2020年11月18日

小説 「よく眠れた朝には」 第1話

 オレは単なるサラリーマン、え~っと、つまり、世間で言うところの普通のサラリーマン。特に賢くもなく、特にすごい企業に勤めている訳でもなく、なんとなく普通の大学に入り、なんとなく普通の企業に就職したごく普通のサラリーマンなんだ。

 なんとなく一人暮らしに憧れて、それなりの賃貸マンションに住んでいる。住んでから後悔しているのだが、何から何まで自分でしなければならないのがめんどくさい。
 ゴミ出しなんか、最近は分別しないと怒られるし、流しのゴミをそのまま流したら詰まってしまって、えらい怒られた。いい加減なことはできないもんだ。

 掃除も掃除機でガンガンやると、階下の人に文句を言われ、両隣からも文句の嵐。静かに掃除しないといけないことも学んだ。

 トイレも掃除しないと、こびりついてなかなか取れない。毎回、しっかりふき取っていれば、後で大変な掃除にならないということも学んだ。

 料理もそれなりにできるようになった。栄養のバランスを考えないと、口内炎になったり、体調が優れないことにもなる。おかげで、栄養士とまではいかないが、それなりにバランスよく食事ができるような知識も、多少だが得ることができた。まあ、テレビでそんな番組が多いせいもある。それ以外はひとりだから、多少ルーズでも、文句言うヤツはいないし、適当に暮らしている。

 だが、ひとり暮らしは何かとお金が掛かる。案外、自分の安月給ではお金は貯まらないもんだ。世間の連中もそんな暮らしをしているんだろう。この世の中、よっぽど、頭の冴えたヤツだけが優雅な暮らしをしてるんだろうな。でも、無茶な使い方をしなければ、ささやかな貯金ができるみたいだし、なんとかなるかな。

 おっと、言い忘れたけど、オレ、山本慎二。今風の男の平均的な身長で、太ってないから中肉ってところかな。髪は気分でちょっと茶系統に染めている。まあ、仕事に差し障りのない程度のオシャレってとこだね。休みは土日と祝日くらい。平日はいつもこき使われている。仕事は先輩と新規顧客回りの営業だ。必ず、2名体制がうちの会社の方針だ。

「山本、アイダ工業の社長にアポ取っておいてくれ!明後日の午後がいい。」
「あっ、はい。了解っす。」
早速、電話。ここの社長はなかなか捕まらない。
「あ、日栄商事の山本と申しますが、竹田社長、いらっしゃいますか?」
「今、現場へ出ており、お昼過ぎに戻る予定になっておりますが」
「では、日栄商事の山本から電話のあったことをお伝えください。また、電話いたします。」

「加藤さん、やっぱ、すぐには無理っすよ。」
「そこをなんとかするのが、山本くんだろ?」
「じゃ、近所なんで、ひとっ走り行ってきます。」
「おう、頼むわ。」

 竹田社長は電話じゃなかなか捕まらないけど、面と向かえば、すぐにスケジュールに入れてくれる。よっしゃ、今日も頑張るか!会社のチャリンコで10分も走れば、アイダ工業に到着する。オレはいつものようにチャリンコにまたがって走り出た。

 脚力だけは自信があるんで、チャリンコはお手の物だ。ギュィ~ンとすっ飛ばして、あと少し。

「・・・待・っ・て・・・」

 オレの頭の中に何か聞こえた。チャリンコを止めて振り返ったけど、誰もいない。そうだよな、今走ってきたばかりだし、誰も追い抜いてなんかない。おかしいなぁ。そう思って前を向いた時だった。

 そこの信号は青だったけど、横からトラックが突っ込んできた。オレと同じ進行方向に走っていたくるまに激突。すっげぇ、事故。えっ、もしかして、オレ、止まらなかったら、お陀仏だったってこと?瞬時に、鳥肌が立った。あぶなかったんだぁ。

 じゃ、さっきの声は何?あれはいったいなんだったんだ?良く分からないけど、助かったということだ。まさに九死に一生ってやつか?

