2021年12月03日

短編小説 「トラブル・アトラクター」 第3話

「お手伝いしましょうか?」

突然、後ろから女の声が聞こえた。振り返ると、若い子が立っていた。

「いえ、大丈夫です。」

オレがそのまま行こうとすると、無理やり、オレから2袋分の荷物を奪って、オレの横について歩き出した。仕方ない、お礼を言わなくちゃな。

「ありがとう。」

「いいえ、この前のお礼です。」

ん?この前?あ、コンビニの・・・思い出した。

「あの時の・・・」

「そうです、片桐明子って言います。あの、お名前伺ってもいいですか?」

「小林渉です。」

「わたるさん・・・」

彼女の顔がなんか、優しい色に染まった感じがした。まいったな。オレのどこに魅力があるんだろうか。そんなに長い道のりじゃないのに、なんか長く感じた。

「あ、もうここでいいよ。」

「家まで、お持ちします。」

困ったな、これじゃ、コーヒーでも御馳走しないといけなくなるだろ。


「ここがオレんち。持ってくれて、ありがとう。」

「はい、どうぞ。じゃ・・・」

「よかったら、コーヒーでも?」

「あ、ありがとうございます。」

オレは彼女を家に上げた。

「へえ、感じのいいお部屋ですね。」

「男1人だから、汚いよ。」

「そんなことないですよ、綺麗にされてますよ。」

「あ、そこに座って。」

「はい。」

オレは、買ってきたばかりのコーヒー豆を引いた。やはり、いい匂いだ。

「いい匂い。」

彼女もその匂いが好きみたいだ。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「あの、わたるサンは、何のお仕事をされているんですか?」

やっぱ、聞いてくるか。

「プログラマーだよ。」

「すごいんですね。」

「たいしたことないさ。」

「私は事務してます。」

そこから彼女は自分のことを話出した。オレはほぼ聞き役に徹した。彼女は23歳、社会人2年目で、1人住まい、彼氏はいない。実家は両親がいて、兄弟はいない。まあ、そんなことどうでもいいんだけど。オレは仕事の続きが気になった。


「あの、悪いんだけど、そろそろ仕事があるんで。」

「ごめんなさい、1人でしゃべってましたね。」

「すまないね。」

「いえ、長居してごめんなさい。」

「じゃ。」

「あの、また、会えます?」

「そうだね。」

オレは、彼女を追い出すように、帰ってもらった。なんか、あの子、しつこくまた来そうだな。ちょっと親切にすると、勘違いされてしまう。困ったもんだ。そんなことより、今はこのプログラムを完成させてしまわないと。


 どうも納期に追われる仕事は、24時間勤務になったりする。かなり余裕を持って、受注したいものだ。ようやく、納品も終わり、ちょっとの間の休暇だ。そう思ったのも束の間、玄関のベルが鳴った。インタホーンの画面を見ると、片桐さんだ。そりゃ、オレんち、知ってるから、来るよな。

「はい。」

「あ、片桐です。」

「何か?」

「美味しいケーキを買ったんで、一緒にどうかなって思って。」

なんで?なんで、そうするかな。

「わかりました、ちょっと待って下さい。」

無下に断ることもできないし、ちょっとだけだぞ、オレ。だけど、やっぱ、教えるんじゃなかったな。


 オレは明子さんを部屋に上げて、テーブルに座ってもらった。

「コーヒー入れますね。」

「ありがとうございます。」

絶対にこれまでにすべきだ。

「とっても美味しいケーキのお店に偶然入れたんで、ラッキーでした。」

「・・・」

「あ、わたるサンは甘いもの大丈夫ですか?・・・なんて、今頃聞くなんて、私ってバカですよね。」

1人で言って、1人で完結するか。

「まあ、たまには食べますよ。」

「よかったぁ。」

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

この子はなんで、オレなんかに寄ってくるんだろうか。オレはトラブル・アトラクターだから、絶対に彼女は巻き込まれてしまうだろう。そうなると、助けられるかどうか、わからない。早々に縁を切らないとだめだ。




(つづく)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | トラブル・アトラクター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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