人なんか嫌いだ! 第5話

 なんか、せっかく、一人になって、のんびり暮らしていても、勝手に入り込んでくるので、最近は少々うんざりしている。自分で自分のことを対応できないのに、なんでこんな自然の中に入り込んでくるんだろう。自然が多いと、良いとこも悪いとこもたくさんあるので、それなりに注意しないと、怪我もするし、死ぬことだってある。ボクはそんなことも十分承知の上、ひとりで暮らしている。まあ、そんなことしている人なんか、ほとんどいないだろうね。ボクはちょっと特殊だからかな。

 久しぶりに植物がささやいている。女の人がひとりでさまよっているらしい。でも、今日は危険動物が近くにいる。困ったもんだ。人の気も知らないで。今日はゆっくり夕日を眺めて過ごそうと思っていたのに。

 その女の人のところからすぐのところに猪親子がいた。あいつらは厄介だ。特に子連れはまずい。私は、彼女の背後から近づいて、口をふさいで、抱きかかえて走った。追っかけられたら、やばいからね。追ってくる気配がないので、彼女を降ろした。そしたら、その子はどこかで見たことがある子だった。あの時の・・・

「急になにすんのよ。」
びっくりして、怒っていた彼女は、ボクだとわかると、急に笑顔になった。
「あのね、ひとりでこんなところに入り込んだら、あぶないよ。」
「やっと、会えることができた。うれしい。」
まったく反省してないよ。
「ちょっとの差で猪に噛まれてたよ。下手したら骨を折ってたかも知れないよ。」
「そうだったの。ごめんなさい。」
もう、困ったもんだ。
「でも、どうしても、あなたに会いたくて、会いたくて・・・」
「ボクはひとりがいいんだよ。」
「私がいても、あなたはひとりでしょ?」
なんて、理屈だ。
「ここから帰れる?」
「いいえ、帰れないわ。」
「はぁ~、まったく。じゃ、明日、送っていくよ。」
彼女はニコニコしている。なんで、そんなにうれしいのかな?危機一髪だったのに。

 ボクは帰宅途中、夕日を見れる絶景ポイントに立ち寄った。ここで、のんびり過ごすつもりだったからね。
「えっ、すごい。感動。」
彼女は息をのんだ。そりゃそうだ、こんな風景、まず見れない。ボクだけの最高の場所だ。緑の世界が朱に染まっている。丁度、両側の山の間にある小さな平野がとてもきれいな朱に染まっているのだ。緑の合間にみることができる小川もキラキラ光ってきれいだ。それからしばらく、そこでふたりでその景色を満喫してた。ボクと同じように、じっと彼女も見つめてた。やはり、彼女もボクと同じ感覚なんだろうな。そんな気がした。

 しまった、時間を忘れてた。今からだと家に着くの、真っ暗だ。仕方がない。
「そろそろ、帰りますかね。」
「はい、素敵なところにお邪魔させてもらって、ありがとう。」
こんなふうに言ってもらえると、また連れてきてあげようかって、気持ちになりますね。
「ちょっと、急ぎますね。真っ暗になるんで。」
「はい。」
ボクは彼女の手をつないで、道なき道を急いで歩いた。彼女の手はなんて柔らかいんだろう。ボクの自然の中でキズついたり、擦ったりして分厚くなった手なんかじゃない、とても柔らかな手だった。

 だいぶ暗くなったけど、なんとか家に着いた。
「相変わらず、野宿なのね。」
彼女は優しく微笑んでいる。
「まあね。」
「さあ、何か食べよう。」
「こんな真っ暗の中で?」
「いつもこんなんだよ。」
「そうなの?」
「うそ、いつもは明るいときに食事するからね。」
「はい、トマト。」
「ありがとう、甘いやつね。」
「そうだよ。」
ボクはトマトばっかりだな。たまには気が利いたもの、育てればいいのに。
「何か食べたいものある?」
「そうね、ライチがいいかも。」
「わかった。」
「えっ、あるの?」
「あるよ。」
ボクはすぐにライチを出した。
「すっごい。なんで?」
「たいがいの野菜や果物はなんでもOKさ。」
「じゃ、イチゴは?」
「はい、どうぞ。」
「ほんとにすごいね。」
たいしたことないんだけどね。

 食べるだけ食べたら、横になった。彼女の寝床も用意して、そこにどうぞって言ったのに、ボクの隣がいいって、きかない。しかたないから、ふたりが横になれるように寝床を用意した。今晩はちょっと冷えるから、大きな葉っぱも多めに、小さな葉っぱもたくさん用意した。

 今日は月が出てないから、真っ暗だ。そんなときは星がよく見える。
「こんなにたくさんの星見るの、初めて。とても素敵ね。」
「そうなの?」
「町では全然見れない。」
「ここでは普通だよ。これもボクには癒しの巨大スクリーンなのかもね。」
「ほんとうにそうね。」
彼女とふたりで、夜空を見上げて眠る、まあ、それもいいかもね。そう思ったときに、彼女はボクにぴったり抱き着いてきた。動けないじゃん。でも、なんかいい匂い・・・

 彼女は朝までボクにくっついていた。いつもと違うので、戸惑っているボクがいる。これじゃ、彼女が起きるまで、動けないじゃん。

「あ、おはよう。」
ようやく離れてくれた。
「おはよう。何食べたい?」
「なんでも、あなたの好きなもので。」
「そう?」
じゃ、ごちゃ混ぜスムージーだ。これだと、たくさんの種類の栄養が採れる。多量に飲んで頂こう。
「はい、どうぞ。」
「スムージーね。」
「おいしいよ。」
「ほんと、なんでこんなに甘いの?」
「お砂糖とか入れてないよ。それぞれの実の甘味だけだよ。」
「すごいね。毎日、こういうの、飲みたいわ。」
「町でも売ってるでしょ?」
「あるけど、完全に自然のものだけじゃないもん。」
「そっか。」

「ねえ、こんな生活してて、仕事とかはしないの?」
「どんな仕事?」
「えっ、お金とか稼がないの?」
「お金なんかいらないもん。」
「なんで?買い物とかで町にいかないの?」
「いかないよ。ずっと、ここで暮らしてるからね。」
「そうなんだ。じゃ、私もここでいっしょに暮らせるかな?」
「それは無理。」
「なんで?」
「ボクはひとりがいいからね。誰かとは暮らさない。」
「私、あなたと一緒に生きていきたい。」
「無理だね。自分だけで精一杯だからね。」
「お願い。」
「自分のことは自分で守れないと絶対に無理。」
ボクも本当は一緒でもいいかなって、思いかけていたけど、そのうち絶対ケンカするに決まってる。だから、ボクはひとりで生きていく。

 彼女は暗い顔になった。そんな雰囲気が嫌いだ。心穏やかな日々を送りたい。
「じゃ、送っていくよ。」
「・・・」
返事もしない。だから、無理なんだ。ボクは彼女の手を取って、歩いていった。彼女も不機嫌そうな、寂しそうな顔を、雰囲気を漂わせながら、ボクについてきた。



(つづく)


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