人なんか嫌いだ! 第19話

 とにかく、こんな恰好のままでは、街中ではルンペンみたいだし、あの駐在さんのところでお願いするしかないな。ボクはとりあえず、駐在さんちへいくことにした。でも、気が重い。愛子さんに会って、どう言えばいいのか?それを考えると、足が進まない。たいてい、1日ちょっとでいける道を2日もかけてしまった。

「こんにちわ。」
「おお、久しぶりだな。何かあったか?」
「いえ、今回は救助の件ではないです。ちょっと、お願いがありまして・・・」
「トシくんの頼みならなんでも聞いてあげるぞ。」
「実は、ちょっと街中へいく用事ができまして、服を貸して頂きたいのです。」
「それだけ?」
「はい。」
「ほんとうにそんだけでいいの?」
「はい。」
「じゃぁ、まず、シャワー浴びておいで。」
「ありがとうございます。」

 久しぶりに石鹸で体を洗った。頭もシャンプーした。こんな匂いだっけ?今まで自分はかなり臭かったのかな?
「ねえ、トシくん、どんな服がいい?」
駐在さんの奥さんが声をかけてきた。
「どんな服でもいいですよ。」
「だって、TPOがあるでしょ?何しにいくの?」
「知り合いの女の人のところへ。」
「ええっ、そうなの?じゃ、恰好良くしなくちゃね。」
「いや、普通のカジュアルでいいですよ。」
「そういうわけにいかないでしょ。」
「怪しいな。もしかして、告白とか?」
ボクはいっぺんに真っ赤になってしまった。
「まじか。」
「どんな娘なん?」
「あ、いえ・・・」

 結局、駐在さんの取り調べで、すべてを白状することになった。
「いいねぇ。若い人は。」
「で、いくつなの?その娘?」
「あ、知りません。」
「知らないの?誕生日とか、どんな学校卒業しているとか、何も知らないの?」
「はい。」
「そんなんで大丈夫?」
そんなこと言われても・・・

 そんなこんなで、いろいろ聞かれたけど、ボクはYシャツにジャケット、スラックス、革靴を履いて、駅まで送ってもらった。こんな恰好、ひさしぶりだ。途中で、散髪に行け!と言われて、お金まで渡された。まあ、せっかくだから、すっきり、散髪することにした。

 ここの駅から彼女の住んでいる住所近くの駅まで、2時間くらい。その駅で降りると、もう心臓がバクバクだ。駅から、足が踏み出せない。どうしたらいいんだろう。だが、とにかく、違うことを考えて、何とか、歩けた。電柱の町名番地を確認しながら、ようやく、彼女の住むマンションに着いた。

 こんな立派なマンションにすんでいるんだ。なのに、あんなツリーハウスでいいのかな。ちょっと、不思議な気持ちになった。だけど、このマンション、どうやって玄関のドアが開くんだ?最初のガラスのドアは自動でスライドしてくれたが、2枚目のドアは近くに行っても開かない。ボクはボー然と立ち尽くしてしまった。どうしたもんだろうか。

 そこに知らない女性がやってきて、なにやら、タッチパネルみたいなところで、ボタンを押している。あ、ドアが開いた。それを見ているボクは、かなり怖い目で睨まれた。すごく怖かったけど、なんとかひっくり返らずに居れた。

 そうか、多分、愛子さんの部屋番を押したら、開くのだろう。そう思って、ボクはその番号を押してみることにした。すると・・・
「はい。どちら様でしょうか?」
愛子さんの声がスピーカーで聞こえた。とたん、心臓バクバク状態で、何も言えなくなってしまった。
「もしもし、どちら様ですか?」
「あ・・・あ・・・」
「もしかして、トシさん?」
「はい。」
「すぐ行きます。」

 なんか、自分が情けなくなった。まともに話もできない。とっても恥ずかしい。ここから逃げ出したい。ボクは玄関を後にした。だんだん、マンションから離れていく。なんだか、とってもダメなヤツに思えてきた。

「なんで、帰っちゃうの?私に会いにきてくれたんじゃないの?」
彼女の声が聞こえた。振り返ると、彼女がいた。ボクはますます、恥ずかしくなった。あんなに堂々とボクに声を掛けてくれているのに、ボクはなんて様なんだ。情けなくて、その場から逃げ出した。彼女からの声は聞こえていたけど、ボクはいつの間にか走りだしていた。

 情けない、情けない。自分自身が嫌になった。

 ボクはいつの間にか、駅に着いた。帰ろう。ボクはずっとひとりでいい。そう思ったボクの前に、愛子さんはいた。
「なんで、帰っちゃうのよ。」
「私に会いにきてくれたんでしょ?」
「ちゃんと、あなたの本心を教えてよ。」
そう言われる度に、どんどん、自分が情けなくなってくる。やっぱり、無理だ。
「ごめん、やっぱり、帰る。」
そう行って、ボクは彼女の前をすり抜けて、改札口からホームへ走っていった。

 結局、人を傷つけてしまう。ボクが人嫌いなのは、こんなこともあるんだろう。だから、ひとりでいいんだ。あ~あ、絶対、駐在さんの尋問、あるんだろうな。嫌だな。でも、服を返してこなくっちゃな。ボクは自分の情けない行動を言わずに、振られたことにした。

 なんか、気が重い自分がいた。ひとりでいても気分が重い。自分の情けない行動と気になっている愛子さんのことで、頭が一杯になっている。何日も何日も、そんな思いの中で、落ち込んでいた。



(つづく)


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