人なんか嫌いだ! 第21話

 それから、ボクらは、ツリーハウスの周りを、もう少し使い勝手の良いように改良することにした。近くに水も引いたし、お風呂も入れるようにした。まあ、元々小川が近くに流れていたので、それをさらに近くにしたまでだ。テーブルやいすも作り、ハウスへ上げた。なんとなく、本当の家のようになってきた感じだ。

 愛子さんは、マンションの整理をするために、一旦帰った。ボクはまた、いい景色を求めて、山歩きにでた。彼女が帰ってくるまでに、サプライズの場所を見つけておきたいなと思っていた。

 まあ、だけど、ここらへんもいい加減歩きまわっているし、いい景色の場所も調べ尽くしている。あまり遠くなると、ずっと家をほったらかしになってしまうので、近場で行ったことのない場所を求めて、歩くことにした。

 そういえば、崖の裏側って、行ったことなかったな。いつも、崖の上からの景色を楽しんでいただけだったので、ぐるりと回って、崖の下側に行ってみることにした。下側からは、岩場から水が滴っていた。これは、ちょっと、雨が降ったら滝になっているかも。確かに、その場所の下には、今は水溜まり程度だけど、これもここから川になって流れていくのだろうな。そこの水は結構冷たく、ちょっと入っていくと、結構深かった。さすがに今は寒いので、飛び込めないけど、楽しそうな感じだ。夏場にはいいかもしれない。

 あれ?ボクは耳を澄ませた。何か鳴いている。どこだ?その声をたどって行ってみると、子犬だ。たぶん、雑種なんだろう。でも、なんでこんなところにいるんだろう。良く見ると、ケガをしていた。仕方がないね、連れて帰るか。

 家に帰ると、ロッキーも食べるトマトをあげてみた。何とか、その汁をなめている。いけるかな。卵は食べるかな。適当に焼いて、食べさせてみた。大丈夫だ、食べる。コイツ、甘い汁はなんでも飲みよる。本当は牛乳とか、ヤギの乳とかあればいいんだけど、まあ、仕方がない。

 数日すれば、しっかり、元気になった。ケガの具合も良くなった。若いと治りが早いよね。子犬と遊んでいると、愛子さんが帰ってきた。
「どうしたの、その子?」
「ケガしてたんで、連れて帰ってきたんだ。」
「かわいいわね。」
「うちの家族にしてもいい?」
「もちろんよ。」
というわけで、愛子さんにも気に入ってもらった。

 その日の夕方、食事を終えてから、家でのんびりしてたら、彼女はぽつりぽつり話をし出した。あのマンションは解約したそうで、荷物も処分したとのこと。必要最低限だけ、リュックにつめて、持ってきたみたい。
「本当にそれでよかった?」
「もちろんよ。」
ボクはその気持ちが嬉しかった。

 愛子さんは、ずっと契約社員で、ある程度お金が貯まったら、自然の中に出かけていたとのこと。いずれは、ミキさんのように自然の中で暮らしたいと思っていたとのこと。

 ボクはそうじゃない。人が嫌いでひとりになれる山で暮らしていた。誰にも邪魔されないように、この山だって自分で買った。でも、あんまり、境界が分かっていないけどね。たまに、気が合った人に会うのは大丈夫だけど、人が常時いる村とか町では無理だ。

「へえ、すごいのね。この山はすべてあなたのものなのね。」
「うん。安いけどね。だけど、侵入者もたまにくるんだ。」
「どんな?」
「例えば、迷子の子供だったり、大人も迷子になってたりするし、自殺者とか、遭難者とか、航空機事故とか、密猟もたまにあるよ。」
「なんか怖いわね。」
「そうなんだ。いろいろとあるんで、あの駐在さんのところに話を持っていくから、駐在さんとも仲良くなったんだ。」
「なるほどね。」
「あの、ちょっと気になっていたんだけど。」
「なにかな?」
「トシくんのおなかに大きな傷痕があるでしょ。」
「ああ、これね。これは熊に襲われたんだ。背中の傷は、散弾銃の痕。」
「そんなことが・・・」
彼女は涙を流した。ボクは慌てて、こう言った。
「でも、ちゃんと生きてるでしょ。」

 ボクらは、お互いのことを話した。面白いのは、ボクも彼女もちゃんと家族がいるのに、自分だけが、こういう自然で暮らすことが好きなこと。家族のうちひとりだけ、まったく違う生き方をするなんてことは、ボクらの共通点だ。

「ここではスマホも入らないから、連絡とれないけど、いいの?」
「全然、大丈夫よ。年に1回は家族に顔を見せるという条件付なんだけど。」
「了解。その時はゆっくり楽しんでおいで。」
「何言ってるの?あなたもいくのよ。」
「そりゃ、無理だよ。人嫌いなボクがそんな中に入っていけないよ。」
「じゃ、最初の1回だけ、お願い。あとはなんとかするわ。」

 1回は行かなくちゃいけないのか。でも、世間で言う結婚式もしないし、婚姻届も出さないし、そんな必要があるのだろうか。ということは、ボクの家族にも、彼女を紹介しておく必要があるのか。

「じゃ、ボクの家族にも会ってもらわないといけないのかな。」
「当然だと思うわ。いつ、行く?すぐでもいいわ。」
「ちょっと待ってよ。まあ、手紙でも書くわ。」
「わかった。私もそうする。」
ボクらはお互いを紹介するため、それぞれの実家に手紙を書いた。
「ねえ、ここの住所はどうしたらいいの?」
「○○の山中、ツリーハウスでいいよ。」
「そんなんでいいの?」
「なかなかいいでしょ。そういえば、昔、ボクのおじが田舎に移住したときに、家の前に大きな木があったので、チロリン村のクルミの木ということで、散々、ふれまわってたら、それで郵便物が着くようになったことがあったんだって。」
「そうなの?そんなこともあるの?すごいね。」



(つづく)


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