2021年02月10日

フリーライフ 第30話(最終回)

 なんか、やっぱり、美佳がいないと寂しいもんだ。私は、ひとりで川辺だったり、いろんなところでその寂しさを紛らわすために、ソロを続けた。そんなある日、私の演奏を聴いてくれていた人がこんなことを言った。

「木島さん、一人でテレビに出てましたよね。高木さんは出ないんですか?」

「ひとりで?」

「彼女の音色も素敵になってきましたね。」

どういうことなんだ?


 私は美佳に連絡してみた。でも、出てもらえない。なんでだろう。だが、その真相はすぐに明らかになったのだ。週刊誌に歌手のAさんと美佳のツーショット写真が載っていたのだ。私より、Aさんを選んだのだ。その記事には、美佳が妊娠していることも書いてあった。私は、同棲はしてたが、いつもプラトニックだったから、私との子供なんてありえない。抱き合って寝ていたが、美佳もそれで満足だったと思っていた。そうじゃなかったんだ。


「兄さん、週刊誌見た?」

瑠璃から電話がかかってきた。

「ああ、見たよ。」

「どういうことなの?美佳さん、兄さんが好きだったんじゃないの?」

「どうやら、芸能界を知って、かっこいい人に乗り換えたんだろう。」

「そんな。」

「まあ、いいよ。私に魅力がなかったってことだよ。」

「兄さんはそれでいいの。」

「・・・」

「どうなの?」

「ごめん、しばらく、そっとしておいてくれないか。」

私は電話を置いた。


 悲しみの感情だけがこみあげてきた。私は幸せになれないのか。瞬間、恋に落ちた瑠璃は妹だったし、これから少しづつ愛していこうと思った美佳は、私から去ってしまった。もうどうでもよくなった。ひとりで酒をあおり続けた。


 気が付いたら、瑠璃の姿があった。

「なにやってんのよ、兄さんが死んだら、私だって生きていけないじゃない。」

瑠璃は泣いていた。

「すまん。」

私は、ハウスクリーニングの担当者に見つかって、救急搬送されたのことだった。ほとんど、息をしていなくて、死ぬとこだったらしい。両親も来てくれていた。だけど、死ぬつもりなんか、なかった。ただ、たくさん飲み過ぎただけ。そう、自暴自棄になって飲み過ぎただけなんだ。今さら、そんなことも言えない。

「智志、もう大丈夫なのか?」

「死んだらなんもなんないよ。」

「ああ、すまん。心配かけたな。もう、大丈夫だよ。」

私はなんとか吹っ切れた気がした。瑠璃はまだひとりにしておけないって言ってたけど、私は大丈夫だとなんとか突っぱねた。でも、1日に何回も連絡してくる。心配し過ぎだろ。


 私は1人だった時のように、朝ランを開始した。毎日、サックスの練習にあてた。悪いことだけじゃなかったようだ。私の経験が、またいい音色になったみたいで、感激して泣いてくれる人も出てきた。多分、私もサックスに出会わなければ、人とのつながりなんか全然できなかったと思う。


 美佳は、芸能人とのスキャンダルで、そのまま破滅の道を歩んでしまった。そのAさんは奥さんがいたのだ。そうなると、あとは泥沼だ。私に助けを求めてきたが、もう助けられるわけはない。自分でしでかしたことは、自分で始末せざるを得ないだろう。


 会社の代表から美佳は外れたので、私一人会社となった。でも、ひとりでも何かと出演依頼があったので、無理のない程度に出させてもらった。そのおかげで、なんとか会社は存続できている。私を引っ張りたい会社もあったが、それは控えるようにした。自分のペースでやっていくことしか、やっぱり、私にはできないと思うのだ。


 たまに実家に帰ると、最近は瑠璃のバイオリンとセッションして楽しんでいる。私はもう結婚するつもりはない。彼女だってつくるつもりもない。絶対、口には出さないが、たまに瑠璃に会える生活に満足している。これが、私の自由な生活なのだ。



(おわり)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | フリーライフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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