もう何度目なんだろうか。こうして病院で目覚めるのは。横に座ったマリアが寝てる。長いこと、そばにおってくれたんだろうな。
「よう、マリア。朝だよ。」
「えっ、ワタル、目覚めたの。よかった。」
マリアの目から涙が流れた。本当にオレは、いつトラブル・アトラクターから卒業できるんだろうか。オレはマリアの熱い唇を受け止め、もう大丈夫だと言った。
オレが気を失っている間に、マリアは、オレのからだを見た看護師や医師に、この人、兵士?って何度も聞かれたらしい。まあ、一般人ではありえないほどのキズが残ってるもんな。
「マリア、オレがトラブル・アトラクターってわかったろ?もう止めといてもいいんだぜ。」
「大丈夫、すべて受け止めるから。」
さすが、警察官。そういえば、オレが撃たれた時、しっかり止血してくれていたらしい。そんな知識も持っていたのか。
結局、10日ほど足止めをくらって、ようやく、スイスを出発した。オレは、マリアの母国語を使っているスペインにいくことを提案した。同じラテン系なんで、マリアも楽しいだろうと思った。だが、マリアは日本に行きたいという。じゃ、ということで、日本行きの飛行機を手配した。
「マリアもペルーに帰らなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫。」
いったい、いつまで休みなんだろうか。オレと違って、期限があると思うんだけど。
日本行きの飛行機は、日本の航空会社だったので、乗務員は日本人が多かった。これで普通に話ができる。んっ、マリアとだって普通に日本語で話をしてたんだよな、オレ。マリアの荷物は機内持ち込みできなかったので、身軽になったみたいだ。飛行機の中でも、マリアはお構いなしにキスをしてくるし、抱き着てくる。乗務員はニッコリ微笑んでいたが、いい加減にして!って思ってるに違いない。
「もしかして、ご夫婦ですか?」
となりの日本人の年配のご婦人が聞いてきた。
「ええ。」
おい、マリア、結婚なんかしてないぞ。
「いいわねぇ。」
「ありがとう。」
「最近は国際結婚も多いですもんね。」
「はい。」
オレはかおりちゃんの行きたかったヨーロッパに傷心旅行に出かけたはずが、マリアと一緒に帰ってくることになった。やっぱ、かおりちゃんが仕掛けたことかな?そんなことを思いながら、日本に帰ってきた。
「日本ね。」
「そうだ、じゃ、とにかく、荷物をオレんちに置きに行こうか。」
「ええ。」
空港から2時間近くかかったが、久しぶりの我が家だ。
「ワタルの家ね。」
「そうだよ、上がれよ。あ、靴はぬいでね。」
「了解。」
オレは久しぶりに。コーヒー豆をゴリゴリやりはじめた。
「う~ん、いい匂い。」
マリアもうれしそうだ。ゆっくり、お湯を注いで、我が家流のコーヒーの出来上がりだ。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「わたし、このコーヒーずっと飲んでたいな。」
「そういえば、飛行機の中で、夫婦だっていってよな。」
「だって、あれは・・・」
「いいよ。」
「えっ?」
「だから、OKだよ。」
「ワタル、ほんとに?」
「ああ。」
「大好き。」
マリアの恐るべき筋肉がオレに抱き着いてきた。オレたちは熱いキスを交わした。
(つづく)