小説 「よく眠れた朝には」 第5話

 そこへ、一人の女が茶碗と箸をもってやってきた。ようやく、まともな飯にありつけると思ったが、飯ってこれだけ?ぬるいお湯にふやけた米が少しと、変な野菜が入っているだけだった。

「これだけ?」
「申し訳ありません、これでもわしらにとっては多いほうなんです。」
 どうなっているんだ?でも、それならしょうがない。少しでも腹の足しになるだろう。喉も乾いた。水が欲しい。
「水はある?」
「ございます。すぐに。」
 なんかひしゃくに水を持ってきてもらったが、こんなんじゃ、足りんなぁ。たぶん、彼らにとってみればこれが精いっぱいなんだろう。って、こいつらはどんな生活してるんだろう?
「ここに住んでいるのは何人なんだ?」
「男11人、女12人、子供8人です。」
「まわりには同じような集落があんの?」
「半日ほど歩けば、同じような村がございます。」

 どうやら、こいつらは自給自足の生活だし、どう見ても現代人ではない。何年かを聞いたが、オレにはさっぱりわからない。西暦何年なんて、こいつらにはわからんだろうし、逆に和暦で言われてもオレにはわからない。まあ、江戸時代なんだろうと思ったが、なんでこんな時代へ来たんだろう。普通に寝てただけなのに。それにオレは切られることがないのは何でだろう。この2つの大きな疑問は解決しないんだろうな。
「ところでオレが寝れる場所はある?」
「すぐに用意します。」

 風呂なんかはないんだろうな。だけど、こいつらちぃちゃいな。こいつらの背丈に合わせた家だから、天井も低い。まあ、足を延ばして寝れるんなら、まあいいか。オレが案内された家は・・・ボロ小屋はとても狭い。夫婦2人で暮らしているみたいだが、彼らは土間で寝だした。

「おいおい、なんで土間でねるんだ?」
「いえ、あなた様には、せめて板の間で寝て頂かないと罰があたりますから。」
「そんなことはないよ。こっちに上がっておいで。」
なんとか、3人で寝れそうだ。
「めっそうもございません。ご一緒だなんて恐れ多い。」
「かまわないから、こっちへおいで。何もしないよ。」

 土間なんてあまりにかわいそうだ。普通は板の間に寝ていたんだろうに。それをオレがぶんどってしまったんだから。いくら、言っても聞いてもらえないから、オレは土間に降りた。
「さあ、オレはここの住人じゃないから、君たちが上にいきなよ。」
 そんな問答があって、ようやく、彼らは板の間に行ってくれた。まあ、土間でもいいか。

 翌朝、彼らは朝ごはんを作って待ってきてくれた。昨日と同じごはんだった。たぶん、これが精いっぱいのおもてなしなんだろう。でも、それをオレが食べたのでは、彼らのご飯がなくなる。なんか、めちゃ申し訳ない気がしてきた。とはいうものの、狩りなんてしたことないし、彼らの恩に報いてやりたいし、どうしたらいいのかわからない。彼らはちょっと畑を作って、ちょっと野生の実とかを取ってきて、それで暮らしていた。肉の存在を知らないようだった。

「このへんに鹿とかイノシシとかいないの?」
「たまにみたことがあります。」
「それを捕まえて食べればいいのに。」
「えっ?神の化身ですよ。それを食べるだなんて。」
「いやいや、違うよ。鹿とかイノシシはとってもおいしい肉なんだよ。」
「そうなんですか?」
「神様の使いがそうおっしゃるなら大丈夫じゃねえか?」
「そうかも知れねえな。」
 ということで、男2人ほどと狩りに出かけた。彼らは弓も知らなかったので、途中で作った。ヤリも作った。イノシシが出てきそうなところに穴を掘って、その上をカムフラージュして、離れて待った。かなり、長いこと待ったが何も現れなかった。

 仕方ないから一旦、彼らを帰した。オレひとりでやってみようと思った。いくつか罠をしかけてみた。そのうち、どれかに掛かっていたらラッキーだ。

 でも、野生動物はオレなんかより、とっても利口なんだろう。全然、掛からなかった。じゃぁ、川で魚でもと思い、小川にも罠を仕掛けた。しっかし、腹減ったなあ。何日食べてないんだろう?

 意地でも捕まえて、あいつらのところに持って行ってやりたい。3,4日過ぎただろうか、あの穴にイノシシが落ちていた。何度もヤリを刺し、捕獲に成功した。オレはなんとか穴から引き揚げ、彼らのところへ引きずっていった。

 が、もう彼らはいなかった。いったい、どこにいったというのだろうか。仕方がないので、そこで火をおこし・・・って、どうやればいいんだ。とにかく、解体するか。くそー、ネットがあればサバイバルの方法でも確認できるんだが、とにかくやってみるしかない。

 内臓なんか食い方がわからない。ホルモン焼きがあるくらいだから、多分食えるはずだ。あとは適当な大きさに切り分けて、木にぶら下げて保存だな。

 とにかく、火をおこさないと。この時代、どういうふうにして火をおこしたんだろうか?まあ、なんとか木をこすり合わせて、やっとこさ、火をおこした。とにかくしっかり焼かないとお腹を壊しそうだから、じっくり焼いて食うことにした。

 たぶん、何時間も掛かって、ようやく、飯にありつけたって感じだ。しかし、このあと、オレはいったいどうすればいいんだろうか?せっかく、この時代の人たちに会えたのに、いなくなってはどうしようもない。

 なんか久しぶりに腹一杯食った気がする。明日はまた歩いてみるか。確か、半日歩けば、隣の集落に行けるって言ってたよな。がんばってみよう。

 だけど、元の世界に帰れるかな?それだけがとても心配だ。戦国時代なら、いつヤリとか、矢が飛んでくるかわからない。でも、なんでオレは切れないんだろう。とっても不思議だ。

 だけど、もっと大きな町に行かないと、あまりに原始的な生活をしなければならない。こんなん、耐えられんわ。

 だが、それも終わりが近づいていた。オレは割と大きな、人為的につくられた道に出たのだ。これなら、なんとか町にでれるかもしれない。その道沿いに歩いていくと、前の方から人が歩いてくる。それも数人いる。



(つづく)


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