人なんか嫌いだ! 第4話

 ボクは、明るいうちに家に連れていった。さてどうしよう?木の上の我が家は、一人しか寝れない。仕方ないから、彼女を寝かせてあげようかな。

「さあ、着いたよ。」
「えっ、どこに家があるの?」
「だから野宿みたいなもんだと言ったでしょ。」
「本当に野宿なの?」
この人、野宿したことないんだ。ちょっと、この木の上で寝るの難しいかも・・・

「あの、多分、寝ている時に毒虫にかまれたら痛いから、この葉っぱの汁を服からでているところに塗ってね。」
そう言って、たくさんの葉っぱを渡した。
「あまり、好きな匂いじゃない。」
「毒虫にかまれるより、ましだと思うよ。」
「わかったわ。」
彼女は観念して、葉っぱの汁を腕や足に擦り付けていった。その間に、ボクは例の甘いトマトときゅうり、レタスにイチゴ、ブドウにスイカの実を採った。こんだけあれば、お腹いっぱいになるだろう。だが、彼女はびっくりしてた。
「何それ?こんな時期にそんなものが一度に採れるの?」
「ああ、なんでも採れる。」
「うそでしょ?普通、無理だわ。」
「まあ、普通はね。」
「いったい、どうやってそんなことができるの?」
「内緒。」
「不思議ね。」
「まあ、不思議ということにしておくよ。」
「どうぞ、すきなだけ食べてね。」
「スイカだけでも、お腹いっぱいになりそうね。」

 今晩は思わぬ珍客と楽しい食事になりそうだ・・・ちょっと待てよ。ボクは人が嫌いなはずだったのに、なんでこんなに楽しい思いになっているんだろう?この人、感覚的に自分に似ているのかもしれないな。そう思っておくことにした。

 翌日、葉っぱで作ったコップに、都会ではスムージーというのだろう、野菜や果物の汁を混ぜたものを入れてあげた。
「何これ?おいしい。すごーい。」
「自然はおいしいのだ。」
「ふふふ」
彼女は、もう悲壮感など全然なかった。とても楽しそうでよかった。完全に断ち切れたみたい。ボクたちは朝の食事をして、ぼちぼち散歩に出かけることにした。散歩って言っても、町への帰り道なんだけどね。

「これ、全然、道じゃないのに、よくわかるわね。」
「だって、ボクの庭だもん。」
「こんなに草が生えまくっているのに?」
「なれたら、どこでもわかるよ。」
「そんなものなの?」
「ああ、そうさ。」

この人といると、おしゃべりも楽しくて、あっという間に、例のアスファルトの道に出た。
「ここね。」
「うん。」
「あとは、このまま行けば、人家もあるし、帰れるよ。」
「本当にありがとう。」
彼女はそう言うと、私に抱きついた。
「えっ?」
ボクはそんなこと初めてだったから、とてもびっくりした。
「ありがとう。またね。」
彼女はそう言って、歩いていった。ボクは見えなくなるまで、見送った。いつも、そうしているからね。

 家に帰ると、草木がささやいている。
「あの子にまた会いたいんだろう?」
そんなことないよ・・・と、思う。

 なんかボクにとって、とても不思議な感覚だった。あれほど人が嫌いだったのに、彼女だけはそうでもない。たぶん、自分に干渉してこないからかもしれない。まあ、いい。今は一人で楽しくやっている。誰も来ない方が最高だ。

 迷い込んだ人を助けにいくのが、たまに遅くなってしまって、亡くなっている場合がある。運が悪いと、崖からの転落で亡くなっている人もいる。でも、それは、ボクにとっては人ではなくなっているので、まだ、淡々と作業ができる。ちょっと、面倒くさいのは、口頭で連絡しないといけないことだけだ。先日も、滑落して亡くなった登山客を見つけたので、近くの町まで運んで、その町の人に引き継いだことがある。こうなりゃ、ただの物体なので、そんなに嫌な気がしない。だけど、どこで、いつ、見つけたのかを、詳細に説明するのが面倒くさいだけだ。

 山は慣れない人が入ってくる場所じゃないと思う。でも、変な好奇心を持っている人がやってきては、しくじって大怪我したり、お亡くなりになったりする。たまにはいいが、頻繁だと面倒くさい。これもボクが人を嫌う原因にもなっている。大人しく自分の住んでいる場所で生活すればいいのに、まったく違う山の中に入ってきて、どう対応すればいいのかも知らないから、トラブルを起こす。それを助けにいくのも、面倒くさい。ボクの生活を邪魔しないでほしいと思う。

 また、植物がささやいている。怪我した人がいるみたい。ボクはとにかく行ってみることにした。思った通り、崖のふもとにいた。足を折ってしまっている。
「こんにちわ。」
「えっ、救助の人ですか?」
「いいえ、ここに住んでいる者です。」
「助けて下さい。足をやってしまいました。」
「そうですか。」
ボクがその足を確認したら、太ももの骨をポッキリやっているのがわかった。こりゃ、おぶっていくしかないか。

「お腹、すいてます?」
「何かありますか?」
「トマトならありますよ。食べます?」
「ありがとうございます。」
彼は、一口食べると、
「甘い!こんな甘いの食べたことないです。」
「それはよかったですね。」
その折った片足以外は大丈夫そうだった。

「もっとありますけど、食べます?」
「ありがとうございます。何か飲み物、あります?」
「ありますよ。ちょっと待って下さいね。」
ボクは、ちょっと離れたところから、葉っぱのコップに水を汲んできた。
「すごい。葉っぱでコップ、つくれるんですね。」
「この水、おいしいです。」
「そりゃ、よかったです。」
「足以外は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。折った足だけです。」

 この人、案外、細身だからおぶれるかもね。
「それじゃ、町までいきますか?」
「えっ、どうやってですか?」
「ボクがおぶってあげますよ。」
「大丈夫ですか?」
「問題ないでしょう。」
ボクは、彼を背負ってみた。うん、多分、町まで歩ける。
「重たいでしょう?」
「いいえ、大丈夫ですよ。」

 道は分かるし、極力歩きやすい道を最短でいく。途中、2回ほど休んで、5時間ほど歩いたら、人道にでた。ここからはすぐだ。
「もう、つきますよ。」
「本当にありがとうございます。」

 ボクは、そこから近くにある家に声を掛けて、救急車をお願いした。彼をその家の人に預けて、ボクは帰ることにした。彼からは何度も、名前等、聞かれたけど、特に言うつもりもない。また、来られたら厄介だからね。



(つづく)

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