 あの声はそれっきりだった。その日は聞こえてくることはなかった。


 数日が過ぎ、オレは先輩と新たな顧客を発掘しようと、いくつか候補を挙げ、営業に出ていた。道中は先輩とアホな話しで盛り上がっていたが、また、あの声が聞こえた。

「・・・あぶない!・・・」

「えっ?」
「どうした?」
オレらは立ち止まった。その瞬間、目の前に鉢が落ちてきた。
「うわ~!あっぶねぇ~。」
上から、
「すみませ~ん。ごめんなさ~い。お怪我ありませんか~?」
マンションの上層階の、恐らく主婦らしい人が叫んでいた。

「あぶねえなんてもんじゃねぇよなぁ。」
「間一髪でしたね。」
「だけど、どうしてお前、分かったんだ?上なんて向いてなかったのに?」
「だって、あぶない!って声、聞こえませんでした?」
「いや、そんな声、聞こえてこなかったけど。」

 今度は確かに聞こえた。女の人の声で、あぶないと。あのトラックのときと、恐らく同じ声だったような気がする。先輩には聞こえていないようだし、オレだけなのか?

  次に聞こえたのは、数日経ってマンションから駅へ向かう途中だった。

「・・・わき道へ入って・・・」

 なんで?疑問が残ったが、すっとわき道へ入った。とたん、ガッシャーンという音が聞こえた。えっ、なんだ?オレはわき道を引き返した。そこには、くるまが突っ込んで数人が倒れていた。オレがそのまま歩いていたら、間違いなく同じように倒れていただろう。

「君はいったい誰なんだ?」
「・・・私は・・・」
よく考えるといつも頭の中に聞こえてくる。ということは、オレにしか聞こえないのか。
「君は誰?」
「・・・私、わかりません・・・」
「どこにいるんだ?」
「・・・わかりません・・・」
「・・・ここはどこなんでしょうか?・・・」
「はぁっ?じゃ、名前は?」
「・・・わかりません・・・」
いくつか質問したが、そのまま聞こえなくなった。いったい何だっていうんだ?今の声の主は誰なんだろう?名前もわからないとか、ここはどこ?とか、記憶喪失か?ってんだ。
 でも、・・・助けてくれたよな。だけど、頭の中に聞こえてくるなんて、いったいどういうことなんだろう?



(つづく)




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2020年11月19日

小説 「よく眠れた朝には」 第2話

 翌朝、目覚めると、奇想天外なことが待ち受けていた。
 オレはベッドの中で窓からの光を見て、多分寝坊?した感を目一杯感じていたが、休むかどうか葛藤していた。今日はだるい。やっぱ、休もう。そう思ったとき、また声が聞こえた。
「・・・なんて気持ちのいい布団・・・」
「・・・とっても暖かい・・・」

 オレはぎょっとした。昨日、女の子連れ込んだっけ?あわてて、布団の中を探ったが、オレひとりだった。そうだよな、昨日合コンなんて行ってないし、彼女もいないし、そんな訳ないよな。
「・・ここはどこでしょうか?・・」
また、聞こえた。この子はいったいだれなんだろう?
「・・私にもわかりません・・」
そうか、名前もわからないとか言ってたよな。
「・・はい、わかりません・・」
えっ、オレしゃべっていないんですけど。
「・・でも、聞こえております・・」
どこにいるんだ?オレは何回も部屋を見渡した。でも、オレしかいない。
「・・ここがあなた様のお屋敷でございましょうか・・」
お屋敷ってほどでもない、マンションの1LDKだし。
「・・わんえるでーけー?・・」
部屋の広さってこと。一部屋とリビングダイニングってこと。
「・・りびんぐだいにんぐ?・・」
この子、何も知らんのかな?っていうか、何でオレの心に直接話してくるん?どうなってんの?
「・・どういうからくりか、わかりませんが・・」
「・・あなたの見ているすべてが、私に見えているようでございます・・」
オレ・・・、もしや二重人格になってしまったのか?こいつとこの体を使い分けるってことか?映画で見た「〇〇〇の名は」のように。ということは、何か起こるのか?
「申し訳ありません。何をおっしゃっているのか、わかりません。」

