうとか言ってたよな。
「はい、あなた様の見ているものが、私の見ているもののようでございます。」
ということは、オレが見ているものが見えるということ?
「そのようでございます。」
ということは、今、天井を見ているので、この人にも天井が見えているということか。
「そうでございます。でも、変わった天井でございますね。」
何が変わった天井?普通の天井だし。
「木目がございません。」
普通ないだろ。
「そうなんでしょうか?」
だけど、この人、誰なんだろうか?
「私もわかりません。」
じゃ、なんでオレの意識にしゃべってくるんだ?
「本当にわからないのでございます。」

オレはベットから出て、鏡の前に立った。
「これがオレ。見えてる?」
「ええ、ちゃんと見えております。でも」
「でも、なんだ?」
「なんか変わった格好でございますね。あまり見ない頭でございますし。南蛮風なのでしょうか?」
「別に普通だし。」 
「お着物は着ないのでしょうか?まげは結ってないのでしょうか?」
「何それ?」
「それに、あなた様がその板に写っておいでなのは、なぜでしょうか?」
ちょ、ちょっと待ってよ。鏡知らないの?
「かがみ?かがみと申すのですか?聞いたことはありますが、見るのは初めてでございます。自分の姿が写るのですね。」
この子、飛んでるのかな?ヤクとかやってたりして。
「ヤク、とは何でございましょうか?」
「ハイになるクスリ。」
「はぁ?」
もう、どうでもいいよ。オレは一旦落ち着こうと湯沸しに水を入れ、スイッチを入れた。

「今、お水がその筒のようなものから出てきましたが?」
「当たり前じゃん。」
「どうなっているのでございましょう?井戸から汲んでくるものではありませんか?」
「はぁっ?何、分からないこと言ってんの?」
「もう一度やってみせてはもらえませんか?」
なんじゃそりゃ?この娘、やっぱり変だ。と、思いつつ、水道のレバーを上げた。
「このからくり、どのように?それに、とてもきれいに光っている筒でございますね。」
なんか、ありえないんですけど。
「いったいどういうことでございますか?」
それ、オレが聞きたいんですけど?
「よくわかりません。」

 この人、しゃべり方おかしいし、もしかして、まさかな?いや、もしかして?
「ん?何でございましょうか?」
一応聞くけど、今何年?
「安政3年でございますが?」
安政って、いつ?
「いつと申されても、安政でございますが?」
オレはパソコンを立ち上げ、和暦一覧で検索してみた。安政、安政っと、ん、1858年?
「どういうことなのでしょうか?」
驚くな!今は2019年だ。つまり、君の時代から160年も先の未来の時代なんだ。
「そんな!」
この娘は160年前の娘ということになる。それじゃ、水道も見たことないよな。あまりにカルチャーショックになるに決まっている。

その時、ピーと音がなった。
「何の音でございましょうか?」
ああ、お湯が沸いた音だよ。
「先ほど、火などつけてなかったのではございませんか?どのように沸かされたのでしょう?」
今は電気で沸かせるんだ。この容器に水を入れて、スイッチをオンすれば、あとはほっておいてもお湯が沸く。
「160年も経つとそのようなことができるようになるのですね。」
そういえば、お腹が減った。
「恥ずかしながら私めも。」
オレは冷蔵庫の冷凍庫から1食分に取り分けてあるご飯を取り出し、電子レンジに入れて暖めスイッチをいれた。
「これは、一体?」
ああ、冷蔵庫からご飯を出して、チンする。
「チンするとは?」
つまり、ご飯を冷凍しておいて、それを解凍するってことさ。
「よくわかりません。」
そうだろうな。仕方ないさ。でも、百聞は一見にしかずだ。見て、食べてみればわかるさ。そう思いながら、冷蔵庫から昨日取っておいた肉じゃがを取り出した。レンジがチンといったので、取り出して、肉じゃがもチンした。暖め完了で、お盆に乗せて、見た。

「どのようになっておるのでしょうか?ご飯も、このおいしそうなおかずも湯気が立っております!」
今の時代は、こんなふうにすべてを暖めることができる。君がいた時代のように、火打ち石で火をおこし、温まるまでつきっきりになる必要もない。もっと、短い時間で食べれる状態になるんだ。
「まるでおとぎの世界に舞い込んだような。」
オレはご飯を食べた。おかずも一緒に。
「このような美味、味おうたことはございません。」
それが今の時代なんだ。んっ?でも、なんで彼女は味を感じれるんだ?さっきはオレが触ったものを感じていたみたいだし。
「あなた様の見られたもの、触られたもの、味を感じられたものが、直接私にも感じられるようにございます。」
って、やっぱりオレ、二重人格になってしまったのか?
「二重人格とはどのようなものなのでしょうか?」
つまり、ひとつのからだにふたつの心が存在することだよ。それも、160年も過去の女の人が?
「そうなのでしょうか?摩訶不思議。少々、眠気が。」
おい、ちょっと待てよ。
だが、彼女はそのまま反応がなくなってしまった。どうやら、本当に寝てしまったようだ。

 さて、困った。またいつ起きて、いろんなことを言い出すかわからない。いったいどうしたらいいんだろう。だけど、こんなことってあり得るんだろうか?でも、実際におるもんな。あぁ~、どうしたらいいんだ?



(つづく)


この記事へのコメント