2020年10月23日

小説 「アレスグート」  第11話

 もうオレは、休日対応では報酬をもらわないことにした。すべて無料にした。ただし、休日の午前中だけ。それ以上はオレのプライベートがなくなってしまう。
 最近は外国人も多くなった。言葉が分からなくたって問題ない。悪い個所をメモし、ホスピタルと言うと喜んで帰っていく。休日対応では基本的に治さない。自分の身を守るためだ。治せることがわかると、自分の生活が確保できなくなるからだ。

 早いもので、オレは30になった。この能力が分かってから、生活が一変した気がする。そんな時、アイツが現れた。休日対応でアイツがきた。オレより、年上の40歳くらいの男だ。
「高橋くんだね。診断だけではなく、治せるんだよね。」
「いえ、診断だけです。」
「うそを言うな。オレには分かっているんだ。」
なんだ、この人?
「悪いけど、君には死んでもらうよ。」
そういうとオレの腕を掴んできた。

 とたん、自分の体に毒が入ってくるのを感じた。なんだ、コイツ?オレもその毒を相手のからだに戻した。
「ほう、そんなことができるのか。」
アイツは一旦オレの手を放した。
「今日のところは退散だ。また、来るから、覚悟しておけ。」
「おまえはいったい何なんだ?」
アイツはニヤリと笑って出て行った。いったい、アイツは?なんでオレを殺そうとするんだ?

 急に敵が現れた。オレを殺そうとしている。アイツはからだに毒を送り込んでくる。普通の人間なら、死んでしまうんだろう。オレは毒も変換できるし、相手に戻すこともできる。からだに入ってくる異物は除去できるのだ。
 だけど、アイツはなんなんだ?なんで、オレを殺そうとするんだ?オレがいたらまずいのか?毒殺しようとして無理だと思ったら、今度はどういう手でくるんだろう?ちょっと、不安になった。

 また、佐藤さんから連絡が入った。緊急だという。くるまの中で、
「今回は病気というより、毒を盛られたようなんです。」
と佐藤さんが言った。アイツの顔がよぎった。アイツ、暗殺者か?

 部屋に着いて、患者を診ると、あの毒だ!間違いない。アイツに盛られたんだ。すぐさま、毒を消去した。別に脂肪に変換させなくても、消去できることが分かっていた。ついでに他の問題点を治しておいた。
「間違いなく、毒でした。」
「やはりそうでしたか!」

 アイツはいったどこの回し者なのか?帰りのくるまの中で、佐藤さんに言った。
「オレは毒を盛ったヤツに心当たりがあります。」
「本当ですか?」
「実は、そいつはオレを殺しにきました。」
「えっ?」
「そいつが使った手が毒殺なんです。その毒と同じでした。」
「でわ、あなたの身辺に警備を置いておきます。」
「そこまでしなくても大丈夫です。」
「いえ、あなたがいなくなる非常に困ります。念のため対応しておきます。」
ということで、私に護衛がついた。らしい。どこにいるのか全然わからない。さすがですわ。

 なんか、命を狙われているとなると、気が休まる暇がない。最悪、刺されたり、撃たれても、そいつにキズを転送できるのが分かっている。でも、あまりの痛さにそんなことをする余裕があるかどうかわからない。大丈夫だろうか?

 会社からの帰りに事が起こった。そいつはバイクでオレに突っ込んできた。後ろからだったので、気付くのが遅れたオレは避けるのが間に合わない。瞬間見えたことだが、オレを轢くのと同時に切り付けようとしていた。フルフェイスだったので、誰だかわからない。

 やられたと思った瞬間、オレは公園にいた。見覚えのある、家の近くの公園だった。でも、あの現場からかなり距離がある。どうなっているんだ。
「お怪我はありませんか?」
しらない声だ。声の主は、、、やはり、知らない人だった。
「どうなっているんですか?」
「安全な場所にお連れしました。」
状況がわからない。

 「私は護衛のものです。危険が迫っていたんで、この公園にお連れしました。」
「いったい、どういうことですか?」
「あなたと同じです。わたしはこういう能力をもっているんです。」
すべて合点がいった。こんな能力をもった人たちがいる。つまり、オレだけではないんだ。
「ありがとうございます。助かりました。」
「でわ。」
その人はすぐ去っていった。さすがは護衛だ。

 この世には、オレみたいな能力をもったヤツが他にもいたんだ。オレみたいに目立つようには生きていない。たぶん、この能力を持っていることを隠して、影でひっそりと生きている。どれくらいいるんだろう?ちょっと安心したような、不安なような複雑な気持ちだった。

 休日の対応は続けることにした。それなりにオレを頼ってくる人がいる。すると、アイツが現れた。
「おっと、そんなに身構えなくてもいいですよ。今日は何もしませんから。」
「何の用だ?」
「あなたはすごいですね。あんなこともできるんですね。」
瞬時に移動したこともオレの能力だと思っているらしい。
「それがどうした?」
「私たちの仲間に入りませんか?」
突然、何を言う?
「暗殺集団か?」
「いつでもするわけではないですよ。本当に必要な時だけです。」
「オレは人を助ける仕事をしている。殺すなんて考えられない。」
「いや、あなたはそれだけでいいんです。他のことはほかの人がやりますから。」
「いったいどんな組織なんだ?」

 アイツは小林といった。その組織とは、オレのような能力をもったメンバーが集まった組織でそれぞれの能力に応じて仕事をしてもらっているらしい。オレを殺そうとしたのは、オレのようにスタンドアローンで行動していて世間に知られてしまっている能力をもった人は邪魔ということらしい。
 だが、思った以上に能力を持っているので、組織のメンバーに迎え入れたいということだ。だが、オレにはあの佐藤さんとの付き合いがある。佐藤さんの組織にも能力をもったヤツがいる。まあ、即答はできないと時間的な猶予をもらって、今日のところは帰ってもらった。

