2020年10月18日

小説 「アレスグート」  第6話

 そんなオレの予感が的中することになってしまった。恵美とのデート中に見知らぬ男がつけてくる。恵美はまだ感づいていなが、間違いなくつけてくる。通りに面した明るい喫茶店に入って、ちょっと休憩したら、その男なんと大胆にもそばの席に座った。オレが知っていることに、気が付いていないようだ。
 恵美とは他愛もない話をしていたが、その男、録音マイクをオンしたみたいだった。こいつはいったい何なんだ。知らないふりもこれまでにして、オレはいきなり、
「あの、何か用ですか?」
さすがに男はびっくりしたようだ。感づいていないと思っていたようだったからね。
「いえ、何も。」
「でわ、そのマイクは何ですか?聞きたいことがあるなら、そんなことしないで聞いてくれたらいいじゃないですか?」
さすがに観念したのか、
「あ、すみません。私、こういうものです。」
差し出した名刺には、○×テレビのディレクターと書いてある。恵美もびっくりしてた。

「テレビの方がどういうご用件ですか?」
「実はちょっとうわさを聞きつけまして、ことの真相を調べてます。」
「どんな?」
「あなたが不思議な能力をお持ちだとか?」
いったい誰が言ったんだよ。
「何かの間違いじゃないですか?人違いかも知れませんね。」
「いえ、高橋洋さんでしょ?」
名前まで知ってやがる!
「確かにそうですが。」
「死に瀕した人を救ったとのうわさを聞きました。」
もう、かなわんなあ。誰が言ったんだろう?
「間違いだと思いますけど。」
あくまで、しらを切り通そうとした。

 「あの、奥様ですか?」
今後は恵美に矛先を変えてきやがった。恵美は奥様と言われてまんざらでない顔をした。
「いえいえ、違います。」
明らかにうれしそうだった。やっぱ、そろそろ、結婚しようかな。いや、それどころではない。
「こちらの高橋さんの不思議な能力をみたことがありますか?」
おい、言うなよ。
「いいえ、知りませんが。」
よしよし。
「そうですか!わかりました。また、お目にかかるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします。」
そう言って、引き下がってくれた。これって、本当にやばいな。ここで、その話はできないと思って、恵美に目配せして、店をでた。

 オレの家に着いて、
「どうなってんのやろ?なんで、あんな知らん人にこの話が伝わったんやろ?」
「私じゃないわよ。」
「分かってるよ。」
これを知っているのは、長田とその友人のみ。明らかに長田が怪しいと思えた。だって、長田はその友人に話をしたもんな。

「恵美、もし、この話がバレたとしても、もうその能力はなくなったことにしとこうと思う。」
「そうね、その方がいいわね。」
「オレらの将来のためだから、絶対に死守せんとな。」
「オレらの将来?」
「あ、ごめん。勝手にそう思ってます。ん~、オレと結婚してほしいと思ってるんだ。」
さっきのことで、OKしてもらえると思ってた。

「何勝手なこと言ってんのよ。私がOKするとでも思ってんの?」
えっ、そんな。
「そうか、ごめん。今のことは忘れてくれ。」
かなり、ショックだ。今日はヤケ酒だな。
「な~んてね。ありがとう。ヒロシ、よろしくね。」
そう言って抱き着いてきた。
「え~、マジ、ショックだったぜ。」
「ごめん、ごめん。本当はうれしかったのよ。ありがとうね。」
マジ、泣きそうだ。してやられたという感じだ。シリに敷かれるのかな。

 翌日、長田に電話した。
「昨日、テレビ局の人がオレを調べにきた。もしかして、何か言った?」
「私知らないわよ。」
「本当だな。そうなると、長田の友人だけだな。」
しばらく、沈黙、
「高橋クン、ごめん。私です。」
「おい、頼むわ。こんなことバレたら、オレはもう普通の生活できなくなるんだからな。」
「本当にごめん。」

 どうやら、病院で白血病末期患者が奇跡の生還を遂げたことが、テレビ局のターゲットになったらしい。そのインタビューで長田が言ってしまったということだ。テレビ局が調べたところ、そんな患者が2人はいるとのことで、いったい誰が?ということで、番組にしたいらしい。

「今はもうできないんだ。次やったら、オレ死ぬから。」
うそだけどね。
「前も言ってたね。わかった。そういうことにしとくわ。もう、何聞かれても言わない。」
あたりまえじゃ!もう遅いわ!

 だが、事態はもっと進行していた。ある日、オレの家に見知らぬ男が訪ねてきた。インターホンごしに確認すると、雑誌社の者だという。オレは、
「用はない。」
と追い返したが、買い物で家を出ると、そいつは待っていた。

「どうしてもお時間お取り頂きたいんですが、お願いしますよ。」
「何も言うことはない。帰ってくれ。」
そういって、近くのスーパーにいこうとしたが、必要に追いかけてくる。なんども同じ質問を繰り返す。いい加減にしてくれ。マスコミは絶対に好きになれない。オレは振り向いて、
「何を聞きたいのか知らないが、迷惑なんじゃ。」
「末期患者を直したって本当ですか?」
「だから、そんなんできるわけないじゃん。医者でもないんだし。」
「長田さんとお友達なんでしょ?」
「それはそうだけど、それだけだ。」
「本当のこと、教えて下さいよ。」
「もう、いい加減にして下さいよ。」

 なんとか振り切って、スーパーに飛び込んだ。ふ~、やっとのがれたよ。たまらんな。と、思ったら、今度はあの時のテレビ局のディレクターが待っていた。もうげんなりだ。
「こんにちわ、そろそろ教えて頂けませんか?」
「何をですか?」
「またぁ。しらばっくれなくてもいいですよ。知ってますから。」
「じゃ、私は必要ないでしょ。」
「そういわずに、お願いしますよ。」
「いい加減にして下さい。」

 オレは声を張り上げたもんだから、買い物客が一斉にオレの方を向いた。その中に会社の先輩もいた。
「どうした、高橋、嫌がらせ、うけてんのか?」
「そうなんですよ、助けて下さい。」
ディレクターは一目散に逃げていった。
「ありがとうございます、助かりました。」
「いいってことよ。」
こういうときは、大声を張り上げるに限るな。

 翌日もオレは狙われた。こっそり、写真を撮られた。でも、全然こっそりじゃないし。しばらくすると、ついに事件は起こった。

「ねえ、大変。週刊誌に載ってるわよ。」
恵美からの電話でびっくりして本屋に飛び込んだ。週刊誌を立ち読みすると、オレのことが載っている。病気を吸い取って治すことができる男が現れた!だと。もう、お手上げだ。
 手を触るだけで病気かどうか分かることも書かれていた。で、オレの写真もでてる。目を隠しているけどね。たまらん、犯罪者じゃないのに、逃げ惑わなければいけないのか?しばらく、落ち着くまで普通の生活なんかできないぞ。

 恵美に電話した。
「しばらく、会わない方がいいな。恵美にも迷惑が掛かるしな。」
「わかった。じゃ、電話か、SNSで。」

 とぼとぼ、家に帰ると、げげげっ、家の前にたくさんの人がいる。マジ、困った。考えろ、ヒロシ、考えろ!ふと、浮かんだ、先輩の顔。そうだ、先輩にお願いしてみよう。

「あ、高橋です。ちょっとお願いが。」
「おまえ、めっちゃ有名人だぞ。」
「テレビで、出とんぞ。」
「あちゃ~、そうですか。家の前にたくさんいるんで帰れないんです。社長んとこ、行っていいっすか?」
「いいよ。来いや。」
ありがたい。この先輩は、今は社長なのだ。とにかく、先輩の家におじゃますることにした。

