2020年09月18日

変わりゆく未来 第16話

 再度、請求書や領収書の内容を確認すると、おかしなことが分かってきた。領収書のレーシートに記載しているものの番号を確認してみると、全然違うものだった。たぶん、自宅で使うものだ。それに、工事したはずの場所は、社員に聞いても業者が来て工事なんかしていないという。でも、工事の請求書の処理がなされている。あの部長は、自宅で使うものを買ったり、やってもいない工事をして、そのお金をちょろまかしていたのだ。

 ということは、この会社、内部監査はやっていないんだろうなということがわかる。それにガソリン式のフォークリフトのガソリンは、ガソリンスタンドに買いにいっているのだが、いやに消費が早い。いくら、燃費が悪いといっても、こんなには減らないだろうということが、私にでもわかる。

 部長の動きを見ていると、毎週金曜は最後に帰っている。次の月曜には、満タンだったガソリンタンクが空っぽになっている。私は金曜にこっそり残って、部長の様子を見ていた。そうすると、彼は自分のくるまに給油していたのだ。部長ということで高給取りなのに、そんなことする必要があるのだろうか?

 私は母親に相談してみようと思った。
「ねえ、おかあさん。」
「なんだい?」
「今の会社で、ちょっとやばいことに気がついちゃったんだけど。」
「余計なことに首突っ込まないでよ。」
「だって、絶対良くないと思うの。知らない顔なんてできないもん。」
「自分に関係ないんだったら、知らん顔しておくのよ。」
この母親は、そういう生き方をしてきたんだろうな。
「本当にそれでいいの?おかしいことをおかしいと言わないで問題ないの?」
「社会ってのは、そんなもんよ。」
多分、いくら話をしても、この母親とは平行線なんだろう。

 はっきり言って、あの部長は横領行為をしまくっている。会社は知っているのだろうか?それより先に、内田さんは知っているのだろうか?
「内田さん、部長の領収書や請求書についてですけど。」
「こっちへきて。」
いきなり顔色が変わって、誰にも聞かれない別室へ連れて行かれた。
「そんなこと、大きな声で絶対言っちゃだめよ。」
彼女も知っているんだ。
「あ、ごめんなさい。」
「なんなの?」
「はい、なんか変と思って、調べたら・・・これって、横領ですよね。」
「しっ、黙って。絶対、この話は会社でしちゃだめよ。」
「それでいいんですか?」
「こんなことがばれたら、私たち、ただで済まされなくなるわよ。」
あんたがでしょ?
「はい、わかりました。」
ああ~、だめだ。こんなこと、絶対に許せない。私の正義感が「沈黙する」ということと葛藤している。

 普通はもっと早くやるのだろうが、今頃になって私の歓迎会をしてくれることになった。長谷川部長と事務の二人、製造の男性が4名程度が来ることになった。私は未成年だからお酒は当然だめですからね。

 だが、部長は、はなからそんなことは全くの無視で、飲め飲めうるさい。
「部長、未成年に飲ますのはまずいですよ。」
横の男性社員が止めてくれる。
「上司の言うことが聞けないようじゃ、やっていけないよ。ささ、ほんの一口だけ。」
「部長、だめですって。」
周りの男性社員が止めてくれている。いい人が多いのかな。
「ごめんなさい。本当に飲めないので。」
「じゃ、こっちにきてお酌しなさい。」
これは、誰も止めてくれない。仕方ないので、ビールを注ぐ。あからさまに腰に手をまわしてくる。もう、セクハラだ。いくら男の意識でも、女のからだが拒否をする。
「やめて下さい、セクハラですよ。」
思わず言ってしまったら、会場が静かになってしまった。まずいこと言ったかな。明らかに部長の顔色が変わっていた。

 そこから先は、部長は何もそれには触れず、ワイワイと他の社員と話をしながら、飲食することが多かった。私はというと、適当にお酌をしながら、「よろしくお願いします」と言ってまわった。