 なんかだんだん面倒くさくなってきた。オレの好きなようにはいかないみたいだ。
 佐藤さんから連絡があった。今度はいつもの仕事ではないようだ。
「どうやら相手は一筋ならないようです。」
「どういう意味ですか?」
「敵対する相手ということです。」
「そうなんですか!」
やはり、この佐藤さんとは別組織の連中のようだ。

「どうするんですか?」
「取りあえず、護衛はつけたままにしておきます。」
言おうかどうか迷ったが、
「実は相手が自分たちの組織に入らないかと言ってきました。」
「そうでしたか!で、どのように返事されたんですか?」
「即答は避けました。」
「賢明です。あなたは今まで通りでいいと思います。」

 もしかしたら、佐藤さんの組織に入れと言われるかも知れないと思っていたが、そうではなかった。
「ところで私を護衛している人は普通の人ではないですね。」
「はい、あなたのように何かあればお願いしている方です。」
ほかにもどんな人がいるのか、聞きたかったが、多分答えてはくれないだろうな。
「もう、あなたを勧誘する人はこないようにしておきます。」
「そんなことができるんですか?」
「はい、問題ないです。」
佐藤さんの組織って、いったいどんな組織なんだ?まあ、でもこれで少しは安心できる。

 そんなことがあってから、しばらくは外出や通勤時は緊張する日々だったが、日が経つにつれて特に何も起こらなかったので、緊張は薄れていった。オレの日常はいつもの通りになった。もう、警備はなくなっているのだろうか?疑問に思うこともあるが、まあ、平穏無事ならいいとするか。

 ある日、会社からの帰りに寄った本屋で、オレの隣で本を探している女性が気になった。調子が悪いはずなのだが、元気そうに見える。オレは声を掛けてみた。
「あの。」
「何でしょうか?」
「元気そうなんですが、調子悪くないですか?」
「はぁ?」
そうだよな。そんな質問、おかしいよな。
「あ、ごめんなさい。気にしないで下さい。」
ちょっとはずかしくなった。

「あっ、高橋さんですよね?どこかで見たことがあると思ったわ。」
ちょっと、ほっとした。オレを知っていてくれると話が早い。
「なんか体調が悪い感じがするんですが、見た目は元気そうなんで不思議な感じがするんです。」
正直に言ってみた。
「へぇ、そうなんですか?確かに私、元気ですよ。今のところ、どこも悪くないです。」
「でも、一度、検査された方がいいような気がします。」
彼女は手を差し出して、
「じゃ、見て下さい。」
「わかりました。」
手に触れたとたん、すべてが分かった。

 この人!自分でくいとめている!多分、すい臓に腫瘍があるが、成長しないように自分でくい止めている。でも、多分自分では全然気が付いていない。だから、元気のままなんだ。オレはその腫瘍をインナーマッスルの筋肉組織に変換した。結構大きな腫瘍だった。

「どうなんですか?」
「あ、いえ、もう大丈夫です。」
「そんな気がしました。だって、もっと元気になった気がするんです。取り除いてくれたんでしょ?」
「あ、はい。」
「よかったぁ。じゃぁ、もう安心ね。」
この人、なんとなく雰囲気が恵美に似ている。

「私、大滝香織って言います。見て頂いてありがとうございます。」
「あ、オレ、高橋洋です。」
「知ってますよ。」
「そうでしたね。」
ちょっと、緊張している自分がいる。やっぱり、恵美に似ている。でも、ここまでにしとかなくっちゃな。そう思っていたら、
「今度、お食事、どうですか?見て頂いたお礼に。」
「あ、いや、結構ですよ。たいしたことしてませんから。」
「お礼は口実。ちょっと一緒にお話しできたらなと思って。嫌ですか?」
「いえ、そんなことないです。」
「じゃ、きまりですね。」
半ば強引に彼女の誘いに乗らされた。よかったのかな。



(つづく)


posted by たけし at 17:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月24日

小説 「アレスグート」  第12話

 次の休みのお昼に、香織さんと食事に行った。やっぱり、雰囲気が恵美に似ている。話せば話すほど、恵美と重なる。なんか、涙がこぼれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、いえ、大丈夫です。あまりに亡くなった妻に似ているので。」
「奥さん・・」
彼女は絶句していたようだ。彼女に恵美と結婚してすぐ事故で亡くなった話をした。
「とても悲しい思いをしてたんですね。私、悪いことしちゃったかな?」
「いや、そんなことないです。大丈夫です。」

「あの、私じゃ、奥さんの代わりになれないですか?」
彼女は意を決したように言った。
 オレはこのことで、彼女が去っていくとばかり思ったから、この質問にはびっくりした。
「いや、そんなことはありませんが、あなたが嫌な思いをされると思ったものですから。」
「じゃ、いいですよね?」
「ええ。」
「やったー!」
あまりに意外だった。そんなことになるなんて。

 オレは恵美が香織さんになって、戻ってきてくれたように思った。でも、そんな思いでいいのだろうか?やはり、彼女は別人格なんだろうし、そんなふうに思うと失礼じゃないかな。でも、少しなら。。。とにかく、オレと香織さんはつきあうようになった。

 香織さんは、人見知りしない。あれ?友達だっけ?と思うほど、普通に話をする。オレの職場にも顔を見せるようになった。最初は、お昼前に突然、やってきた。
「おい、高橋、お客さんきてるぞ。」
「あ、はい、今行きます。」
「美人なお客さんだぞ!」
「なんで高橋ばかり、そんなお客さんが来るんだ?」
「どれどれ、拝見してこよう。」

 みんな、好き勝手に言ってる。誰だろうと事務所の来客ソファーを見ると、香織さんだ。なんで?
「あ、ヒロシさん、お弁当もってきました。」
「おお、ええなぁ。」
「オレもほしい!」
外野がうるさい。
「あれ、みなさんも欲しかったですか?じゃ、今度、作ってきましょうか?」
おいおい、そこまでするか?なんか、勝手にみんなと、次回、作ってくると約束してる。誰に会いにきたんだ?まあ、いいか。

