2020年11月02日

小説 「アレスグート」  第21話

 ここニュルンベルグでは、オレは有名人になっていた。不思議な能力をもった人、悪魔の力をもった人、ゴットハンドをもった人、好きなように言われている。もう、隠すことなんかない。それをすべて受け入れてくれている人たちがいる町なのだ。

 たまに佐藤さんからの仕事の依頼がくる。基本的にドイツの大都市での仕事となることが多いが、近郊にある飛行場からプライベートジェットで送り迎えしてくれる。報酬は80万ユーロ前後ってところだ。もう、使えきれないくらいの資産になっている。そのことは、シモンにも言ってない。教えていいのか、だめなのかまだ結論がでていない。

 だが、相変わらず、オレは市場のみんなと毎日汗水たらして働いている。シモンだけがサイドビジネスしていることを知っているが、たいしたお金になっていないのだと思っている。

「ねえ、私たち、この市場の稼ぎだけでやっていけるのかな?」
「大丈夫じゃないの?」
「将来のこと考えたら、貯金は必要でしょ?」
「充分でしょ。」
「ねえ、ヒロシって、お金に無頓着過ぎない?もっと真剣に考えてよ。」
「なら、いくらくらい貯金があればいいの?」
「そうね、貯金としては4万ユーロくらいかしら。」
「大丈夫でしょ、すぐ貯まるよ。」
「もう、そんなんじゃ、将来が不安よ。」
なんかもう尻に敷かれている気分だ。あんだけ、シャイだったシモンはどこにいったのか。
「じゃあさ、シモンはどれくらい貯金してるの?」
「そうね、今は8千ユーロくらいかしら。」
「その銀行と口座番号教えてよ。オレの貯金、入れておくよ。」
「いいの?持って消えちゃうかもよ?」
「きみがそんなことするわけないでしょ。」
「信頼してくれて、ありがと。」

 次の日、オレは8万ユーロ入れておいた。これでも、1回のビジネスの10分の1だけどね。
 数日が過ぎ、シモンが血相を変えてきた。
「私の口座が。」
「どうしたの?」
「私の口座がすごいことになってるの。」
そういって通帳を開いた。当然、オレが8万ユーロ入れたから、そんだけ増えている。
「だって、オレの貯金入れるからって言ったじゃん。」
「そうなの?」
「少なかった?」
「すごい。すごすぎる。」
「あなたくらいの年代の人が持てる金額じゃないわよ。」
「そうなんだ。」
「ほんと、あなたにはびっくりさせられることが多いわ。」
「でも、そんなオレを君が選んだんでしょ?」
「そうよね、確かにそうよ。私がすごいんじゃない?」
なんか、自己完結というか自己満足に浸っている。シモンはおもしろい。

 シモンはその時、まだ知らなかった。今住んでいるアパートの補修費用に悩んでいたカミラさんのために、10万ユーロを出してあげていた。返済なしでいいから、このアパートから追い出さないことを条件にしたら、快く了解してくれた。
 また、ハイケさんには青果店の屋根の修復に2万ユーロ出してあげた。当然、返済はいらないと言ったけど、どうしてもというので、週に1回飲みに連れて行ってくれることを条件にしたら、OKしてくれた。

 でも、いつの日かそんなことも自然とバレるものだ。シモンが血相を変えて、オレのところにきた。
「あなた、おかしいんじゃないの?返済の代わりに週1ビールとか。」
「おかしいのかな?」
「だって、普通じゃないでしょ?普通は返してもらうでしょ。」
「だって、お世話になってるもん。それくらいいいじゃない?」
「金額が金額よ。あげれる金額じゃないわ。」
「そんなにおこるなよ。いいじゃん、みんなが喜んでくれたらそれでいいじゃん。」
「ほんとに、あなたは神様なの?」
「いや、普通の人間ですけど。」
「だって、これじゃ、今後、お金に苦労するに決まっているじゃない。」
「苦労してないよ。」
「今後よ、今後!」
「よく、考えてごらんよ。ちゃんと仕事して稼いでいるだろ。貯金もある。それ以上はみんなで分かち合えばいいという考えはおかしいかな?」
「そう言われれば、そうね。おかしくないわね。」
だいぶ、落ち着いてきたみたいだ。
「二人の生活が破綻するようなことはしていないだろ?ギャンブルなんかもしないだろ?」
「そうよね、そうよ。おかしくないわ。」
やっと、納得してもらったみたいだ。おもしろいシモンだ。今や、例のビジネスのおかげで100億は超えていた。そんなことをシモンに言ったら、卒倒してしまうに違いない。小出しが一番だ。