「よう、上がれや。」
「お邪魔します。」
先輩んちは社長といってもこじんまりした家で、奥さんとお子さん2人の家族だ。

「で、本当に治せるのか?」
「社長まで、やめて下さいよ。そんなことできるわけないじゃないですか。」
「そうだよな。でも、病気かどうかわかるんだろ?」
「それも、ほとんどあてずっぽっす。」
「そっか。」

「あら~、高橋クンいらっしゃい。」
奥さんが買い物から帰ってきた。
「おじゃましてま~す。」
「高橋クンって、すごいのね~。」
「奥さんまでやめてくださいよ。そんなの、ないっすから。」
「そうよねぇ。ごめんなさいね。」
2人に半分からかわれて、いっしょにワイドショーをみると、まさに全部ばれている。週刊誌に書いてあった通りだ。実際にもその通りなのだ。もう、たまらんわ。

「このままだと、仕事場にも押し寄せてくるだろうな。明日は様子見ということで、休んでいいぞ。ここにおれ。」
「いや~、そこまで迷惑掛けれないっすよ。」
「あほ、仕事のじゃまになるだろ。」
「そうですよね。」
本当に困ったもんだ。

 しかしだ、ふと、ある考えが頭をよぎった。このことで、治すことはできないとして、どんな状態か見ることは苦じゃないから、それだけをするのはどうだ?それを商売にするのはどうなんだ?別にいいよな。料金はお任せということで。これはオレにしか、できない能力なのだ。それを仕事にして悪いことないよな?まあ、今まで通り働いて、空いている時間にやるというのはどうだ?予約制とか?恵美にマネージャーやってもらおっかな?そう考えると、このままマスコミに出るというのはすごい宣伝になる。それも無料の。あ、もしかしたら、出演料もらえるんかな?とにかく、恵美に相談するか。

 恵美と話をして、ついに取材に応じることにした。とりあえず、社長には半分ホントのことを話した。手を触ると体調が分かるといういうことだけ。社長の家族全員、触ってみたが、なんともなかった。至って健康家族だ。で、一旦帰ることにした。あのマスコミの中へ。

 家の前にはまだたくさんのマスコミがいた。オレの姿を見るや否や、駆け寄ってきた。
「あの記事は本当なんですか?」
と、同等の質問のオンパレードだ。こんなにたくさんの人がここにいたんじゃ、みんなの迷惑だろ。

「ここでは迷惑なので、どこか記者会見できる場所を作って下さい。そしたら、そこでお話しします。」
と言うと、若い男がすぐにこう言った。
「でわ、すぐに用意させて頂きます。」
すげ~、そんな権限あんのかよ。その彼から名刺をもらって、家の中に入った。

 ふ~、まいった。ちょっと、水を飲んで自分の気持ちを落ち着かせた。さて、言うことは健康状態だけのことだけ。治すことは絶対言わない。これだけだ。あの名刺の男はいったい?と思って、名刺を確認したら、西都テレビの人だった。なかなかやるなぁ。




(つづく)
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2020年10月19日

小説 「アレスグート」  第7話

 その夜のテレビでは、ばっちりオレの姿が映っていた。結構なニュースになってるでやんの。次の日、会社でもみんなから質問攻めにあった。おいおい、いつも一緒にいるだろ。いまさら、そんな質問せんでもええやんか。
「治せるというのはデマやけど、健康状態は分かる」
ということで納得してもらった。

 そこへ連絡が入った。あの若いテレビ局のヤツだ。
「場所は整いました。西都テレビの会議室です。○月○日の××時に来てもらえますか?」
「わかりました、行きます。」
詳しい場所を確認して、いくことにした。いよいよ、記者会見かぁ。そんなん、俳優とか、有
名スポーツマンとかしかやってないやん。こんなふつーのサラリーマンがやっていいのかな。

 あんまり、着たことがないスーツを着て、ついにそのテレビ局へ行った。ドキドキが止まらない。入口で警備が立っている。通してくれるんかな。
 オレが行くと、一応、止められた。そうだよな、ふつー。貰った名刺を見せて、名前をいうとすんなり通してくれた。案外、簡単やったな。受付で、またもや、名刺を見せて、自分の名前を言うと、すぐに案内してもらえた。もう、本当にドキドキがとまらない。
 行先は会議室ではなかった。??なんで?と思ったら、オレの名前の書いてある部屋に通された。控室らしい。そういえば、芸能人も控え室にいるもんな。
 しばらくすると、彼が現れた。
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」
と言うもんだから、
「こちらこそ。」
と言ってしまった。
「飲み物はお茶でいいですか?」
「はい、お願いします。」
「もういばらくお待ちくださいね。」
そういって、一旦部屋から出て行った。おーい、恵美、祈っといてくれよ。

 ついに呼ばれた。多分、たくさんの記者がいるんだろう。そう思いながらも、緊張している。
 会議室のドアが開くとそこには、予想していた通り、たくさんの記者と、照明とカメラだった。あまりに眩しすぎる。たまらん。私はもうひっくり返りそうだった。

 最初に名前を紹介された。それから、うわさを説明されて、質問に入った。
「今、説明あったうわさは本当なんですか?」
今回はひとりひとり質問してくれるから、なんか安心できた。
「全部、正しいかというと違います。」
「何が違うんですか?」
「私は病気を治せません。」
私、なんて言葉を使ってしまった。いつも、オレって言ってるのに。
「でわ、手を触るだけで健康状態がわかるというのは本当ですか?」
「はい、本当です。」
ついに言ってしまった。これがどんなことを巻き起こすのか、今のオレにはわからない。

「でわ、試しにやってもらいましょう。」
「えっ?」
「ここに一人います。この方を見て頂けますか?」
いきなりかよ。
「はい。」
「うおー!」
会場から声が上がった。その方はマスクをしている若い女性だった。オレの横に来て、椅子に座った。
「でわ、お願いします。」
仕方ないよな。ここまできたら。
 オレは、その人の手に触った。すぐにインフルだとわかった。多分、薬を飲んでだいぶ回復している。でも、もう一か所問題があった。
「お話ししていいですか?」
「はい、どうぞ。」
「インフルエンザで、薬を飲んで回復中です。」
「その通りですか?」
女性は、マスク越しに
「その通りです。」
と言った。
「おお~。」
と歓声が上がった。
「でも、もう一つ問題があります。」
その女性はぎょっとした。多分、それだけだと思っていたんだろう。

 オレは女性の目をみて、
「この場で話していいですか?」
かなり躊躇して彼女は、
「はい。」
とうなずいた。
「この方の了解を頂いたので、お話しします。彼女は乳がんです。まだ、初期なのですぐに処置すれば大丈夫だと思います。」
「おお~。」
また歓声が上がった。
「なんで、そんなことがわかるんだ?いんちきなんじゃないか。」
「すごい!」
「まだ、ほんとかどうかわからんぞ。」
いろんな声がした。

 司会は、
「でわ、このまま、彼女は病院で診察を受けて頂きましょう。」
「最初のインフルエンザはその通りです。薬で治療していることもその通りです。」

 次の質問があった。
「その能力をどのようにしていきたいですか?」
「今は、特になにも考えていません。」
「本当ならすごいことですよ、なにも世の中のために使わないのですか?」
「だから、何も考えていません。」
「そんな能力があるのに、人のために貢献しないなんてひどいじゃないですか?」
「なんで、そんな言い方をするんですか?私は普通のサラリーマンです。サラリーを稼ぐために頑張っている。ただ、それだけです。たまたま、知り合いが病気だとわかったんで、手助けしただけです。」
また、オレじゃなくて、私って言った。
「サラリーマンなんかやめて、そのちからで世界を救ったらいいじゃないですか?」
「私の生き方まで、あなた方に指図されないといけないんですか?」
なんか、こうなることが分かっていた。こいつらはオレを怒らせようとしているだけなんじゃないかな。怒って、何か本音を言わせようとしているだけなんだ。