 落ち着け、オレ。こういうときはどうすればいいんだ?まずは状況把握からだ。さっき、見えているものがどうとか言ってたよな。
「はい、あなた様の見ているものが、私の見ているもののようでございます。」
ということは、オレが見ているものが見えるということ?
「そのようでございます。」
ということは、今、天井を見ているので、この人にも天井が見えているということか。
「そうでございます。でも、変わった天井でございますね。」
何が変わった天井?普通の天井だし。
「木目がございません。」
普通ないだろ。
「そうなんでしょうか?」
だけど、この人、誰なんだろうか?
「私もわかりません。」
じゃ、なんでオレの意識にしゃべってくるんだ?
「本当にわからないのでございます。」

オレはベットから出て、鏡の前に立った。
「これがオレ。見えてる?」
「ええ、ちゃんと見えております。でも」
「でも、なんだ?」
「なんか変わった格好でございますね。あまり見ない頭でございますし。南蛮風なのでしょうか?」
「別に普通だし。」 
「お着物は着ないのでしょうか?まげは結ってないのでしょうか?」
「何それ?」
「それに、あなた様がその板に写っておいでなのは、なぜでしょうか?」
ちょ、ちょっと待ってよ。鏡知らないの?
「かがみ?かがみと申すのですか?聞いたことはありますが、見るのは初めてでございます。自分の姿が写るのですね。」
この子、飛んでるのかな?ヤクとかやってたりして。
「ヤク、とは何でございましょうか?」
「ハイになるクスリ。」
「はぁ?」
もう、どうでもいいよ。オレは一旦落ち着こうと湯沸しに水を入れ、スイッチを入れた。

「今、お水がその筒のようなものから出てきましたが?」
「当たり前じゃん。」
「どうなっているのでございましょう?井戸から汲んでくるものではありませんか?」
「はぁっ?何、分からないこと言ってんの?」
「もう一度やってみせてはもらえませんか?」
なんじゃそりゃ?この娘、やっぱり変だ。と、思いつつ、水道のレバーを上げた。
「このからくり、どのように?それに、とてもきれいに光っている筒でございますね。」
なんか、ありえないんですけど。
「いったいどういうことでございますか?」
それ、オレが聞きたいんですけど?
「よくわかりません。」

 この人、しゃべり方おかしいし、もしかして、まさかな?いや、もしかして?
「ん?何でございましょうか?」
一応聞くけど、今何年?
「安政3年でございますが?」
安政って、いつ?
「いつと申されても、安政でございますが?」
オレはパソコンを立ち上げ、和暦一覧で検索してみた。安政、安政っと、ん、1858年?
「どういうことなのでしょうか?」
驚くな!今は2019年だ。つまり、君の時代から160年も先の未来の時代なんだ。
「そんな!」
この娘は160年前の娘ということになる。それじゃ、水道も見たことないよな。あまりにカルチャーショックになるに決まっている。

その時、ピーと音がなった。
「何の音でございましょうか?」
ああ、お湯が沸いた音だよ。
「先ほど、火などつけてなかったのではございませんか?どのように沸かされたのでしょう?」
今は電気で沸かせるんだ。この容器に水を入れて、スイッチをオンすれば、あとはほっておいてもお湯が沸く。
「160年も経つとそのようなことができるようになるのですね。」
そういえば、お腹が減った。
「恥ずかしながら私めも。」
オレは冷蔵庫の冷凍庫から1食分に取り分けてあるご飯を取り出し、電子レンジに入れて暖めスイッチをいれた。
「これは、一体?」
ああ、冷蔵庫からご飯を出して、チンする。
「チンするとは?」
つまり、ご飯を冷凍しておいて、それを解凍するってことさ。
「よくわかりません。」
そうだろうな。仕方ないさ。でも、百聞は一見にしかずだ。見て、食べてみればわかるさ。そう思いながら、冷蔵庫から昨日取っておいた肉じゃがを取り出した。レンジがチンといったので、取り出して、肉じゃがもチンした。暖め完了で、お盆に乗せて、見た。