 ついにオレたちは結婚することになった。青果市場の近くの教会で結婚式だ。そのあと、いつものビアホールでみんなが祝ってくれる。こんな日はほんといい天気で最高だ。しばらくはカミラさんのアパートで暮らすことになっている。ここが市場に近くてちょうどいい。いろいろあったオレの人生だったが、ようやく、自分らしく生きていけると思っていたが。。。


 ある日、どうも人相のよくない男たちが市場にやってきた。東洋人を探しているという。すぐにオレを見つけて、やってきた。
「ちょっと、顔を貸してもらおう。」
「いやだといったら?」
「その選択肢はなしだ。」
いきなり、ボディを食らわされた。オレは引きずるように連れていかれた。道路にあった黒いワゴンに乗せられ、連れ去られた。

 市場では大変なことになっていた。
「ヒロシが連れていかれた。」
「きっと、マフィアか、ヤクザだ。」
シモンはその時買い物に出ていていなかった。あとで、心配するんだろうな。

オレはおとなしくしていたが、だいぶ長いこと走って、ワゴンは止まった。
「降りろ。」
ついた先は大きな豪邸だった。両脇を抱えられ、大きな贅沢そうな調度品のある部屋に連れていかれた。そこにいたのは、一人の老人だった。

「すまんかったね。」
「オイ、テメーら、手荒いことしてないだろうな?」
「はい。」

 うそつけ!いきなり、ボディブローくらったぞ!
「実は私を見てほしいのじゃ。」
そういう老人は、確かに体調が良くないサインがでていた。オレはその老人の手を取った。ガンの末期だ。
「どうだ?なんとかなりそうか?」
「悪いところは、治すことはできるが、寿命は延ばせない。それでもいいならやってやる。ただし、これはビジネスだ。報酬は40万ユーロだ。」
ちょっと、扱いにカチンときていたオレはいきなり吹っかけてやった。

「お若いの。間違いなく治るなら、払ってやる。失敗したら、お前は海の底だぞ。」
「病気や怪我は全部治してやる。その後、不摂生して早くくたばったって、オレの知ったこっちゃない。」
「はははは、言うのぉ。40万支払ってやる。早く治してみろ。」
「まだ、条件がある。太ったヤツを1人連れてきてもらおうか。」
「そいつに何をさせる?」
「あんたを健康にするために、体の脂肪を頂くのさ。」
「はははは、それもいいのぉ。気に入った、トーマスを連れてこい。」

 来たのは150キロは超えているくらいの太っちょだった。
「あんたはベットに寝て頂こう。」
「おまえを信用してやる。間違いなく仕事しろ。」
老人の手を取ってみたが、脂肪がぜんぜん足らない。
「トーマスと言ったな。こちらに来て、この椅子に座れ。」
オレはトーマスの手も取った。充分過ぎるほど、脂肪を蓄えてやがる。

 まず、脂肪を10キロほど頂いた。で、その老人のガン細胞も脂肪に変換した。あちこちにガンが点在するので、すべてを変換するのに時間がかかった。
 今度は、たくさんの脂肪から、必要な臓器を再生するのだ。ガンによって小さくなったり、手術で切られた部分をすべて補った。ついでに手術の痕も消してやった。それでも、余りある脂肪だったから、薄くなった頭もフサフサにしてやった。体脂肪も多少つけてやったし、少ないところの筋肉も補ってやった。もう、これで充分だろう。
 ついでに、この老人の意識を確認した。マフィアの親分だ。オレとの取引にはきちんと応じるうつもりだ。それなら、問題ない。