 部長から遠くの席に座っている男性社員が、
「あれはまずかったね。もうちょっと、さらっとかわした方がよかったね。」
「そうなんですか?でも、手とか肩とか、ボディタッチが多くて、いい加減うんざりしてたんです。」
「それはわかるけど、間違いなく干されるよ。」

 それがどういうことか分かったのは、数日先のことだった。私は、部門の異動となった。詳しい内容は告げられなかったが、行先は、「調整室」というところだった。普通そんな部門はどこの会社もないだろう。「調整室」では、どんなことが待ち受けているのかと思ったら、何もしないで座っているだけが、仕事だそうだ。私以外誰もいない。そりゃそうだろう。私が根を上げて、辞めるのを待っているだけなんだろうからね。まったくもってくだらない会社だ。私が根を上げなければ、どうするつもりなんだろうか。

「おかあさん、部長がセクハラするから止めてと言ったら、調整室という部門に異動になって、ずっと座っているだけなの。どう思う?」
「そんなことになったのかい。まったく、おまえって子は。多少、触られたって、減るもんじゃないんだから、気にしなかったら、よかったんだ。」
「そんなもんなの?」
「当たり前じゃないの。」
「じゃ、これからどうすればいいの?」
「部長に謝って、許してもらうしかないよ。」
「そんなのいやよ。」
「失業することになるよ。」
「でも・・・じゃ、転職する。」
「そんな数か月も持たない子なんか、どこも雇ってくれないよ。ちゃんと、謝っておいで。」
相変わらず、この母親とは平行線だ。子供がどうなってもいいのだろうか?

 私は会社に辞職願いを出すことにした。こんな会社は、私から願い下げだ。母親には何も言わず、ハローワークへ行った。そこで、ありのままに離職理由を報告した。それと同時に労基署にも同様の話をしに行った。まあ、高校を卒業した女の子が、そんな知識があるわけないのだが、私は対応方法を知っている。

 当然のように会社は、叩かれた。労基署の調査が入ったし、ハローワークからも連絡が行った。まあ、どんなことになったかは、言うまでもない。これで少しでも改善していい会社になればと思う。



(つづく)



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変わりゆく未来 第17話

 しばらくして、長谷川部長が業務上横領で捕まったニュースが流れていた。ようやく、監査が入ったみたいね。

 私はというと、母親に罵倒されたけど、なんとか次の会社を紹介して頂いて、働けることになった。でも、そんな事件を起こしたもんだから、ほとんどの会社からは、煙たがられたけどね。採用してくれた会社は、起業したばかりの新しい会社だ。案外、楽しいかもしれない。

 その会社では何を担当ということはなかった。いろんな仕事を、その時折に誰でも対応していくしかない状況だったので、仕方がない。でも、私はたいがいのことは、何でもできる。そんな知識は充分持っている。18歳の女の子としてはおかしな話だが。

「丸山さんって、すごいね。何でもできるじゃん。」
「いえ、そんなことないです。」
「本当に高卒なん?」
「はい。」
「いや、絶対そんなことないと思うな。高卒でそんなにできる人みたことないよ。」
この会社の社長は、私のことをかなり評価してくれているみたい。

「そんなことないと思いますよ。」
「どんなこと、お願いしても、ちゃんと仕上げてくれるし、うちの精鋭戦力だ。」
「そんなふうに思って頂いて、恐れ入ります。」
「ほらほら、普通に高校卒業したばかりの女の子は、そんなこと言わないよ。」
「でも、本当に18歳です。」
「だから、びっくりしてるんだよ。」
「こんな戦力になる人を、どこの会社も見抜けなかったなんて不思議だよな。」
ここの社長は、ちゃんと見抜いてくれて、私を重宝してくれている。よかった。

