小説 「よく眠れた朝には」 第4話

 昨日は着替えるのがめんどくさくて、そのまま寝てしまったので、オレの恰好はそのままだ。でも、今、オレのいるところはオレの部屋じゃない。

 いつまで悩んでも仕方がない。そこらへんを散策するっきゃないようだ。オレは裸足で歩き始めた。草むらばかりで、全然道にたどりつかない。それに家も見当たらない。アパートやマンションというのもない。くるまの音もしてこない。どこかに電柱があればと思うが、それもない。いったいどうなっているんだ。なんで、オレは自分の部屋のベッドで寝てたのに、なんで草むらで寝てるんだ?だれが、オレを運んだんだろう?なんでオレはそれに気が付かなかったんだろう?いろんな疑問がわき上がってくる。

 しかし、行けども行けどもなにもない。せめてここはどこかということに、誰か答えてほしかった。でも、誰にも出会わない。いったいどうなっているんだ?時計もないから、今が何時なのかもわからない。でも、だんだん太陽が高くなっていくから、朝から昼へ向かっていることはわかる。しかし、裸足で歩くなんてほとんど経験がない。普通、靴を履いて歩いているから、こんな経験は初めてだ。ガラスか何かを踏んづけたら、怪我をしてしまうことが怖かった。たまに痛!と感じることがあったが、怪我することはなかった。

 何時間歩いたんだろう?たぶん、もう昼だ。朝も食べてないから、お腹ぺこぺこだ。でも、食べられるものなんか、何もない。せめて、水が飲みたい。オレはひたすら歩き続けた。

 林の中から水の流れる音が聞こえる。たぶん、そうだ。オレはその方向へ歩きだした。たぶん、飲める。大丈夫だ。そう思って歩いた。

 やっとたどり着いたところは、小さな小川だった。割ときれいな水のように思えた。よく見ると小さな魚も泳いでいる。たぶん、メダカだと思った。魚が生きている水なら、オレが飲んでもたぶん大丈夫だろう。そう思って、一口飲んでみた。

 うん、なんともない・・・と思う。が、たくさん飲んで、調子悪くなっても大変なので、ちょっとにした。しばらく様子を見ようと思った。しばし、休憩だ。オレはそこまでの歩き疲れでうとうと眠ってしまった。

 次に目が覚めたときは、身動きがとれなかった。両手、両足は縛られていた。よく見るとオリに入っているようだった。えっ?なんで?寝てただけじゃん?といっても、身動きできない。オリも、とっても狭い。からだを伸ばせない。

「お、気づいたようだ。」
「ほんまや。」
声が聞こえる。
「おまえはどこから来た?」
「南蛮か?」
「オレもよくわからないんだ。この縄を解いてくれ。動けないよ。」
「そんなわけにはいかない。」
「え?なんで?」
「あやしい身なりをしておるではないか!」
「そんなことで縛るんか?そのほうがおかしいだろ?」
「何をぬかすか。解いたらおまえが何をするかわからんだろう。」
「何もしないよ。するわけないだろう。」
「信じられるか!」
 オリは小さな穴が無数にあいていたが、相手の様子はまったくわからない。どうやら、縄をといたらオレが暴れだすとか、思っているようだ。ありえないだろ。

「オレは嘘は言わん。この縄を解いてくれ。」
「だめだ。」
どうしても無理なようだ。
「それなら、飯を食わしてくれ。お腹が減ってるんだ。」
「それもあかん。」
「じゃ、水は?」
「我慢しろ。」
「じゃ、オレはどうなるんだ?」
「今、どうするか決めているから、決まるまで待て。」

 こいつら普通じゃないな。だいたい、寝ているだけで縛り上げるなんてありえない。でも、何言っても無駄のようだったから、しばらく様子をみることにした。オレのそばには一人の男が見張っている。あと、どれくらいの人数がいるのかわからない。耳を澄ましていると、遠くで女の声も聞こえる。ここは、町なのか?でも、くるまとか人の雑踏は聞こえてこない。割と静かな感じだ。

 今、何時くらいなんだろう?そう思っていたら、なにやら騒がしくなってきた。さっきの男以外の男の声も聞こえてきた。
「こいつはどんな悪さをするかわからんから、打ち首にして埋めてしまえ。」
「はぁ?まだ、何もしてないのに、ありえへんやろ?」
「うるさい。生かしておいたら、何されるかわからん。」
「何もせえへんってば。」
「嘘をつくな。」
「まじか?ほんまに殺すんか?」

 全身が総毛立った。こいつらはオレを本気で殺す気だ。いったい、ここはどこなんだ?こんなことってあり得るのか?

 そのとき、オリが取り払われた。オレがオリと思っていたのは、人が入れるくらいの籠だった。それを、オレにかぶせていただけだった。

 周りを見ると、こいつら!!!?
 どうみても、現代の人ではなかった。着物をきて、頭はちょんまげだ。ちっさいし、痩せこけている。オレのほうがはるかにでかい。

 確かにオレが暴れたら、こいつらには怖いんだと思う。だけど、殺すことないだろう?彼らはカマやら包丁やら持っていた。オレの人生もここまでなんだろうか。殺されることの恐ろしさに声もでなかった。

「さあ、殺っちまおう。」
 一人がカマを振り上げた。オレは終わったと思った。そのカマがオレの首に刺さった・・・と思ったが、痛くない?刺さってない?
「どうした?はやく、殺ってしまえ。」
「何回もやってるけど、死なん。」
 みんながオレに刃物を振り下ろしたが、全然痛くない。痛くないということは、血もでていないということだ。
「もしかすると神の使いかもしれん。」
「だから、刃が刺さらんのか?」
「俺らはえらいことしちまったのかもしれん。」
「天罰が下るかもしれん。」
「うわ~。」

 はぁ?好きなこと言ってやがる。でも、この展開は好都合だ。
「縄を解け!」
「はは~、申し訳ありませんでした。」
「なにとぞ、天罰だけは許して下され。」

 何言ってやがるんだ。今までさんざんなこと、しとってからに。ようやく、縄を解いてもらった。みんな土下座している。

「まあいい。君らには何もしないよ。でも、できたら何か食わせてくれないか?」
「今すぐ用意させます。」
「すまんね。」

 ようやく、自由になって食事もできるという安堵でほっとできた。だけど、なんで、オレは死ななかったんだろう?

「ちょっとその包丁を貸してくれ。」
「お命だけは勘弁してください。」
「だから、殺さないっていってるだろ。」

 オレはその包丁で自分の腕を傷つけた。だが、傷はつかなかった。こんなことってあるんだろうか?今の日本にこんな格好した人たちがいる場所なんかないし、人を殺すなんて、普通はあり得ない。で、オレも死なないなんて、もっとあり得ない。いったい、どうなっているんだろう。


(つづく)


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