 しばらくして、老人が目覚めた。
「どうだ?調子はよくなっているだろう。」
「何?もう終わったのか?」
老人はベットから降りて、部屋の中を歩きまわった。腕を回したり、屈伸したり。
「うんうん、なかなかいい。本当に健康体なんだな?」
「当たり前だ。」
「わかった。おーい、先生を呼んでくれ。」

 そこに現れたのは、白衣を着た、あからさまに医者と分かる人だった。脈を取ったり、血圧を測ったり、いろいろしたが、非常に驚いていた。
「詳しく検査してみないとわからないが、明らかに健康体です。」
「よしよし、おまえ、良くやった。これは誰にも言うな。」
部下を呼んで、大きなカバンを持ってこさせた。
「おまえの言う報酬だ。持って帰れ。」

 そういうことで、オレはお役御免となった。帰りは丁寧に送り届けろと言われて、また例のワゴンで送ってもらった。市場の近くにワゴンが止まり、オレがカバンとともに降りてみんなのところへ歩き出した。


 すぐさま、シモンがオレを見つけた。オレも手を振り、笑顔を返したその時、銃声が3発聞こえた。オレの背中に激痛がして、倒れこんだ。ワゴンはそのまま走り去った。あのジジィ、きちんとビジネスするんじゃなかったのか?

「キャー。」
シモンの悲鳴が聞こえた。オレに向かって走ってきた。もう、涙でクシャクシャだ。そんな顔するなよ。オレはシモンに抱きかかえられた。オレのからだからは血が滴っていた。
「お願いだから死なないで。早く救急車を。」
市場の騒然としていた。ハイケさんも駆け寄ってきた。
「ヒロシ、死ぬんじゃないよ。」

「誰か、救急車を呼んで!」
シモンが叫んでいる。
「大丈夫。オレはこんなことじゃ死なない。自分で治せる。」
「ホントなの?」
 もしかしたらと思って、あのトーマスから頂いた脂肪を使って、穴をふさぎ、切れた血管を修復した。痛んだ臓器も治した。弾は3発とも押し出した。自分を治すなんて、久しぶりだ。オレはシモンに抱きかかえられながら、気を失った。


 次に目が覚めた時は、オレのベットだった。みんなが心配そうに集まっていた。
「あ、みんな、ありがとう。大丈夫だよ。」
「心配したよ。3発も撃たれたんだよ。」
「丸2日、寝てたよ。」
「生きててよかった。」
医者に見てもらったときは、どこにも銃創もなく、健康そのものだったとか。銃弾からすぐに犯人が捕まったそうだ。

 シモンと二人になってから、
「ねえ、あのカバンはなんなの?」
「マフィアの親分さんから頂いた。開けて見た?」
「ううん、見てない。」
「それじゃ、一緒に見ようか?」
シモンが重そうに持ってきてくれた。オレがカバンを開けると、多量の札束が入っていた。そりゃそうだ、40万ユーロもある。シモンはびっくりだ。
「いい貯金になるね。」
「貯金どころじゃないわ。」
「じゃ、何か買う?」
「とりあえず、貯金だわ。」
どっちなんだ?

 オレは親分を治したお礼に頂いたことを話した。でも、撃たれるとは思ってなかったので、やっぱり、マフィアは信じられないなってことで、落ち着いた。

 このことはすぐに佐藤さんのところにも届いたようで、すぐに連絡がきた。オレが無事ということが分かり、もう、オレには手出しをしないようにすると約束してくれた。

 だが、市場にあのジジィが現れた。若いのと2人でオレのところに来た。
「久しぶりじゃのぉ。元気そうでなりよりじゃ。」
「ビジネスってことじゃなかったのか?」
「すまんのぉ。若いもんが勝手にやってしまったんじゃ、もうしわけない。」
「まあ、この通り、元気だからもういいけど。」
「お詫びと言ってはなんだが、これも受け取ってくれんか?」
また、黒いカバンだ。

 そんなやり取りをしているところに、シモンも駆けつけた。
「なんなの?」
「おお、綺麗な奥さんか!」
「シモンには手を出すなよ。」
「そんなことはせん。奥さん、このカバンを受け取ってくれんかのぉ。」
矛先をシモンに向けてきた。