「ほんとに、おまえって子は、そんなできたばっかりの会社に入って、すぐつぶれたらどうするの?」
「多分、大丈夫。」
「何が多分だ。大丈夫なもんか。」
「これから大きくなっていきそうな気がするの。」
「また、路頭に迷うのが関の山だよ。」
母親にはまったく困ったものだ。
「とにかく、自分で決めたことなの。ちゃんとやり通すわ。」
「後で泣きべそかいても知らんよ。」

 私を採用してくれた会社は、まだ3名しかいない。社長とその友人の二人が、頑張って営業をしている。私はそれ以外の事務全般を任されている。社長とそのご友人、渡辺さんと片山さんは、二人でAIのソフトを開発した。それはなんでもサブルーチンと言って、一つの処理をするAIソフトということだ。詳しくはわからない。でも、そのAIのサブルーチンを使えば、画期的で判断が早くなるのだという。それをAI開発している会社へ売り込みに行っている。

 凄いのは、そのAIサブルーチンの使用料が年間1千万円を超える。それでも、使用したい会社があるということなんだ。例えば、数社、使用してくれたら、何千万もの売り上げになる。

 ほとんど顔を合わすことがないけど、テレビ会議や電話ではなんども話をしている。久しぶりに会社にみんな集まった。と言っても3名なのだが。渡辺社長は次のシステム開発をしたいらしい。今が順風なだけに、早いうちに次のAIサブルーチンを作ってしまいたいとのこと。

「丸山さん、人事できる?」
「つまり営業の採用ですね。」
「よくわかってんじゃん。さすが、丸山さん。」
「社長の要望を聞かせて下さい。」
「2名ほどほしいね。」
「では、3名選抜しますので、社長面接で2名、お決めになって下さい。」
「すっごいね。その若さで秘書みたいじゃん。」
渡辺社長も片山さんも、実はまだ若い。二人とも26歳なのだ。開発もできる、営業もできるこの二人は、最強のコンビなのかも知れない。その船に私も乗せて頂いている。なんて、幸運なんだろう。

 早速、私は求人を開始した。でも、起業間もない会社にはなかなか人が集まらない。お金をかければ、それなりに人は集まるかもしれないけど、どうしよう。私は銀行にお願いすることにした。うちの会社の経営状況は銀行が一番よく知っている。最初に借りている借金は、1年で完済の見通しだから、信用してもらえるだろう。

「〇×銀行の佐竹です。」
「私、丸山と言います。よろしくお願いします。」
「渡辺社長にはいつもお世話になっております。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
「今回はお願いしたいことがありまして。」
「弊社の財務状況はご存じの通り、早くて今年中に完済できる状況にきています。」
「本当にすごいですね。」
「で、お願いというのは、人を採用したいのですが、まだまだ若い会社なんで、人が集まりません。なんとかお知恵を拝借できませんでしょうか?」 
「さすがは、渡辺社長が驚いていただけ、ありますね。」
「どういうことでしょうか?」
「だって、人材採用に銀行を使うなんてことは、普通なかなかそんな発想ないですよ。」
「そうですか?」
「それに、まだ18歳でしょ?」
「年齢は関係ないですよ。」
「すごいな。わかりました。当たってみましょう。」

 〇×銀行の佐竹さんから、伸び盛りなうちの会社の話を聞いたフリーターや転職希望者などが、なんと10名近くも面接に来てもらえることになった。それに・・・みんな私より、年上ばかりだ。

「佐藤と言います。現在フリーターですが、営業経験あります。」
「こちらへどうぞ。」
「私が採用担当の丸山です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「今日はざっくばらんにお話をしましょう。そんなに緊張しないでいいですから。」
多分、この人は私が自分より年下だと気付いている。
「はい。」
「ねえ、今までに一番楽しかったことは、どんなこと?」
急に砕けて質問したので、彼もため口になった。
「えっとね、ワーキングホリデーでオーストリアに行って・・・」

 だいたい、どういう質問のときにどういう答えを返すのかを予め考えてくる。だから、私のような若輩者が面接官だなんて、あまり思わないのかも知れない。それに友達感覚で質問するから、結構、気楽に返してくれる。

