2020年12月21日

人なんか嫌いだ! 第1話

 人は群れて生きていく。ボクはそんな生活が大嫌いだ。小さい頃から、家族とさえ、一緒に暮らすことが嫌だった。自由にいろんなことをやりたいのに、絶対邪魔が入る。お袋が邪魔をする、兄弟が邪魔をする、親父も邪魔をする。大きくなったら、絶対に一人で生きていってやる。いつもそう思っていた。

 だから、働けるようになったら、お金を貯めて、山を買って、そこに住むことを夢見ていた。自分ひとりだけの生活、なんて素晴らしいんだろう。まわりに誰もいない。こんな素晴らしい生活は最高だ。

 ボクは高校を卒業すると、大学にいかず、すぐ黙々と働いた。数年働いたら、それなりにお金が貯まった。そのお金で、普通の人には、二束三文の山を買った。当然、貯金はこれでゼロになった。両親はかなり反対したが、もう20歳を超え、大人なボクは迷わず決めたのだ。

 山はかなり広い。草木は生え放題。最高だ。こんなところへ誰も入ってきやしないだろう。初めて明かすが、ボクには、普通の人にはない能力がある。それは、植物を自由に成長させる力なのだ。だから、ひとりで好きなように生きていけるのだ。植物たちは、ボクにいろんなことを囁いてくれる。雨が近いとか、子供たちが踏み荒らしていくことが悲しいとか、ボクはそんなことを聞いて育ってきたのだ。

 山にはたくさんの木が生えている。ボクは、ぼちぼちとその木々を伐り、小さな家を作った。ボク一人なのだから、小さくていい。どんなに時間が掛かっても、文句言うやつもいない。水を貯めれる大きな桶を作ったが、それは途中でお風呂になった。飲み水は、池でいい。うまく、自然循環させれば、池の水は腐らない。きれいなままだ。山の上から流れる小川を引き込んで、池に入れてやると、もっとよくなった。池の水は一杯になると、また、小川を作って下流へと流れていく。生物も生きているから、飲み水はきれいなままだ。

 家は、雨から身を守れれば問題ない。寒ければ、大きな葉っぱを集めてきて、自分の周りに掛ければいい。あるいは、細かい葉っぱでも、たくさんあれば、その中に身を入れてやれば結構暖かい。冬でも植物を成長させれるので、葉っぱはいつでも採れる。木の実や野菜も、いつでも採れる。

 鶏を数羽、飼っているので、卵も採れる。毒虫などには、それが嫌がる植物を育てて、その汁を自分に塗ればいい。危険な動物もたまに現れるけど、私は共存方法を知っている。だから、襲われることはない。冬には雪も降るけど、いろんな葉っぱのおかげで暖かい。ボクはとても自由だ。

 世間からは、完全に切り離されている。テレビもラジオもネットもない。誰もボクを訪ねてこない。自分の両親もボクの生き方にあきれて、コンタクトをとってくることさえ、しない。誰にも会わなくていいなんて、最高だ。ここの時間は本当にゆっくり流れている。朝日が上がってくると目が覚める。昼間はちょっとしたDIYで楽しく過ごす。ちょっと、便利な生活をするために、適当な改善が楽しいのだ。あるいは、遠くの素敵な風景を何時間でも見て過ごす。夕日が沈むころにはもう就寝だ。こんな自由な生活をボク一人で満喫しているなんて、もう本当に最高だ。

 だが、そんな生活の中に、舞い込んでくる人間がいる。山の中を散策していると、植物がささやいてくる。小さな子供がひとりいるって。迷子なんだろう。多分、近隣の町に帰れなくなっているに違いない。ボクはその子のところへ向かった。その子は、まだそんなに弱々しくなっていない。迷子になってそんなに時間も経っていないんだろう。
「お腹、すいてないか?」
ボクは問い掛けた。その子はボクに気づき、うなずいた。ボクは、トマトを育てて、その実をその子に渡した。
「甘いよ。」
その子は両手で受け取って、急いで口に運んだ。よっぽど、お腹がすいていたんだろう。大急ぎで食べてしまった。ボクは二個目を実らせ、その子にあげた。また、一生懸命に食べた。小さな子だから、トマトを2個も食べたら、お腹が一杯になったみいだった。
「おじちゃん、ありがとう。」
まだ、おじちゃんという年ではないのだがね。
「迷子かな?」
「うん。」
「家がどこだか、分からないんだろう?」
「うん。」
「じゃ、一緒に帰るか?」
「うん。」