 香織さんは明るく、すぐ打ち解けて、誰とでも友達になれる人みたい。オレの職場であっという間にみんな知り合いみたいだ。オレと付き合っているんだよな?と言いたくなる。でも、オレも楽しくなるから何も問題ない。これから先、今度こそきっと、いいことが待っているに違いない。
 大滝香織、26歳、オレの会社と同じくらいの規模の会社の事務員をしている。たまたま、オレの会社の近所の会社。だから、しょっちゅう、顔を出す。仕事、いいのかな?会社ではなんかいつの間に公認の仲になっている。
 飲み会などにも、勝手に来る。でも、みんな普通に歓迎してくれている。背はちょっと高い方、ちょっとポチャリ体型かな。まあ、でも好きな体型にできるから気にしない。

 やはり、香織さんはあまり病気にならない方だという。そりゃそうだよな。自分でくい止められるんだからね。オレは会うたびにちょっとづつ脂肪を吸引していった。3ヶ月で5、6キロは減ったと思う。いつ気付くだろうか?

「ね、ね、私、ちょっときれいになったと思わない?」
「うん、最近、そう思ってたよ。」
「でしょ、5キロ痩せたのよ、すごいでしょ?」
「へぇ~、そうなのか。頑張ってるね。」
「ううん、全然頑張ってないの。気が付いたら減ってたの。」
「へぇ~、そんなことがあるんだ。」
「そうなの、びっくりよね。」
大丈夫、もう少し減って頂きます。オレ好みの体型にするのだ。内臓脂肪をとっぱらってしまえば、もう1キロは痩せると思う。
「ウェストもだいぶ痩せたの。いろんな服がかっこよく着れるわね。うれしい。」
よかった、気付いていない上にかなり喜んでいる。

 ある日、香織さんは神妙な面持ちでこう言った。
「あの、聞いてほしいの。」
「何、改まって。」
「いずれ分かることだけど。私特異体質なの。」
「ん?どんな?」
「ちょっとしたキズならすぐに治るの。子供の時からずっとなの。」

 たぶん、病気をくい止めれる体質のことは知らないだろう。でも、キズを直せるなんてすごいな。
「そうなの?すごいな。」
「気持ち悪くない?」
「全然、オレ自体が病気が分かる体質だもん。」
「あ、そっか!」
おいおい、今頃かい?香織さんはかなり安心して、ほっとしてにこやかな表情になった。マジ、心配してたのか?びっくりだ!

「なぜ、こんなこと、告白したと思う?」
「ん~、なんででしょう?」
「私のこと、お嫁さんにしてほしいの!」
こっちの方がびっくりだ。

「えっ!」
「だめ?」
「そんなことないよ。でも、いきなりでびっくりしたよ。」
「じゃ、いいの?」
この勢いに負けてしまった。
「いいよ。」
「うれしい。」
そう言って、香織さんは抱き付いてきた。ん~、もうちょっと、吸引したほうがいいかな?

 香織さんは一人でマンションに住んでいた。セキュリティの厳重なマンションだ。女のひとり住まいならこれくらいじゃないとね。両親はとうの昔に亡くなってしまっていて、独り身だという。オレと同じだ。

「オレんとこに引っ越すかい?」
「えっ、いいの?」
「だって、オレの奥さんになるんだろ?」
「うれしい。ありがとう。」
恵美、勝手に決めたけど、許してくれよ。

 次の休みにオレは恵美の荷物を整理した。恵美のことはオレの心の中だけに留めておく。これからは、香織と生きていく。
 翌日、香織の荷物が届いた。女の人の荷物は思った以上に多い。なんでこんなにあるのだ。
「すごい。こんなに広いの?びっくり!」
香織は恵美と住んでいた家にこだわりはなかった。素直に喜んでいた。
「本当に一緒に暮らしていくのね。うれしい!」
家の隅から隅まで見て回り、ひとりではしゃいでいた。よかった。これで本当によかったんだ。

「オレは2度目の結婚だから、あまり盛大にできないと思うけど、構わないかな?」
「うん、平気よ。」
「その代わり、ハネムーンには行こな。」
「了解です!」

 でも、会社の社長は、
「アホか!香織ちゃんは初めてなんだろ?盛大にやらんでどないする?」
と文句を言ってきた。
 会社のみんなも香織を知っているし、みんな大好きなんで、結局、結婚式は盛大にすることになった。身内だけの結婚式と言っても、身内はオレにも香織にもいないから、両方の会社のみんなが集まってくれた。すっごく、うれしかったけど、くたびれたよ。香織もうれしそうだった。

 次の日は旅行。社長に何度もすんまへんと謝りまくったが、しっかり働いてもらうからという条件で1週間の休みをもらった。オレたちはハワイへ旅立った。



(つづく)


posted by たけし at 18:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月25日

小説 「アレスグート」  第13話

 オレも香織も初めての海外旅行。英語もよくわからんが、なんとか香織が対応してくれる。ハワイは暑い。結構、豪華はホテルで豪華な旅行。香織はびっくりしていたが、まだこんなことができる事情を話してなかった。
「いくら旅費は出してくれるって言ってたけど、これはやり過ぎじゃない?」
「全然、大丈夫だよ。」
「これからの生活、最初にこんなに使ったら、大変なんじゃない?」
「だから、全然大丈夫だよ。」
「どうしてなの?」
「実は会社だけじゃなく、別の収入があるからなんだ。」
「何それ?」

 オレは佐藤さんのことを説明して、とてつもない収入のことも打ち明けた。
「その金額っていうのは、、、んん~、あまり聞きたくないような。」
「オレたち夫婦なんだから話しておくと、宝くじの1等が数回当たったくらいになる。」
「え”~、ヒロシさんってそんなお金持ちだったの?」
「だから、週末の一般の健康確認作業は無償でやっているんだ。昔は1人あたり5万円くらいくれたけどね。」
「すご過ぎ!」
香織はひっくり返りそうだった。