「もういいでしょう。」
司会が小さな声で言った。
「でわ、会見はこれで終わりにします。ありがとうございました。」
うまく、オレを連れ出してくれた。よかった。終わった。

 控室に戻ったオレに、若いディレクターはこう言った。
「テレビに出演してくれませんか?」
「え、これで終わりじゃないんですか?」
「あの女性が本当に乳がんだったらです。そうなったら、ただではすみませんよ。うちの番組て特集を組みますので、ぜひ、お願いします。」
こうなるよな、絶対。

 突然、ドアがあいて、別の男性が飛び込んできた。
「本当に乳がんでした。」
だから、言ったじゃない。
「間違いないのか?」
「本当に初期の乳がんでした。」
「高橋さん、すごいです。特集組ませて下さい。ちゃんと出演料も払います。」
「オレは普通のサラリーマンです。そっとしておいてほしいんですけど。」
「こうなったら、そういうわけにいきませんよ。恐らく、他局も手ぐすね引いて待ってますよ。」
あちゃ~、でも数か月で落ちつくんじゃないかなって、甘い気持ちでいた。

 その日のうちに、結果が流れた。すっごい、反響だった。オレは一旦、家に帰った。のはずだったが、家の前にはまだおる。助けてほしい。あっという間に捕まった。今度は、出演依頼が多かった。あっちもこっちも出れるかよ。とにかく、一人にしてほしいと言って、家に入った。たまらんなあ。芸能人はいつもこんなんだろうか?

 恵美に連絡を取った。テレビ局での話をした。
「どうしても特集番組に出てほしいとうことなんだ。困ったな。」
「いいじゃん。出たら?」
「軽く言うなぁ。」
「だって、出演料もらえるんでしょ?アルバイトと思ってでたらいいじゃん。」
「そうかて、結構、緊張するんだぜ。」
「がんばって!」
ほんとにいいんかな?すぐに消えていく芸能人も多いし、そのうちオレも消えていくかもな。

 数日間考えて、あのテレビ局に連絡をとった。そしたら、すぐに番組を設定したらしい。どこの局より、最初にやりたかったみたいだ。社長にも了解とったので、大丈夫だ。出演料は20万円もくれるという。恵美と豪勢に食事にいける!

 番組で、3人ほどアサインしたらしい。とにかく、3人、見てほしいと言われて、承諾したから仕方がない。どんな方なのかは知らされていない。
 当日、やはり控え室を用意され、お弁当までおいてあった。でも、ちゃんと食べてきたので、いらなかった。テレビ局の人に一応の流れの説明を受けた。メイクさんにメイクしてもらったら、気持ちよくなって眠たくなった。芸能人っていいな、こんなこと、いつもしてもらっているんだろうな。

 さて、いよいよ、本番だ。最初は前回のおさらいで、ビデオが流れた。そのあと、オレの紹介があって、いろいろ質問された。
「いつ頃からその能力に気が付いたんですか?」
「24,5くらいだと思います。」
「どんなふうに気づかれたんですか?」
「最初は風邪を引かれていた人だったと思います。ああ、この人、風邪引きさんだと思ったのが最初です。」
うそだけどね。
「で、ご友人の体調に気づかれたんですよね?」
「そうですね。」
そんなふうに番組がスタートしていった。

 そして、ついにその時がきた。
「でわ、これから3名の方の健康状態を高橋さんに見て頂きましょう。」
オレはまだ、何も聞いていない。どんな人なのかも知らない。最初は、歩くのもできない男の人だった。車いすで私の前に来た。

 この人、、、、なんで?なんで治療してないんだ?とっくに治療していてもいいはずなのに。オレは手を握った。やっぱり、そうだった。全然、治療されていない。脊椎の神経が圧迫されていて歩けなくなっている。でもそれだけではない、頭の中の血管にこぶのようなものがある。心臓の血管の血液の流れが非常に悪い。多分、心筋梗塞にもなりかけているのだろう。いつ詰まっても不思議ではない。

「本当に体調のことをお話ししていいんですか?」
オレは恐る恐る聞いた。
「大丈夫です。どんなことでも受け止めます。」
「分かりました。歩けない原因は脊椎の上から4番目のところ、神経を圧迫してるからです。」
それだけでも、
「おお~!」
と歓声が上がった。
「あと2つ別の問題もあります。」
やっぱり、その人はぎょっした。
「これも言っていいんですか?」
「はい。」
その男性は小さな声で言った。
「頭の中、真ん中よりやや左側の中心ほどに動脈瘤があります。急がないと危ないです。それと、心臓の右下の心室下側が心筋梗塞になりかけています。」
「おお~」
やはり、歓声が上がった。
「それではこの方は今すぐ病院へ行って頂きます。」
まあ、そうだよな。一応、調べるんだろうな。その通りだけど。

 二人目の人はふつうに歩いて来られた。マスクをしている女性だった。見るからにガンの感じが現れていた。手を触れると、ああ、ひどい。なんで、こんな人を連れてくるんだ。

「多分、番組は分かっている症状を言い当ててほしいのだろうと思いますが、それ以外のものも見つかってしまいます。」
オレは言った。そのことにその女性はやはりびくっとしていた。
「最初に確認しておきます。本当に言っていいんですか?それとも後にしますか?」
女性の顔から生気がなくなっていく。
「最初にお話しするのは現在治療中の乳がんのことです。そうですね?」
女性はうなずいた。
「そして、多分、今のお医者さんが気付いていないものです。ちょっと、膝に違和感を感じていませんか?」
女性はびっくりして、そしてうなずいた。
「骨肉腫です。」
ますます、顔色が悪くなってきた。本当に告げていいのだろうか?
「もうひとつは、」
いいかけたその時、
「もうやめ下さい。」

 そうだよな。みんなの見ている、聞いている、この場所ですべきではないよな。さえぎったのは、彼女だった。
「分かりました。あとでお話しします。」
彼女のもう一つの問題は、すい臓がんだった。かなり進行してる。多分、医者は気付いていない。気付いていたら、とっくに治療しているだろう。

 次の人は男の人だった。痩せている。この人は、糖尿病だ。あと、小さな肺がんがある。これは気付いていないかもしれない。
「どんな診断を言ってくれても大丈夫です。」
気丈に言った。この人なら大丈夫だろう。
「糖尿病ですね。」
「はい、その通りです。」
「それと肺がんです。でも、安心して下さい。本当に初期です。今だったら大丈夫だと思います。」
その後、二人は病院で見てもらい、私の言った通りだということが分かった。女性には待って頂き、別室で詳細をお話しした。その後、すぐに病院にいったようだった。

「やっぱ、すごいです。本物ですね。」
若いディレクターは興奮していた。だけど、オレには仕事がある。こんなことばかりやってられない。
「でも、もう終わりです。テレビはこれまでです。」
「そんなことを言わずにお願いしますよ。」
「だって、オレには仕事があるんですよ。仕事が終われば、プライベートです。分かりますよね?」
「そこをなんとか。次の番組も入れようとしてるんです。」
こいつ、てめーのことしか考えないんだな。所詮、マスコミはこんなもんだ。オレはもうやらないと言い切って、テレビ局をあとにした。

 ところがだ。他局も手ぐすねを引いていた。
「見ましたよ。今度はうちの局でお願いしますよ。」
「今さっき、もうやらないって言ってきました。だから、終わりです。」
「そんな!」
必要に食い下がってきたが、無視した。テレビにラジオ、雑誌など、いろんなメディアが問い合わせしてきたが、すべてシャットアウトした。いくら出演料を出すといっても、本業の仕事をほっぽりだす訳にはいかないだろ。

 恵美に連絡を取った。
「もうマスコミの仕事は終わりにしたよ。あとは普通の生活に戻る。」
「あん、いい男が映ってたから、録画したのにぃ。もっと出れば、いいじゃない?」
「あのね。そんなことしたら、恵美とデートする暇もなくなるぞ。」
「それは困るわね。」
「だろ。もう終わりだ。」
「本当に終われるの?これからが大変なんじゃない?」
「なんでさ?」
「だって、本当に困った人たちが押し寄せてくるんじゃない?」
えっ、そうか?まさか、そんなことが?