 ところどころ、蚊にかまれている。かゆみの止まる葉っぱの汁を塗ってあげた。すぐにかゆみはなくなるだろう。

 ボクはその子の手を引いて、近くの町の入り口まで、連れて行ってあげた。そんなに遠くないのだけれどね。山道からアスファルトの道に出たので、ボクはその子にこう言った。
「このアスファルトの道をあっちへ行けば、家が見えてくるから、あとはひとりで行けるだろ?」
「おじちゃんは来ないの?」
「おじちゃんは山に住んでいるから、町にはいけないんだ。」
「なんで?」
「大人の人が苦手なんだよ。」
「なんで?」
このくらいの子供はなんでも疑問を持つけど、これ以上、答えたくない。
「なんでもさ。」
「じゃ、ばいばい。」

 ボクはその子を見送った。その子は、アスファルトの道をトコトコ歩いて行った。ほどなく、近くに住む大人の人に見つかり、保護されたのを、見届けた。ボクの仕事はここまでだ。

 まあ、こんなことが起こるのは、夏の間だけ。都会から遊びに来た子供が冒険して、迷子になるケースがほとんどなのだ。ボクは、植物たちに迷子の子がいるというメッセージを受取って、助けにいく。でも、毎年ではない、数年に一度のことだ。あとは、たいがい、静かに暮らしている。



(つづく)



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2020年12月22日

人なんか嫌いだ! 第2話

 ボクにとって危険動物は、植物たちが教えてくれる。特に熊や猪は要注意だ。でも、彼らはボクの生活エリアを通り過ぎていくだけなのだ。ボクは彼らが通り過ぎていくまで、そっとしているだけ。ムダな争いはしない。獲って食おうなんてこともしない。動物性蛋白質は、卵で十分なんだから。たまに、なかなか通り抜けていかないこともある。でも、辛抱強く待っていると、通り過ぎてくれる。

 滅多にないが、山火事も起こる。これには参る。せっかくのボクの家も焼かれてしまうのだ。でも、仕方ない。一から建築だ。まあ、こんなことがないと、マンネリの生活だからね。

 また、新しい家の設計図を思い浮かべて、自分の居住地を作っていくというのは、楽しい。だから、出来上がると、新しい家がうれしくなる。以前、まあいいかとあきらめていた部分が、今度は出来上がる。だんだん、理想の住まいに近づいてくる。だから、たまに山火事もいいのかもしれないと思うようにしている。

 ある日、男女二人が迷ってきた。大人は嫌いだ。どうしようか、迷っていたが、私の山をぐるぐる回っているだけで、一向に出ていけないようだった。これは、そのうち、二人とも、お亡くなりになってしまうだろうから、ちょっと助けてあげることにした。

 すでに数日迷って、フラフラになっている。水の摂り方も、食事の仕方も知らないみたいだ。よくこんな調子で山の中に来たもんだ。ボクは近寄って、声を掛けた。
「お二人さん、迷子?」
「えっ?人?人がいたぁ!」
女の人は泣き出した。
「助けて下さい、お願いします。」
「いいよ。」
「助かったぁ。」
よっぽど、死に瀕していたんだろう。でも、なんでここに来たのかな?まあいいや、とにかく、甘いトマトを食べさせてやろう。
「ちょっと、待っててね。」
ボクは彼らからちょっと離れた場所で、トマトの実を2個ならせ、彼らのところに持っていった。
「はい、トマト。甘いよ。」
「ありがとう。」
「ほんと。すっごく甘い。」
そういうとあっと言う間になくなった。
「生き返る~。もっとないですか?」
「あるよ。ちょっと待っててね。」
ボクがちょっと離れると、彼らはついてきた。