 まあ、だからと言って、贅沢三昧の生活はしてないし、普通にやっている。その点、香織も同意してくれた。元々、香織も贅沢をする方ではなかったので、今まで通りの生活が出来たらいいと思っていたらしい。なんかあった時に安心できるお金を貯金したいくらいに思っていたので、すっごく助かると言っていた。

 ハワイの夜、レストランへ食事に出かけた。やはり、ここは量が半端ない。そんなに食えるか!というほどの量がある。ちょい少な目を注文したいが、そういう訳にはいきそうもない。香織もなんとか注文してくれたが、そんなことを説明する英語力がないのだ。

 突然、奥のテーブルでガラスの割れる音がした。かなり、ワイワイ騒ぎになっている。
「どなたかお医者様、いらっしゃいませんか?」
そんなことを言っていると香織が教えてくれた。仕方ないな。
 オレは、
「ちょっと見てくる。」
と言い残して、奥のテーブルへ向かった。そこには、からだの大きな外人さんが倒れていた。
「エクスキューズミー。」
オレはその外人さんの手に触れた。
 心臓の血管が詰まっている!すぐに詰まりを解消して血流を確保した。その外人さんは苦しそうに胸を押さえていたが、あれ?という感じで起き上がった。
 そりゃそうだ。もう、問題はない。
「ノープロブレム。」
オレはそう言って、香織のところに戻った。

「何だったの?」
「心筋梗塞で心臓の血管が詰まって苦しがっていたんだ。」
「もしかして治したの?」
「うん。」
「え”~、そんなことできるの?」
このことは言ってなかった。

「実はそうなんだ。詳しい話はホテルの部屋に帰ってからね。」
香織は眼を真ん丸にして、びっくり。

 部屋に帰ってからは、香織の質問の嵐。
「詳しく教えて!」
「実はね、健康状態を見るだけではなく、ほとんど、治すこともできるんだ。」
「例えば?」
「インフルエンザウィルスを死滅させたり。」
「すっごい、ほかには?」
これが延々と続く。

 ある程度、話し終えたら、香織は、
「ヒロシさんって、すご過ぎ。私なんか大したことないよね。」
「いや、自分のキズを治せるなんて他にはいないよ。」
「だけど。。。」
「そんなこと気にしないでいいよ。何かあったら、全部オレが治してやれるんだから、安心してほしいし、自分のできることとオレのできることを比べて、落胆する必要は全然ないよ。」
「そっかなぁ。」
「ああ、その通りだよ。」
まだ、話していない脂肪吸引は絶対秘密にしておこうっと。ようやく、落ち着いて、
「私って、そんなすごい人のお嫁さんになったのね。」
かなり、感動していた。

 翌日、海へ二人で行った。あまりに暑いので、泳ぐことなくヤシの日陰でくつろいで、冷たい飲み物を飲んでのんびりしていた。
「こんなところでのんびりできるなんて、いいねぇ。」
「ほんと、幸せだわ。」
「木陰はいい感じだよね。」
「うん、丁度いいわ。」
こんな感じでまったり過ごしていた。

 海という場所はリフレッシュもできるが、気を付けないと思わぬ危険も潜んでいる。
 波打ち際で遊んでいた子供たちの間が騒がしい。ひとりの外国の男の子が、陸に運ばれて何やらやっている。香織と思わず、顔を見合わせた。
「行ってくる。」
そう言って、オレはその場所に向かった。

 男の子の足がえらい腫れている。オレは人をかき分け、男の子の足に触れた。何かに刺されて、その毒で腫れたみたいだ。とにかくその毒を消去して、刺されたところから侵入しているばい菌も消去した。これで、痛みもなくなって、腫れも治まってくるはずだ。まわりでは英語で何やら騒いでいるが、そんなのお構いなしで対応した。これで問題ない状態を確認して、その場を離れた。

 香織のところに戻ってきて、
「対応完了。たぶん、魚かなにかのトゲが刺さって、毒が入ったみたいで、腫れてた。」
「もう、問題ないの?」
「うん、もう大丈夫。」
「よかったね。」
あれぐらいは大したことない。あの男の子もうそみたいに痛みがなくなって、腫れが引いて問題なくなっているだろう。

 ところが、男の子の周りにいた連中が、こっちを指差してなにやら騒いでいる。あちゃ~、めんどくさくなってしまったな。
「香織、一旦帰ろうか?」
「え、なんで?」
「めんどくさくなってきた。」
でも、間に合わなかった。すぐに囲まれた。みんながなんやかんや言っているけど、全然わからない。
 香織によると、オレが触ったあと、腫れが引いて治った。なんでそんなことができるんだ?とか、いったいどういうことなんだ?とか言っているらしい。
 そこへ二人の男女とさっきの男の子もやってきた。何やら言っているが、オレにはさっぱりわからない。香織によると、お礼を言っているらしい。どうやら、オレは医者と間違われているようだ。医者じゃねぇ~し。

 香織がうまく言ってくれたらしく、みんな去っていった。
「で、なんて、説明したの?」
「魚とかの毒を抜き取るのが得意なだけだと言っておいたわ。」
「そんなことで、みんな納得したのかな?」
「そうみたい。」
ほんまだろうか?