(つづく)

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2020年10月20日

小説 「アレスグート」  第8話

 数日後、会社から帰ると家の前に数人の人がいた。
「あ、高橋さんですよね。」
「何か?」
「お願いします。是非見てほしいんです。」

 恵美の予感は的中した。どこでこの住所がわかったんだ?探偵でも雇ったんか?
「オレは医者じゃないんですよ。」
「どこが悪いのかを教えてくれるだけでいいんです。」
「どうか、お願いします。」
おいおい、本当にこれから毎日これかよ?我先にと数人が私の前に出ようとする。
「ちょっと待って下さい。オレは医者じゃないんで、詳しい病名までわかりません。」
「それでもお願いします。」
ひとりがなにやら包みを手渡そうとした。
「これでお願いします。」
げげげ、報酬を持ってきたのか?まあ、そんなことはともかく、ちょっとほっとけない気持ちになって、
「今日は仕事で疲れていて、多分、見ることはできません。明日は休みなので、明日10時頃、お越しください。」
って、言ってしまった。そういうと、きちんと了解してくれて、みんな去ってくれた。たまらんわ。一度、受けたら、ずっとになるよな。どうするんだ、オレ。

 翌日、10時にベルが鳴った。インターホン越しに見ると、10数人ほど見える。上がって頂く部屋なんか、ないぞ。どうするんだ、オレ。とりあえず、一人づつ入ってもらうことにした。最初は60代くらいの男性。
「あとどれくらい生きれますか?」
「はっ?そんなことわかりませんよ。あなたが今、健康かどうかしかわかりません。」
「あ、そうなんですか?なんや、そんだけか!」
おまえ、テレビ見てなかったんか?
「じゃ、ええわ。来て損したわ。」
もう、初っ端からこんな人では思いやられる。

 次の人は中年の女性。お子さんと一緒だ。足を引きずっている。
「よろしくお願いします。」
「お子さんじゃなくて、あなたですよね?」
「はい。」
「じゃ、手を。」
そう言って、手を触ると、膝の軟骨がほとんどなくなっている。これくらいなら、レントゲンでわかるだろうに。ん?頭に黒い影がたくさん見える。脳梗塞?とにかく、CT撮った方がいい。

「膝は医者にいきました?」
「いいえ、まだ。」
「私は医者ではないので、病名はわかりませんが、軟骨がほとんどなくなっています。歩くのがかなりしんどいのでは?」
「はい、その通りです。」
「で、もうひとつ。頭の、脳にたくさんの影が見えます。脳梗塞なのか?または別の病気なのか?とにかく、CTとか、MRIとかの診断をしてもらって治療した方がいいです。」
「ああ、そうですか!」
「ちゃんと、病院へ言って、私が言った場所の診断をしてもらって下さい。」
「わかりました。あの、おいくらでしょうか?」
「医者じゃないんで、もらえませんよ。」
「そういわず、これで。」
そういって、封筒を渡してくれた。これで、いいのかな?本当にこれで?

 その日、8名ほどが聞きにきた。これからもっと来るんだろか?ほぼ、みんなから謝礼を頂いた。確認すると全部で50万円を超えていた。オレの月給よりはるかに多いぞ。だけど、これって副業になるんだよな。ということは、確定申告せんとあかんのかな?つまり、税金取られるということか?ややこしい。こういうことは恵美に聞いてみようっと。

 恵美を呼び出して、今日の一部始終を話した。
「お金、どうしようか?」
「すごいじゃん。それなら、私は専業主婦でいいよね?」
「そういうことか?」
「ちゃんと、管理してあげるわよ。確定申告も必要ね。」
「頼むわ、こういうの苦手やし。恵美がいてくれて助かるわ。」
「任しといて。でも、これからもっとくるわよ。会社辞めて専念する?」
「いや、今の仕事気に入ってるんだ。それにいろいろと助けてもらってるし、辞めるわけにいかないよ。」
「わかってるわ。私がちゃんとサポートしてあげる。」
ほんと、恵美には感謝だな。

 いつの間にか、平日は来なくなった。多分、オレの休日だけだと伝わったみたいだ。10時頃から昼までで20~30人くらいやれる。お寺さんみたいに、適当な相場が決まったみたいで、最近は一人5万円くらいに落ち着いてきた。
 まあ、患者にとってみれば、世間で言うセカンドピニオンみたいに、ぴたっと自分の病気などが分かればいいが、なかなか症状から原因がわからなくて、あちこちの病院を行くことを思ったら、一回でわかるからそんな価格でもうれしいのかもしれない。
 だから、その日の稼ぎで100~150万円ほどになる。週2日、50週で100日、ということは、1億円!!?血の気が引くわ。そんなにあっても、どう使えばいいんだ?自分の身の丈にあった使い方しか、できないぞ。とにかく、恵美に任しとこ。

 ある日、一人のスーツ姿の男が来た。彼は名前しか書いてない名刺を出して「佐藤」と言った。
「次の休みにお迎えに上がりますので、是非、お願いします。」
「でも、多分たくさんの来客があるので難しいかと。」
「これは前金です。」

 そういうと箱を置いた。ちらっとふたを開けて見せてくれた。札束だ。げげげっ、すご!だけど、これはきっとそれなりの事情があるのだろう。お金の問題じゃなさそうだ。
「わかりました。事情は聞きません。時間を空けましょう。」
「賢明な方だ。助かります。」
あかん、やっぱり、お金につられてもうた。

 そのまま、その男は帰った。あとに残された箱、おっかなびっくりで見てみると3000万円あった。前金って、言ってたよな。ということはあとでまたお金もらえるのかな?いったい、誰なんだろうか?

 当日、佐藤さんは黒の外車で迎えにきた。こちらもとりあえず、スーツででかけた。この車、全然外が見えへん。どこ走っているのかもわからなかった。2時間も走っただろうか、かなり郊外にきた感じだ。外にでると自然豊かな森の中って感じで、一軒の洋館があった。その中に案内された。

 「こちらの部屋になります。」
そういって、その部屋に入ると、黒いカーテンが掛かっていた。ちょうど、ベットの左端側にだ。たぶん、そのカーテンで誰だかわからないようにしてある。手だけを出せる状態だった。
「そこの椅子に座って下さい。」
ベット脇の椅子にすわった。
「でわ、手を出して頂けますか?今から見て頂きます。」
カーテンのすそから手が出てきた。私はその手に触れた。

 この人は、、、すでにガンが全身に転移していた。たぶん、今の医療では手の施しようがない状態だろう。
「どのようにお話ししたらいいですか?この場所でそのままお話ししていいですか?」
「構いません、どうぞ。」
「すでにガンが全身に転移しています。手の施しようがないと思います。」
「延命はできますか?」
佐藤さんが言った。

 これをやったら、オレはそうとう苦しむだろな。でも、この人は生還できる。すっごく、まよった。
「どうか、助けて下さい。」
そんなこと言われても、今日は消臭剤も持ってきてないし、困った。
「返事に困っているということは、できるんですね。」

 見抜かれた!