「もしかして、僕より若くない?」
「そう見える?」
「見える、見える。」
「そうかもね。」
そんな話にだってなる。だけど、そんな話の中でも、ちゃんと言いたいことは、私に伝えられているか、私を理解させているか、なるほどと思わせているか等、営業トークができるのか見ていた。

 銀行からご紹介頂いた方々全員とおしゃべりした中で3名を社長面接へ繋げた。
「社長、3名ピックアップしました。面接の日程はいつにしましょうか?」
「早いね。じゃ、××月××日でセッティングできるかな?」
「はい、やっておきます。」

 社長面接の結果、2名を採用することになった。私にしてみれば、男だけでもいいのだが、私への配慮で1名は女性になった。これで我が社も5名になった。新しく入社した2人は、私がまだ18歳と聞いてびっくりしていた。まあ、誰でもそうなんだろうと思う。営業で初めての女性、上垣さんは23歳。
「あの時の雑談で選定されていたなんて、びっくりです。」
「いえいえ、営業の素養があるかどうかを見させて頂いていただけです。上垣さんが素晴らしいと思いました。」
「丸山さんにそう言われるとなんだかうれしいわ。今後ともよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」

 男の新人は、村上くん24歳。
「丸山さんはすごいしっかりしているから、もっと年上かと思いましたよ。」
「そんなことないですよ。」
「いろいろ、知らないことだらけだから、よろしくね。」
「こちらこそ。」

 社長からの私への信頼はますます厚くなった。
「本当に丸山さんはどんなことでも、安心して任せられるね。」
「いえいえ、なんでもという訳ではありません。社長のやっているようなAIのプログラミングは、私には無理です。」
「ははは、これも好きになればできるかもよ。」
「じゃ、みんな、がんばって売っていこう!」
「おお!!」

 それからは破竹の勢いだった。毎月数件、多いときで10件以上、成約した。このシステムはよっぽどすごいのだろう。私にはよくわからないけど。社長は会社にいる時が多くなった。次のシステム開発に頑張っている。



(つづく)

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2020年09月19日

変わりゆく未来 第18話

 結局、銀行への借金は1年もかからないうちに全額返済してしまった。これからは無借金経営なのだ。この社長、若いのにすごい。私はいい会社に入れたもんだ。

 1年目の決算で、計画をはるかに上回った実績を計上できた。決算手続きも顧問税理士さんと一緒に対応して問題なく完了。
「最初の年から、赤字になることなしに計画を大きく超えて、売上6億円、経常利益も借金全額返済し終わったんで1億円になったけど、大成功だ。これもみんなのおかげだ。ありがとう。」
「やりましたね。」
「2年目もがんばりましょう。」
「そこで、みんなに決算賞与を出したいと思う。」
「まだ、なにがあるかわからないので、1年目から無理して出す必要、ありませんよ。」
これがみんなの総意だったが。

「最初から決めていることがあるんだ。利益の3分の1は社員へ還元する、3分の1は、事業投資に使う、3分の1は内部留保するということなんだ。」
そのうち、役職等で差をつけていくとのことだったが、今はみんな一律に650万円の決算賞与だ。なんという社員に優しい社長だろうか。
「本当にいいんですか?」
「あとから止めたはだめですよ。」
「みんなが頑張ってくれたら、これは絶対につづけていくつもりだ。」
「本当にありがとうございます。」
支給額から所得税、社会保険等を差し引いても、450万円以上が手取りになる。
私は1年目の年収が990万円ほどになった。高卒の女の子がこんなにもらえるなんて、考えられない。

