2021年09月17日

短編小説 「一仁の場合」 第2話

 ある日、残業が入って遅くなった時のことだ。オレはもうスーパーが閉まっていたので、仕方なしにコンビニで買い物を済ませ、帰途についた。ほんとだったら、スーパーの安売りシールが貼られる時間に会社を出て、格安に買い物できたのにな。とっても残念だ。


 ほどなく、道端にうずくまっている人を見つけた。行き交う人は、誰も知らん顔だ。相変わらず、人はみんな冷たいな。でも、この人大丈夫かな?なんとなく心配になったオレは、声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「・・・」

返事がない。オレはその人の前にまわって、かがんだ。女性だ。顔が真っ青だ。うっ、酒臭せっ。


「顔、真っ青ですよ、救急車呼びますね。」

「いえ、いいです。大丈夫です。」

とても弱弱しい声だった。これは、呼ばん訳にはいかんだろ。オレは自分の判断で、救急車を呼んだ。彼女は立つことすらできずに、かがみこんだままだ。


 ほどなく、救急車がきた。

「こちらです。」

「この方ですか?」

「はい、よろしくお願いします。」

「状況は?」

そんなこと言われても、酒臭くて、顔が真っ青なくらいで、それ以上のことはわからない。

「見ての通りです。まともに立てないし、酒臭いし、顔が真っ青なんで、呼びました。」

「わかりました。」

その程度しか、答えられないんだから、聞くなよな。オレはその場を去ろうとしたが、なんでか知らんけど、その女の人がオレをつかんで離さない。えっ、なんで?


「知り合いなら、乗って下さい。」

オレは無理やり、救急車に乗せられて、そのまま病院へ。なんでなん?


 オレは彼女の荷物を持たされ、仕方ないので、廊下の椅子に座って待っていると、看護師さんが来て、こう言った。

「彼女は急性アルコール中毒で、今、胃を洗浄したんで、間もなく意識をもどすと思います。お名前わかりますか?」

「えっ?えっと・・・」

オレは彼女の荷物を開けてみると、サイフがあった。そこからいろんなカードにまじって免許証があったので、それを看護師さんに渡した。


「高村恵子さんですね。この免許証、ちょっとお借りしていいですか?」

「はい。」

って、勝手に言ってよかったのかな。オレは、サイフのカードをしまう時に、保険証もみつけた。

「あ、看護師さん。」

「はい?」

「保険証もありました。」

「助かります。」

これがないと、全額負担になってしまうので、彼女も大変だろう。彼女にとって、オレは渡りに船だ。この際だから、ちゃんと荷物の管理をしてやろうと思った。


 オレは、看護師さんに彼女の病室へ案内された。なにやら、点滴されている。この病院からテクテク帰ってたら、2、3時間はかかるかな。それなら、ここでご飯食べちゃおう。オレはコンビニ弁当を開けて食べた。オレの腹の虫もおさまったし、彼女を見ると、割ときれいな顔をしている。さっき見た青い顔じゃなく、血色のいい顔になっていた。もう大丈夫だよな、きっと。オレは帰ることにした。明日も、仕事だもんな。この病院知ってるけど、やっぱ、遠いな。歩くと、3時間もかかった。もう、真夜中だ。


 翌日、いつも通り、仕事に出掛け、ピッキング作業をしていると、呼び出しがかかった。なんだろうと思って、行ってみると、昨日の女性だ。

「昨日は、ありがとうございました。」

「よかったですね、元気になられて。」

「あとから、看護師さんに言われたんですけど、危なかったみたいです。」

「飲みすぎに注意ですね。」

「はい、で、お礼がしたいんですが、今度の日曜、空いてますか?」

「そんな、いいですよ、気にしないで下さい。」

「私の気持ちです。お願いします。」


 オレは、その彼女の誘いを断りきれなかったんで、今度の日曜に食事にいくことになった。でも、オレ、臭くないかな?ことあるたびに、臭いと言われることを思い出した。自分で匂いをかぐと、そんな臭い匂いはしない。自分は慣れているだけなんだろうな。オレの持っている服のなかで、唯一、ほころびのない、修繕していない服を着ていくことにした。




(つづく)



posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | 一仁の場合 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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