「だから、そこでちょっと待っててね。」
「一緒に行きますよ。」
「来ないで、そこで待っててね。」
「行きます。」
「じゃ、トマトはない。」
「なんで?いいじゃない。」
「じゃ、ここからはあなたたちで帰ってね。」
ボクはさっさと草むらの中を走って行った。彼らはわめいていたが、追いつけなかった。
「ごめんなさい。言うことを聞きますから、助けて下さい。」
「お願いします。助けて下さい。」

 ボクはしばらく様子をみることにした。若者はわがままだ。人の言うことなんか、全然聞かない。だから、こんな奴らから離れて暮らしたいのだ。というボクも、まだ若いのだけどね。だけど、こいつらも下手をすると亡くなってしまうだろうから、助けてやらないといけないのだ。小さな子供みたいに素直ならまだしも、全然素直じゃないから、嫌いだ。

「どうすんのよ。あの人、どこかに行っちゃったじゃない。」
「おまえが言うこときかないからだろ?」
「あんたがでしょ?」

 あ~あ、ケンカはじめやがった。そんなに元気なら、ほっとおこう。ボクは、自分の家に帰った。翌日、トマトにキウイを少々多めに持っていくことにした。毒虫に刺されたみたいだったから、痛み止め、腫れ止めの薬草も持って、あと、虫よけの葉っぱも持っていくことにした。

 近くに行くと、足が痛いとわめいていた。ムカデにやられたみたいだ。まだ、ケンカしている。どうするつもりだろう?しばし、様子を見ていた。
「もう、あの人こないのかな?」
「もしかしたら、救助隊に連絡してくれているかもよ?」
「でも、あの恰好、世捨て人みたいだったから、連絡なんかしてないかもよ。」
「どうすんのよ。」
「知らんやんけ。」
「あんたが行こうっていったからでしょ?」
「おまえが勝手についてくるからやんか。」

 あ~あ、また、やってる。夕方までに結論でなかったら、明日にしようっと。せっかく、いろいろ持ってきたけど、今日は帰ることにした。また、明日だな。ボクはいくつか残して、トマトなんかは持って帰った。ボクの食事だ。しかし、こういう時にケンカしているなんて、まだまだ余裕があるんだな。今日は、天気がいい。いい月夜だ。

 翌日、朝から彼らの近くに行ってみた。さすがに弱っている。でも、死ぬほどじゃないようだ。ボクは声を掛けてみることにした。
「お腹、減りましたか?」
「えっ?あの人?来てくれた?」
「どこ?どこ?」
「私の言うことを守ってくれるなら、そばに行きますよ。」
「はい、ちゃんということ、聞きます。」
「わかりました。」

 ボクは、彼らの前に姿を現した。
「この前はごめんなさい。」
「いいんですよ。さあ、これを食べて下さい。」
「あ、甘いトマトだ。」
彼らはしゃぶりついた。持ってきた野菜を次から次へと食べていく。
「少しは落ち着きましたか?」
「ありがとう。」
彼女の足は、ものの見事に腫れている。彼も、蜂に刺された痕があって、腫れていた。ボクはまず痛みどめ、腫れ止めの薬草をその腫れているところにつけてあげた。それから、虫よけの葉っぱの汁をかけてあげた。

「これ、なんですか?」
「痛みどめと腫れ止め、虫よけの薬草だよ。」
「え~、そんなんあるんですか?」
ちょっとは、素直になったみたいだ。
「ところで、救助隊に連絡はしてくれているんですか?」
「いいや、してないよ。」
「え~、あり得ない。なんでだよ。」
男の言葉が悪くなった。わがままだな。
「だって、ボクひとりでこの山に住んでいるし、下界への連絡方法は歩いていくしかないからね。」
「電話とかは?」
「そんなのないよ。」
「電気とか?」
「ないよ。」
「じゃあ、どうやって、町までいくんですか?」
「ぼちぼち、歩いていく、それだけだよ。」
「今から?」
「そうだよ。」
「道、知ってるんですか?」
「道はないけど、わかるよ。」
「だから、アスファルトの道のあるとこまで、連れて行ってあげるよ。歩けるだろ?」
「どのくらいかかります?」
「3,4時間ってところかな?」
「そんなに近かったの?」
「うん、そうだよ。」
「じゃ、行こうか。」