「私の生死にかかわることです。この人を助けたら、私が死ぬかもしれない。」
なんとか、ごまかした。
「そうでしたか!仕方ないですね。どうするか、お考えください。やっていただければ、それなりの報酬は差し上げます。」
お金の問題じゃないってーの。

 でも、やらざるを得ない雰囲気だ。
「わかりました。やりましょう。」
「おお、ありがとうございます。」
「いいですか、私がこの人の病気をすべて引き受けます。つまり、吸い取るということです。私はそれをうまく吐き出さないと、私自身が死んでしまうことになります。この部屋の近くにトイレはありますか?シャワーの浴びれるところもほしい。それと脱臭剤か消臭剤がありますか?とても臭い匂いが残ります。」
「斜め向かいがトイレです。バスは一階になります。」
「私が助けることができるということは絶対に秘密にして下さい。で、この人以外はもうやりませんよ。」
「わかりました。」

「じゃ、針をお借りできますか?」
「針?ですか?」
「そうです。」
「こ方の指に針を刺して、そこから吸い取ります。」
「そんなことが?」
「助けたいんでしょ?」
「はい、すぐにお持ちします。」
針を刺さなくてもできるが、念のためだ。久しぶりにやるのか。うまくできるだろうか?でもや
るしかない。

 オレは針でこの人の指を刺した。とたんに血が出てきたので、その指をくわえた。キタ~、すさまじいくらいのガンだ。とってもひどいガン、うう、あまりに気持ち悪すぎる。耐えれるんだろうか?あまりの気持ち悪さに、頭がぼーっとしてきた。

 どのくらい時間がたっただろうか?この人の手からようやく生気がみなぎってきた。あと、少しだ。ほんと、精神的にたまらん作業だよ。
 よし、これで大丈夫だと思ったとたん、あまりの気色悪さにトイレに駆け込んだ。オレのからだのどこにこんなに入っていたのかというくらい汚物が流れでた。吐き気もしてるが、我慢して流しこんだ。下からが収まったので、トイレに顔をうずめて、吐きまくった。水は流しっぱなし。相変わらず、臭い。この匂いには慣れたもんじゃない。また、下からもよおしてきた。上下に何回も出しまくって、ようやく収まった。もう、スーツもぐちゃぐちゃだ。トイレもそこらじゅうに飛び散っている。

 帰りはどうしよう?困ったな。冷静になるとだんだんいろいろと思いつく。とにかく、シャーを浴びたい。
「シャワーに連れていって下さい。」
トイレも廊下もすさまじい匂いだ。オレはよろめく足で、佐藤さんのあとについて、お風呂場に案内された。

「申し訳ありませんが、消臭しておいて下さい。」
シャワーを浴びて、少しまになった。
「ここに着替えを置いておきます。」
さっきの男が言った。
「ありがとうございます。」
たすかった。着替えだ。

 やっと、ましになってきたので、風呂場からでて、さっきの部屋に戻った。匂いもかなり取れている。オレはよろめく演技?をして、ベットに横たわる男の手を取った。もう、なにもない。もう、大丈夫だ。
「すべてのガン細胞はなくなっています。自然に起きてくるまで、このまま寝かせてやって下さい。ただ、オレは人間の寿命をのばすことはできない。病気を取り除いだけです。あと、この人はかなり栄養が偏っている。管理栄養士か誰かに朝昼晩の食事を見てもらったほうがいい。」
「承知しました。本日はほんとうにありがとうございました。」

 しんどかった。もう、いやだ。末期の人は助けたくない。症状が軽い人なら問題ないんだけどね。残りの金額は口座に振り込むというので、口座番号を教えた。
「くれぐれも、ご内密に。」
「私のこともお願いします。」
お互いに秘密だよ。もう、ばたんキューだ。翌日は普通に会社、やっぱりこの方が性に合ってるなぁ。和気あいあいと楽しく仕事をしたいもんだ。



(つづく)


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2020年10月21日

小説 「アレスグート」  第9話

「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」
「ん?なに?」
恵美がマジな顔して聞いてくる。
「週末にちょっと太ったかなと思っても、ヒロシに会ったあと、いつももとに戻ってるの。なんでかな?」
げげっ、感づいてる。
「そうなの?ちゃんと恵美が摂生しているからじゃない?」
「いえ、これは私が思うに、ヒロシはもしかして脂肪吸引できるんじゃないの?」
あちゃー、すごく感がいい。ドンピシャだ。
「いや、そんなことないよ。」
だめだ、ばれたぁ。オレのうそをすぐ見破る。
「ふーん、やっぱりそうなのね。」
「いやーそんなことないよ。」
もうばれてる。
「この体型がヒロシの好みってわけね。」
もう、お手上げだぜ。

「どうりで全然太らないと思った。だって、結構、苦労して体型維持してたのよ。ヒロシと付き合いだしてから、そんな苦労しなくなったもん。」
はいはい、そうですよ。その通りです。
「ごめん、勝手にやってました。申し訳ない。」
「いいのよ。本当にありがたいと思ってるの。私、一生、ヒロシのそばにいさせてね。」
まあ、いい方向に向いてよかったな。

「で、もうひとつ。あのね、すごいことになってるの。」
そういって、恵美に渡していたオレの通帳を見せてくれた。これがなんだ?
 最新のページの最後の記入欄からケタが違う。げげげっ、あの残りの金額って、こういうことか!すご!!なんと、1億も入っていた。宝くじが当たったようだ。もう、普通にサラリーマンさせてもらってくれるかな。あとは普通に生きていきたいぜ。

「恵美はさ、これもってとんずらしようとか思わなかった?」
「そんなことないわよ。ずっと、あなたのそばにいたいもん。」
「ほんと?」
「ほんとよ。」
やっぱ、恵美は、最高!


 ということで、オレらはめでたくゴールイン。新婚旅行は豪華なレンタカーを借りて、日本一周とまではいかないけど、半周かな。東北から北海道へ日本海側を回って帰ってきた。道中はいろんなことがあった。

 最初の宿は福島だった。楽しくドライブして、夕方、旅館についた。お風呂は別々だったので、それぞれ温泉に入り、部屋で合流。食事は食堂で食べた。こんなに食べたら、また太っちゃうねと言ってたけど、そんなことは絶対させない。ちゃんと、オレが調整するのだ。食事を終えて部屋に戻る前に事件は起こった。

 なにやら、ロビーが騒がしい。見ると女の人が苦しんでいる。妊婦さんだ。もしや、破水でもしたのか?恵美が様子を聞いてきた。
「特に破水していないけど、急に苦しみ出したんだって。」
「なんでかな?」
「ヒロシ、見てあげてよ。」
「ん、わかった。」
オレがそばにいって、手にふれた。あちゃ、へその緒がむちゃくちゃになってる。赤ちゃんの首を何周にも巻き付いて、変な方向に向いちゃってる。こんなの治せるのかな?と思う間もなく、正常な位置にもどり、首に巻きついていたのもとれて、元にもどった。オレってこんなこともできるのね。

 妊婦さんはようやくましになったようだ。
「もう、大丈夫だと思いますよ。」
そういって、立ち去ろうとした時、男の人から呼び止められた。
「ありがとうございます。妻を助けて頂いて。」
「いえいえ、手を握っただけですから。楽になったようでよかったですね。」
「本当にありがとうございました。」
特に他は問題なかったから大丈夫だ。