「どのようになっておるのでしょうか?ご飯も、このおいしそうなおかずも湯気が立っております!」
今の時代は、こんなふうにすべてを暖めることができる。君がいた時代のように、火打ち石で火をおこし、温まるまでつきっきりになる必要もない。もっと、短い時間で食べれる状態になるんだ。
「まるでおとぎの世界に舞い込んだような。」
オレはご飯を食べた。おかずも一緒に。
「このような美味、味おうたことはございません。」
それが今の時代なんだ。んっ?でも、なんで彼女は味を感じれるんだ?さっきはオレが触ったものを感じていたみたいだし。
「あなた様の見られたもの、触られたもの、味を感じられたものが、直接私にも感じられるようにございます。」
って、やっぱりオレ、二重人格になってしまったのか?
「二重人格とはどのようなものなのでしょうか?」
つまり、ひとつのからだにふたつの心が存在することだよ。それも、160年も過去の女の人が?
「そうなのでしょうか?摩訶不思議。少々、眠気が。」
おい、ちょっと待てよ。
だが、彼女はそのまま反応がなくなってしまった。どうやら、本当に寝てしまったようだ。

 さて、困った。またいつ起きて、いろんなことを言い出すかわからない。いったいどうしたらいいんだろう。だけど、こんなことってあり得るんだろうか?でも、実際におるもんな。あぁ~、どうしたらいいんだ?



(つづく)


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2020年11月20日

小説 「よく眠れた朝には」 第3話

 オレは大学時代に仲が良かった友人にメールしてみようと思った。この状況をどう思うだろうか?なんらかのアドバイスをくれるかも知れない。まあ、今日は平日でこんな時間からでは即答してくれないだろうな。こんな時はツイッターで聞いてみよう!だけど、誰も信じてくれないよな、たぶん。

 でも、イチかバチかやってみた。どんな反応があるんだろうか?適切なアドバイスくれるヤツがいるかな?「突然、心の中に別人格が現れた。今は寝てるみたい。どうすればいい?」こんな書き込みで誰が返してくれるだろうか?

 だが、反応は意外と早かった。
「ありえねぇ。」
「冗談だろ。」
「それは、明らかに二重人格ですね。」
「一度、ちゃんと向き合って話をすべきです。」
「医者に行け!」
「うらやましい。」
 やっぱり、オレの求める反応じゃねぇ。まあ、もうちょっとあとで確認してみるか。オレはちょっくら食材の調達に出かけることにした。どうせ、手持無沙汰だったし、なかなか平日の買い物はできないもんね。

 スーパーに着くと、かごを持っていろいろと見てまわった。
「おお、たくさんの野菜の数々。」
突然、彼女が起きてきた。
「ここはどこなのでしょうか?何故、こんなに野菜が?」
スーパーなんだから当たり前だろ。
「すーぱーとは、八百屋のようなものでしょうか?」
おいおい、これ全部説明かよ。多分、めずらしいものだらけだから、女には興味深々だんだろうな。明日はパンでも食べるかな。
「ぱんとは?」
百聞は一見にしかず。パン売り場へ行って、パンを見せた。
「これがぱんというものでしょうか?たくさんあります。」
お米を普段食べてるけど、たまにはパンもおいしいので、これを買う。そう思って、いくつかピックアップ、かごに入れた。

「よくわかりませんが、美味しそうでございますね。」
よし。オレは彼女を驚かせようと、ケーキ売り場に行った。
「これは何でございますか?」
こいつはスィーツだ。まあ、帰ったら、食べてみようじゃないの。とってもびっくりすると思うよ。大体、甘いって味は知ってるのかな?
「甘い?柿とかみかんのようにございますか?」
それを知っているなら、感動すること間違いなしだ。
「感動するくらいの甘さ?」
そうだ。楽しみにしてな。
「早く、味わってみとうございます。」
オレはシュークリームと生クリームのケーキをお買い上げ。あとは、缶詰のいわしとさばを買って、スパゲッティの面とカップ麺などをかごに入れでレジへ行った。