 晩はイタリアンがいいということで、イタリアンの食べれるレストランへ行った。ハワイはどこ行っても量が多い。こんなに食えるか!と言いたくなる。まあ、でも仕方がない。二人で1人前で充分な気がしたが、2人前を注文。ゆっくり時間を過ごすことにした。
 ところが、隣のテーブルのかなり重量のありそうなご婦人が、気分が悪いと言い出した。そのまま気を失ったのだ。

 仕方ない、オレの出番だ。オレは立ち上がって、そのご婦人のところへ行き、手を取った。頭の血管が切れている、一刻を争う事態だ。すぐに、血管を修復し、漏れでた血液をいったんご婦人の問題なさそうな太ももの脂肪に変換。圧迫されていた脳は元の通りにした。今のところ、他に問題個所はない。もう大丈夫だ。普通は救急車が来る前に死んでるよな。
「香織、隣の殿方にもう大丈夫だと言ってくれる?」
香織はうなずいて話してくれた。隣の殿方は恐らくご婦人の旦那様だろう。サンキューという言葉はわかったが、ほかはわからない。詳しい内容は言えないが、彼女はもう大丈夫だと伝えてくれたらしい。念のために救急車が来て、ご婦人と殿方は一緒に乗っていった。まあ、問題ないけどね。

 今夜は、ホテルの最上階のバーでくつろごうということになり、最上階へ向かった。さすがに最上階は眺めがいい。一望できる。ふたりでシャンパンを注文してのんびり夜景を楽しんだ。
「ほんとにヒロシさんはすごいのね。」
「こんな能力はいつ発揮できなくなるかもわからないしね。」
「確かにそうかも。私だって気が付けば、キズを治すのが早かったけど、ほかの人と同じようになる可能性もあるもんね。」
「まあ、そうなったら、そうなったで、普通に戻るということだから問題ないと思うんだけど、この能力に慣れ親しんだら、なくなるのって淋しいもんかもね。」
「そうね。」
香織はもうオレの好みの体型になっていた。まだ、バレてない。

 旅行から帰って、すぐに佐藤さんからの連絡があった。最近はどんなことでも驚かない。たぶん、有名人だろうし、とてつもない病気か何かだろうし、でも、たいがいのことには対応できるし、問題ない。
 今回もかなり遠くの別荘地まで連れて行かれた。いつものように、カーテンで仕切られた向こうにベットがあり、手だけを出して頂くパターンだ。オレはその手を握った。いつもと様子が違う。手が引きつっていた。これは!

 女性だということはすぐにわかった。特に病気でもない。でも、生死にかかわる状態だ。からだの多くが火傷していた。こんなことは初めてだ。
 とにかく、火傷で壊死している皮膚を落とし、脂肪から皮膚細胞を生成することがなんとかできた。少しずつ、同じように新しい皮膚を脂肪から生成していった。足も、手も、胴体も、顔も、首も、頭も。よく、死ななかったものだ。結構な量の脂肪を使った。
 これ以上は無理だと思ってしなかったのは、髪の毛だった。でも、頭皮はもとに戻したので、いずれ生えてくるだろう。本人はぐっすり寝ていた。カーテン向こうにいるだろう人に向かって言った。

「火傷の壊死した皮膚はぜんぶ落としましたので、あとで敷布を変えて下さい。で、もう、火傷はぜんぶなくなっています。新しい皮膚を生成するのに脂肪を多量に使いましたので、ものすごくほっそりしてしまっています。ただ、頭の毛髪を生成する脂肪が足らなかったので、毛髪はありませんが、いずれ、普通に生えてきます。もう、安心して下さい。」
「ありがとうございます。」
そう言ってすすり泣く声がした。

 帰りの車の中で、
「なんかオレ、すっごく進化してしまっているような気がします。」
「確かに今回は無理かとも思いましたが、さすがです。」
「いえいえ、多分本人のからだの細胞ですから、どの部分にもフィットするんですよね。こんなことができるなら、IPS細胞なんかいらないですよね。」
「本当にそうですね。これからもよろしくお願いします。」



(つづく)


posted by たけし at 17:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月26日

小説 「アレスグート」  第14話

 家に着くと、香織は話を聞きたがって待っていた。オレもその人がどんな人なのかわからないし、死に直面する状態を治すだけだから、香織に話して聞かせた。

「すごいね。ヒロシさんがいたら、ほんとに医者なんかいらないね。」
「そんなことないさ。オレができることなんか限られている。」
「でも脂肪がIPS細胞代わりなのね。ということは脂肪をどうにでもできるということ?」
「ああ、そうさ。なんとでもなる。」
「ということは、私が痩せたのって、ヒロシさん?」
しまった、墓穴掘った!!もう仕方がない、正直に告白した。

「フーン、ヒロシさんはこんな体型が好みだったのね。」
「まあ、そういうことになるかな?」
「ということは、私がどんなに食べても調整してくれるってこと?」
「まあ、そういうことになるね。」
「つまりぃ、絶対太らないってこと?」
「まあ、そういうことになるな。」
「ありがとう。とってもうれしい。私の体調も見てくれているのよね?愛してる。」
よかった。喜んでくれている。

 香織は自分のキズを即座という訳にはいかないが、かなりのスピードで治すことができる。また、病気を無意識でくい止めておくこともできる。まあ、普通の人ではないということだ。
 オレはというと、相手のキズを自分に移すことができるが治せない。はずだったが、いまでは脂肪をIPS細胞のようにして治せる。当然、相手のキズその物も治せる。だんだん、万能になってきた気がする。

 休みの午前中の検診(医者じゃないけど)は、相変わらず、多い。もう、最近は見るだけではなく、治している。
 そんなオレのところに、なんらや調査官とかいう人たちが来た。なんでも医者でもない人が医療活動をしているといううわさを聞きつけて来たらしい。オレは手を握っているだけだし、医療器具なんて使っていないし、違法なことは一切していない。
 だが、その人たちは全然信用してくれない。仕方ないので、患者の許可を得て、オレのやっている場面を見てもらった。この患者は車いすを使っており、歩けない。オレが手を取り、しばらく、握っていた。足の歩けない原因を取り、歩けるようにしたのだが、端から見た目では手を握っていただけ。

 「さあ、立ち上がってみて下さい。もう歩けますよ。」
患者は恐る恐る立ち上がり、足を踏み出した。今まで使っていなかった足の筋肉も脂肪からすこし生成しておいたので、とにかく歩ける。

「あとは、もっと歩く練習をして、タンパク質をたくさん食べて筋力を増やして下さいね。」
「はい、ありがとうございます。」
かなり感動して帰っていった。
「さあ、どうですか?私は彼の手を握っていただけです。これでも違法なんですか?」
「いえ、わかりました、一旦引きあげます。」
そう言って、退散していった。こういう話は佐藤さんにしておけば、なんとかして頂ける。非常にありがたい。

 あるとき、オレはたまたま佐藤さんに触れることがあった。
「佐藤さん、ちょっとお時間下さい。」
「いえ、私は大丈夫です。」
「いいえ、そういう訳にはいきません。」
そう言って、彼の手を握った。佐藤さんは胃に潰瘍とポリープができていた。そんなのはすぐ治る。案外、神経を使う仕事なんだろう、そうなるとなかなか水分も取れていない、つまりは血液がドロドロになりやすい、血管がキズつく。そんなところもすべて治しておいた。
「佐藤さん、ちゃんと水分取って下さいね。」
「わかりました。」


 今度こそと思っていたのだが、オレは本当に幸せになれないのかな?