「社長、本当にいいんですか?」
「私はね、社員みんなが幸せになってほしいんだ。この調子で100年企業を目指したいんだ。」
「すごい構想ですね。頑張らせて頂きます。」
「丸山さんは、本当に頑張ってくれているし、すごい能力の持ち主だから、助かるよ。」
「私なりにできることをしているだけです。あんまり、おだてないで下さい。」
「はっはっはっ、これからもお願いしたいんで、更に昇給を考えているんだ。」
「そんな、これでも多いくらいです。」
「世間のことは考えなくていいよ。うちの会社の中でできることをやっていくからね。」

 このことは母親には黙っていることにした。
「おかあさん、決算賞与で10万円もらったから、渡しておくね。」
「ええ?すごいじゃないの。」
「1年目だけど、利益がでたからだって。」
「太っ腹だね。でも、今年で終わりなんてことになったら困るから、これは貯金しとくよ。」

 まだ、全然信じてない。私の年収を聞いたら、びっくりどころじゃないだろうな。2年目はもっとすごかった。10億円の売上計画を上回って、12億円になった。当然、借金がないから、利益も6億円になった。社長のアイディア通りでいくと、一人当たり4千万円の決算賞与ということになる。これはあまりにも多すぎると思ったが、社長は約束通りと、全員に分配した。こんなことが数年続いたら、みんな億万長者だ。当然、母親にはこのことは内緒だ。

「今年も決算賞与でたよ。」
「すごいじゃないか。じゃ、これも貯金しとくよ。」
「でも、それはおかあさんが使ってね。私からのプレゼントだから。」
「えっ、いいのかい?」
「いいのよ。おかあさんのおかげでこんなに大きくしてもらったんだから。」
「それじゃ、遠慮なく頂いておくよ。」

 月5万円、渡しているし、年間合計で70万円だから、十分満足しているだろう。だいたい20歳の小娘が70万円も母親に渡すなんてことは、あまりないだろう。でも私はすでに2千万円以上の貯金がある。たぶん、母親より多いんだろう。

 ようやく、私もお酒を飲める年になった。会社の宴会でみんなと同じようにお酒を飲める。私にとってはすっごい久しぶりだ。何年振りのお酒だろう。
「ようやく、丸山さんもお酒が飲めるようになったし、改めて乾杯!」
「乾杯!」
「ほんとにみんなの働きぶりには感謝しかないです。本当にありがとう。今日はみなさんに発表があります。第二弾のAIソフト、完成しました。」
「おお、おめでとうございます。」
「これから、このソフトも頑張って販売していきましょう。」
「それから、もう一つ、発表があります。今まで、合同会社でしたが、株式会社になります。」
「おお、すごい。おめでとうございます。」
「代表取締役は私、渡辺が行います。そして、片山さんは専務取締役になります。」
ここまではみんなが納得している。でも、あとひとり取締役が必要のはずだ。
「丸山さんはうちの会社の最年少ですが、その働きぶりはみなさん知っての通りです。そこで、うちの会社の経営陣に入ってもらおうと思ってます。」

 一番びっくりしたのは私だった。営業の二人はにこやかな顔をして祝福してくれた。
「本当にいいんですか?」
「いいんだ。」
「おめでとう。」
「ありがとうございます。」

 えらいことになってしまった。せめて、1年目は名刺にその役職はつけないことで理解してもらったが、問題は母親だ。まさか、社会人3年目にしてそんな重役につくなんて信じられないだろう。黙っていても、HPを確認されたら、ばれてしまう。

 うちの会社は人数も増やすことになった。いつまでも5人ってわけにはいかない。私の下に2名、営業の二人の下に4名を採用した。

 いつの間にか、うちのいい評判が広がって、たくさんの人が応募してくるようになった。
いつまでも、母親に言えないままでいると、母親の方からびっくりしたように聞かれた。
「あんた、取締役なのかい?」
「誰から聞いたの?」
「友達からだよ。ほんとうかい?」
「ちょっと、あまりに重役なんで、どう話していいのかわからなかったから。」
「まあ、どうせ、名前だけなんだろ?」
「そうね。そんなもんよ。」
「やっぱりね。」
「名前だけ、総務部取締役部長なの。」
「名前だけね。給料もあまり変わらないんだろ?」
「うん。」
「そんなもんだと思ったわ。万が一、会社が潰れても、責任はとれないよ。」
「わかってる。」
「それならいいよ。」
よかった。そんなふうに思ってもらっている方がいい。でも、実際は年棒1500万円もあるのだ。それに、計画達成の折には、とてつもない決算賞与が待っている。