 まあ、夕方までには着けるだろう。ボクは道案内(?)をした。しかし、彼らは本当に何も持ってなかった。山に入る恰好ではないな。よく、そんなんで来たもんだ。彼らはよくしゃべる。うるさいくらいだ。黙って歩けんのか。ようやく、アスファルト道にたどりついた。
「ボクはここまで。」
「えっ、町にいかないんですか?」
「山が我が家だからね。帰るわ。」
「この道をそのままいくと、人家があるから、助けを求めるといいよ。」
「はい、これ、お土産。」
そう言って、キウイを数個渡した。もう、来ないでほしい。さあ、帰ろう。ボクは途中で野宿して、家に帰った。家も野宿に近いけどね。



(つづく)

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2020年12月23日

人なんか嫌いだ! 第3話

 ボクの住んでいるところまでは、めったに人はこない。でも、誰かが住んでいるらしいと、知れ渡っているらしく、本当にたまに、人が来る。先日は駐在さんが来た。ここらの地区の人に一応話を聞きに来たとのことだ。物好きだ、こんなところまで。見た目は野宿みたいな家だから、誰も家だと思わない。その駐在さんもそうだった。ここらへんと聞いてきたらしいが、結構迷ったらしい。最近はGPSを持っているから、家には帰れるようだ。

「ここでしたか。」
「こんにちわ。何か用ですか?」
「ご挨拶に。」
「挨拶にここまでなんて、大変ですね。」
「あなたはよく、人助けをしてくれているそうで、助かります。」
「近所で迷っている人を、連れていっているだけですよ。」
「ここで一人住まいなんですか?」
「はい。」
「電気、水道、ガスはないんですよね。」
「はい。」
「じゃ、完全自給自足ってことですか?」
「その通りですね。」
「何かあっても連絡の手段もないのは、ちょっと困るんじゃないんですか。」
「そんなことないですよ。」
「携帯電話もないんですよね。」
「あっても、入りませんから。」
「あ、ほんとだ。」
駐在さんは自分の携帯をみて、そう言った。圏外だ。

「一応、私の名刺を渡しておきます。なにかあったら、訪ねてきてください。」
まあ、一応、もらっておくか。
「はい、わかりました。」
彼は、GPSでボクの家の場所をチェックしていたみたいだ。次は、迷わず来れるだろう。最近は便利なものがあるもんだ。

 最近はやけに危険動物が来る。ボクは木の上に住処を移動した。熊は登ってくるだろうけど、私がいる気配を感じたら、登ってこない。当然、猪は登れない。まあ、寝ぼけて落ちない限り、いい場所かもしれない。

 町から人がやってくる。それも二人だ。なんだろうと思ったら、役人だ。
「この山の固定資産税を納めて下さい。」
「お金なんかないよ。完全自給自足だからね。どうしてもっていうなら、収穫物もっていく?」
「いや、現金化して納めて下さい。」
「こんな場所まで、誰も買いにこないよ。」
「町まで売りに行ったらいいでしょ。」
「町にいくと、気管支炎がひどくなるので、いけない。」
うそだけどね。
「誰かに頼むとか。」
「じゃあ、お願いしますよ。毎日、取りに来て下さい。」
「そんなことできません。」
「じゃあ、私も無理です。」
「納めてもらわないと困ります。」
「だいたい、いくらなんですか?」
「年間、3000円です。」
「それくらいなら、野菜をあげますから、許して下さいよ。」
かなり、すったもんだして、ようやく、許してもらった。支払わなくていいようになった。宅地じゃないんだから、そんなに目くじらたてる必要はないと思うんだけどね。

 植物たちが、ひとりの女性が入り込んできたと囁いている。なんか様子がおかしいらしい。仕方がないから、大急ぎで向かった。彼女は木に縄をくくっていた。おいおい、そんなところで自殺するなよな。

