2021年11月26日

短編小説 「オッド・アイ」 第11話

 それからはずっと、来るようになった。そうなると、研究室はもぬけの殻なんじゃないかな。オレが思った通りで、ついには、ロドリゲス先生まで、ここに来た。

「こんなところにスペイン料理店、あったんですね。」

「ああ、スペイン語の先生?ですか?私、店主のルイーザです。」

「久しぶりにスペイン料理にありつけます。じゃ、パエリアを。」

「わかりました、少々お待ちくださいね。」

「レイはここでバイトしてるのかね?」

「はい、そうです。」

「バイトもできて、スペイン語も話せるなら、いい環境だね。」

「そうなんです。」

「彼女たちが研究室に来なくなったので、なんでかなと思ったら、こういう訳だったんですね。」

「はい、すみません。」

彼女たちはオレとルイーザさんの、結構早口のスペイン語を聞いていたんで、かなり聞き取れるようになっていた。それに先生も加わったんで、日本語なんか一切でない。この感覚、なんか久しぶりみたいだな。


「ねえ、上条クンは、就活しないの?」

「オレはしない。」

「なんで?」

「卒業したら、スペインへ行くんだ。」

「そうなんだ。」

そう、オレはスペインへ行く。あのノートに書いてあるように、スペインで暮らすのだ。だから、今のうちにしっかり貯めないとと思っている。誰かわからない人からの仕送りと、バイト代でだいぶ貯まってきた。この夏、一度行ってもいいかも知れないな。オレは、ルイーザさんに航空券をお願いした。


 夏休みに入った頃、オレはノートを持って、スペインに旅立った。バルセロナの降り立ったオレは、ノートにあるバルを探しにいった。その場所には、ちゃんとそのバルがあるじゃないか。ノートの内容は間違いないようだ。じゃ、オレの両親が住んでいるというこの住所には、本当にオレの両親がいるんだろうか。オレは高まる気持ちを押さえて、その場所に行った。なんとなく、見覚えがあるような気がする。こんな家だったような・・・オレは外見を見てまわっていると、玄関のドアが開いた。出てきたのは女性だった。それも、日本人?もしかして、かあさんか?オレは思わず見つめた。すると、目が合った。


「あの、うちになにか?」

「もしかして、上条幸子さんですか?」

「ええ、そうですが、どちら様ですか?」

オレを覚えてない?

「上条レイです。」

「レイ・・・レイ・・・、えっ、レイなの?」

思い出してくれたのか。彼女は見る見るうちに涙目になって、ほほを涙が伝った。

「本当にレイなのね。かあさんよ。」

オレはかあさんに抱きしめられた。

「ごめんね。私の意思が弱かったばっかりに・・・」

どういうことなんだろう。

「家に入って。」

オレはかあさんに招き入れられた。その部屋はなんとなく、見たことあるような、ないような感じだったが、懐かしかった。


 かあさんの話だと、オレが3歳くらいの時に、とうさんが住むこのスペインにオレを連れて行こうとしたが、両親に反対されて、どうしても行くなら、この子は渡さないと言われ、悩んだ末に泣く泣くレイを両親に預けて、一人でスペインに旅立ったのだという。まあ、じじばばは、遠いスペインくんだりまで、孫を連れて行かれたくないし、当時、とうさんは貧乏だったので、そんな苦労が絶えないところへなんか、絶対に許さないと思っていたようだった。だから、オレは両親の顔をほぼ知らないで育ったということだった。


 ただ、オレが何でスペイン語を話せるのかは、よくわからない。もしかすると、前の世界の体験で喋れるようになっていたからかも知れない。オレは大学を卒業したら、こっちに来たいということを話した。かあさんは歓迎してくれた。


 夕方、とうさんが帰ってきた。かあさんが事情を話したら、オレはとうさんにも歓迎された。さらにマリアが帰ってきた。今度はマリアがオレを知らない番だった。

「えっ、お・と・う・と???私に弟がいるの?」

「はじめまして、レイだよ。」

「本当に弟なの?」

「そうだよ。」

彼女はかなりびっくりしていた。でも、事情を聞いて、受け入れてくれた。だが、マリアの母親は昔に亡くなって、今はこの両親と暮らしていたことが、ノートと違っていた。

「レイは、2つ下なのね。で、瞳、変わってるわね。」

「ああ、かっこいいだろ?」

「とっても素敵よ。」

「姉さんは、めっちゃ可愛いね。」

「ほんと?うれしい。」

そういうと、オレに抱き着いた。変わってないなぁ。確か、前にもそうされた気がした。その夜は、オレを入れて、家族で夕食をとった。みんなよく喋る。こんな急に初めてみるヤツを、完全に受け入れてくれたのが、うれしかった。オレはみんなのしゃべっている顔を見てるのが、うれしかった。

「レイは全然喋らないね。」

「みんながすっごく喋るから、入る隙がないよ。」

「まあ、そうだよな。」

「はははは。」


「じゃあ、レイはマリアと一緒に寝てね。」

これもノートに書いてあった通りだ。

「なによ、別に取って食うわけじゃないんだから。」

「わかってるよ。」

「あっ。」

「なに?」

「明日、バルに連れていってくれないか?」

「私もそう思ってた。みんなに紹介するね。」

「ありがとう、ねえさん。」




(つづく)



posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | オッド・アイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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