「爆弾?」
「いやいや、そんな怖いもんじゃない。ご主人に世話になったんで、お返しじゃ。」
「そうなんですか?」
おいおい、マフィアの親分だぞ。シモンはオレの顔をみて、
「でわ、頂きます。」
「おお、もらってくれるか。ありがとうなぁ。」
そう言って、親分は市場を後にした。

「何これ?」
シモンは怪訝そうな顔をして、オレに聞いてきた。
「たぶん、前回のカバンと同じものが入っている。」
「え”っ、え”~!」
そんな素っ頓狂な声を出すもんだから、みんなの注目の的になった。

「前回と同じなら、合わせて80万。。。」
シモンはひっくり返ってしまった。おかげでシモンをアパートまで抱えていく始末。カバンも一緒にね。

 結局、40万ユーロはシモンのご両親にプレゼントすることにした。あとの40万はシモンの言う通り、貯金となった。その後はマフィアとかヤクザとかから狙われることもなかった。オレは相変わらず、佐藤さんのセカンドビジネスを続けている。ただ、この資産は未だにシモンには内緒にしている。



(つづく)

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2020年11月03日

小説 「アレスグート」  第22話

 それから、しばらく何事もなく仲間と楽しい生活を送っていたが、最近は佐藤さんの仕事が多くなった。毎回、プライベートジェットというのもいいもんだ。飛行機はジャンボクラスの旅客機くらいしか乗ったことがなかったから、こんな小型のジェットなんて、ファーストクラスみたい(座ったこともないが)なもんかもね。

「仕事が多いのは仕方がないけど、もう料金は減らしてもいいですよ。」
「いえ、これはビジネスです。きちんとお支払いさせてください。」
そんなこと言っても、多すぎだろ。もう150億以上になっている。そんな価値があるということなんだろうけど、このお金、どうすればいいんだろ?さすがに申告してないから、見つかったら脱税ということになるんだろうな。困ったな。

 日本だったら、110万円づつ知り合いにあげても(110万円なら贈与税がとられない)13000人以上に渡せるなぁ。130人だったら、100年間あげれるなぁ。と、まあそんなことを考えて空からぼんやり外を眺めてた。
 今日はデンマークに降り立った。そこからはくるまで移動だ。途中、トイレ休憩を挟んで、目的のホテルへいく・・・・はずだった。
 トイレに入ってすぐに、オレは口というより、顔全体をタオルで押さえつけられた。変なにおいがした。多分、クロロホルムかなんだろう、オレは意識を失った。

 気がついたときは椅子に縛り付けられていた。やられたな、まいったわ。ここはいったいどこなんだろう。目隠しをされていたんで、様子がわからない。
「気づいたか?」
「ここはどこだ?」
「オレたちの言うことを聞けば、悪いようにはしない。」
「何がしてほしいんだ?」
「おまえなら簡単なことだ。人助けだよ。」
こいつら、オレの能力を知ってるな。
「いやだと言ったら?」
「永久にこの世からおさらばだ。」
そういうことか!まあ、しばらく様子をみるしかないな。
「わかった。言うことを聞くよ。」
「物分りのいいヤツだな。」
「どうしたら、家に帰してくれるんだ?」
「ふふふ、それは無理だな。あきらめてくれ。」
「どういうことだ!」
「ここで、一生言うことを聞くんだよ。」
おいおい、それはないだろ。困ったな。どこなのかもさっぱりわからない。椅子に縛られたままじゃ、身動きもできない。

「おい、トイレに行きたい。」
「目隠しは外すな。」
 手足は解いてもらったが、トイレまではロープに引っ張られて連れて行かれた。そのまま、後ろにロープを持ったヤツが立っている。オレは仕方なしに用を足した。オレは目隠しで見えないが、すべて見られているとなると、嫌なもんだ。
 また、ロープで引っ張られてもとの部屋に戻った(らしい)。目隠しされていると、どこをどう歩いたのかさっぱりわからん。

