2021年11月24日

短編小説 「オッド・アイ」 第9話

オレが食事をしている間、彼女たちは知ってる単語で話せる話をしていた。先生も気長に待って、話を理解して、会話していた。オレは先生がオレに振ってきたときだけ参加した。


 食事会のあと、先生と別れ、オレも彼女たちと別れてと思ったが、引き留められた。

「ねえ、上条クン、私たちにレッスンしてくれない?」

「別にいいけど。」

「聞きたいこととか、言いたいことをスペイン語でどういうのか教えてほしいの。」

「全然、問題ないけど。」

「じゃあ、決まりね。」

オレたちは、その足で一番近い立花さんちへ押しかけることになった。オレは研究室でやるのかなと思ってたんだけど、まあいいかって感じだ。


「ゆっくりくつろいでね。今、お茶を入れるから。」

「ありがとう。」

そこからは、彼女たちが聞きたい話し方を教えまくった。こういう場合はこういうふうに言った方がいいよとか、男の場合はこうだけど、女性が話す場合は、こういうふうに話すねとか、結構、長居してしまった。


「さて、そろそろ、オレ、帰るわ。」

「泊まっていっていいのよ、みんなで雑魚寝だけど。」

「はぁ?女3人の中に男1人寝ろっていうのか?やめとくわ。」

「全然、気にしなくていいのに。」

気になるだろ。女の匂いムンムンのこの部屋で寝るなんて、オレには無理てぇ~もんだ。好きな彼女だったら、話は別だけどな。


「じゃ、またね。」

「残念。」

「またね。」

オレは夜の町へ出て行った。あいつらとは少々距離を置かないとあかんな。ああいう、レッスンは研究室限定で、彼女たちの部屋ではやらないようにしないとな。


 しばらく、研究室へ行く時間がなくていけなかったけど、数日後、ようやく訪れた。

「あ、上条クン、久しぶり。」

「よう。あれ、山内さん1人?」

「そうなの、今日は、先生来れないんだって。」

「なんだ、そうか。じゃ、帰るかな。」

「あ、待って。また、レッスンお願いできるかな?」

「ここでならOKだよ。」

ということで、2人でレッスンを始めた。山内さんはすぐに脱線することが多い。

「上条クンは彼女いないの?」

「一度、上条クンの部屋に行ってみたい。」

「今度、一緒に食事いい?」

それって、オレを誘ってるの?オレは興味ないんですけど。

「勉強する気ないなら、終わりにしようか。」

「あ、ごめんごめん、ちゃんとするから。」

まったく困ったもんだ。


 ある時、彼女たちはみんなといる時はそうではないのだが、オレと2人になったときに、やたらとオレのプライベートな話を聞いてくる。3人共にだ。ちょっと、居辛くなったオレはバイトを始めることにした。研究室へはしばらく行くのを止めにした。


 オレのバイト先はスペイン料理の店。オーナーはスペイン人のルイーザさん。気さくなお姉さん(おばさんって年じゃないかも)で、居心地がいい店だ。当然、スペイン語OKなので、店内ではすべてスペイン語で話す。研究室へ行く必要がなくなったのだ。オレとしてもバイト収入は入るし、スペイン語は話せる、一石二鳥ってことだ。ルイーザさんの旦那さんは日本の方で、サラリーマンをしている。平日は店にこないが、休日はたまに手伝いにくる。


「レイはスペイン語できるので、ほんと楽だわ。」

「いえいえ、オレもスペイン語忘れないために、日常的に話せる環境がほしかったので、感謝です。」

「うちの旦那より、上手よ。」

「ははは。」

当然、料理はルイーザさんが、オレは接客と皿洗いを担当。まあ、ボチボチでそんなに忙しくなく、オレにはいい環境だ。具材の仕入れ先との間で、わからない日本語はオレが通訳もした。


「でも、オッドアイなんて、珍しいよね。」

「いつも言われます。自分自身は気にしてないんですけどね。」

「まあ、覚えてもらえやすいから、いいんじゃない?」

「そうですね。」

「レイのおとうさんがスペイン人か。どこにいるの?」

「多分、バルセロナです。」

「いいところじゃない。」

そうだよな、感じのいい町だったよな・・・たぶん。なんか、楽しかった??・・・気がしたんだけど、どうだったかな。だんだん、忘れてきている。どうなってるんだろう。


 オレは授業のないときは、この店でバイトに入った。しっかり、お金を貯めて、スペインへいくのだ。でも、なんで・・・なんでいくんだったかな?そんないいとこなのかな?なんか、いくのめんどくさい・・・な。オレの心境はだんだん変化していった。


 そのうち、なんでオレ、バイトしてるんかなって、心境になってきた。まあ、ルイーザさんの楽しい人だし、ずっとやっててもいいんだけれど、オレの生活費を入れてくれる人もいるし、生活には困らない。まあ、日本と違う環境に身を置くのもいいかって、感じになっていた。その時のオレは、もうスペインへいくことさえ、忘れていたんだ。


 ある時、オレの下宿で一冊のノートを見つけた。これ、なんだっけ?開いてみると、行ったことのないスペインでの出来事なんかが書いてあった。オレの字だよな、これ。こんな経験してたんだろうか。小説でも書いてたんだろうか。しばらく、いろんなことを考えていた。何かわからなかったけど、ひとつの結論に行きついた。オレはスペインに行こうとしてたんだってこと。


 その時から、毎日、そのノートを読み返した。オレの両親はスペインにいる・・・はずだ。オレには姉のマリアもいる。このノートに書かれているように、オレはスペインで生きてくことを望んでいるのだ。オレは毎日、呪文のように、ノートを読んでは、そのことを頭の中で、想い続けた。そうしないと、夕方には、アレ?なんだっけ?ってなことになってしまう。このノートは多分、オレの道しるべなのだ。オレの生きていく方向性が書かれているんだ。そう、想い続けた。


「ルイーザさん、バルセロナって、行ったことあります?」

「私は違う町の出身だったから、よくわからないけど、有名な町よね。灯台下暗しって感じかな。」

「そっか、同じ国内でも行ったことないとこ、ありますもんね。」

「そうね、サクラダファミリアとか、行ってみたいね。」

「ですね。」

「ねえレイ、レイはスペインに行くの?」

「ええ、バイトでお金貯めて、一度行ってみたいと思ってます。」

「そっか、私ね、スペインの知り合いにいつも航空券を送ってもらうの。その方が日本で買うより安いのよ。」

「そうなんですか。そんな方法があるんですね。」

「だから、時期がわかれば、バルセロナまで用意してもらってもいいわよ。」

「うわ~お、それはうれしいです。ありがとうございます。」

「お安い御用よ。」


 オレは単に行って帰るだけの費用だけじゃなく、当面、スペインで暮らせる費用も貯めたかった。毎日、ノートを読んでいると、そんな気持ちにあふれてきていた。




(つづく)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | オッド・アイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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