「ところで、マリアは何歳なん?」
「私?29歳だよ。ワタルは?」
「オレ、32歳。」
「私の方が下なんだ。」
でも、身長は上だけどな。どうみても、180近いと思う。オレは176だから、それ以上だもんな。まあ、マリアはあまり気にしてるような感じじゃない。マリアは朝から結構食べる。それにしても、いつトレーニングしてるんだろう。
「だけど、いつトレーニングするん?」
「適当にやってるから、気にしないで。」
「そっか。」
オレたちは、スイスへいくことにした。マリアは自分の荷物をオレに触らせない。なんでなんだろうと思ってはいたが、オレに荷物だけでも重いのに、一緒に持つことになったら、大変だから、自分で持ってくれた方がいいと思っていた。駅で、切符を買う間、ちょっと荷物から目が離した瞬間、また、チンピラが荷物を盗もうとしたらしい。だが、マリアのリュックは盗めなかった。やせこけたチンピラは、そのリュックが持てなかったようだ。
「私のリュックは持てないわよ。」
「なんで?」
「持ってみる?」
オレはマリアのリュックを持ってみた。なんだ?これ?めっちゃ、重い。どうなってるんだ?
「おもりが入ってるの。全部で、50kg。」
トレーニングってこれか。足腰が強くなるわけだ。腕には5kgづつのおもりを巻いていた。マリアの荷物を持ってあげようなんて気になったら、自滅してるわ。
列車の中から見える山々の景色は最高だ。目の保養になる。マリアは完全にオレの彼女になっている。すぐにキスしてくるし、抱き着いてくる。まあ、コンパートメントだから、2人だけの空間なんで、問題はないけどね。だけど、途中から混んできて、2人だけの空間でなくなっても、その態度はかわらない。日本人のオレにはかなり恥ずかしいのだから、困ったもんだ。でも、オレたちを見ている、他の客は微笑ましそうな顔をしている。ヨーロッパなら、これが一般的なのかもしれない。
スイスは、ほんと綺麗な山々が広がって、空気は澄んでいた、
「いい場所ね。」
「ほんとだ。もしかして、日本にも同じような場所があるかも。」
「いいなあ。やっぱり、ワタルと行きたい。」
「でも、オレが住んでいるのは都会だから、こんな景色は見えないよ。」
「引っ越したらいいんじゃない?」
「そうだな。」
考えてみれば、オレの仕事は都会でやる必要なんかなかった。顧客との打合せもオンラインでやればいい話だし、あとは全部メールに電話だ。帰ったら、長野とか、北海道とか、もっと自然豊なところで住むこともかんがえようか。
オレたちは、もう少し山の方へ出かけてみた。日本でいう高山列車かな、これもなんかレトロでいい感じだ。さすがに寒くなってきた。マリアがくっついてるので、暖かい。マリアもそのようだ。駅に着く前にもう一枚着込んで、外に降り立った。多少、ガスが出てたけど、やっぱり、風景は最高だ。しばし、マリアと一緒に風景を楽しんだ。
町へ戻ったオレたちは、レストランに入った。今日はここでゆっくりする。マリアはすでに予約していた宿をキャンセルして、この町のホテルに予約をいれてくれた。楽しい食事の時間が終盤に差し掛かった時、オレはトラブル・アトラクターだということを思い知らされた。
突然、店に大きなくるまが突っ込んできた。窓際にいた客が飛ばされ、ひかれた。オレたちは奥の方にいたので、何事なんだとそちらの方を見た。くるまから3人の男が降りてきて、またもや乱射。オレはマリアをかばって、机の下へ隠れた。そこから、犯人を確認し、肩の骨を破壊、残る2人は肘を破壊。
「マリア、大丈夫か?」
「私は大丈夫。でも・・・」
「なんだ?」
「ワタル、血が・・・」
オレは気が付かなかったが、1発の銃弾がしっかりオレの脇腹を貫通していた。またか。それに気が付いたとたん、なんだか気が遠くなった。
「マリア、これでお別れかもな。」
「そんなこと言わないで、ワタル。」
だんだん、気が遠くなる途中で、サイレンを聞いた。なんとか、間に合うかな。
(つづく)