「このライチ、おいしいよ。」
ボクは声を掛けた。その人はかなりびっくりした。そりゃ、そうだろ。こんなところで人に会うなんて、まず考えられないもんね。
「えっ、なんで?」
「自然はいいでしょ。こんなところでひとりでいるなんて、贅沢だよね。」
彼女はしばらく黙っていたけど、
「ほんとうにそうね。」
「ライチ、食べる?」
「はい、ありがとう。」
ようやく、心開いてくれたかな?
「おいしい。」
「でしょ。いっぱいあるから、どうぞ。」
いくつか食べたところで、彼女は、急に涙を流した。
「ごめんなさい。」
「何も言わなくていいよ。」
しばらく、一緒に木漏れ日を眺めていた。本当にいい感じで、木々の隙間の葉をよけて、太陽の光が差し込んでくる。でも、それがとても細い線なので、薄暗くなったちょっとした広場を少しだけ明るくしている。こんなところにも塵ってあるのかどうかわからないけど、キラキラ光ってとても綺麗だ。
「こんな木漏れ日を見てると、心休まりますね。」
「いいでしょ?それに、ライチ、おいしいしね。」
「ふふふ。」
 彼女が微笑んだ。ちょっと、落ち着いたかな。

「なんか、バカらしくなっちゃったわ。」
「私、あきらめてたの。」
ボクは聞き役になった。
「世の中が嫌になったの。みんな、敵に見えて。会社の同僚も先輩も、家族も誰も彼もみんな。」
「そう思ったら、生きている価値なんかないような気がして、いつの間にか、死に場所を見つけに、こんなところまできたの。」
「でも、ここはボクの庭だよ。」
「そうなの?じゃ、不法侵入ね。ごめんなさい。」
「ううん、でも、いろんな人が迷い込んでくるから、気にしないで。特に境界線をちゃんとしているわけじゃないしね。」
「そうなんだ。じゃ、許してくれる?」
「許すも何も、全然気にしない。」
聞き役のつもりが、いつの間にか、ボクもしゃべっている。
「あなたから、こんな美味しいライチの実を頂いて、食べているうちに、なんか死ぬのが馬鹿らしくなってきたわ。」
「よかったね。」
「ありがとう。本当に、ありがとう。」
「でも、どうやって町にいけばいいの?」
「連れてってあげるよ。」
「いいの?」
「全然、かまわないよ。いつも暇だし。」
「もしかして、ここに住んでいるの?」
「うん。」
「どうやって生きてるの?」
「自給自足だよ。」
「すごいのね。」
「私もできるかしら?」
「どうかな?」
それはそうと、だいぶ日が傾いている。
「もう、今日は町まで出るのは遅くなっちゃうから、野宿だね。」
「野宿なの?」
「ボクの家は半分、野宿みたいなもんだから。」
「泊めてくれるの?」
「かまわないよ。」
「ありがとう。」



(つづく)

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2020年12月24日

人なんか嫌いだ! 第4話

 ボクは、明るいうちに家に連れていった。さてどうしよう?木の上の我が家は、一人しか寝れない。仕方ないから、彼女を寝かせてあげようかな。

「さあ、着いたよ。」
「えっ、どこに家があるの?」
「だから野宿みたいなもんだと言ったでしょ。」
「本当に野宿なの?」
この人、野宿したことないんだ。ちょっと、この木の上で寝るの難しいかも・・・

「あの、多分、寝ている時に毒虫にかまれたら痛いから、この葉っぱの汁を服からでているところに塗ってね。」
そう言って、たくさんの葉っぱを渡した。
「あまり、好きな匂いじゃない。」
「毒虫にかまれるより、ましだと思うよ。」
「わかったわ。」
彼女は観念して、葉っぱの汁を腕や足に擦り付けていった。その間に、ボクは例の甘いトマトときゅうり、レタスにイチゴ、ブドウにスイカの実を採った。こんだけあれば、お腹いっぱいになるだろう。だが、彼女はびっくりしてた。
「何それ?こんな時期にそんなものが一度に採れるの?」
「ああ、なんでも採れる。」
「うそでしょ?普通、無理だわ。」
「まあ、普通はね。」
「いったい、どうやってそんなことができるの?」
「内緒。」
「不思議ね。」
「まあ、不思議ということにしておくよ。」
「どうぞ、すきなだけ食べてね。」
「スイカだけでも、お腹いっぱいになりそうね。」

