小説 「よく眠れた朝には」 第3話

 オレは大学時代に仲が良かった友人にメールしてみようと思った。この状況をどう思うだろうか?なんらかのアドバイスをくれるかも知れない。まあ、今日は平日でこんな時間からでは即答してくれないだろうな。こんな時はツイッターで聞いてみよう!だけど、誰も信じてくれないよな、たぶん。

 でも、イチかバチかやってみた。どんな反応があるんだろうか?適切なアドバイスくれるヤツがいるかな?「突然、心の中に別人格が現れた。今は寝てるみたい。どうすればいい?」こんな書き込みで誰が返してくれるだろうか?

 だが、反応は意外と早かった。
「ありえねぇ。」
「冗談だろ。」
「それは、明らかに二重人格ですね。」
「一度、ちゃんと向き合って話をすべきです。」
「医者に行け!」
「うらやましい。」
 やっぱり、オレの求める反応じゃねぇ。まあ、もうちょっとあとで確認してみるか。オレはちょっくら食材の調達に出かけることにした。どうせ、手持無沙汰だったし、なかなか平日の買い物はできないもんね。

 スーパーに着くと、かごを持っていろいろと見てまわった。
「おお、たくさんの野菜の数々。」
突然、彼女が起きてきた。
「ここはどこなのでしょうか?何故、こんなに野菜が?」
スーパーなんだから当たり前だろ。
「すーぱーとは、八百屋のようなものでしょうか?」
おいおい、これ全部説明かよ。多分、めずらしいものだらけだから、女には興味深々だんだろうな。明日はパンでも食べるかな。
「ぱんとは?」
百聞は一見にしかず。パン売り場へ行って、パンを見せた。
「これがぱんというものでしょうか?たくさんあります。」
お米を普段食べてるけど、たまにはパンもおいしいので、これを買う。そう思って、いくつかピックアップ、かごに入れた。

「よくわかりませんが、美味しそうでございますね。」
よし。オレは彼女を驚かせようと、ケーキ売り場に行った。
「これは何でございますか?」
こいつはスィーツだ。まあ、帰ったら、食べてみようじゃないの。とってもびっくりすると思うよ。大体、甘いって味は知ってるのかな?
「甘い?柿とかみかんのようにございますか?」
それを知っているなら、感動すること間違いなしだ。
「感動するくらいの甘さ?」
そうだ。楽しみにしてな。
「早く、味わってみとうございます。」
オレはシュークリームと生クリームのケーキをお買い上げ。あとは、缶詰のいわしとさばを買って、スパゲッティの面とカップ麺などをかごに入れでレジへ行った。

「このかご、とても変わったかごですね。とても頑丈そうな?」
ああ、プラスチックだから、結構頑丈だな。
「ぷらすちっく?」
まあ、それは気にせんでもいいよ。今の時代じゃないと作れないからね。多分、君の時代にはないものだよ。
「そうなのですか。それは、銭でございますか?」
そうだよ。硬貨は君の時代もあったと思うけど、今の時代は紙幣って言ってね、紙のお金もあるんだ。
「ずいぶんと変わりましたこと。紙であれば、燃えてしまえば、なくなってしまいますのに。」
まあ、そんなことする人はほとんどいないよ。

 帰り道でも、質問の嵐だった。なんでこんな、でこぼこのない道なのか?とか、ところどころに立っている柱は何?とか、車のことやビルのこと、飛行機とか電車とか、なんであまり林がないのかとか、オレもよく付き合うよな。まあ、まいったわ。

 うちに帰ると、スィーツが気になって仕方がないらしい。早く食べてほしいとねだられる。仕方ないので、さっそく食べることにした。一口、スプーンで口に入れて味わった。生クリームの甘い味を感じて、ケーキのスポンジ部分の柔らかな食べ心地、しっかり味わった。
「これがスィーツなるもの。この世のものとは思えないほどの美味しさ。」
「だけど、あまり食べすぎると太ってしまうので禁物だぜ。」
「これを食べると太るとは?」
「カロリーが多いせいさ。」
「カロリーとは?」
しまった。余計なこと言うと、全部説明しないといけない。大変だ。

 なんやようわからんけど、奇妙な同居生活が始まった。いつ出てくるかわからない。会社では絶対に口出しするなと言っておいても、つい、しゃべってくる。おかげで、言い訳するのが大変だ。家ではやかましいくらいにしゃべってくる。たまには黙っていてほしいものだ。にもかかわらず、それは1か月くらいで終わりを迎えた。彼女は突然、出てこなくなった。ちょっと寂しいような、平穏な生活を取り戻せたというな複雑な気持ちだったが、また、普通の生活が始まった。

 いったい、なんだったんだろう。だけど、そんな思いはいつまでも続かなかった。だって、あまりにありふれていないことは、どんどん忘却の彼方に飛んでいってしまうものだ。オレは、完全にこのことを忘れて、いつもの日常に戻っていった。


 ある日、結構遅くまで残業が続いていて、いい加減眠かったんで、明日に備えて早めに寝ようと、床についた。結構、ぐっすり寝れた。だが、目が覚めるとからだが濡れている。葉の朝露で濡れたみたいだ。やけに虫の音が聞こえる。寝返りを打つと顔に葉が触れ、朝露でもっと濡れる。普通、こんなことってないよな。それになんか寒い。掛け布団を探すがどこにもない。

 どうなっているんだ?オレは目を開けた。そこに見えるのは、どう見てもオレの部屋じゃない。青空が見えている。なんで外にいるんだ?オレは飛び起きた。周りを見渡すと、鬱蒼と草むらが広がっている。遠くに山も見えるし、林も見える。いったい、どうなっているんだ。ここはどこなんだ?



(つづく)


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