 部屋に帰ると、恵美と二人きり。ようやく、新婚なんだなぁって感じに浸っていた。
「よかったね、あの人。ヒロシ、あんなこともできるんだ。」
「はた目には分からないけど、赤ちゃんの首にへその緒が巻き付いて、変な方向に向いていたん
で、苦しかったみたいだった。それをもとに戻しただけだよ。」
「すごいじゃん、そんなこともできるなんて。」
「私がそんなことになったら、助けてね。」
「あたりまえじゃん。」

 次の日、朝食バイキングで食事をしていると、昨日の人が挨拶してきた。
「おはようございます。もう大丈夫ですか?」
「はい、本当にありがとうございます。」
なんでも、まだ8ヶ月くらいだそうだ。そうだよな、生まれるには早すぎるよな。

「あの、失礼ですけど、高橋ヒロシさんでは?」
しっかり、ばれてる。
「はい、そうです。」
「やっぱり、そうでしたか。どこかで見たと思っていたんですが、やっぱり奇跡を起こせるんですね。」
「いえいえ、そんなもんじゃないです。」
こんな話をし出したら、飯、食えんやろが。だが、向こうもそれに気が付いて、話しを打ち切ってくれた。オレって有名人なんだな。まあでも、新婚旅行っていうプライベートなんだから、許してほしいもんだ。

 今日のドライブは福島から宮城、岩手まであちこち寄ってのんびり走った。今日のお宿はホテル。ちょっと旅館めいたホテルだった。ちゃんと、温泉を引いている。
 恵美は行く先々でお土産選び。まあ、くるまだから乗せれるけどね。でもそんなに誰に渡すんかな?ちょっと、多過ぎくね?まあ、いいか。オレは会社のみんなに1個づつ、北海道で買おうと思ってる。

 夕食の時、オレは異変を感じた。明らかにおかしい。たくさんの料理が盛り付けてあり、それはおいしそうだったが、1品だけ明らかにおかしい。誰もその異変に気づいていない。

「あの、きのこの入った土瓶蒸しは食べないで下さい。」
オレはみんなに聞こえるくらい大声で言った。
「なんなの?」
恵美もさすがにびっくりしてた。
「なんか、やばい。」
給仕さんたちもびっくりしている。

 そこへ料理長らしき人が来た。
「お客様、何かございましたか?」
「この土瓶蒸し、きのこがやばいです。」
料理長は箸できのこを取り上げて見ていたが、突然、
「申し訳ございません。今すぐ、御取替えいたします。」
そう言って、全部の土瓶蒸しを回収した。

「たぶん、毒きのこ。」
小声で恵美に言った。恵美は目を丸くして、驚いていた。そりゃそうだ。今まではからだの調子を見ていたのに、食べる前のものをかぎ分けたのだから。自分でもびっくりした。こんなことがわかるなんて。

 でもなんで、こんなことになったんだろう。ホテルなんだから、こんなことで食中毒を起こしたら、営業停止になってしまうだろうに。あとは、問題なく、おいしい料理だった。支配人らしき人がオレらのとこに来た。
「あとで、お時間よろしいでしょうか?」
「あ、はい、行きます。」

 食後、オレと恵美は支配人室へ行った。
「このたびは、まことに申し訳ありませんでした。お客様がお気づきになられて、事なきを得ました。本当にありがとうございました。今日のご宿泊は無料にさせて頂きます。」
えっ、いいの?ラッキー!
「あれ、結構、毒性の強いきのこじゃなかったですか?」
「はい、よくご存じですね。ホテルの給仕の一人が近くの山で採ってきたんですが、間違えたようです。今後は、ちゃんと管理させますので、今後ともよろしくお願いします。」
ということで、ラッキーなのかよくわからないけど、宿泊無料ということで、よかったのかな。

「ねえ、ヒロシの能力ますますアップしてない?」
「どうやら、そうみたいだね。」
「事前に分かるなんて、すごいね。苦しい思いしなくていいんだもんね。」
「ほんまだね。」
なんか複雑な気分だ。ますますもって、他人に利用されそうな気がする。今後どうなっていくんだろう。

 今日は北海道まで行く。青森からフェリーで北海道へ。なんか久しぶりに潮風にあたって、フェリーなんていい感じだ。天気もいいし、函館でゆっくり温泉だ。毎日、温泉なんてぜいたくな旅だな。フェリーは30分ほど。ふたりで景色を眺めてた。ちょっと、肌寒いかな。その時、恵美が座っていた椅子の角っこで指をケガした。
「痛!」

 オレはすぐにその指をくわえた。そしたら、そのケガを吸い取ってしまったのだ。今まで、ケガまで吸い取るなんてしたことがなかった。どうなるのかわからなかった。
「えっ?なんで?」
一番びっくりしていたのは、恵美だった。オレの口から離れた指には、もうケガなどなかったからだ。あのケガはどうなるんだろう?今までは排せつしたんだけど、ケガはどうなる?

 その時、オレの指に痛みがはしった。指から血がしたたった。
「オレに移ったみたいだ。」
「えっ?そんな?」
恵美がものすごく心配してる。どうやら、ケガはオレに移るだけのようだ。
「ちょっと、トイレにいって出してみるわ。」
「うん、わかった。待ってるね。」
だけど、やっぱ出ない。ケガは流せないことがわかった。オレに移るだけみたいだ。これが大ケガなら、たいへんだな。気を付けないといけないな。

「ケガは移るだけで、流せないみたいだ。」
「そんな。ごめんね。」
「いや、いいってことよ。たいしたことないし。」
「ヒロシのことだがら、私が大ケガしたら、絶対やるんだろうね。でも、それはだめ。絶対にだめよ。」
「大丈夫だ。気にするなよ。」
恵美、涙目。おいおい、そんなことにならないよう、気をつけてくれよ。

 北海道はみんな結構飛ばす。「狭い日本、そんなに飛ばしてどこにいく」ってな感じだ。高級車のレンタカーでゆっくり走る。どんどん、追い抜かされる。まあ、いいってことよ。しかし、雄大だなあ、北海道は。

 しかし、そんな悠長なことは言ってられなくなった。見通しの良い直線路の先で、煙が上がっている。どうやら、交通事故のようだ。すでに、救急車は来ていた。救急隊員がオレを見たとき、いきなり、
「あ、高橋さんですよね、お願いします。」
と大声を上げた。一斉にその場にいた人たちがこちらを見た。ああぁ、またか!恵美と顔を見合わせて、しかたないねとお互いあきらめた。くるまから出て、事故現場に近づいた。げっ、ちょっと待ってよ!

 事故は普通乗用車と軽自動車の正面衝突のようだった。原形を留めていない。即死かもしれないと思ったが、そうでもなかった。なんとか、車から離れた草地に3人が寝かされていた。ひどい傷を負っている。救急隊員に見てほしいと言われて、それぞれ、確認した。一人はやんちゃな恰好をしてる若い男、怪我と打撲だけだからふつうに治療をお願いした。

 次は、たぶんその彼女、こちらも怪我と打撲と、、妊娠してる。その旨を隊員に伝えた。最後の一人は軽自動車側の人、おばさん。こちらはかなりひどい。怪我、打撲は当然あるし、頭の中に出血が見られる。で、内臓からも出血してる。緊急手術が必要じゃん。
「この方を優先して下さい。頭の中に出血がみられます。それと内臓からも出血しています。早急に病院で緊急手術してもらって下さい。」
「はい、わかりました。ありがとうございます。」

 その判断だけで、その場を離れた。くるまの中で、
「最後に見た人、難しいかも。」
「そうなの。かわいそう。」
「でも、こんな見通しのいい道で、なんで事故になるのかな。」
「ほんとよね。」
オレの運転も、恵美の運転も割とゆっくりしているんで、いろんなことに余裕がある。心に余裕を持って運転しないと、事故は減らないよな。