 今晩は思わぬ珍客と楽しい食事になりそうだ・・・ちょっと待てよ。ボクは人が嫌いなはずだったのに、なんでこんなに楽しい思いになっているんだろう?この人、感覚的に自分に似ているのかもしれないな。そう思っておくことにした。

 翌日、葉っぱで作ったコップに、都会ではスムージーというのだろう、野菜や果物の汁を混ぜたものを入れてあげた。
「何これ?おいしい。すごーい。」
「自然はおいしいのだ。」
「ふふふ」
彼女は、もう悲壮感など全然なかった。とても楽しそうでよかった。完全に断ち切れたみたい。ボクたちは朝の食事をして、ぼちぼち散歩に出かけることにした。散歩って言っても、町への帰り道なんだけどね。

「これ、全然、道じゃないのに、よくわかるわね。」
「だって、ボクの庭だもん。」
「こんなに草が生えまくっているのに?」
「なれたら、どこでもわかるよ。」
「そんなものなの?」
「ああ、そうさ。」

この人といると、おしゃべりも楽しくて、あっという間に、例のアスファルトの道に出た。
「ここね。」
「うん。」
「あとは、このまま行けば、人家もあるし、帰れるよ。」
「本当にありがとう。」
彼女はそう言うと、私に抱きついた。
「えっ?」
ボクはそんなこと初めてだったから、とてもびっくりした。
「ありがとう。またね。」
彼女はそう言って、歩いていった。ボクは見えなくなるまで、見送った。いつも、そうしているからね。

 家に帰ると、草木がささやいている。
「あの子にまた会いたいんだろう?」
そんなことないよ・・・と、思う。

 なんかボクにとって、とても不思議な感覚だった。あれほど人が嫌いだったのに、彼女だけはそうでもない。たぶん、自分に干渉してこないからかもしれない。まあ、いい。今は一人で楽しくやっている。誰も来ない方が最高だ。

 迷い込んだ人を助けにいくのが、たまに遅くなってしまって、亡くなっている場合がある。運が悪いと、崖からの転落で亡くなっている人もいる。でも、それは、ボクにとっては人ではなくなっているので、まだ、淡々と作業ができる。ちょっと、面倒くさいのは、口頭で連絡しないといけないことだけだ。先日も、滑落して亡くなった登山客を見つけたので、近くの町まで運んで、その町の人に引き継いだことがある。こうなりゃ、ただの物体なので、そんなに嫌な気がしない。だけど、どこで、いつ、見つけたのかを、詳細に説明するのが面倒くさいだけだ。

 山は慣れない人が入ってくる場所じゃないと思う。でも、変な好奇心を持っている人がやってきては、しくじって大怪我したり、お亡くなりになったりする。たまにはいいが、頻繁だと面倒くさい。これもボクが人を嫌う原因にもなっている。大人しく自分の住んでいる場所で生活すればいいのに、まったく違う山の中に入ってきて、どう対応すればいいのかも知らないから、トラブルを起こす。それを助けにいくのも、面倒くさい。ボクの生活を邪魔しないでほしいと思う。

 また、植物がささやいている。怪我した人がいるみたい。ボクはとにかく行ってみることにした。思った通り、崖のふもとにいた。足を折ってしまっている。
「こんにちわ。」
「えっ、救助の人ですか?」
「いいえ、ここに住んでいる者です。」
「助けて下さい。足をやってしまいました。」
「そうですか。」
ボクがその足を確認したら、太ももの骨をポッキリやっているのがわかった。こりゃ、おぶっていくしかないか。

「お腹、すいてます?」
「何かありますか?」
「トマトならありますよ。食べます?」
「ありがとうございます。」
彼は、一口食べると、
「甘い!こんな甘いの食べたことないです。」
「それはよかったですね。」
その折った片足以外は大丈夫そうだった。