(つづく)

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2020年09月20日

変わりゆく未来 第19話

「丸山さん、会社の拠点を東京にしようと思っているんだ。活動しやすい場所を見つけてくれない?」
「であれば、東京駅近辺がいいですね。探してみます。いつまでですか?」
「早い方がいいな。みんなにはまだ言わないでね。」
「承知しました。」
「あ、丸山さん、そうなっても辞めないよね?」
「当然です。私も社長の後をついていきます。」
「ありがとう。」

 だが、母親にはなんて言おう?この家からじゃ、通えない。
「おかあさん、報告があるの。」
「報告って、何だい?」
「会社が引っ越すの。だから、私も、会社のそばに引っ越すわ。」
「なんだって?そんな急に。」
「仮にも私、取締役なんで、会社を盛り上げていかないといけないの。」
「だからって、おまえまでが引っ越す必要ないでしょ。もう、辞めたら。潮時かもよ。」
「そんなことできないわ。私、今の会社、とっても楽しいもん。」
「おかあさんは反対。どうしてもいくなら、縁を切るからね。」
「娘の門出だと思って、笑って見送ってよ。」
「絶対、だめ。」
「なら、仕方ないわ。私は私の人生を歩んでいきます。」
「勝手におし。」
「ここまで、ありがとうございました。」
やっぱり、こうなっちゃったな。仕方ないな。

 会社の本社となるビルを探してみると、なかなかいい物件がない。恐らく、社員も増やすつもりだろうし、そうなると30名くらい入れる物件がいい。あまり、古い物件はよくないので、新しい物件を探す。いろんなこと考えると、迷ってしまう。

「最近、丸山部長、よく外出しますね。」
「いろいろあってね。」
「私たちも手伝いますよ。」
「もう少しカタチになったら、お願いするわ。」
 私より、3、4歳も上の部下って、少々やり難さもあるけど、2人とも私を上司と認めてくれている。

 ようやく2件ほど、いい物件を見つけ、社長を案内した。1つは東京駅から徒歩10分圏内、でも、少々古めのビルの10階だ。社長は2件目を見てからと言う。2件目は品川駅から10分圏内。こちらは割と新しい。どちらも30名は入れる広さだ。
「丸山さん、うちは11名なのになんでこんなに広い物件を選んだの?」
「恐らく、すぐに30名規模の会社になるかと思いますので。」
「ふーん。」
「どちらも2か月のフリーレント付きです。それに家賃を5年間は値上げしないという契約になっています。システム開発しやすいように、OA床ですし、個別空調になっているので、自由にサーバー室や開発室をつくれます。」
「よく勉強したね。さすが、丸山さん。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、あとは役員会で決定しよう。ところで、丸山さんはどうするの?」
「決まった物件の近くに引っ越すつもりです。」
「そうなんだ。ありがとうね。」

 私はどちらに決まってもいいように、すでにちゃんと下見もしていた。一人暮らしだから、1LDKの広いオートロックのマンションを仮予約していた。値段も20万円はいかないが、それに近い。母親が聞いたら、卒倒するだろう。

 新しい本社ビルが決まり、全員にその旨が告げられた。私のように引っ越しするメンバーが多かった。でも、それくらいの給与をもらっているのでたいしたことなかった。私は、部下の二人にレイアウトを考えてもらった。社長の要望を取り入れてね。

