2021年05月27日

短編小説 「夢の先の人生」 第2話

 ボクは他人の意識に入り込んで、密かにその他人と同化していたのだった。今まで、その人が考え、からだを動かしていたのだが、ボクにもそのからだを動かすことができることに気が付いたのだ。


 あるとき、夢のボクは、スリで、電車の客からサイフをすっては、中身を抜き取り、そのサイフを元に戻すことをしていた。だから、ボクは心の中で叫んだ。「そんなこと、しちゃだめだ。」彼はびっくりしていたが、しっかり、サイフをすろうとしたので、ボクはその手を止めた。つまり、そいつがからだを動かすことと、ボクがそいつのからだを動かすことが同時に起こったので、からだは固まった。


 そんなことがあって、ボクは確信した。いままで夢と思っていたことは、人の意識に入り込んでいたんだって。そのうち、強く念じれば、特定の人の意識に入り込んでいけることもわかった。こんなことできるのって、多分、ボクだけなんだろうな。


 だけど、自分からやろうと思わなくても、勝手に誰かの意識に入り込んでしまうのは、本当に困ったものだ。今までは夢だと思っていたから良かったのだけれど、それが他人の意識だと分かったときから、嫌になってきた。ボクの気持ち通りに考え、動くならいいのだが、絶対にそんなことはない。やきもきしちゃうので、つい手を出してしまいたくなるのだ。


 だから、勝手に他人の意識に入ってほしくないのに、いったいどうなっているんだろう。小さい時からずっとだったんだ。何か意味があるんだろうか。ボクにはよくわからない。


 そういえば、ボクが他人の意識に入り込んでいるとき、自分はいったいどうなっているんだろう。あまり、そんなことは考えてもみなかった。畑仕事をしている時にそうなった場合は、多分、そのまま畑に立ち尽くしていたみたいだし、寝ているときには、そのまま寝てたみたいだし、昼も夜もいつでも、そんな状態に突然なってしまう。そうなったら、ボクはずっとそのままの状態でいるみたいだ。まあ、夜にそうなるのなら、家にいることが多いから、問題ないけど、昼間は困ったものだ。恐らく、他人からみれば、ぼーっと突っ立っているんだろうな。


 ある時、山道を歩いていたボクは、その道を踏み外して崖から落ちた。でも、その瞬間、ボクはまた夢をみてしまった。その人は都会で仕事をしている女性だった。結構、事務仕事は気楽なんだな。


 いやいや、そんなどころじゃない。ボクは崖から落ちたんだ。早く戻らないと思ったが、戻れない。最近は自分の意識で自分に戻れたのに、なんで戻れないんだ。どうしよう。ボクはこのままこの女性の意識に仮住まいするのだろうか。仕方がないので、様子を伺うことにした。


 私は商社の事務をしている。田舎から出てきて一人暮らしをしている。事務は売上の入力を中心に雑多なことも多い。同じ部内に4人の女性がいて私はその一人。


 今日は売上が少ないせいか、入力があまりない。だから結構暇なの。営業部員が営業に持っていく販促物を用意するくらい。あとは4人でお話しをすることが多い。部長も今日は不在だから当然ね。


 この4人は仲がいい。だから、チームワークもいい感じ。本当に必要な時の推進力は抜群だと思うわ。でも、今日みたいにのんびりできるときは、完全に気が抜けているの。


ボクは、だいたいそんな状況がわかってきたけど、まだ自分に戻ることができない。


「ねね、お昼、何食べる?」

「そうね、今日はあそこの食堂でもいく?」

「あそこのお弁当買ってこようか。」

「あそこの定食もいいよね。」


 この4人はたいがい外食らしい。いくつかの定番があって、そのパターンのどれかにするかで迷っているようだ。まあ、女の子らしいちゃ、らしいよな。ボクにしてみれば、そんなことより、自分のからだの方が心配だ。いったいどうなったんだろう。で、なんでもとに戻れないんだろう。困ったな。




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(つづく)

posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | 夢の先の人生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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