人なんか嫌いだ! 第1話

 人は群れて生きていく。ボクはそんな生活が大嫌いだ。小さい頃から、家族とさえ、一緒に暮らすことが嫌だった。自由にいろんなことをやりたいのに、絶対邪魔が入る。お袋が邪魔をする、兄弟が邪魔をする、親父も邪魔をする。大きくなったら、絶対に一人で生きていってやる。いつもそう思っていた。

 だから、働けるようになったら、お金を貯めて、山を買って、そこに住むことを夢見ていた。自分ひとりだけの生活、なんて素晴らしいんだろう。まわりに誰もいない。こんな素晴らしい生活は最高だ。

 ボクは高校を卒業すると、大学にいかず、すぐ黙々と働いた。数年働いたら、それなりにお金が貯まった。そのお金で、普通の人には、二束三文の山を買った。当然、貯金はこれでゼロになった。両親はかなり反対したが、もう20歳を超え、大人なボクは迷わず決めたのだ。

 山はかなり広い。草木は生え放題。最高だ。こんなところへ誰も入ってきやしないだろう。初めて明かすが、ボクには、普通の人にはない能力がある。それは、植物を自由に成長させる力なのだ。だから、ひとりで好きなように生きていけるのだ。植物たちは、ボクにいろんなことを囁いてくれる。雨が近いとか、子供たちが踏み荒らしていくことが悲しいとか、ボクはそんなことを聞いて育ってきたのだ。

 山にはたくさんの木が生えている。ボクは、ぼちぼちとその木々を伐り、小さな家を作った。ボク一人なのだから、小さくていい。どんなに時間が掛かっても、文句言うやつもいない。水を貯めれる大きな桶を作ったが、それは途中でお風呂になった。飲み水は、池でいい。うまく、自然循環させれば、池の水は腐らない。きれいなままだ。山の上から流れる小川を引き込んで、池に入れてやると、もっとよくなった。池の水は一杯になると、また、小川を作って下流へと流れていく。生物も生きているから、飲み水はきれいなままだ。

 家は、雨から身を守れれば問題ない。寒ければ、大きな葉っぱを集めてきて、自分の周りに掛ければいい。あるいは、細かい葉っぱでも、たくさんあれば、その中に身を入れてやれば結構暖かい。冬でも植物を成長させれるので、葉っぱはいつでも採れる。木の実や野菜も、いつでも採れる。

 鶏を数羽、飼っているので、卵も採れる。毒虫などには、それが嫌がる植物を育てて、その汁を自分に塗ればいい。危険な動物もたまに現れるけど、私は共存方法を知っている。だから、襲われることはない。冬には雪も降るけど、いろんな葉っぱのおかげで暖かい。ボクはとても自由だ。

 世間からは、完全に切り離されている。テレビもラジオもネットもない。誰もボクを訪ねてこない。自分の両親もボクの生き方にあきれて、コンタクトをとってくることさえ、しない。誰にも会わなくていいなんて、最高だ。ここの時間は本当にゆっくり流れている。朝日が上がってくると目が覚める。昼間はちょっとしたDIYで楽しく過ごす。ちょっと、便利な生活をするために、適当な改善が楽しいのだ。あるいは、遠くの素敵な風景を何時間でも見て過ごす。夕日が沈むころにはもう就寝だ。こんな自由な生活をボク一人で満喫しているなんて、もう本当に最高だ。

 だが、そんな生活の中に、舞い込んでくる人間がいる。山の中を散策していると、植物がささやいてくる。小さな子供がひとりいるって。迷子なんだろう。多分、近隣の町に帰れなくなっているに違いない。ボクはその子のところへ向かった。その子は、まだそんなに弱々しくなっていない。迷子になってそんなに時間も経っていないんだろう。
「お腹、すいてないか?」
ボクは問い掛けた。その子はボクに気づき、うなずいた。ボクは、トマトを育てて、その実をその子に渡した。
「甘いよ。」
その子は両手で受け取って、急いで口に運んだ。よっぽど、お腹がすいていたんだろう。大急ぎで食べてしまった。ボクは二個目を実らせ、その子にあげた。また、一生懸命に食べた。小さな子だから、トマトを2個も食べたら、お腹が一杯になったみいだった。
「おじちゃん、ありがとう。」
まだ、おじちゃんという年ではないのだがね。
「迷子かな?」
「うん。」
「家がどこだか、分からないんだろう?」
「うん。」
「じゃ、一緒に帰るか?」
「うん。」

 ところどころ、蚊にかまれている。かゆみの止まる葉っぱの汁を塗ってあげた。すぐにかゆみはなくなるだろう。

 ボクはその子の手を引いて、近くの町の入り口まで、連れて行ってあげた。そんなに遠くないのだけれどね。山道からアスファルトの道に出たので、ボクはその子にこう言った。
「このアスファルトの道をあっちへ行けば、家が見えてくるから、あとはひとりで行けるだろ?」
「おじちゃんは来ないの?」
「おじちゃんは山に住んでいるから、町にはいけないんだ。」
「なんで?」
「大人の人が苦手なんだよ。」
「なんで?」
このくらいの子供はなんでも疑問を持つけど、これ以上、答えたくない。
「なんでもさ。」
「じゃ、ばいばい。」

 ボクはその子を見送った。その子は、アスファルトの道をトコトコ歩いて行った。ほどなく、近くに住む大人の人に見つかり、保護されたのを、見届けた。ボクの仕事はここまでだ。

 まあ、こんなことが起こるのは、夏の間だけ。都会から遊びに来た子供が冒険して、迷子になるケースがほとんどなのだ。ボクは、植物たちに迷子の子がいるというメッセージを受取って、助けにいく。でも、毎年ではない、数年に一度のことだ。あとは、たいがい、静かに暮らしている。



(つづく)

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