「このかご、とても変わったかごですね。とても頑丈そうな?」
ああ、プラスチックだから、結構頑丈だな。
「ぷらすちっく?」
まあ、それは気にせんでもいいよ。今の時代じゃないと作れないからね。多分、君の時代にはないものだよ。
「そうなのですか。それは、銭でございますか?」
そうだよ。硬貨は君の時代もあったと思うけど、今の時代は紙幣って言ってね、紙のお金もあるんだ。
「ずいぶんと変わりましたこと。紙であれば、燃えてしまえば、なくなってしまいますのに。」
まあ、そんなことする人はほとんどいないよ。

 帰り道でも、質問の嵐だった。なんでこんな、でこぼこのない道なのか?とか、ところどころに立っている柱は何?とか、車のことやビルのこと、飛行機とか電車とか、なんであまり林がないのかとか、オレもよく付き合うよな。まあ、まいったわ。

 うちに帰ると、スィーツが気になって仕方がないらしい。早く食べてほしいとねだられる。仕方ないので、さっそく食べることにした。一口、スプーンで口に入れて味わった。生クリームの甘い味を感じて、ケーキのスポンジ部分の柔らかな食べ心地、しっかり味わった。
「これがスィーツなるもの。この世のものとは思えないほどの美味しさ。」
「だけど、あまり食べすぎると太ってしまうので禁物だぜ。」
「これを食べると太るとは?」
「カロリーが多いせいさ。」
「カロリーとは?」
しまった。余計なこと言うと、全部説明しないといけない。大変だ。

 なんやようわからんけど、奇妙な同居生活が始まった。いつ出てくるかわからない。会社では絶対に口出しするなと言っておいても、つい、しゃべってくる。おかげで、言い訳するのが大変だ。家ではやかましいくらいにしゃべってくる。たまには黙っていてほしいものだ。にもかかわらず、それは1か月くらいで終わりを迎えた。彼女は突然、出てこなくなった。ちょっと寂しいような、平穏な生活を取り戻せたというな複雑な気持ちだったが、また、普通の生活が始まった。

 いったい、なんだったんだろう。だけど、そんな思いはいつまでも続かなかった。だって、あまりにありふれていないことは、どんどん忘却の彼方に飛んでいってしまうものだ。オレは、完全にこのことを忘れて、いつもの日常に戻っていった。


 ある日、結構遅くまで残業が続いていて、いい加減眠かったんで、明日に備えて早めに寝ようと、床についた。結構、ぐっすり寝れた。だが、目が覚めるとからだが濡れている。葉の朝露で濡れたみたいだ。やけに虫の音が聞こえる。寝返りを打つと顔に葉が触れ、朝露でもっと濡れる。普通、こんなことってないよな。それになんか寒い。掛け布団を探すがどこにもない。

 どうなっているんだ?オレは目を開けた。そこに見えるのは、どう見てもオレの部屋じゃない。青空が見えている。なんで外にいるんだ?オレは飛び起きた。周りを見渡すと、鬱蒼と草むらが広がっている。遠くに山も見えるし、林も見える。いったい、どうなっているんだ。ここはどこなんだ?



(つづく)


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2020年11月21日

小説 「よく眠れた朝には」 第4話

 昨日は着替えるのがめんどくさくて、そのまま寝てしまったので、オレの恰好はそのままだ。でも、今、オレのいるところはオレの部屋じゃない。

 いつまで悩んでも仕方がない。そこらへんを散策するっきゃないようだ。オレは裸足で歩き始めた。草むらばかりで、全然道にたどりつかない。それに家も見当たらない。アパートやマンションというのもない。くるまの音もしてこない。どこかに電柱があればと思うが、それもない。いったいどうなっているんだ。なんで、オレは自分の部屋のベッドで寝てたのに、なんで草むらで寝てるんだ?だれが、オレを運んだんだろう?なんでオレはそれに気が付かなかったんだろう?いろんな疑問がわき上がってくる。