 そのうち、食事の時間になったらしい。相変わらず、目隠しをされたままの食事だ。どんな料理かもわからない。匂いと手に持ったときの温かみだけで判断しないといけない。
「おい、これはどんな料理なんだ?」
「オレはうまいけど、お前の口にあうかどうかわからん。」
おいおい、そんな料理か?
「せめて、食器ごとにどんな料理か教えてくれよ。」
「口に含めばわかる。」
 たまらんな。ゴキブリだったらどうするんだ?仕方なしにスプーンで、お皿っぽい食器から液体を救い上げた。いいにおいがする。コーンスープだ。これなら大丈夫だ。オレはそれだけをスプーンで飲み干した。
 さて、次の食器には?どうやら、サラダのようだ。これも大丈夫。次は、固形の料理だ。かなり大きい。一口では無理だ。スプーンで口に近づけ、かじってみた。牛肉だ。おいおい、一口サイズに切り分けておいてくれよ。

 とにかく、目隠しだけは外してくれなかったので、様子がわからない。しばらくして、
「おい、ようやく仕事だ。」
と、言われた。
「何の仕事なんだ?」
と質問したが、無理やり引っ張られて、歩かされ、質問には答えてくれなかった。
 目隠しのまま、とある部屋に連れてこられた。
「おまえはこれからこの人を治せ。」
「なんだ?いきなり・・・」
「治さなければ、カラスのえさになる。」
「治したら、どうなる?」
「何もかわらない。今まで通りだ。」
おいおい、ずっと目隠しのままか?
「せめて目隠しは外してもいいだろ?」
「だめだ。」
なんてこった。最悪の待遇だぜ。

「さあ、早く、この人を治せ。」
オレは椅子に座らされて、誰かわからない人の手を取らされた。この人は!!?ものすごい大怪我をしている。男の手だ。結構、筋肉質であまり脂肪がない。これではすべて治すことはできない。
「デブを一人よこせ。そうじゃないと、この人は治せない。」
「なんだと?」
「とにかく、太ったヤツの協力がないと、この人は治せない。」
「しゃーないな。おーい、おまえこっちにこい。」
誰かが呼ばれた。オレはそいつの腕に触れた。ん~、なんとかなるくらいの脂肪はありそうだ。
「コイツはすごっく痩せてしまうけど、死ぬわけではない。それを了解してもらいたい。」
「死なんのならかまわん。」
「じゃ、始めるぞ。」
オレはコイツの脂肪を極限まで吸い取った。見ていた周りの連中は、しなびていくソイツを見て、悲鳴とも分からぬ声を上げた。恐らくびっくりしたのと、やっぱりコイツはオレに殺されると思ったのか、銃声とともにオレの脇腹に激痛が走った。
「ばかやろ!撃つヤツがあるか?」
「アイツ、カインの生気を吸い取って殺そうとしやがった。」
「殺さないって言ってただろ!」
どうでもいいけど、まずは自分を治さないとどうしようもない。吸い取った脂肪で、脇腹を止血し、弾丸を押し出し、傷ついた細胞を治した。
「目隠しを外せ。見えないと治せない。」
「あんた、大丈夫なのか?」
もう治したことは黙っておいてもいいだろ。
「そんなことより、コイツを治したいんだろ?目隠しを外せ。オレが死んだら、こいつも多分死ぬだろう。」
「わかった。今、外す。」
ようやく、目が自由になった。だが、自分自身の気が遠のいていきそうだ。自分を治すとこうなるようだ。とにかく、大怪我の男を治さないと。

 彼のからだには、まだ銃弾が3発も残っていた。オレはそれを排出させた。腕や足は打撲と骨折、顔もかなり殴られた痕がある。さっき頂いた脂肪でなんとか治せそうだ。銃弾で傷ついた内臓を治し、骨も元通りにし、皮膚も正常に戻した。ぐるぐる巻きの包帯の下の顔は、もうなんともなくなっている。目が覚めたら、普通に行動できるだろう。だが、オレのほうが参った。もう無理・・・気を失った。


(つづく)