 のんびり新婚旅行を終えて、新居に帰ってきた。やっぱり、あの狭いボロ家じゃなくて、新築のこの家は気分がいい。
 実はオレ、あのボロ家を二束三文で売って、この家に引っ越ししたのだ。仕事はいつもの工場だ。恵美も商社OLを辞めて、専業主婦をしてくれている。オレにもこんな生活がくるんだと心から喜んだ。この生活を一生守って行こうとも思った。これから先、すべていいことだけが待っている、そんな気がしてた。だが・・・



(つづく)


posted by たけし at 17:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月22日

小説 「アレスグート」  第10話

 そんな生活は長く続かなかった。半年も過ぎた頃、突然、警察からの呼び出しで、行った先は病院。恵美はもう冷たくなっていた。死んでしまった人からは何も入ってこなかった。オレは生き返らせることなんか、できやしない。道路に飛び出した子供を助けようと身代りになってトラックに轢かれたのだという。
 ひとりになってしまった。あふれ出る涙と絶望感は止めることはできなかった。恵美の傷を全部取り込んで、、、何度もトライしたが、やはり、死んでしまった人からは何も入ってこない。途方もない暗闇に取り残された気がした。

 真新しい家と笑顔の恵美の写真。オレは1週間経っても、2週間経っても、何もする気が起きなかった。
 そんなオレのところへ会社の社長が訪ねてきた。
「よう、どうだ?ちょっとは落ち着いたか?」
「すみません。もうちょっと時間を下さい。」
「そっか。みんな心配してるぞ。そろそろ復帰してこいよ。待ってるぞ。」
「はい、すみません。」
たぶん、オレの顔は前にも増してひどくなっているんだろうな。そういや、数日何も食べてなかったな。恵美、そばに行ってもいいかな?

 そんなオレのところにお客が来た。
「お願いします。この子を見て下さい。」
「いや、今はやってないんです。」
「お願いします。エミが死んじゃう。」
 えっ、恵美?見ると、まだ、5歳くらいの女の子だった。苦しそうに息をしている。自然と手がでた。
 彼女に触ると、ウィルス性の病気だということが分かった。オレはそのウィルスをすべて消し去った。なんのウィルスか知らないけれど、全部、消滅させることができた。と、とたん、彼女はあれ?っという顔をした。そりゃ、そうだ。悪い原因がすべてなくなったのだからね。

 でも、彼女にはわかっていた。
「おじちゃん、ありがと。」
オレまだ、おじちゃん、ちゃうし。
「よかったな。治って。」
彼女はにっこりわらった。その女の子のお母さんらしき人は、たいそう喜んで、何度もお礼を言って帰っていった。エミちゃん、か。
 あれ、オレ今、ウィルスを死滅させたよな。そんなこともできるようになったのか!また、進化したのかもな。

 ようやく、少しはやる気が出てきたオレは、会社に出社した。
「とても長らくご迷惑おかけしました。」
「もう、大丈夫か?」
「ゆっくり、リハビリせぇーよ。」
みんなから暖かい声援を頂いた。この会社はほんとにいい会社だ。また、がんばろうと思った。

 落ち着いて整理すると、恵美のものが出てくる。それをひとつの部屋に集めて、思い出の部屋としておいておいた。それと、オレの能力も少し変わったし、吸い取らないで消滅させることができること、これがよかった。トイレに駆け込まなくていい。
 やはり、休みには人が訪ねてくる。一応、見てあげている。簡単なものはその場で治すこともしている。食生活のアドバイスもする。そんな生活にも慣れてきた。

 久しぶりに佐藤さんが現れた。
「お願いできますか?」
「またですか?」
「はい。」
「わかりました。いつですか?」
「来週、迎えにきます。」
「わかりました。」
そんなことで、来週はまた、大口の仕事だ。しかし、そんなにもらっていいのだろうか?多分、いいんだろうな。

 どんな人かはわからないが、いろいろと試してみたい欲求に駆られていた。自分はどんなことができるのか?佐藤さんの運転する車で、いろいろ考えていたが、いつの間にか寝てしまった。

「着きました。」
「あ、はい。」
くるまから降りると、どこかの地下駐車場だった。そこから、彼のあとについていくと、最上階直行のエレベーターだった。最上階が何階なのかはさっぱりわからない。
 最上階につくと廊下ではなく、玄関だった。そこから、豪華な寝室へ案内された。前と同じでカーテンで仕切られたベットに誰かが横たわっている。
「お願いします。」
「わかりました。」
オレはカーテンから見えた手に触った。

 女の手だった。それもまだ若い。オレはてっきり政界かなにかのじいいかと思っていた。この人、やばい。もう、長くない。1ヶ月も持たないだろう。
「どうします?といっても、治してくれってことですよね。」
「はい、お願いします。」
「なんとかやってみます。」
まず、リンパ腺から広がってしまっているガン細胞をやっつけることから始めよう。もう、いちいち吸い取らなくても、握った手から攻撃できる。結構、あっちこっちにガン細胞がある。

 しかし、このガン細胞ってやつは、宿主が死んだら自分も死んでしまうのに、なぜそれが分からないんだろう。アホな細胞だ。
 握っている左手から、右手、右足、左足、下半身から上半身まで、それから頭へ。脳にも転移している。これは、多分手術でも無理なんだろう。すべてのガン細胞を削除してしまうまで、1時間ほどかかった。
 今度は放射線。こんなに一杯浴びたのか。かわいそうだよな。これは吸い取るしかなかった。あとで、出してしまおう。さて、あとひとつ。変なウィルスがいる。よくわからないが、正常な細胞が活動するには邪魔なウィルスだ。これもすべて削除、完了。きれいさっぱりだ。

 とりあえず、出してこよう。
「トイレはどこですか?」
「こちらです。」
案内されたトイレはとてもきれいだった。汚さないようにしなければな。今回は放射線だけ。そんなにきつくなかった。匂いもそんなでもない。でも、一応、消臭剤をまいておいた。

 部屋に戻って、また、彼女の手を握った。きれいさっぱりだ。でも、かなり衰弱している。いろんな栄養素が不足しているのもわかる。とにかく、カロリーを補給しないといけない。
「点滴でカロリー補給をお願いします。」
そばに看護師さんがいたらしく、私の握っている手と反対の手から、補給されるのがわかった。

 「目を覚ましたら、管理栄養士さんにでもお願いして、バランスのよい食事を食べさせてあげて下さい。最初はなかなか食べれないかもしれませんが、徐々に増やしていって下さい。」

「助かるんですか?」
カーテンの向こうで年配の女の人の声がした。
「もちろんです。もう、悪いとこは、何一つ残ってないです。」
「ありがとうございます。」
年配の女の人のすすり泣きする声や数人の人の気配がした。

 帰り際、必要なこと以外しゃべらない佐藤さんは質問をしてきた。
「もう、ご自分の命に係わることはなくなったのですか?」
「どうやらそのようです。ちょっと進化したみたいです。」
「ではまた助けて頂けますか?」
「いいですよ。」
彼は数日のうちに、オレの口座に報酬を入れておくと言って、うちまで送ってくれた。

 相変わらず、すごい金額が入金されていた。9桁?こんなにもらっても使い道がない。もう、恵美もいない。そのうち、寄付でもしようかな。

 自分の脂肪を排出して気付いたことだが、脂肪を筋肉へ変換できるんだ。いちいち排出せずに筋肉に変換すればトイレにいく手間もはぶける。なんか、筋肉はなにもしないと徐々に減っていってしまう。だから、減った部分を増やしてしまえばいいのだ。割と簡単だ。細菌やウィルスは削除できるし、脂肪は筋肉に変換できる。便利なんだが、それを共有できる恵美はもういない。それだけが悲しい。