 引っ越しの日、母親はどこかに行ってしまって、顔を見せなかった。私は荷物を出して、手紙を置いて、出て行った。母親は昼間っから例の居酒屋に行っているのだろう。

 引っ越し先は本社の近く。歩いてもいける距離だ。通勤がとっても便利になった。自分のかたずけはそんなにないので、まずは会社の方だ。社員総出で、荷物を片付けた。全部片づけ終わったのは、結構遅い時間になった。そこで、引っ越し完了のパーティを開催した。まだ、真新しいので汚さないことを前提に、みんなで乾杯した。

「こんなに広いフロアーでいいんですか?この人数だと広すぎると思うんですが。」
「大丈夫だ。会社はどんどん大きくなってくのだから。」
「すげ~!」
「みんなで頑張って行こう。」
「おお~!」
本当にいいメンバーが集まった。

「丸山部長、一度、遊びに行ってもいいですか?」
会社の女子たちが言い出した。
「まだ、引っ越したばかりで何もないですよ。」
「女子会しましょう!」
営業に2名、総務に2名、私を入れて5名の女子がいる。なんとか、入れるかな。
「わかりました。女子会しましょう。」
その様子を渡辺社長が、優しいまなざしで見ていたのを、私は気が付いていた。女子で結束していくことも大事だろう。

 女子会当日、みんながそれぞれいろんなものを持ち寄って集まった。お菓子や飲み物、スィーツがほとんどだ。私はというと、みんなのためにお寿司の出前を取っておいた。数万かかっても、みんながいい雰囲気になるなら、安い投資だ。お金はずいぶん、あるんだし。


(つづく)
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2020年09月21日

変わりゆく未来 第20話

 この女子会で、私が標的になった。
「部長って、全然お化粧っ気、ないですよね。」
「オールインワンしか、使っていないですからね。」
「え~、だって、元がいいですから、もっと、お化粧しないと。」
「お化粧って、苦手で。」
「だめですよ。」
「それに髪だって、いつも後ろでまとめてるだけだし。」
「そうそう、着ているのはいつもスーツだけですもんね。」
「絶対、こういうことに目覚めたら、女子力、数段、アップしますよ。」
おいおい、そんなこと、言いにきたのか。

「この際、部長をもっと女らしくしませんか?」
「やっちゃいましょう!」
まいったな。仕方ないから、お任せすることにした。
「部長がいつも使っているのは、これですよね。」
「ということは、その上に・・・」
「チークは・・・」
「アイシャドウは・・・」
「リップは・・・」
「どうですか?これで。」
鏡の中の自分はびっくりするほど、変わっていた。へっ?自分?

「本当はもっと、変われますよ。」
「部長、めっちゃ美人ですよ~。」
困るんだけど。あんまり目立ったら、良くないって。

 私の部屋に集まった女子はみんな、あまりに女子力の低い私を、イメチェンさせようと考えたらしい。おかげで全然興味のない化粧の仕方、落とし方、スーツだけではなく、肌露出の多い洋服の選び方、髪の毛のカラーリング、ウェーブ、長さ等、結局、そんなことを教えにやってきたのだった。女子会ちゃうやん。

 とにかく、今日はメイク講座が主体だった。みんな私のことを思ってのことなんだろうと思うけど、私自体は性的不一致状態なのだ。全然興味のないことを教えられても覚えられない。本当に困ったものだ。

「部長は本当にこういうことに無頓着なんですね。」
「私の家がそんなに裕福じゃなかったんで、お金のかかることに興味をもてなかったからかも。」
「そうなんですか?」
「でも、今は全然気にせず、できますよね。」
しまった、墓穴を掘った。
「まあ、少しづつ覚えていきます。でも、化粧品って結構するんですね。」
「今は高給取りなんですから、大丈夫でしょ?」
「元が貧乏性だから、なかなか最初の一歩が難しいですね。」
「これは、必需品です。必要な自己投資です。」
「そうなんですか?」
「そうそう。がんばりましょう。」

 次回は、私の髪をなんとかするということで、総務の2人が私を美容室に連れていくことになった。そこまでしなくてもいいのに。

 翌日、ちょっと早めに起きて、メイクとやらに挑戦した。みんなに教えてもらったことだけしかできない。でも、なんとなく顔全体が明るくなって、まつ毛が心持ち伸びて、目がはっきりした感じになった。ついでに口紅を塗ると、なんとなく妖艶な感じがした。こんなんでいいのだろうか?