 近くの駅で無差別殺傷事件が起こった。それに香織が巻き込まれたのだ。香織は懸命に自分のキズを治そうとしたが、間に合わなかった。出血多量だった。オレが駆け付けたときは、病院で冷たくなっていた。その事件で数名が亡くなった。
 なんで、こんなことになるんだ。オレのそばにいる人はみんな不幸になる。もう二度と誰とも結婚しない。オレは一人で生きていく。でも、気持ちは抑えられない。涙がとめどもなく、こぼれ落ちた。すべてうまくいくなんてことは、ないのかも知れない。

 しばらく、何も考えられない。なんでこんなことに。オレにこんな能力が与えられた反面、幸せにはなれないというのか。オレはもう一人で生きていくしかない。そんなふうに思っていたが、あとで恐ろしい事実がオレの運命を変えていくことになるとは。

 会社の連中も、オレの前では気を使ってくれて、奥さんの話や恋人の話をしない。確かに今までのオレとは違っているようで、あまり笑わなくなった。仕事中は、雑談もしなくなった。休日診療も事務的にこなしていくようになった。

 そんな時、一人の女性が訪ねてきた。最初、いつもの患者さんかと思って、手を取ったら、どこかで触ったことのある手。大火傷したあの女性だ。よかった、全然、跡が残っていない。

「もう、全然、大丈夫ですね。」
「私が分かりますか?」
「はい、当然です。火傷の跡もないし、健康状態もいい。問題ないです。」
「本当にありがとうございました。もう、こんな暮らしができるなんて考えてなかったんで、感謝しかないです。」
「いいえ、問題ないです。よかったですね。」

 このように、お忍びで感謝に来られる人もたまにいる。男性より、女性に多い。まあ、今のオレにとってみれば、そんなことはどうでもいい。単に「よかったですね」の作業でしかない。

 そんな日々が続いたある日、事件は起こった。
 淡々と「会社から帰る」という作業をしていたオレの背中に、不意に激痛が走った。

 刺された!

 オレはそのまま押し倒されて、その上から何度も刺された。オレはしまった!と思った。普段から脂肪は蓄えてなかったから、その傷口を再生することができなかった。数パーセントでも残しておけばよかったと思ったが、後の祭りだ。完全に終わった。このまま、死を迎えるのか。意識が遠のいていった。

「高橋さん、高橋さん。」
オレを呼ぶ声が聞こえる。だが、また気を失った。
次に意識が戻った時は、白い天井が見えた。
「聞こえますか?佐藤です。」
ああ、佐藤さんがいる。あ、そうだ。お願いしよう。
「あ、の、、お願いが。」
「はい、なんでも言って下さい。」
「ふ、太った人をそ、そばに。」
「わかりました。」

すぐに太った看護師さんが連れて来られた。
「も、申し訳ない。痩せてもらいます。」
看護師さんはきょとんとしていた。
「あとで説明します。ご協力ください。」
横で、佐藤さんの声が聞こえる。オレはその看護師さんの手をとった。

 すぐに脂肪を吸引して、傷ついた内臓の修復を始めた。血液は輸血してくれていたので、少しで十分だった。あとは、皮膚の再生だ。なんと、16か所も刺されていた。縫った糸を排除して、皮膚を元通りに治した。これをするのに、看護師さんから10キロくらいの脂肪を頂いた。看護師さんも熟睡している。腕から近いところの脂肪ばかり頂いたので、からだ全体を調整させて頂いた。10キロも痩せたので、起きた時にびっくりするだろう。

 もう大丈夫。オレはベットから起き上がった。不足しているものは何もない。逆に看護師さんを寝かせた。
「佐藤さん、ありがとうございました。」
「もう、大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫です。いったい何でオレが襲われたんですかね?」
「マスコミ的には通り魔ですが、例の組織のようです。」
「そうなんですか。油断したなぁ。オレもこんな時のためにもう少し脂肪を蓄えておきます。」
「お願いします。あなたがいなくなったら、非常に困ります。」
「ごめんなさい。申し訳ないです。」
「いえいえ、ちゃんと護衛できていなかったこちらの手落ちです。」

 オレは、馬乗りになって刺しまくった犯人からこの病院へ瞬時に移動されたようで、処置が早かったみたいだ。たぶん、例の彼が移動してくれたんだろう。
 でも、これで自分は不死身でないことがよくわかった。自分ひとりだったら、完全に死んでいただろう。すぐには無理だが、脂肪も10%ほど付けておくことにした。

 オレの存在は脅威なのだろうか?よくわからん。人助けしているだけなのに。死んでほしい人が死なないのは、やはり脅威なのか。いったいどんな組織なのか?アメリカとロシアの対立みたいなものなんだろうか?オレが生きているとわかったら、今度はどんなことをしてくるんだろうか?