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2020年11月04日

小説 「アレスグート」  第23話

 目が覚めたら、ベッドの上だった。ヤツらはオレの服が血で染まっていたんで、その上から包帯をぐるぐる巻きにしただけだったみたいだ。ということはオレがすでに治っていることに気がついていないようだ。
 だけど、ここはどこなんだろうか?目隠しを外されても、特に特徴のあるような部屋じゃないし、場所の特定ができない。当然、スマホは奪われているし、誰とも連絡できない。

「お、気がついたか?」
「ここはどこなんだ?」
「撃たれたところは大丈夫か?自分で治したんだろ?」
しっかり、ばれてる。仕方がない。
「たまたま、治せただけだ。いつでも治せるわけじゃない。」
「おまえが治した男はもうピンピンしている。すごいもんだ。」
「だったら、もういいだろ?帰してくれ!」
「そういうわけにはいかない。これから先、ずっと、オレの知り合いを治してもらいたいからな。」
「なら、ビジネスだ。一人治すごとに40万ユーロだ。」
「ははは、自分の立場が分かってるのか?」
「なら、オレは協力しない。」
「じゃ、この部屋で飢えて死ね!」
そいつは部屋から出て行った。ついでに鍵の音もした。

 あ~、まいったな。全然、取引きにならんわ。しばらく、考えて、ふとあることに思い出した。オレ、人の意識にアクセスしたことあったよな。佐藤さんの意識にアクセスできるかな?どのくらいの距離があるんだろう?まあ、やってみるか?

「佐藤さん、佐藤さん、わかりますか?オレです。高橋です。」
「・・・・・」
「オレです。高橋です。」
「えっ?高橋さん?」
「おっ、つながった!」
まじ、すっげぇ。
「オレ、どこにいるのかわかりません。つかまってしまって。」
「高橋さんとコンタクトとれるのは良かったのですが、居場所がわからないと。」
「そうですよね。どうしようもないですよね。」
「困りましたね。何か、目印になるようなものはありませんか?」
「この部屋の外がどうなっているのか、さっぱりわかりません。」

 あ、ちょっと待てよ。もしかしたら、
「私の護衛の人、そばにいます?」
「はい、近くにいます。」
「その人の意識と同期をとりたいのですが?名前を教えてくれませんか?」
「前田さんと言います。」
「OK、やってみます。」
うまくいくかな?
「前田さん、わかりますか?」
「はい、ここにいます。」
「オレの意識をたどって、移動してみてくれませんか?」
「そんなこと初めてです。うまくいくかどうか?」
だが、前田さんはオレの前に現れた。やったじゃん。
オレは口に指を当て、合図した。その瞬間、オレは前田さんと佐藤さんの前に移動した。
「やった!」
「すごい。こんなことが!」
「私も初めてです。」
思ったとおりだぜ。
「ありがとうございます。うまくいきましたね。」
「あ、撃たれたんですか?」
お腹に巻かれている血に染まった包帯を見て、佐藤さんが心配した。
「ああ、もう治ってます。」
一応、今までの経緯を話して、後の対応は佐藤さんにお任せした。しかし、前田さんはすごい。オレにもそんな能力がほしいものだ。

「高橋さん、こんなときになんですが、仕事できますか?」
あ、そうだった。仕事へ行く途中だった。
「そうでしたね、行きましょう。」
「とりあえず、シャワーを浴びて下さい。服は用意しておきます。」
何から、何まですまないねぇ。佐藤さんはオレのこと、よくわかっている。

 ようやく、落ち着いた格好になったところで、くるまで移動となった。その中で軽く食事も取らせて頂いた。やっぱり、こういう待遇でなくっちゃな。



(つづく)

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2020年11月05日

小説 「アレスグート」  第24話

 着いた先で待っていたのは、小さな女の子だった。これは・・・オレにとっては初めてのケースだった。女の子というより、女の子たちだ。そう、シャム双生児。このままでは、彼女たちの成長で、内臓がつぶれて死んでしまう。厄介な状況でつながっている。これ、うまくできるのかな。