 しかし、行けども行けどもなにもない。せめてここはどこかということに、誰か答えてほしかった。でも、誰にも出会わない。いったいどうなっているんだ?時計もないから、今が何時なのかもわからない。でも、だんだん太陽が高くなっていくから、朝から昼へ向かっていることはわかる。しかし、裸足で歩くなんてほとんど経験がない。普通、靴を履いて歩いているから、こんな経験は初めてだ。ガラスか何かを踏んづけたら、怪我をしてしまうことが怖かった。たまに痛!と感じることがあったが、怪我することはなかった。

 何時間歩いたんだろう?たぶん、もう昼だ。朝も食べてないから、お腹ぺこぺこだ。でも、食べられるものなんか、何もない。せめて、水が飲みたい。オレはひたすら歩き続けた。

 林の中から水の流れる音が聞こえる。たぶん、そうだ。オレはその方向へ歩きだした。たぶん、飲める。大丈夫だ。そう思って歩いた。

 やっとたどり着いたところは、小さな小川だった。割ときれいな水のように思えた。よく見ると小さな魚も泳いでいる。たぶん、メダカだと思った。魚が生きている水なら、オレが飲んでもたぶん大丈夫だろう。そう思って、一口飲んでみた。

 うん、なんともない・・・と思う。が、たくさん飲んで、調子悪くなっても大変なので、ちょっとにした。しばらく様子を見ようと思った。しばし、休憩だ。オレはそこまでの歩き疲れでうとうと眠ってしまった。

 次に目が覚めたときは、身動きがとれなかった。両手、両足は縛られていた。よく見るとオリに入っているようだった。えっ?なんで?寝てただけじゃん?といっても、身動きできない。オリも、とっても狭い。からだを伸ばせない。

「お、気づいたようだ。」
「ほんまや。」
声が聞こえる。
「おまえはどこから来た?」
「南蛮か?」
「オレもよくわからないんだ。この縄を解いてくれ。動けないよ。」
「そんなわけにはいかない。」
「え?なんで?」
「あやしい身なりをしておるではないか!」
「そんなことで縛るんか?そのほうがおかしいだろ?」
「何をぬかすか。解いたらおまえが何をするかわからんだろう。」
「何もしないよ。するわけないだろう。」
「信じられるか!」
 オリは小さな穴が無数にあいていたが、相手の様子はまったくわからない。どうやら、縄をといたらオレが暴れだすとか、思っているようだ。ありえないだろ。

「オレは嘘は言わん。この縄を解いてくれ。」
「だめだ。」
どうしても無理なようだ。
「それなら、飯を食わしてくれ。お腹が減ってるんだ。」
「それもあかん。」
「じゃ、水は?」
「我慢しろ。」
「じゃ、オレはどうなるんだ?」
「今、どうするか決めているから、決まるまで待て。」

 こいつら普通じゃないな。だいたい、寝ているだけで縛り上げるなんてありえない。でも、何言っても無駄のようだったから、しばらく様子をみることにした。オレのそばには一人の男が見張っている。あと、どれくらいの人数がいるのかわからない。耳を澄ましていると、遠くで女の声も聞こえる。ここは、町なのか?でも、くるまとか人の雑踏は聞こえてこない。割と静かな感じだ。

 今、何時くらいなんだろう?そう思っていたら、なにやら騒がしくなってきた。さっきの男以外の男の声も聞こえてきた。
「こいつはどんな悪さをするかわからんから、打ち首にして埋めてしまえ。」
「はぁ?まだ、何もしてないのに、ありえへんやろ?」
「うるさい。生かしておいたら、何されるかわからん。」
「何もせえへんってば。」
「嘘をつくな。」
「まじか?ほんまに殺すんか?」

 全身が総毛立った。こいつらはオレを本気で殺す気だ。いったい、ここはどこなんだ?こんなことってあり得るのか?

