2021年09月19日

短編小説 「一仁の場合」 第4話

 食事はお互いのを小皿で取り分け、交換した。こんな食べ方は、オレにとっても初めてだった。お昼だったけど、ワインを追加して、飲んだ。アルコールなんて、初めて飲んだ。オレはすぐに顔にでた。

「あらら、ジンくんは弱いのね。」

「そうですよ、ワインは初めてなんで。」

「えっ、ほんと?」

「ほんとですよ。今までアルコールなんて、飲んだことないですよ。」

「おもしろ~い。」

彼女はとても楽しそうだった。オレは、ワインってこんなものと、初めて知ったのだ。でも、他愛のない話で、2時間以上もファミレスにいた。


「今日はありがとうございました。」

「ちゃんと、帰れる?」

「はい、大丈夫です。」

「ごめんねさいね、ワインなんて飲ませて。」

「いえ、これも大人のたしなみですから。」

「ジンくんって、おもしろ~い。」

「ははは。」

「また、会ってくれるわよね。」

「はい、喜んで。」

「うれしいなあ。こんなに楽しいの、久しぶり。」

「よかったです。オレも初体験させてもらいましたし。」

「初体験?あ、ワインね。」

「はい。」

「じゃ、次は夜、いきましょうね。」

「了解です。」


 明るいうちから、オレは、ちょっと千鳥足気味で自宅に帰った。お酒って、こんな感じなんだ。なんかしらんけど、結構、話が盛り上がったみたいだな。でも、高村さんって、いったいいくつなんだろう。25、26歳じゃないってことはわかったけど、それでうれしいっていっていたということは、多分、30歳くらいなんだろうか?ってことは、オレより10歳も年上じゃん。そんな人が、オレの彼女に立候補だなんて、やっぱり、遊んでるんだろうな。オレ、絶対、遊ばれてるんだな、知らんけど。


 オレはいつの間にか、寝てしまった。目が覚めたのは、それから3時間後のことだった。変な時間に寝てしまったんで、あまりお腹が減ってないけど、晩御飯を買いにいくとするか。その前に喉が渇いたな。オレは水道水をコップ一杯、飲んだ。


 晩の買い出しは、いつものスーパーで安売りを買ってくる。それを食べて、今日の晩はおしまい。オレはなんか知らんけど、高村さんのことが気になって仕方がなかった。だいたい、オレを臭いなんてことは一度も言わなかったし、オレの服装についても、一言も言及しなかった。そんな女子は初めてた。まあ、でも、学歴とか仕事とか、給料の話をしたら、去っていくんだろうな。まあ、オレ、中卒だし、月の給料も10万円ないし、デートいくお金もないんだから、絶対、引かれるだろうな。オレはまた会える楽しみと、自分のことを聞かれたら、終わってしまうだろう淋しさでやりきれなくなった。


 翌日、オレはもう、考えないようにした。今までの生活に戻るんだ。大丈夫、オレにはできる。オレはそう思うようにした。これで、高村さんにどんなこと言われて、去っていかれても、そのシミュレーションができているので、大丈夫。


 約束の日、オレはいつも通りの服装だ。彼女もラフな格好で来た。

「今日は、居酒屋に行きましょう。」

「はい。」

「とりあえず、生中2つ。」

「1杯なら大丈夫よね。」

「たぶん、大丈夫かな・・・。」

「そうだよね、飲んだことないもんね。」

「初体験です。」

「まあ、大丈夫、今度は私が介抱してあげるから。」

「いえ、大丈夫です・・・多分。」

「はい、生中です。」

早い、もう持ってきた。

「じゃあ、まず、一口だけ飲んでみて。」

「はい。」

オレは、一口飲んだ。炭酸のシュワシュワと、苦みが喉をカッと熱くさせた。

「どう?」

「いい感じです。」

「よかった。ゆっくりでいいからね、先に食べましょう。」


 彼女はいろいろ注文してくれた。結構、いろんなものを知ってるみたいだ。オレに、あれは食べれるかとか、これは食べれるかとか、聞いて、注文してくれるから、優しい人なんだなって思った。だが、ついに彼女はオレのことを聞いてきた。

「ジンくんは、20歳って言ったよね。大学行ってないんだ。」

「ですね。」

「専門卒?高卒?」

「いえ、中卒です。」

「めずらしいわよね。なんで?」

「オレが高校の時に、両親が他界したんで、オレは生活のために、高校やめて働きだしたんです。」

「そうだったんだ。ごめんね、嫌なこと聞いちゃったね。」

「いや、かまいませんよ、本当のことだから。」

「で、今、ひとり暮らしなん?兄弟とかは?」

「いませんね。親戚も知らないし、今のところ、身寄りはいませんよ。」

「えっ、そうなの?なんかすっごくドラマチックなんだけど。」

「笑いたければ、笑っていいですよ。」

「ごめん、そんな意味で言ったんじゃないの。」

「まだ、20歳だというのに、激動の人生だったのね。それに、すっごく頑張ってるのね。」

そんなこと、言われたの、初めてだ。なんか、オレ、泣きそう。




(つづく)



posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | 一仁の場合 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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