「もっとありますけど、食べます?」
「ありがとうございます。何か飲み物、あります?」
「ありますよ。ちょっと待って下さいね。」
ボクは、ちょっと離れたところから、葉っぱのコップに水を汲んできた。
「すごい。葉っぱでコップ、つくれるんですね。」
「この水、おいしいです。」
「そりゃ、よかったです。」
「足以外は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。折った足だけです。」

 この人、案外、細身だからおぶれるかもね。
「それじゃ、町までいきますか?」
「えっ、どうやってですか?」
「ボクがおぶってあげますよ。」
「大丈夫ですか?」
「問題ないでしょう。」
ボクは、彼を背負ってみた。うん、多分、町まで歩ける。
「重たいでしょう?」
「いいえ、大丈夫ですよ。」

 道は分かるし、極力歩きやすい道を最短でいく。途中、2回ほど休んで、5時間ほど歩いたら、人道にでた。ここからはすぐだ。
「もう、つきますよ。」
「本当にありがとうございます。」

 ボクは、そこから近くにある家に声を掛けて、救急車をお願いした。彼をその家の人に預けて、ボクは帰ることにした。彼からは何度も、名前等、聞かれたけど、特に言うつもりもない。また、来られたら厄介だからね。



(つづく)

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2020年12月25日

人なんか嫌いだ! 第5話

 なんか、せっかく、一人になって、のんびり暮らしていても、勝手に入り込んでくるので、最近は少々うんざりしている。自分で自分のことを対応できないのに、なんでこんな自然の中に入り込んでくるんだろう。自然が多いと、良いとこも悪いとこもたくさんあるので、それなりに注意しないと、怪我もするし、死ぬことだってある。ボクはそんなことも十分承知の上、ひとりで暮らしている。まあ、そんなことしている人なんか、ほとんどいないだろうね。ボクはちょっと特殊だからかな。

 久しぶりに植物がささやいている。女の人がひとりでさまよっているらしい。でも、今日は危険動物が近くにいる。困ったもんだ。人の気も知らないで。今日はゆっくり夕日を眺めて過ごそうと思っていたのに。

 その女の人のところからすぐのところに猪親子がいた。あいつらは厄介だ。特に子連れはまずい。私は、彼女の背後から近づいて、口をふさいで、抱きかかえて走った。追っかけられたら、やばいからね。追ってくる気配がないので、彼女を降ろした。そしたら、その子はどこかで見たことがある子だった。あの時の・・・

「急になにすんのよ。」
びっくりして、怒っていた彼女は、ボクだとわかると、急に笑顔になった。
「あのね、ひとりでこんなところに入り込んだら、あぶないよ。」
「やっと、会えることができた。うれしい。」
まったく反省してないよ。
「ちょっとの差で猪に噛まれてたよ。下手したら骨を折ってたかも知れないよ。」
「そうだったの。ごめんなさい。」
もう、困ったもんだ。
「でも、どうしても、あなたに会いたくて、会いたくて・・・」
「ボクはひとりがいいんだよ。」
「私がいても、あなたはひとりでしょ?」
なんて、理屈だ。
「ここから帰れる?」
「いいえ、帰れないわ。」
「はぁ~、まったく。じゃ、明日、送っていくよ。」
彼女はニコニコしている。なんで、そんなにうれしいのかな?危機一髪だったのに。

 ボクは帰宅途中、夕日を見れる絶景ポイントに立ち寄った。ここで、のんびり過ごすつもりだったからね。
「えっ、すごい。感動。」
彼女は息をのんだ。そりゃそうだ、こんな風景、まず見れない。ボクだけの最高の場所だ。緑の世界が朱に染まっている。丁度、両側の山の間にある小さな平野がとてもきれいな朱に染まっているのだ。緑の合間にみることができる小川もキラキラ光ってきれいだ。それからしばらく、そこでふたりでその景色を満喫してた。ボクと同じように、じっと彼女も見つめてた。やはり、彼女もボクと同じ感覚なんだろうな。そんな気がした。