 そのとき、オリが取り払われた。オレがオリと思っていたのは、人が入れるくらいの籠だった。それを、オレにかぶせていただけだった。

 周りを見ると、こいつら!!!?
 どうみても、現代の人ではなかった。着物をきて、頭はちょんまげだ。ちっさいし、痩せこけている。オレのほうがはるかにでかい。

 確かにオレが暴れたら、こいつらには怖いんだと思う。だけど、殺すことないだろう?彼らはカマやら包丁やら持っていた。オレの人生もここまでなんだろうか。殺されることの恐ろしさに声もでなかった。

「さあ、殺っちまおう。」
 一人がカマを振り上げた。オレは終わったと思った。そのカマがオレの首に刺さった・・・と思ったが、痛くない?刺さってない?
「どうした?はやく、殺ってしまえ。」
「何回もやってるけど、死なん。」
 みんながオレに刃物を振り下ろしたが、全然痛くない。痛くないということは、血もでていないということだ。
「もしかすると神の使いかもしれん。」
「だから、刃が刺さらんのか?」
「俺らはえらいことしちまったのかもしれん。」
「天罰が下るかもしれん。」
「うわ~。」

 はぁ?好きなこと言ってやがる。でも、この展開は好都合だ。
「縄を解け!」
「はは~、申し訳ありませんでした。」
「なにとぞ、天罰だけは許して下され。」

 何言ってやがるんだ。今までさんざんなこと、しとってからに。ようやく、縄を解いてもらった。みんな土下座している。

「まあいい。君らには何もしないよ。でも、できたら何か食わせてくれないか?」
「今すぐ用意させます。」
「すまんね。」

 ようやく、自由になって食事もできるという安堵でほっとできた。だけど、なんで、オレは死ななかったんだろう?

「ちょっとその包丁を貸してくれ。」
「お命だけは勘弁してください。」
「だから、殺さないっていってるだろ。」

 オレはその包丁で自分の腕を傷つけた。だが、傷はつかなかった。こんなことってあるんだろうか?今の日本にこんな格好した人たちがいる場所なんかないし、人を殺すなんて、普通はあり得ない。で、オレも死なないなんて、もっとあり得ない。いったい、どうなっているんだろう。


(つづく)


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2020年11月22日

小説 「よく眠れた朝には」 第5話

 そこへ、一人の女が茶碗と箸をもってやってきた。ようやく、まともな飯にありつけると思ったが、飯ってこれだけ?ぬるいお湯にふやけた米が少しと、変な野菜が入っているだけだった。

「これだけ?」
「申し訳ありません、これでもわしらにとっては多いほうなんです。」
 どうなっているんだ?でも、それならしょうがない。少しでも腹の足しになるだろう。喉も乾いた。水が欲しい。
「水はある?」
「ございます。すぐに。」
 なんかひしゃくに水を持ってきてもらったが、こんなんじゃ、足りんなぁ。たぶん、彼らにとってみればこれが精いっぱいなんだろう。って、こいつらはどんな生活してるんだろう?
「ここに住んでいるのは何人なんだ?」
「男11人、女12人、子供8人です。」
「まわりには同じような集落があんの?」
「半日ほど歩けば、同じような村がございます。」

 どうやら、こいつらは自給自足の生活だし、どう見ても現代人ではない。何年かを聞いたが、オレにはさっぱりわからない。西暦何年なんて、こいつらにはわからんだろうし、逆に和暦で言われてもオレにはわからない。まあ、江戸時代なんだろうと思ったが、なんでこんな時代へ来たんだろう。普通に寝てただけなのに。それにオレは切られることがないのは何でだろう。この2つの大きな疑問は解決しないんだろうな。
「ところでオレが寝れる場所はある?」
「すぐに用意します。」

 風呂なんかはないんだろうな。だけど、こいつらちぃちゃいな。こいつらの背丈に合わせた家だから、天井も低い。まあ、足を延ばして寝れるんなら、まあいいか。オレが案内された家は・・・ボロ小屋はとても狭い。夫婦2人で暮らしているみたいだが、彼らは土間で寝だした。

「おいおい、なんで土間でねるんだ?」
「いえ、あなた様には、せめて板の間で寝て頂かないと罰があたりますから。」
「そんなことはないよ。こっちに上がっておいで。」
なんとか、3人で寝れそうだ。
「めっそうもございません。ご一緒だなんて恐れ多い。」
「かまわないから、こっちへおいで。何もしないよ。」