「佐藤さん、わかっていると思うけど、太った人10人ばかり来てもらっていいかな?」
「はい、ちゃんと来て頂いています。それも、ダイエットしたい人たちです。」
「完璧だ。じゃ、ひとりづつ、脂肪を頂かせてもらうよ。」
「わかりました。」
すでに、脂肪がすべてなくなって一気にダイエットできる旨の説明は終わっているみたいだったので、みんな、そのつもりでここにいるようだった。

「じゃあ、お嬢ちゃんたち、離れてもらうよ。」
「やっと、それができるお医者様が来てくれたのね。」
「ちょっと違うけど、まあ、そんなもんだ。」
「麻酔するの?」
「いや、しない。でも、勝手に眠たくなる。」
「へえ、そんなことってできるの?」
「オレがはじめると、みんな眠るんだ。」

 オレはまず一人目の脂肪を10%残して、ほぼ全部頂いた。さて、どのようにして分離させたらいいんだろう。頭は完全に別々だから問題ないけど、半分くっついた首を・・・いや、待てよ、心臓は一つしかないから、もう一つ心臓を・・・いや、これはどこから先にすべきなんだ?

 足は2本しかないから、それぞれもう1本づつ、先に作ってしまおう。腰を少しづつ離して、離した箇所に足りない骨を追加して、筋肉、血管、内臓と少しづつ増やした。そのようにしながら、体を離していった。最後はそれぞれの腕や手を作り完全に分離できた。いつもは怪我をしている内臓の修復とかだったから、よかったけど、これで、ひとりの人間に必要な内臓は全部あるのかな?足りないものはないのかな?オレは自分の体の中を確認しながら、二人の少女の体を調べていった。うん、大丈夫だ、全部ある。

 結局、10人の脂肪提供者は全員、ダイエットに成功。それから、この少女たちは、完全にそれぞれ分かれて、ベットに寝かしている。ここまで、半日、かかった。疲れた~。

「佐藤さん、とりあえず、このダイエットした人たちを別室へ連れていって、寝かせてあげて下さい。」
「わかりました。うまく、いったのですね。」
「なんとか、できましたよ。」
「ありがとうございます。」
「オレもちょっと、寝かせてもらっていいですか?」
「はい、こちらへ。」
オレは佐藤さんの後をついていって、別室のベッドに横たわり、そのまますぐ寝てしまった。

 目を覚ますと、あの少女たちがそばにいた。
「先生、ありがとう。」
「やあ、元気そうだね。」
「うん。」
お互い自分のからだを気に入ったようだ。まあ、手術でこれをするとどうしても、手術の痕跡が残ってしまうだろうけど、オレのはそんなことはない。

 少女だちの母親が来た。
「本当になんとお礼を言っていいのか・・・ありがとうございます。」
「よかったですね。」
母親は涙ながらに何度もオレの手を握り、お礼を言っていた。やっぱオレ、すごいことをやってのけたってことなんだろうな。

 いつも日帰りなのに、何日も家を空けたもんだから、シモンがかなり心配していた。そりゃそうだろ、普通。
「いったい、どうしてたの?」
「ごめん、仕事が長引いてしまって。」
「だったら、連絡くらいしてもいいんじゃない?」
「申し訳ない。ごめんね。今度はちゃんとするから。」
半分、怒ってる。まあ、ほんとのこと言えないしね。一度、日本にも連れていってあげようかな?ちょっとは機嫌が直るかも?

「あのね、今度、オレの生まれ故郷の日本へ行かないか?」
「えっ?だって、日本には親戚いないんでしょ?」
「でも、オレの育った日本を二人で見に行くのって、いいんじゃない?」
「2、3週間ほど、旅行しようよ、二人で。」
「そんな暇どこにあるの?仕事だってあるのよ?」
「まあまあ、ハイケさんにもちゃんと了解とるし、大丈夫だって。」
「ほんと?大丈夫?」
「うんうん。」



(つづく)

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2020年11月06日

小説 「アレスグート」  第25話

 まあ、そんなことで、オレたちは日本へ旅立つことになった。結婚して旅行なんてしていないから、いい新婚旅行になればいいと思う。オレにとっては、何年ぶりだ?久方ぶりの日本だ。もう、どこにもよりどころはない・・・っていうか、以前働いていた工場とか、両親の墓とかあるから、よりどころがないわけではない。