 だけど、オレって、突然変異なのかな。こんなことができるなんて、普通じゃないよな。もしかして他にもそんな人がいるのかな。いろんな考えが駆け巡る。オレはこれからどんな人生を生きていけばいいんだろ?ずっと、人助けなのかな?それもいいのかも知れないな。

 平日はいつもの通り、昔からお世話になっている工場勤務。休日は午前中だけ、オレを頼りにしてきた人を見ている。医者じゃないから、このままやっていると逮捕されるのかな?と少々不安にもなっている。
 だが、佐藤さんが依頼を断らないことを条件に、その心配を解消すると言っていた。いったい、どこの誰なんだ?全国からオレの噂を聞きつけて、いろんな人がやってくる。報酬はなしで対応することにしたが、ほぼすべての人がほんの気持ちですからと、数万円おいていく。普通に働いているし、佐藤さんから多額の金額を頂くし、本当にいらんのだけどね。

 いつものように、休日に対応していると、珍しくきちんとした身なりの上品な若い女性が訪ねてきた。結構、笑顔のかわいい人で、オレより若い感じがした。
「先日はどうもありがとうございました。」
えっ?こんな人に会ったことないけど?
「と言っても、私も初対面です。」
そういって、クスっと笑った。

 ああ、そっか!あの時の。もう、こんなに元気になったのか。
「よかったですね。結構、元気になられてますね。ちょっと手を。」
そういって、手を握った。うん、もうなんともない。栄養状態もかなりよくなっている。
「あなたのおかげで新しい人生を歩んでいけます。本当にありがとうございました。」
「今は全然、問題ないです。健康体ですね。でも、こんなところに来て大丈夫なんですか?」
「たまに一人で好きなところに行ってます。あとで怒られますけど。」
そういって、クスっと笑った。明るい人だ。こんな人を助けられてよかった。
 彼女は有名なお店のケーキを買ってきたので、一緒に食べましょうと言ってきたが、あいにく、それに合う飲み物がない。
「インスタントのコーヒーでよければ。」
「是非。」
そういって、クスっと笑った。よく、笑う。それから、他愛もない話をして、ひと時を過ごし、彼女は帰って行った。なんとなく、恵美を思い出していた。本当は毎日こんな日があったはずなんだよな。

 このまま特に変わったこともなく、こういう人生を送っていくんだと思っていた。でも、ネ申はひまなんだろうな、オレにいたずらをしかけてくる。オレはまた、新しい能力に気が付いた。
 脂肪を筋肉に変えれるということの変形バージョンで脂肪からウィルスや細菌などを作れるのだ。見たことがあるウィルスや細菌ならつくれる。今までの逆だ。これでは人を助けるんじゃなく、病気にさせることになってしまう。つまり、そういうもので人を殺せることになる。こんな能力は絶対に使わない。そう思った。昔から見ただけでその人が病気なのかわっていたが、触らなくてもだんだん詳細がわかるようになってきている。同じように触らなくても治せるようにもなってきている。どこまで、バージョンアップするんだろう。

 休日の対応をしている時、新しい試みをしてみた。白血病の男の子だったが、多くなった白血球を少なくなった赤血球や血小板などに変換し、白血球を生み出しているところを通常の機能に戻してみた。こうすれば、オレにリスクはない。それにもっとすごいことができた。複数人を同時に治せるのだ。もしかしたらと思って、まずは2人を同時にやってみた。どちらも問題なく対応できた。それから人数を増やして、おなじような症状なら同時に対応できる。進化しすぎだろ。

 佐藤さんから緊急で連絡が入った。
「今すぐ、お願いできませんか?」
それは、水曜の夜だった。オレはこれから晩飯を作ろうとしていた矢先だった。断るわけにいかないなと思って、
「わかりました。」
「でわ、すぐに。」
連れて行かれた先で待っていたのは、今にも臨終を迎えそうな中年の男の人だった。

 死ぬにはまだ早い、若すぎる。彼はなんども手術を繰り返して、体力も弱っていた。臓器も恐らくダメになったものがあちこち取り除かれていた。こんなにむちゃくちゃになっていたんでは、もうだめと思うわな。オレは弱っていく彼の意識に「頑張れ」と呼びかけた。
 えっ、こんなことできるん?我ながら、びっくりした。でも、彼はなんとかオレの呼びかけに答えてくれた。
「今から治すから、がんばってくれ。」
「お願いします。」

 たくさんあるガン細胞をすべて、脂肪に置き換える作業から始めた。消去するより、置き換えて有益なものにしていく方がいい。放射線も変換できる。細菌も、ウィルスもみんな脂肪に置き換えた。
 それから、半分以上なくなった胃を脂肪で成形し、もとの状態に戻した。ほぼなくなっていた大腸も脂肪で作った。肝臓もちゃんと2つにした。あちこちで細くなって詰まりかけている血管も通常の血管に戻した。頭の中の動脈瘤も失くした。足らない栄養素も脂肪から変換し、からだの必要なところに送った。
 だが水分が足らない。オレは点滴で水分補給をお願いした。もう、これでだいじょうぶだ。彼の意識は眠っていた。ゆっくり休んでくれ。おれは何一つ吸い取らないで対応できたのだ。

 「最近、変わりましたね。」
帰りのくるまで佐藤さんが言った。
「うん。」
オレは短く返事した。本当に変わった。あんな苦しい思いはしないで済む。休日の対応でいろんなことを試して、できるようになっている。人の意識と会話もできるようになっている。どうなっているんだ、オレ。

 いつものように佐藤さんからの連絡。行きしな、
「今回は外国の方です。」
と言われた。恐らく大丈夫だろう。同じ人間なんだし。いつものようにカーテンが掛かっているかとおもいきや、今回はそうではなかった。

 ベットに寝ている人は有名な歌手だった。オレだって知っている。横に通訳がいる。私の顔をみるや、英語であいさつをしてくる。すかさず、通訳が入った。
「はじめまして、私のためにありがとうございます。」
「いいえ、気にしないで下さい。」
「医者ではないのに治せると聞きました。」
「はい、大丈夫です。安心していて下さい。」
「よろしくお願いします。」
「でわ、リラックスして目をつむっていて下さい。」
私は、彼女の手を取った。

 やはり、ガン。喉頭ガン。あとはいろいろと少々問題のある個所も。この人は脂肪が多い。でも、一旦、ガンを脂肪に置き換えた。これで、また歌える。脊椎の変形も治した。腰痛もなくなっているはず。筋肉質なので脂肪を筋肉にする必要はない。栄養素の足りないものに一部変換し、それでもまだ多すぎる。内臓脂肪はきれいに取った。やはり、吸わないといけないな。彼女はとっくに眠りについていた。
「あの、ひとつ質問していいですか?」
「なんでもどうぞ。」
「彼女の体脂肪率を減らしていいですか?」
「そんなことができるんですか?」
「今現在、多過ぎるので30%くらいに下げますね。」
「お願いします。」
「今日はトイレをお借りします。」
そう言って、脂肪を吸い取った。

 だんだん、オレのことが世界中に知れ渡っていくのかな?あんな有名な歌手からも依頼があるなんて。えらい人たちは口が軽いぜ。でも、報酬もすごい。さすがは何十億も稼いでいる人は違うな。オレの通帳は、ほぼ使わないので桁外れの金額になっている。
 ある日、銀行マンがやってきて、大口定期にしてもらえないかって言ってきた。何もわからないオレは、銀行マンの言われるがまま、とりあえず10億を1年定期へ。あとはそのままに。これが個人資産なんだね。信じられないや。



(つづく)


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