 土間なんてあまりにかわいそうだ。普通は板の間に寝ていたんだろうに。それをオレがぶんどってしまったんだから。いくら、言っても聞いてもらえないから、オレは土間に降りた。
「さあ、オレはここの住人じゃないから、君たちが上にいきなよ。」
 そんな問答があって、ようやく、彼らは板の間に行ってくれた。まあ、土間でもいいか。

 翌朝、彼らは朝ごはんを作って待ってきてくれた。昨日と同じごはんだった。たぶん、これが精いっぱいのおもてなしなんだろう。でも、それをオレが食べたのでは、彼らのご飯がなくなる。なんか、めちゃ申し訳ない気がしてきた。とはいうものの、狩りなんてしたことないし、彼らの恩に報いてやりたいし、どうしたらいいのかわからない。彼らはちょっと畑を作って、ちょっと野生の実とかを取ってきて、それで暮らしていた。肉の存在を知らないようだった。

「このへんに鹿とかイノシシとかいないの?」
「たまにみたことがあります。」
「それを捕まえて食べればいいのに。」
「えっ?神の化身ですよ。それを食べるだなんて。」
「いやいや、違うよ。鹿とかイノシシはとってもおいしい肉なんだよ。」
「そうなんですか?」
「神様の使いがそうおっしゃるなら大丈夫じゃねえか?」
「そうかも知れねえな。」
 ということで、男2人ほどと狩りに出かけた。彼らは弓も知らなかったので、途中で作った。ヤリも作った。イノシシが出てきそうなところに穴を掘って、その上をカムフラージュして、離れて待った。かなり、長いこと待ったが何も現れなかった。

 仕方ないから一旦、彼らを帰した。オレひとりでやってみようと思った。いくつか罠をしかけてみた。そのうち、どれかに掛かっていたらラッキーだ。

 でも、野生動物はオレなんかより、とっても利口なんだろう。全然、掛からなかった。じゃぁ、川で魚でもと思い、小川にも罠を仕掛けた。しっかし、腹減ったなあ。何日食べてないんだろう?

 意地でも捕まえて、あいつらのところに持って行ってやりたい。3,4日過ぎただろうか、あの穴にイノシシが落ちていた。何度もヤリを刺し、捕獲に成功した。オレはなんとか穴から引き揚げ、彼らのところへ引きずっていった。

 が、もう彼らはいなかった。いったい、どこにいったというのだろうか。仕方がないので、そこで火をおこし・・・って、どうやればいいんだ。とにかく、解体するか。くそー、ネットがあればサバイバルの方法でも確認できるんだが、とにかくやってみるしかない。

 内臓なんか食い方がわからない。ホルモン焼きがあるくらいだから、多分食えるはずだ。あとは適当な大きさに切り分けて、木にぶら下げて保存だな。

 とにかく、火をおこさないと。この時代、どういうふうにして火をおこしたんだろうか?まあ、なんとか木をこすり合わせて、やっとこさ、火をおこした。とにかくしっかり焼かないとお腹を壊しそうだから、じっくり焼いて食うことにした。

 たぶん、何時間も掛かって、ようやく、飯にありつけたって感じだ。しかし、このあと、オレはいったいどうすればいいんだろうか?せっかく、この時代の人たちに会えたのに、いなくなってはどうしようもない。

 なんか久しぶりに腹一杯食った気がする。明日はまた歩いてみるか。確か、半日歩けば、隣の集落に行けるって言ってたよな。がんばってみよう。

 だけど、元の世界に帰れるかな?それだけがとても心配だ。戦国時代なら、いつヤリとか、矢が飛んでくるかわからない。でも、なんでオレは切れないんだろう。とっても不思議だ。

 だけど、もっと大きな町に行かないと、あまりに原始的な生活をしなければならない。こんなん、耐えられんわ。

 だが、それも終わりが近づいていた。オレは割と大きな、人為的につくられた道に出たのだ。これなら、なんとか町にでれるかもしれない。その道沿いに歩いていくと、前の方から人が歩いてくる。それも数人いる。



(つづく)


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