 一応、念のため、佐藤さんには予定を連絡しておいた。もしかすると、日本であちらの仕事が舞い込んでくるかも知れないな。でも、こんなに長く飛行機に乗ったのは、久しぶりだ。シモンは初めてなんで、結構喜んでいる。

 日本に着くと、オレはシモンが喜びそうな場所へ観光することにした。
「日本って、結構街並みがきれいなのね。」
そういえば、そうかもね。
「自分が住んでいた国なんで、そんなに気付かなかったけど、確かにその通りだね。」
「お寺とか、お庭とか、とっても素敵。」
「気に入ってくれてうれしいよ。」

 翌日、オレたちはオレの両親のお墓に行った。ここは菩提寺にあるお墓だ。シモンも日本式のお墓は初めてなので、ちょっと緊張していた。まあ、毎度のことながら墓石を綺麗にして、花を添えて、両親が好きだったものを供えて、しばし、いろんな思い出をシモンに聞かせた。

「まあ、ふたり一緒に逝ってしまったから、よかったんじゃないかな。」
「でも、いきなりヒロシが一人になって、かわいそう。」
「もう、なんともないよ。それに子供じゃなかったからね。」

 お昼はお寿司を食べて、オレはお世話になった工場へ向かった。
「今度はどこにいくの?」
「オレが日本にいる時に、お世話になった工場へ行こうと思ってる。」
「そうなの、なんか楽しみ。どんな工場なのかしら。」
「小さな工場だけど、良い人がいっぱいいるんだ。心地のいい場所だったよ。」
「ヒロシが気に入っているなら、私も楽しみ。」

 工場は何も変わってなかった。懐かしいなあ。みんな元気にしてるかな。
オレたちは工場の事務所に入っていった。
「こんにちは。ご無沙汰しています。」
「おっ、おお~、高橋、元気か?」
「社長、本当にご無沙汰です。元気そうですね。」
「そちらさんは?」
「オレの妻のシモンです。」
「えっ、結婚したのか?」
「はい。」
「シモンです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。日本語しゃべれるの?」
「いいや、これだけですよ。あとはドイツ語と英語かな。」
「だけど、よかったな。」
「はい、ありがとうございます。」

 工場からみんながやってきた。
「お、高橋が来とる。」
「外人さん、連れてる。」
「めっちゃ、かわいいやん。」
「なんで、あいつにかわいい子ばっかりくるんだ?」
みんな好き放題言ってる、でもいつもと同じだ。

「みなさん、ご無沙汰です。」
「ずっと、日本におるんか?」
「いえいえ、またドイツに帰りますよ。」
「なんや、おればいいのに。」
「今は生活拠点がドイツなんで。」
シモンはそんなオレを見て、言葉はわからないけど、うれしそうにしてた。

 オレは久しぶりなんで、みんなと握手をしたいとお願いした。ひとりづつ握手をさせてもらった。当然、みんなの結構状態を確認して、悪い人はその場で治した。あんまり、ひどい人はいなかったので、その場で十分だった。シモンもその光景をみて、オレがしていることがわかっていた。

「ヒロシは偉いね。みんなを治してあげたのね。」
「ああ、よくわかったね。」
「あなたの妻だもん。」
「ははは、そうだね。」
あんまり、長居すると仕事の邪魔になるので、工場を後にした。

 その夜は、ホテルでコースを予約していたので、シモンとゆったり食事を楽しんだ。
「日本って、いいところね。」
「そうだろ。」
「ここで住んでもいいわよ。」
「だけど、シモンの両親は?」
「あ、そうか。」
「日本にはオレの親族は誰もいないけど、あっちにはシモンの両親がいる。だから、オレはドイツでいいよ。」
「ありがとう、ヒロシ。」

 食事を終えて、部屋に帰る前に、フロントに呼ばれて行くと、メッセージを預かっているという。なんなんだろう?オレはそのメッセージを確認した。それはなんと、オレの妹という人からのメッセージだった。でも、天涯孤独だったオレには、妹なんかいないはずだ。それに、なんでこのホテルにいることを知っているのだろう。



(つづく)

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