 出社すると、女子から歓声が上がった。
「すっごく、いいですよ、部長。」
「やめて下さい。」
なんかとっても恥ずかしい。
総務の2人にトイレに連れていかれ、もう少し目鼻立ちをくっきりしてもらった。
「これでばっちりですよ。」
「ありがとう。」

 女子からは問題ないけど、男性の視線がやけに気になる。あんまり、顔をしげしげ見られたくない。どうか、何も言われず、一日が終わってほしい。でも、これって私自身もだんだん女性化してしまっているのだろうか?

 次なる変貌は、髪なのだ。会社帰りに総務の2人が待ち構えていた。
「ささ、行きましょう。」
「やっぱり、このままでいいんだけれど。」
「部長だけですよ。自分で髪切っているの。」
「ちゃんとしましょう。」

 無理やり、連れていかれてしまった。当然、彼女たちが予約している美容室へ。
「今日はどのように?」
私の代わりに彼女たちが勝手に注文する。もう、どうにでもなれって感じ。最後まで付き添ってくれた彼女たちは絶賛してくれた。そんなにいい感じになったのだろうか?また、翌日が不安だ。

「おはよう。」
「うわぁ。素敵。」
 ちょっと、茶系統の色になった髪は、肩までの長さで軽くウェーブが掛かっている。私は後ろで纏めたかったが、絶対だめと言われていたので、それができない。でも、今度は女子だけでなく、男性たちにも気づかれてしまった。
「丸山さん、すっごくいいよ。」
「社長、はずかしいですわ。」

 なんか社長にだけは、あんまり指摘されたくなかった。こんなんじゃ、仕事どころじゃない。私からしてみれば、会社の女子はみんな年上。で、もって、女子力は私なんかより、相当高い。でも、私もそれにだんだん感化されていくんだろうか。というより、私自身がだんだん女性化していってしまうのだろうか。

 考えてみれば、高2から、4年も経っている。だんだん女性の体に慣れてきているような気がする。でも、男に恋をするなんてことはないと思う。あまりに、気色悪い。同性同士でワイワイしているのも、だんだん楽しくなってきている自分がいる。外見が女だけに、男とワイワイすることなんてできない。

 男なんぞ、一皮むけば、何をしてくるかわからない。理性で抑えている男でも、二人になると、どんなことされるかわからない。そんな恐怖心から、未だに合気道や空手で護身を図っている。

 でも、世の中の女性がすべて、護身術を習っているわけじゃない。男の本能をそそるだけと分かっているはずなのに、あんなに肌も露わな恰好をするのはなんでだろう。私には不思議でならない。もっと、自分を大事にすればいいのに。でも、みんなはかわいいからという言葉ですべてを片付けてしまう。私もだんだんそちらの方向に、引きずり込まれていくのだろうか。

 そういえば、2度目の人生は、4年間ほどだった。今回も4年目になる。また、次の人生が待ち受けているのだろうか。だんだん、不安になってきた。いままでは、元の自分より、若いからだに移ったけど、もっと年上のからだだったら、どうなるのだろうか。

 そんな心配はどこ吹く風。私はだんだん女性化していった。なぜか、かわいい服を見たり、買ったりするのが楽しくなってきたし、髪型もメイクも毎日のように、気になって、それが当たり前になってきた。ネイルアートもするようになった。時折、本当にこれでいいのか疑問に思うことがある。私は21歳になった。



(つづく)

posted by たけし at 13:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | 変わりゆく未来 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする