人なんか嫌いだ! 第16話

「以前、素敵なところを見つけたって言ってましたよね。すごくその場所が見たくなって。」
「そうなの?ここからでもちょっとあるよ。」
「はい、大丈夫です。ちゃんと、準備してきました。」
確かに充分そうな装備を持ってる。なら、行ってみますか。
「了解、いきますか?でも、その前に腹ごしらえしましょう。」
「もしかして、あのトマトですか?」
「はい、どうぞ。」
「うれし~です。ありがとうございます。」
ボクらは、2個づつ食べて、歩き出した。
あの場所まで、1日ほどかかる。大丈夫かな。
「どこかで一泊することになりますけど、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」

 なんか、愛子さん、うれしそう。結構な間、黙々と歩いたけど、彼女も何も言わず、一生懸命ついてきた。もうちょっと、ゆっくりでもいいか。途中、2、3回ほど休みを取りながら、いよいよ夕方になって、野宿できる場所を探した。

 愛子さんもテントを持ってきていたので、なるべく平たい場所を探した。なかなか、たき火をすることはないのだが、今日は特別だ。彼女が持ってきてくれたコーヒーも飲んでみたいしね。

「どんな野菜や果物でも育てられるんですよね?」
「はい、大丈夫です。」
「なんか、トシさんの出してくれるものは、どんなレストランなんかより、おいしいです。」
「私がしているんじゃなくって、植物たちがやってくれているんで、本当は植物に感謝ですよね。」
「そうなんですね。」
「最初は何にします?」
「この前食べたライチ、食べたいです。」
「了解。」
5個ほど、彼女に渡した。
「これも、結構甘くって、おいしいですね。」
「だよね。ボクがこの山で生きていけるのも、このチカラがあるからなんだよね。」
「食べることに困らなかったら、生きていけますものね。」
「次はイチゴをどうぞ。」
「おいしいですね。とろけそうです。」
「それはよかったです。」
「じゃ、変わったところで、これ、どうぞ。」
「えっ、何ですか、これ?キャベツ?」
まあ、見た目はキャベツだけど、とても小さい。
「そうです、キャベツ。一口サイズの丸ごとキャベツです。」
「じゃ、半分。んん、キャベツの味する。でも、甘いです。」
「トシさんから頂くものはみんな甘いですね。」
「食べやすい味にして、もらってますからね。」
「じゃあ、食べにくい味にもできるんですか?」
「そんな果物、食べてみます?」
「いいえ、遠慮しておきます。」
「はははは。」
そんなこんなで夜も更けて、ボクらは明日に備えて、休むことにした。

 夜中に植物たちが騒がしい。イノシシが近寄っている。彼女はそんなことも知らずに寝ているし、どうしようか?ボクはテントの周りを歩きまわった。イノシシたちは、その音にびっくりして去っていった。この方法は使えるな。ボクはまた、葉っぱの寝床に横になった。

 翌朝、いい天気だ。ボクらは、食事をした後、またせっせと歩き出した。結構、上り坂を上って、上がり切ったところに、ボクお勧めの景色がある。
「わあ、ここですね。すごい景色です。」

 そんなに登ったわけではないのだけれど、この景色を見たら、かなり高い山頂を登頂した感じに思える。遠くの山々が、この季節、真っ赤に燃えてきれいだ。赤だけじゃなく、黄色い山も見える。山の裾野はとても色鮮やかで最高だ。

 ボクらは腰かけて、その風景に見入った。高いところの雲が流れて、光をさえぎったり、雲の間からの漏れたりして、とてもいい感じだ。いつの間にか、何時間も経って、夕方になってしまった。まあ、ボクには当たり前のことなのだが、愛子さんもそんな時間の流れを共有していた。案外、気が合うかも。

「遅くなっちゃいましたね。今日はここでお泊りです。」
「うれしいです。」
「明日、早朝はもっと素敵な景色が見れますよ。」
「どんな?・・・聞かない方かいいですね、明日のお楽しみにします。」

 ボクらはお互いのことを聞くというより、自然への楽しみだったり、憧れだったり、そんな話ばかりしていた。彼女の淹れてくれたコーヒーを飲みながら。

 翌日、まだ、彼女が起きていない早朝の景色を見ていた。思った通りだ。ちょっと、冷え込んで、雲海が出ている。ボクは彼女を起こした。
「出ておいでよ。」
「はい。」
「うわ~。」

 彼女は言葉を失った。山々の間の平野は雲海で隠れている。雲から出ている山々は赤い山だったり、黄色い山だったり、色がまじりあった山だったり、とても素敵だ。平野といっても、背の高い木が数本、雲を突き抜けている。それも落葉樹なので、色鮮やかだ。この時間が最高の眺めなのだ。

 やがて、雲が晴れてきて、平野がだんだん見えてくる。白いキャンパスだったのが、色鮮やかなキャンパスに変わっていく。ボクらはじっとその光景を眺めていた。

 ようやく、我に返って、お互い顔を見合わせた。
「よかったぁ~。」
「いい感じだったでしょ。」
「最高です。連れてきてくれて、ありがとうございます。」
「冬は冬で、水墨画のような、なんだろ、白と灰色の世界なんですよ。この光景が。」
「また、見てみたいです。」
「ちょっと、寒いんで、重装備が必要ですけどね。」
「分かりました。また、よろしくお願いします。」
それから、ふたりで食事をして、彼女を町まで送っていった。

 今まで、人嫌いだったボクは、なんかちょっと変わってきた感じがする。基本的には、人嫌いなんだが、ある種の人は嫌いじゃない。どういうわけだか、愛子さんとは、いつまでも一緒に居れそうな気がするのだ。なんでだろう。それに・・・また、会いたいとも思う。



(つづく)


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