 しまった、時間を忘れてた。今からだと家に着くの、真っ暗だ。仕方がない。
「そろそろ、帰りますかね。」
「はい、素敵なところにお邪魔させてもらって、ありがとう。」
こんなふうに言ってもらえると、また連れてきてあげようかって、気持ちになりますね。
「ちょっと、急ぎますね。真っ暗になるんで。」
「はい。」
ボクは彼女の手をつないで、道なき道を急いで歩いた。彼女の手はなんて柔らかいんだろう。ボクの自然の中でキズついたり、擦ったりして分厚くなった手なんかじゃない、とても柔らかな手だった。

 だいぶ暗くなったけど、なんとか家に着いた。
「相変わらず、野宿なのね。」
彼女は優しく微笑んでいる。
「まあね。」
「さあ、何か食べよう。」
「こんな真っ暗の中で?」
「いつもこんなんだよ。」
「そうなの?」
「うそ、いつもは明るいときに食事するからね。」
「はい、トマト。」
「ありがとう、甘いやつね。」
「そうだよ。」
ボクはトマトばっかりだな。たまには気が利いたもの、育てればいいのに。
「何か食べたいものある?」
「そうね、ライチがいいかも。」
「わかった。」
「えっ、あるの?」
「あるよ。」
ボクはすぐにライチを出した。
「すっごい。なんで?」
「たいがいの野菜や果物はなんでもOKさ。」
「じゃ、イチゴは?」
「はい、どうぞ。」
「ほんとにすごいね。」
たいしたことないんだけどね。

 食べるだけ食べたら、横になった。彼女の寝床も用意して、そこにどうぞって言ったのに、ボクの隣がいいって、きかない。しかたないから、ふたりが横になれるように寝床を用意した。今晩はちょっと冷えるから、大きな葉っぱも多めに、小さな葉っぱもたくさん用意した。

 今日は月が出てないから、真っ暗だ。そんなときは星がよく見える。
「こんなにたくさんの星見るの、初めて。とても素敵ね。」
「そうなの?」
「町では全然見れない。」
「ここでは普通だよ。これもボクには癒しの巨大スクリーンなのかもね。」
「ほんとうにそうね。」
彼女とふたりで、夜空を見上げて眠る、まあ、それもいいかもね。そう思ったときに、彼女はボクにぴったり抱き着いてきた。動けないじゃん。でも、なんかいい匂い・・・

 彼女は朝までボクにくっついていた。いつもと違うので、戸惑っているボクがいる。これじゃ、彼女が起きるまで、動けないじゃん。

「あ、おはよう。」
ようやく離れてくれた。
「おはよう。何食べたい?」
「なんでも、あなたの好きなもので。」
「そう?」
じゃ、ごちゃ混ぜスムージーだ。これだと、たくさんの種類の栄養が採れる。多量に飲んで頂こう。
「はい、どうぞ。」
「スムージーね。」
「おいしいよ。」
「ほんと、なんでこんなに甘いの?」
「お砂糖とか入れてないよ。それぞれの実の甘味だけだよ。」
「すごいね。毎日、こういうの、飲みたいわ。」
「町でも売ってるでしょ?」
「あるけど、完全に自然のものだけじゃないもん。」
「そっか。」

「ねえ、こんな生活してて、仕事とかはしないの?」
「どんな仕事?」
「えっ、お金とか稼がないの?」
「お金なんかいらないもん。」
「なんで?買い物とかで町にいかないの?」
「いかないよ。ずっと、ここで暮らしてるからね。」
「そうなんだ。じゃ、私もここでいっしょに暮らせるかな?」
「それは無理。」
「なんで?」
「ボクはひとりがいいからね。誰かとは暮らさない。」
「私、あなたと一緒に生きていきたい。」
「無理だね。自分だけで精一杯だからね。」
「お願い。」
「自分のことは自分で守れないと絶対に無理。」
ボクも本当は一緒でもいいかなって、思いかけていたけど、そのうち絶対ケンカするに決まってる。だから、ボクはひとりで生きていく。

 彼女は暗い顔になった。そんな雰囲気が嫌いだ。心穏やかな日々を送りたい。
「じゃ、送っていくよ。」
「・・・」
返事もしない。だから、無理なんだ。ボクは彼女の手を取って、歩いていった。彼女も不機嫌そうな、寂しそうな顔を、雰囲気を漂わせながら、ボクについてきた。



(つづく)


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