 自分なりにまわりに気を配りながら、生活する日々が続いた。どんなヤツが襲ってくるか、わからない。そんなふうに思いながら過ごしていたが、またもや、事件が起こった。
 休みに小包が届いた。オレはあとで確認するつもりでテーブルに置いておいた。別室にいたオレは大音響と共に木材の下敷きになった。
 何が起こったのか、すぐにわかった。オレの家の半分が吹き飛んでいた。うまい具合に木材の隙間に収まったオレは、かすり傷もなく無事だったが、ひでえもんだ。ここまでするか!
 オレは佐藤さんの護衛によって助けだされたのだが、もともとケガもしてなかったので大丈夫だ。だけど、本気でオレを殺ろうとしているんだということはわかった。

 だけど、これじゃ、会社にも迷惑がかかる。一大決心で会社を辞めることにした。社長は元オレの先輩なんで、オレのいうことを理解してもらえた。
「高橋、ほんとにすまんな。」
「いえ、オレの方こそ、大好きなみんなに迷惑掛けれないんで。」
でも、やっぱり、送別会だけでもという話になり、みんなに集まってもらうことになった。

 こじんまりした十数人だけの会社だったので、本当に家族のような存在だ。そんなみんなと別れるのはつらい。いつもの炉端で送別会を開いてもらった。護衛さんもひっそりいてもらってたので、安心しきってきた。
 が、突然、仲間の一人が白目をむいて、泡吹いて倒れた。オレはすぐに彼の手を握った。「毒」、それもアイツの毒だ。即座に毒を消し去り、傷んだ臓器を治した。
「ごめんなさい。オレのせいでこんな目に合わせてしまって。」
「誰かが、オレを殺そうと狙っているんだ。だから、みんなに迷惑をかけれない。」
「本当だったんだな。」
「うん、から揚げは食べないで下さい。」
「他には何かある?」
「いや、大丈夫。オレを狙っているヤツをやっつけたら、また、みんなのところに帰ってくるから。」
そんなこんなで早々にお開きになった。

 オレは佐藤さんの用意してくれたところで身をひそめることになった。と、言ってもすることがないと暇だ。自分のことは自分でしたいのだが、私のお世話をしてくれる人もいる。これがずっと続くとちょっと苦痛だ。だが、佐藤さんの依頼が多くなったので、ちょっとは気が紛れる。だが、最近の傾向は病気ではなく、ケガや毒物中毒の方が多い。それも急を要すことが多くなった。これも連中にやられたのだろうか?

 それにしても、佐藤さんは律儀だ。毎回、とてつもない報酬を振込んでくれる。もう、そんなに要らないし、これからは無償でいいと言っても、ちゃんと振込んでくれる。オレはこの年で、100億以上の資産持ちになっている。こんなん、使い道がないよ。



(つづく)


posted by たけし at 18:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月27日

小説 「アレスグート」  第15話

 オレはこれからどうすればいいのだろう?愛する人は守れず、死なせてしまうし、このまま佐藤さんのいう通りにしていていいのだろうか?オレを襲ってくる連中はどういう連中なんだろうか?
 少なくとも、人を殺すなんてことをする連中は決していい人たちとは思えない。だからと言って、佐藤さんたちはオレの知らないところで、同じようなことをしているかもしれない。オレがこんな性格だということを知って、その泥臭い部分を見せないだけかもしれない。

 今は、佐藤さんたちと行動しようと思う。オレに見せられない部分があるかもしれないけど、オレは無理に探そうとは思わない。たぶん、それでいいのだと思う。

 オレの生活は割と緩やかなものとなった。佐藤さんからの依頼がなければ、本当に自由でのんびりできるが、この住まいの中にいなくてはいけない。下界では例の連中がいつ襲ってくるかもしれない。
 オレは特に運動しなくても、筋肉をコントロールできるし、脂肪だって自由に変えることができる。IPS細胞じゃないけど、オレにとって脂肪はIPS細胞と同じで、体の組織に自由に変えることができる。つまり、予備部品なのだ。だから、10%ほどは所持しておけば、万が一の時に対応ができる。

 普通の人は、オレのように計算づくで脂肪を蓄えようとしてないけど、自然にある脂肪で対応可能だ。だけど、なんでこんな便利な能力が備わったのか?それだけはまったく不明だ。昔のように吸い取って吐き出すなんてことはする必要はなくなっているし、キズだって、脂肪で再生できる。自分にとっても便利だが、他人にとっても便利な男だ。

 いつものように佐藤さんの依頼で出かけた。だが、今回は対応が違っていた。
「今回は治すのではなく、コントロールしてほしいのです。」
「どういうことですか?」
「例の連中の一人を捕まえたのです。いろんな情報を聞き出したいのです。」
「よくわかりませんが、オレも聞いていていいんですか?」
「他言は無用です。」
「わかりました。」

 いつもはカーテンから手を出して頂くだけなのだが、今度は椅子に拘束されて座っている男だった。そいつはまだ若い、見た感じ30代の男だった。目隠しをされているので、オレたちのことは何もわからないようだ。
 オレはそいつの腕を掴んだ。ビクっとしたが、そのままじっとしていた。彼はほとんど健康体だ。特に問題はない。オレは事前に、オレからは一切しゃべらないことを約束されていた。言われたことだけをするということもだ。

 「この男の全身にガン細胞を植え付けて下さい。」
げっ、いきなりか?男もその言葉に反応して、まだ何もしていないのに苦痛にゆがんだ顔をした。オレは、その男の細胞をガン細胞にして、あらゆる臓器に植え付けた。急激に生体能力が落ちたのがわかる。骨に転移するととても痛いのだろう。

「本当にそんなことができるのか?やめてくれ。」
「嫌なら、知っていることをすべて教えてほしい。」
「それは、、、、できない。」
「では、すべての骨をガンにして下さい。」
オレはそれに従った。彼は激痛に苦しんでいる。

「早くお話ししてくれないと、本当に死んでしまいますよ。」
「わかった、わかったから、なんとかしてくれ。」
「では、骨からガンをなくして下さい。」
骨のガン細胞だけ、脂肪に変換した。かなり、生体能力が回復した。

 「高橋という男の、女2人は俺たちが殺した。」
な、な、なんだと。恵美は事故じゃなかったのか。
「高橋は俺たちには邪魔だったと聞いている。」
なんでだ?
「こういう能力をおおっぴらにしているからだと聞いている。」
「いずれにしても俺たちと考え方が合わないから、消すしかないのだ。」
オレは手が震えた。おまえが恵美や香織を殺したのか?声に出して言いたかった。

