2021年01月16日

フリーライフ 第5話

 ある日、私はほとんど現金を持たないのだが、たまに現金をおろしてこようと、通帳を取り出そうとしたが、どういうわけだかそこになかった。この部屋を自由に出入りできる人物は、私と斎藤さんだけだ。一応、念のため防犯カメラを確認すると、斎藤さんが持ち出しているのが映っていた。なんで?


 次の掃除の日、私は彼女に聞いてみた。

「通帳、返してもらっていいですか?」

彼女は急に青ざめ、ビクッとして、震えていた。

「ごめんなさい。」

そのまま、下を向いて震えている。そんな状態になるなら、なんでこんなことをしたんだろう?

「中を見たかっただけなんでしょ?」

「投資家の通帳の中身は、いくらくらいか興味があっただけなんでしょ?」

「・・・」

彼女は何も言わず、カバンから私の通帳とハンコを取り出して、私に返してくれた。中を確認すると、100万ほどおろされている。


「これは?」

「ごめんなさい。」

「ちゃんと返してくれるよね?」

「ごめんなさい。」

「そっか。」

多分、返ってこないだろう。何かに使ってしまっているんだと思った。

「じゃ、もう来なくていいよ。」

「ほんとうにごめんなさい。」

「お金の切れ目が縁の切れ目ということだね。」

「・・・」


 私は本当にいい子だと思っていただけに、かなりショックだった。彼女を帰したあと、会社に電話をかけて、別の人に変えてもらうようにお願いした。営業マンが飛んできた。

「なにか不手際がございましたでしょうか?」

「いえ、別の方に変えて頂けたらそれでいいです。」

「今後のためにも、理由をお聞きしてもいいでしょうか?」


 そりゃそうだよな。斎藤さんが別のところで同じようなことをしたら、信用問題になるし。

「実は、斎藤さんが私の通帳を持っていってしまって、100万円ほど使ったようなのです。」

私は通帳を見せて、説明した。

「なんという・・・お金は返金されましたか?」

「いえ、戻ってきてないです。」

「こちらとしても、厳重に処罰させて頂きます。大変申し訳ございません。」

「お金は必ず、返金させて頂きます。」

「いや、もういいですよ。だから、別の方に変えて下さい。」

「いえ、必ず、返金致します。」


 その営業マンは飛んで帰った。こんなことは一気に信用を落とす。下手すれば、倒産の危機を招く。私はそんなことより、斎藤さんがそんなことをするなんて、思いもしなかった。見る目がないのだろうか。


 翌日、クリーニングサービスの偉いさんと営業マンがやってきた。

「昨日は大変申し訳ございませんでした。」

「お客様の損害された金銭と慰謝料です。お納め下さい。」

私にはそれくらい、問題はなかった。でも、受け取らないと会社も問題になるのだろう。

「わかりました。迅速な対応ありがとうございました。」

「本当に、本当に申し訳ございませんでした。」

「もうこの件はここで終わりにしましょう。今週の金曜からは別の方をお願いしますね。」

「ありがとうございます。一度、連れてきますので、よろしくお願いします。」

私がいい人でよかっただろう。もうこれ以上文句は言うつもりもない。斎藤さんとも会うこともないだろう。



(つづく)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | フリーライフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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