人なんか嫌いだ! 第20話

 ようやく、立ち直ってきた頃、ロッキーがきた。ボクを連れていきたいようだったが、ボクは誰にも会いたくない。ロッキーはあきらめて、帰っていった。その2日後、ボクの家に愛子さんが現れた。
「今日は逃げないでね。」
「あ、はい。」
「あなたの本心を聞きたいの。それが聞けるまで帰らないわ。」

 突然のことで、言葉にならない。でも、ボクなりに勇気を振り絞って話をすることにした。
「ボクは君のように、自分の気持ちをストレートに言えない。だから、そんな自分が情けなくって、恥ずかしくって、この前は帰ってしまったんだ。」

 あんなマンションに住んでいるのに、こんな山の中で住むなんて、うまくいくわけがないだろう。そのうち、嫌になって、自分の家に帰っていくだろう。そう思うと、愛子さんが好きだなんて、言えなかった。

「ボクはひとりがいい。たまに会う分にはいいけど、ボクはひとりがいいんだ。」
「わかったわ。よ~く、わかった。じゃ、帰るわね。」
「じゃ。」
彼女の後ろ姿は、泣いていた。でも、ボクには無理だ。たぶん、こんな山奥に彼女を住まわせるなんてことはできない。都会の中で生活している人なんだから。

 しばらくして、ミキさんが来た。
「ほんとうにいいの?」
「アイちゃんに言ったことが、トシくんの本当の気持ちなの?」
ボクは散々、詰め寄られたけど、そうだと言い切った。

「そうなら仕方ないわね。」
「ということは、私と同類なのかもしれないわね。」
「同類?」
「ひとりで生きていくって決めたんでしょ?同類よ。」
「じゃぁ、そうなんですね。」
なんか、ぽっかり穴があいた気分だった。しばらく、どこにも行かず、ツリーハウスで過ごしていた。彼女とふたりで作ったこの家、その時のことが頭の中で回っていた。やっぱり、会いたい。でも、ボクには無理だ。どう頑張っても、絶対、無理なんだ。

 それから1年近く過ぎた。ボクは相変わらず、綺麗な絶景を見つけに、山を歩きまわっていた。ふと、雲海の見える、あの景色が見たくなった。今は冬、結構寒い。でも山の上じゃないから、そんなにひどい風は吹いていないはず。

 ボクは、薄着だけど、あの景色の見えるあの場所へいくことにした。今は真っ白な風景で、水墨画のようなそんな世界が広がっている。割と曇っていた。ちらほら雪も降っている。まあ、こんなところで野宿になっても、今まで何回もやっているから大丈夫だ。

 夕方、雲が多くて夕日も見えなかったけど、いい感じの景色だ。ボクは、野宿の準備を始めた。今晩は多少、雪が積もるだろう。だから、雪穴を作ろうと思った。ちょっと、吹き溜まりになったところの雪を掘っていくと、結構な穴が作れる。これができれば、なんとなく、暖かく過ごせる。雪を掘っていくと、ん?テント?なんで、こんなところにテントがある?

 ボクはテントの回りを掘った。もしかしたら、遭難者かも。ちょっと、嫌な予感がした。急いで、テントのジッパーを開けた。そこには、ひとりいた。こんな中で凍死者?急いで、息の確認をしてみようと顔を見た。

 えっ!なんで?愛子さん?まさか?息は小さくしていた。脈も弱いがある。体は冷え切っている。これはやばい。このままだと本当に死んでしまう。服の上からでは、体温は伝わらない。ボクは前を肌けて、お互いの肌をくっつけた。なんて冷たいんだ。ボクの体温だけでだいじょうぶかな?ボクも一緒に寝袋に入って、彼女を温めた。逆に熱を吸い取られていくようだ。頑張って、起きていたが、そのうちボクも寝てしまった。

 どれくらい寝てただろうか。ボクは目覚めた。彼女から小さな寝息が聞こえていた。ボクはほっとした。たぶん、大丈夫だろう。彼女の柔らかな胸からは、心臓の鼓動も伝わってくる。よかった。でも、これって、とっても不思議な引き合わせだよな。ていうか、もう運命のような気がした。ボクはこの人と生きていっていいんだよね?そんなことばかり、考えていた。

「ん、はっ?」
「おはよう。」
「えっ?なんで、あなたが?」
「ボクもなんでかわからない。」
「私は死んでいくのを覚悟したの。もう、絶対、生還できないと思ったわ。でも、とても暖かい何かが、私を包んだの。とても暖かくて気持ちよくって、そのまま安心して眠ってしまったの。それがあなただったのね。ありがとう。でも、なんで、あなたが?」
「冬のこの景色がみたかったんだ。だからここに来たんだ。」
「夕方になったので、雪穴を掘って、野宿の準備していたら、テントが出てきたんだ。」
「まさか、君がそこにるなんて、とても驚いたよ。」
「かなり、冷たくなっていたんで、抱きしめてそのまま寝てしまったんだ。」
「服を肌けてしまっているけど、ごめんね。」
「ううん、いいの。」
「あなたの体温が分かるから。」

 ボクは、自分の本当に気持ちを打ち明けた。今までの情けない自分を許してほしいことも、すべて打ち明けた。
「でも、こんなところで出会うなんて、本当に運命なのかもしれないね。」
「私もそう思うわ。」
「でも本当に後悔しないかい?文明の力もない、こんな自然の中で暮らしていくなんて、不自由だと思うけど?」
「全然、大丈夫。あなたといるから。」

 ボクらは、もう少し、この場所の景色を楽しんでから帰途についた。ボクのツリーハウスに着くと、ロッキーがいた。
「あれ、どうしたんだ?」
「久しぶりね、ロッキー。」
そこへミキさんが現れた。

「あれ?どうして、アイちゃんもいるの?」
「一緒に生きていくことにしたんで。」
「本当?なんでそんなことになったのよ?でも、よかったねぇ。おめでとう。あとでじっくり聞かせてもらうわよ。」
「ありがとう。」
「ところで、これを見て、カモ肉が手に入ったから、一緒にたべようと思ってさ。」
「ありがとう。じゃぁ・・・」
「トマトね。ありがとう。」

 ボクらは夕げの支度をした。こんな時は、不思議なことが起こる。なんと、駐在さん夫婦もやってきた。
「あれ?なんで?」
「たまには、一緒にバーベキューもいいかと思ってね。」
「そうよ、食材を持ってきたの。」
「この冬に、ですか?」
「まあ、固いこと言わないでさ。」
「ところで、もしかして、彼女?」
「私じゃないわよ、こっちの子よ。」
「だと思った。」
「どういう意味?」
「はははは。」
こんな山の中で、こんなに人が集まって、楽しくやれるなんて、今日は本当にボクらを祝福してくれてるんだろう。

 この数日、ボクにとっては、気持ちが一気に晴れ渡った気がした。運命の出会い、知り合いからの祝福、最高の数日だった。



(つづく)


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