 彼の臓器の生体能力が低下していく。ガン細胞が増殖している。オレは無意識に憎しみが増幅していた。
「もう、もとに戻して手を放して下さい。」
はっと我に返ったオレはすべてもとに戻して、手を放した。あぶない、このままだと本当にオレが殺人鬼になってしまうところだった。でも、それくらい、憎しみが湧いてきてしまっていた。

 佐藤さんの指示で、オレはその部屋から出て、別室に連れられていった。
「ふたりとも殺されていたなんて。」
「お気の毒です。」
「絶対にゆるせない。」
「気を確かに。冷静になってください。」
オレは深く深呼吸をした。でも、憎しみは消えなかった。恵美も香織もオレにとってはかけがえのない人たちだ。許せるわけがない。

 そんなことがあってから、しばらくして、
「高橋さんに会わせたい人がいます。」

 佐藤さんがそんなことを言うなんて、初めてだ。いったい誰なんだろうか?
「近々、会って頂きます。そのときはよろしくお願いします。」

 佐藤さんの所属する組織とそれに敵対する組織。今までのことから、それなりの能力を持った人間の集合体なんだろう。少なくとも毒を流し込んでくるヤツとか、瞬間移動できる人は知っている。オレが、身を寄せている佐藤さんの組織はどんな組織なんだろう?会ってほしい人物とはどんな人なんだろう?

 だが、ある時オレは秘密を知ってしまった。
たまたま、オレの身を寄せている屋敷にいる人たちの話を聞いてしまったのだ。

「おい、知っているか?ヤツは人を生かすことも殺すこともできるらしいぞ。」
「ああ、聞いている。でも、殺しはさせないらしい。」
「殺しは別のヤツにやらしているからな。」
「でもあんな能力をもったヤツなんか、俺たちみたいな普通の人間の敵みたいなもんだぜ。」
「いっそのこと、みんな捕まえて抹殺してしまうほうがいいんじゃないか。」
「仕方ないさ。能力者はまだ数が少ないし、うまく手なずければ、役に立つしな。」
「そうとも知らずにバカなヤツらだよな。」
「高橋ってヤツも、周りの連中に芝居をさせて、この屋敷に連れ込んだらしいしな。」
「敵対する組織があるとか、茶番打って引き込んだらしい。」
「あれこれ芝居して信じこませたんだってな。」

 なんだって!敵対する組織が茶番?いったい、どういうことなんだ?オレはうまく佐藤さんのいう通りに動かされていただけなのか?とうことは、恵美も香織も佐藤さんたちに殺されたということなのか?

 オレはこいつらに弄ばれていただけなのか!オレの人生にかかわった人たちは、そのコマにされてしまったのか!
 くそっ、もうこんなところから出よう。オレはオレのために生きていくんだ。こんなヤツらに好きなように生かされていくんじゃない。

 屋敷で話していた片割れを捕まえた。もっと確実な情報を得ようと思った。そいつの脳にアクセスし、すべての情報を頂いた。えっ、まただ。また、進化したみたいだ。そいつの脳からオレに見られたという情報を完全に消去した。

 こいつらがしゃべっていたことは真実だった。敵対する組織なんてなかった。あの毒を操る小林という男も、こちらの組織の一員だった。能力を持つ連中を集めて、自分たちの都合の良いように使っているだけだった。オレは側に置いたほうが、都合が良いだけだった。能力を持った連中は、うまく言いくるめて、都合の良いコマにしているだけだったのだ。

 オレは抜け出す決心をした。多分、こいつらの組織はいろんなことをしてくる。であれば、オレもそれなりに対策をしておかなければならない。何をされても対応できるように、ひそかに手を打っておいた。そんな時、佐藤さんから呼び出しを受けた。例の会ってほしい人物らしい。
「今からその人物に会っていただきます。」
「わかりました。」

 例によってくるまで移動。割と長い移動時間を経て、地下駐車場についた。そこからは、エレベーター。
「高橋さんも見たことはあると思いますよ。」
「そうなんですか?」
エレベーターを降りて、向かった部屋には、確かに見たこともある顔の男が待っていた。

「防衛庁長官!」
「ようやく会えましたね、高橋くん。」
「いったい、どういうことなんですか?」

まあ、テレビドラマの警察によくある秘密組織らしい。
いつの間にやら、その組織の一員にされていたらしいのだ。

「十分内容を理解してもらっているだろうから、よろしく頼む。」

 好きなこと言っちゃって。まあ、この場では、従順な振りをしておいた。帰りに車の中で佐藤さんから、まだ、話していないことを告げられた。
 敵対する組織との対応のことや政府組織で仕事をし続けてほしいことなどだ。
 だが、オレは佐藤さんの腕を取り、脳にアクセス、すべての情報を頂いた。佐藤さん自体、信じれるかわからなかったからね。佐藤さんからの情報もまったく同じで、オレを手なずけようとしていただけだった。オレは完全にこいつらのコマにされていたのだ。オレはこの組織から離れて自由に生きていく決心をした。その前に、オレに見られたという記憶だけ、消去した。

 オレが屋敷から抜け出るのは簡単だった。そのまま、こっそり予約しておいた飛行機に乗った。
行き先はなぜかポルトガル。軍資金も適当にいくつかの銀行に分けて入れておいたし、現金もそれなりに持ってきた。日本じゃ、多分、どこいっても見つかるような気がした。
 一旦、ハンブルクで降り、そこから、バスやタクシーを使って、南下し、シュトゥットガルトへ。そこから、スイスを経由して、フランスへ。またまた、南下してスペイン、マドリード。最終目的地はポルトガルのベージャ。なんで、こんな町に?オレにもわからない。メリウスというホテルでしばらく滞在することにした。



 (つづく)


posted by たけし at 17:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | アレスグート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする