2020年12月26日

人なんか嫌いだ! 第6話

「じゃぁ、たまに会ってくれる?」
「それくらいならいいよ。」
「どうやって、連絡したらいいの?」
「何もしなくていい。」
「それじゃ、会えないでしょ。スマホもないのに。」
全然大丈夫だ。植物たちが教えてくれる。
「君が来たって、感じるから。」
「えっ、ほんとうに。本当にそんなことできるの?」
「今回だって、ちゃんと会えたでしょ。」
「あっ。」
彼女は今頃それに気が付いた。間抜けじゃん。おかしかった。

「今から連れていく町から、今度は来たらいい。そしたら、ボクが君を見つけれるからね。」
「ほんとうにそうなのね。」
「だけど、本当は来ない方がいいんだよ。」
「なんでそんなこと言うの?」
「自然の中は、危険がいっぱいだからね。ボクが間に合わないこともあるしね。」
「大丈夫よね?」
「わかんない。ボクより、熊が先に君をみつけて襲うことだってあるかもしれないし、ハチに襲撃されることだってあるかもしれないしね。」
「でも、助けてくれるでしょ?」
「無理な場合もあるよ。」
「それでもいい。」
「死んだら、それまでだよ。」
「町にいたって、交通事故とか、無差別殺人とかに巻き込まれることもあるもん。」
「でも、その確率は少ないと思うよ。」
「それでもいい。あなたに会いたいもん。」

 こんなボクを好きになる人、いるんだ。一緒に住みたいだって。変な人。ボクらは町に着いた。またねって、彼女は言っていたけど、あまり、会わない方が彼女のためのような気がする。多分、気の迷いってやつだよ。きっと。ボクは髭ボーボーだし、ずっと同じ服着てるし、多分、臭いし、なんでそんなヤツがいいのかな。彼女もきっと変なヤツなんだろう。

 この山を買ったときに見た地図では、かなり広い範囲だった。正確な面積は覚えていない。だから、適当に自分の土地だと思って、暮らしてきた。今度、引っ越ししようと思った。だって、たまには別の景色が見たかったからね。まあ、そこまで行けばいいだけなんだけど、住むとこを変えるというのも、気分転換になる。今の住居はそのままにして、新しい居場所を求めてウロウロすることにした。

 3、4日、歩いて、いい場所を見つけた。ここに家を作ろう。そう思って、周りにいる毒虫を撤去することにした。案の定、ムカデはいるし、ケムシもいる。一番めんどくさいのがマダニだ。こいつらの巣があったので、撤去完了。マダニは鬱陶しい。噛まれたら、変な病気になるし、当分、苦しむ。ムカデやハチより、鬱陶しいかも知れない。

 快適な寝床を作るのは簡単だ。あと、雨水をしのげる屋根を作るのにちょっと時間が掛かる。ボクはこうして、どこにでも住める。

 また、植物がささやく。また、彼女が来たらしい。間隔が短いぞ。もっと、ひとりにしておいてくれないかな。とにかく、彼女のもとへ急いだ。

「また、来たの?」
「だって、会いたいんだもん。」
「一晩、泊めてね。」
「今はいいけど、秋は絶対に来ないこと。すっごく、危ないからね。」
「秋は紅葉の季節できれいじゃない。どうして、だめなの?」
「だから、危ないからって、言ってるでしょ。」
「なにが危ないの?」
困ったもんだ。
「危険動物が冬眠に備えて、腹ごしらえするし、ハチなどから襲われる危険も跳ね上がるんだよ。」
「でも、あなたが助けてくれるんでしょ?」
「前にも言ったけど、ボクが君を見つけるまでに、襲われたら助けられないよ。」
「それでも、会いたい気持ちが大きければ、会いに行く。」
この子、バカじゃないの。大丈夫かな。
「自分の命を大事にしない子は大嫌いだ。」
さすがに、黙り込んだ。
「ごめんなさい。」
まあ、いいお灸になっただろう。
「今日は一緒にいてくれるよね?」
「仕方ないからね。」
もう、夕方やし、夜、移動するのは危険だからね。ボクの新しい家まではちょっと遠いし、旧邸(?)に連れてった。
「何か食べたいものある?」
「あの甘いトマトが食べたい。それに、ライチ。」
「オーケー。」
ボクはいつものように、育てて収穫し、彼女に渡した。
「おいしいね。あなたって、本当に不思議。」
「手品が得意だからね。」
彼女はずっと微笑んでいる。まあ、そんな顔は嫌いじゃない。好きな方だね。
「今晩も一緒に寝ていい?」
またかよ。
「仕方ないね。」
「うれしい。ありがとう。」
ボクは寝床をふたり分、用意した。朝方はちょっと冷えるので、大きな葉っぱは多めにね。

 よくよく考えたら、彼女の名前も知らない。年もわからない。ボクのことも何も話していない。お互い、何も知らないんだ。まあ、それでいいんだろうけど。変に教えてしまうと、あと腐れが残る気がした。

 彼女はボクに抱き着いてきた。いい匂いがする。前と一緒だ。これって、絶対、男心をくすぐっているよな。何されても文句言えないよな。ボクは変な葛藤で全然眠れなかった。

 翌朝、彼女はこう言った。
「本当にあなたって人は、何もしないのね。」
どういう意味なんだろう?
「一緒に寝たよ。」
「そうじゃなくって。」
って、どういうことなんだ?
「私って魅力ないのかな?」
女の人は全然、わからない。ボクに襲われなかっただけ、感謝してほしいよな。
「さあ、朝のスムージーを飲んだら、帰ろうか。」
明らかに彼女は不機嫌だ。いったい、何なんだ?こんなんだから、ひとりで暮らしたいんだ。

 ボクは彼女の手を引いて、町へ向かった。安全な道を植物に教えてもらってね。
「さあ、ここからは自分で行ってね。くれぐれも、秋はきちゃだめだよ。」
「わかったわよ。」
まだ、不貞腐れてる。でも、ここで彼女ともお別れ、ボクはほっとしてる。アスファルトの道をトボトボ歩いていく彼女を見届けて帰途についた。もう、来ないでほしいね。やっぱり、ひとりがいい。ボクは、人間社会から離れて、こうして生きていくのがいい。理解できる人なんか、いなくてもいいのだ。



(つづく)


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2020年12月27日

人なんか嫌いだ! 第7話

 雪が降る冬のある日、半分眠っている木々がボクにささやいた。数人ほど、動けないでいるって。なんで、こんな雪の時期に来るかな。吹雪いたら間違いなくお陀仏だろうに。仕方なしにボクはどんな状況かを確認しに行った。彼らは5人ほどで、固まって寒さを防いでいるように見えた。風が強いから、ちょっと先はまるで見えない。まあ、迷子になるわな。

「こんにちわ。皆さん、大丈夫ですか?」
ボクは声をかけた。
「えっ、救助隊の方ですか?」
「いいえ、違います。」
「じゃ、あなたも迷子になってしまったのですか?」
「そんなことはないです。」
「じゃ、帰り道、わかるんですか?」
「はい。」
「おお。」
「怪我している人はいますか?」
「大丈夫です。誰も怪我していません。」
「じゃ、体調の悪い方は?」
「それも大丈夫です。」
「全部で、5名ですよね。」
「はい、その通りです。」
「じゃ、このトマトをどうぞ。」
しかし、ボクもワンパターンだな。
「ここで、トマト???」
「甘いですよ。」
「ほんとだ。甘い。おいしいな。」
彼らはそれぞれ、みんな食べ終えた。
「ちょっとはチカラがでますか?」
「大丈夫です。」
「今日はここで泊まりましょう。」
「場所を作るお手伝いをお願いします。」
ボクは雪を掘り始めた。彼らも手伝ってくれた。大きな雪穴だから、私を入れて6名、十分入る。

「ちょっと、狭くないですか?」
「これくらいの方がいいんですよ。」
「ところで、あなたは?」
「この山に住む者です。」
「お名前を伺ってもいいですか?」
「名前はありません。好きなように呼んで下さい。」
「えっ、この山に一人で住んでいるんですか?」
「はい、そうですよ。」
彼らにはボクのことが信じられないみたいだった。
「すごいな、こんな山にひとりで暮らしているなんて。」
「全然、問題ないですよ。」
「ところで、なんで、私たちが遭難しているって、わかったんですか?」
「ボクの友達が教えてくれるんです。」
「友達?」
ボクはにっこり笑って、腕を大きく回した。
「この自然ですよ。」
「えっ、自然って?」
「この自然が、あなた方のことを教えてくれたんです。なんか迷子になっているみたいだって。」
「そうなんですか?」
「そんなの、どうして聞けるんですか?」
「たぶん、ボクだけなのかも知れません。」
「すごいな。」
余計なこと、言ってしまったかな。ボクはそれ以上、あまり答えることなく、みんなを寝かせた。明日は、ちょっと歩くからね。

 翌朝、みんながまだ寝ているうちに、トマトやイチゴ、リンゴ、キウイ、きゅうりなど、野菜や果物を育てておいた。
「さあ、今日は歩きますよ。腹ごしらえしましょう。」
「いったいどうしたんですか?こんなにいっぱい?」
「内緒です。」
「ちゃんと食べないと、もたないですよ。」
「ありがとうございます。」

 ボクたちはその後、雪穴から出て、はぐれないようにみんなを確認しながら、一列になって歩いて行った。途中、数回休憩を取って、適度に果物などを食べながらね。みんな、まじめに歩いてくれたんで、あっという間にアスファルト道まで着くことができた。

「さあ、ここでお別れです。ご苦労様でした。」
「本当にあなたは命の恩人です。せめて、名前だけでも。」
「だから、名前はないです。この山に住む者です。」
彼らの真剣な気持ちがわかったから、ボクは早めに引き上げることにした。
「あとは、この町の方に救助を求めて下さい。それで、帰れますよ。」
こんなふうに気分よく連れてこれるなんて、久しぶりだ。たいがいこういう局面では、もっとわがままがでる人が多いからね。

 だけど、人が嫌いで、一人暮らししているのに、なんで、人助けばっかりしてるんだろう。気が付けば、自分の生き方がこんな生き方になってる。でも、毎日のことじゃないし、たまに人に会わないとだめだってことを、植物たちがボクに勧めているんだろうか。そんなボクに問題が起こった。

 3人の人間がボクの山に入ってきた。植物たちには変な人たちと言われていたので、遠くから観察することにした。彼らは多くの機材を抱えていた。明らかにボクを探している。テレビ関係の人?絶対に出ないし。遠くから様子を見るだけにして、あきらめて帰ってもらうことにした。だけど、なかなか帰らない。そのうち、ハチの巣を踏んで、刺されてしまっていた。はぁ~、仕方ないな。助けにいくか。

「こんな山までなにしに来たんですか?」
「おお、やっと会えた。多分、この人じゃないかな?」
「何のことですか?」
「それより、そちらのお二人はハチに刺されていますね。この葉っぱの汁を塗って下さい。痛みが引いて、腫れも引きますよ。」
「ありがとうございます。で、インタビュー、いいですか?」
「だめです。写さないで下さい。ボクは、皆さんが危険動物や毒虫から回避できるようにするだけのお節介者なだけですから。」
「でも、たくさんの人間の命を救ってきたんですよね。」
「そんなことありませんよ。たまに山に迷われてくる人がいるんで、町へ案内しているだけです。」
「教えて下さい、どうしてそんな生活をしているんですか?」
「もう、いいでしょ。お帰り下さい。」 
なんでボクなんかを撮るかな。
「お願いしますよ。あなたの特集を組みたいんです。」
「じゃ、山に帰りますので、失礼します。」
「待って下さい。」
その声が、遠ざかるのがわかるくらい、ボクはすばやく木々の中へ走っていった。また、来る気がする。困ったもんだ。様子を見てると、まだ、いる。あきらめてないようだ。また、明日、もしいたら、様子を見に来よう。



(つづく)


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2020年12月28日

人なんか嫌いだ! 第8話

 それから1ヶ月も経っただろうか、あの彼女が現れた。彼女ひとりじゃなかった。テレビ局の人達も一緒だ。本当に面倒くさい。困ったもんだ。こんな夕方では、町まで連れていけないじゃん。ボクんちに泊まる気満々なんだろう。ずるいなあ。最近の夜は、熊がよく歩いている。ボクは知らんぞ。でも、そんなこと、言ってられないな。

「もう、いい加減にして下さい。」
ボクはいきなり、声をかけた。
「あ、やっぱり、来てくれた。うれしい。」
彼女はそう言ったけど、テレビ局の人たちはこれを待っていたようだった。
「また、会えましたね。」
「インタビューもテレビの撮影もだめです。それに、最近は熊が近くにいるんですよ。大怪我するかもしれないのに。」
「そう言わずに、お願いしますよ。」
「ねえ、いいじゃない。私からもお願い。」
「だめったら、だめ。私のひとり静かな生活が脅かされるので。」
「それに、今からどうするんですか?もうすぐ、夜になるんですよ。」
「また、あなたの家に連れて行って。お願い。」
なんてこった。もう、この山に住むのは無理かな。
「夜通し歩いて、町に連れていきます。それが嫌ならここでお別れです。どうしますか?」
「えっ、そんな。いつも泊めてくれるのに。」

 その時、熊の気配がした。
「しっ、静かに。」
「何よ。」
「熊だ。」
みんな、ぎょっとした。困ったのはボクだ。いつもは、離れてやり過ごす。でも、こいつらがいる。一人なら抱えて、離れていけるけど、それもできない。困ったなあ。とにかく、じっとしてもらった。どうしよう。じっと、熊の様子をうかがうことにした。かなり長いこと、緊迫した状態だったけど、なんとか、熊の方から離れていってくれた。周りの植物たちがもう安心だと言ってくれた。

「熊の方から去ってくれたから、もう大丈夫。」
「良かった~。」
「ここは危ないよ。早く町へ行きましょう。」
「インタビューできませんかね?」
「無理です。あきらめて下さい。」
「でわ、ボクの後について来て下さい。」
彼らは仕方なしについてきた。かなり夜更けまで歩いて、アスファルト道まで案内した。

「ここで、インタビューならいいでしょ?」
「まだ、あきらめてないんですか?」
「お願い、ちょっとでいいから、この人たちに協力してあげて。」
「やだ!」
「絶対、場所は明かしませんから、お願いです。」
ほんとうにしつこい。半ば、あきらめた。
「何を聞きたいのですか?」
「あ、なぜ、山に人がいるとわかるんですか?」
「それは、自然が教えてくれるから。」
「自然が?」
「自然はボクの友達だからね。」
「どうやって教えてくれるんですか?」
「ボクにささやいてくれるんです。」
「よくわからないな。どんなふうにですか?」
「ささやいてくれるとしか、いいようがないです。」
「なら、あなたが提供する野菜や果物はどうやって、育てているんですか?」
「それは・・・秘密です。」
「教えてくれないんですか?」
「はい。秘密です。」
「では、どうして、町までの道がわかるんですか?」
「自然が教えてくれるからです。」
「う~ん、わからないなぁ。」
「だって、それ以上、言いようがないですよ。」
「さあ、もういいでしょう。ボクのことは謎のままにしておいて下さい。」
「で、もう訪ねてきたりしないで下さいね。ボクは一人で暮らすのがいいんですから。」
そういうと、彼らの前から歩き出した。何か、言っているけど、もういいよね。

 ボクはもう人間には会いたくない。なんかいろいろと、詮索されるし、彼らの思いの通りにさせられることがとても嫌だ。もうちょっと、山奥へ引っ越すことにした。それに植物がささやいても応じないことにした。勝手にこの山に入ってくる人が悪いのだ。なんでボクが、それを助けないといけないのだ?毎回ではなく、気分が乗れば対応してもいいと思った。ボクに興味本位で近づいてくる人たちには絶対会いたくない。ボクに好意を持って会いに来る人にも会いたくない。彼らが危険動物に襲われようが、ボクの知ったことではない。でも、ちょっと良心が痛むけどね。あまり、植物のささやきは聞きたくない気がする。知らなければ、そんな気持ちになることはないと思うからね。

 久しぶりに駐在さんがやってきた。GPSで調べていたみたいだけど、私はすでに引っ越ししてるので、迷っていた。
「こんにちわ。お久しぶりですね。」
「ああ、会えてよかった。GPSで確認してたんだけど、わからなくなって・・・」
「すみません、引っ越ししたんで、今はここに住んでいません。」
「なんだ、そうでしたか。」
「最近、私を訪ねてくる人が多くなってきたので、引っ越しました。」
「それなら、GPSも新しく設定しなおさないと。」
「そのままで大丈夫ですよ。私がここに来ますから。」
「どういうことですか?」
「自然が教えてくれるので、おまわりさんが来てるよってね。」
「そんなことが分かるのですか?」
「はい、だから、ここらへんに来て頂いたら、私も来ますよ。」
「わかりました。」
「で、今日は何ですか?」
「あっ、そうそう、これを預かってきてたんだ。」

 そういうと、私に手紙らしきものを手渡した。ん?誰からなんだろう?そう思って、中をみると、お袋からだった。親父が亡くなったとのこと。でも、私にコンタクトをとることもないはずだったのに、やっぱり、こういうことは連絡しておきたいのだろう。でも、ボクはお金を持たない。だから、両親のところへ行くことができないのだ。

「そんなお金くらいは貸してあげれるよ。」
「えっ、そうなんですか?でも、お返しできないですよ。お金を稼ぐということをしていないので。」
「じゃあ、あなたが作る野菜や果物を頂けませんか?」
「えっ、それでいいんですか?」
「あなたがつくった野菜や果物がすごく好評なんですよ。一度、食べてみたいなぁ。」
ボクが作ったというより、植物が早く成長してくれて、おいしく実ってくれただけなのにね。
「じゃあ、ちょっと待ってもらえますか?」
そういうと、草薮の中に入って、トマトを実らせた。
「はい、どうぞ。」
「おお、これはきれいなトマトだ。いいんですか?」
「どうぞ、どうぞ。」
おまわりさんは一口食べた。
「すっごく甘い。これはすごい。」
「確かに評判になるだけありますね。私の家族にも食べさせてあげたいくらいだ。」
「いいですよ。何個くらいあればいいですか?」
「本当ですか?じゃあ、5個ほど頂けますか?その代わり、あなたのご両親の家までの往復代くらい出してあげますよ。あ、その恰好じゃ、困りますよね。身を整えるくらいは、家の服を使えばいいですよ。」
「本当にいいんですか?ありがとうございます。」

 ボクは、駐在さんについていくことになった。ひさしぶりの人間界だ。あんまり、行きたくないけど、仕方がない。親父に線香の一本でもあげてこよう。



(つづく)


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2020年12月29日

人なんか嫌いだ! 第9話

 ボクは駐在さんの家で身の回りを整えさせて頂くことになった。久しぶりのお風呂に入らせて頂いた。ひげも剃った。髪の毛も適当に短くして、整えた。着るものは駐在さんの奥さんが見繕ってくれた。ボクはポリ袋をいくつか頂いて、ちょっと藪の中に入って行った。

 その袋に、トマトやら、リンゴやカキ、キウイにスイカ、キュウリ、オクラ、ブドウ、イチゴなど、いろいろな種類の野菜や果物を入れて、奥さんに渡した。
「えっ、こんなにたくさん、どこに持ってきたんですか?」
「内緒です。お世話になったお礼です。」

 駐在さんもすっごくびっくりしていた。だって、一緒にここまで来た時には、ボクは何も持っていなかったからね。
「本当にありがとう。じゃ、このお金、持っていって。」
その金額で、十分、両親宅まで行って帰ってこれるようだった。
「ありがとうございます。」
「じゃ、行ってきます。」

 電車で5時間も走ると、最寄の駅に着いた。ここからは勝手知ったる田舎だ。とはいうものの、だいぶ様変わりしている。見たことのないビルが建っているし、初めてみるお店もある。人も多くなっているように思う。でも、すべて関わらないようにしたい。

 久しぶりの実家についた。
「ただいま。」
「えっ、帰ってきたのかい?」
「おまわりさんから連絡もらった。」
「ちゃんと届いたんだね。」
「うん、線香あげにきた。」
「おとうさんも喜ぶよ。」

 ボクは家の前に庭で、果物をたくさん育てたんで、仏前に並べた。
「こんなにたくさん持ってきたのかい、喜ぶよ。」
ボクは線香をあげて、しばし、黙とうした。終わったら、お袋がこう言った。
「今日は、泊まっていけるのかい?」
「そうだね。」
「ちゃんと、働いてるの?」
「いいや、山で暮らしてるよ。」
「おまえが買ったあの山かい?」
「そうだよ。」
「ひとりで暮らしていけるのかい?」
「ボクがどう見える?痩せこけてるかい?」
「ちゃんと、生活しているようだね。」
やっぱり、帰ろうと思った。こういうのが嫌なんだ。

「やっぱり、用事があるから帰るわ。」
「さっき、泊まっていくって言ってたじゃない。」
「顔が見れてんだから、もういいじゃん。」
「ボクも線香あげれたし。」
「そういわずに、泊まっていったらどう?」
「いや、帰るわ。じゃあね。」

 あわてたお袋はいくつかのお土産を持ってきた。こんなん、いらんのにと思ったけど、あの駐在さんの顔が浮かんだんで、持って帰ることにした。

 駅について、帰りの時間を見ると、最終だった。これを逃すと、駅でお泊りしかない。あぶなかった。でも、着く時間はかなり遅い。着いても、その駅でお泊りだな。

 翌日、駐在さんちへ向かった。
「おはようございます。」
「えっ、もう帰ってきたの?」
「はい。」
「せっかく行ったのに、もっとゆっくりしてくれば・・・」
「ボクはやはり、ひとりの方がいいんです。」
お袋からもらったお土産を、全部渡して、山に帰ることにした。

 でも、そこに例のテレビ局の人たちも待ち構えていた。
「今日はインタビュー、いいですよね?」
やられた。まいったな。
「わかりました。その代り、もう人助けはしない、人前に姿を現さないことにします。」
「え、そんな。」
「ボクは人と関わるのが嫌いなだけです。」
「だから、山に一人で住んでいるんです。」
「それが脅かされるなら、もう人前にでないようにします。」
「人前にでないということは、人助けもしないということです。」
テレビ局の人は顔を見合わせて、困っていた。ボクも困っている。
「そっとしておいて下さい。それがお互いのためのような気がします。」
彼らはしぶしぶ諦めてくれた。ボクは、ほっとした。

 さあ、久しぶりの山だ。と言っても、1日ちょっとしか経ってないけどね。やはり、ボクにはここがいい。もう、人間界にはいきたくない。

 しばらくは本当に誰からも干渉されずに、自由に過ごすことができた。だが、ボクとしたことがしくじってしまったんだ。

 ボクは熊と、お互い何も知らずに出会ってしまったんだ。熊はびっくりして、ボクに一撃を食らわして逃げていった。そのおかげで、ボクのお腹は裂け、血が滴った。多分、大怪我だと思う。身動きもできない。これでボクの人生も終わったかも知れない。熊の一撃はすさまじい。手も足もしびれて、動かない。どうしたらいいのかもわからない。でも、不思議と痛みをあまり感じない。とにかく、止血になる葉っぱを裂けたお腹の周りに育てた。でも、すぐには血が止まらない。あ~、やっぱり、もう終わりなのかも知れないな。だんだん、眠たくなってきた。もう、意識がなくなっていく。

 目が覚めた。死んだ?いや、生きている。目の前に毛が見える。こいつはなんだ?そう思ったら、そいつも頭を上げた。犬?のように見える。人懐っこい気がした。ボクの怪我の個所はどうなっているんだろう?野犬なら、食べられても仕方がない状況だ。でも、そんなことはないようだった。なんとか、血が止まっている。ボクは栄養になりそうな果物、野菜を育て、食べた。その犬も食べるかどうかわからなかったけど、いくつかの種類は食べてくれた。好き嫌いはありそうだ。

 何日か、もしかすると数週間、ボクはそのまま過ごした。お腹の傷が治ってきたような気がしたので、立ち上がってみた。まだ、無理だ。痛みを伴う。あの犬はボクから離れようとしない。どこかの飼い犬かもしれないな。

 しばらくして、ようやくなんとか歩けるようになった。ボクもその犬も食べるものには、こと欠かないので元気そのものだ。でも、お腹の裂けた痕はかなり目立つ。まあ、裸でいるわけではないので、大丈夫だ。そのうち、普通に歩けるようになって、走れるようにもなった。そのころには、犬とかなり仲良くなっていった。

 ある時、いつもそばにいてくれた犬がどこかに行ってしまった。何日も帰ってこなかった。でも、ボクはいつも通り、ひとりの暮らしを満喫していた。ところがある日、目を覚ますとあの犬がいた。その犬だけではなく、ひとりの女の人を連れてきていた。誰なんだろう?



(つづく)


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2020年12月30日

人なんか嫌いだ! 第10話

「しばらく、うちのロッキーがいなくなったと思ったら、あなたのところにいたのね。」
そうだったのか。合点がいった。
「あなたの犬でしたか。ありがとうございます。命拾いしました。」
「どうやらそのようね。ロッキーは怪我をしている動物を見かけると元気になるまで、ずっとそばにいるのよ。」
「あなたが飼い主なんですね。すごく慣れている気がしていました。」
「ところで、あなた、ひとりで暮らしているの?」
「はい、ボクはこの山でひとりです。」
「そうなのね。私は、あっちの山でロッキーと暮らしているわ。よろしかったら、遊びにきてもいいわよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、またね。」
そう言って、彼女はロッキーと帰っていった。へえ~、ボク以外にもそんな人がいるんだ。ちょっと、感動かな。

 1ヶ月ほど経って、ボクは彼女の山へ行ってみようと思った。彼女の山まで、のんびり歩いて、2日ほどかかる。途中、いろんな景色を堪能して、のんびり歩いたので、3日もかかった。植物たちはロッキーと彼女の居場所を教えてくれた。

「こんにちわ。遊びにきました。」
「久しぶり。」
「ロッキーも久しぶり。」
ボクはたくさんの種類の野菜や果物をお土産に、彼女に渡した。
「すごいね。こんなに育ててるの?」
「まあ、そうですね。」
「でも、なんか変。この時期に採れないものもあるね。」
「まあ、あんまり気にしないで下さい。」
「ふーん、まあいいわ。ありがとう。」
「この場所もよさそうなところですね。」
「そうでしょ、結構、気に入ってるのよ。」
「そういえば、キズの具合はどう?」
「もう、とっくに大丈夫ですよ。ロッキーのおかげでね。」
「それはよかったわ。」
「でも、ボクがそんな状態だとどうしてわかったんでしょうか。」
「ロッキーにはわかるみたい。だから、いなくなったら、介護中ってことね。」
なるほど、自然から話を聞いてるんだろうな。ボクと一緒だ。
「あなたもよく、ここがわかったわね。山ったって、広いのに。」
「自然が教えてくれるんです。」
「ふーん、じゃ、ロッキーと同じね。」
「そのようです。」

 それから、ボクらはそんなに話もせずに、のんびり風景を見て過ごした。
「また、気が向いたらきます。」
「いつでもおいで。」
「ありがとう。」

 また、のんびり歩いて、回り道して、景色を楽しんだ。お互い干渉しないのがいい。そういえば、あの人がいたなっていう感じでいい。たまにロッキーがひとりでくる。だから、お土産に果物とかを持って行ってもらった。ボクと彼女たちはそんな付き合いになった。

 綺麗な月夜に、遠くの山が赤くなっているのか見えた。こんな時間に赤く見えることはない。朝夕なら朝焼け、夕焼けがあるが、夜にそんな現象が現れることはない。おかしいなと思ったら、キナ臭い。山火事だ。でも、あの山は彼女の山だ。大急ぎで向かった。とは言えども、どんなに早く行っても、1日以上は掛かる。ボクは大急ぎで向かった。その途中、植物たちがささやいた。彼女たちはこっちに向かっているとのこと。よかった、無事みたいだ。ボクは急ぎ足で向かった。道は多分この道。間違いなく会えるはずだ。でも、あの山の燃え方では、当分戻れないだろう。どうするかな。そんなことを考えながら歩いていると、彼女たちが現れた。

「大丈夫だった?」
「なんとかね。でも、せっかくの家がなくなったわよ。」
「仕方ないですね。作るの手伝いますよ。」
「ありがとう。ところで、何か食べるもの持ってない?お腹、へっちゃった。」
「ありますよ。」
ボクは例によって、フルーツトマトとか、アボガドとか、キウイとか、リンゴなど、出してあげた。

「相変わらず、季節関係なしにでてくるね。」
「まあ、そんなもんです。」
「今日はそこらで野宿なんだけど、付き合う?」
「いいですよ。」
ひさしぶりにロッキーにも会えたし、ボクは付き合うことにした。ゆっくり、彼女と話ができる。こんなことはそんなにない。
「ところで名前聞いてなかったよね。」
「そうですね。」
「私はミキって呼んでくれたらいいわ。」
「ボクはトシです。」
「了解。」
「でも、ここまで延焼することはないわよね。」
「そうですね。大丈夫だと思います。」
ここまで来そうなら植物たちが教えてくれるからね。
「今日はきれいな月ですよ。こんな日に火事なんて、困ったものですね。」
「そうよね。」
まあ、でもいい月夜でよかった。そんな景色を見ている間に眠りについた。

 翌日、まだ火事は続いていた。ボクらは一旦別れて、落ち着いたらまたお会いすることにした。ボクはまた自分のテリトリーへ戻っていった。う~ん、やっぱり、ひとりは一番落ち着くなぁ。だけど、火事はなかなか消えることはなく、結構長い間、燃えていた。でも、消えてから草木が生えてきて元に戻るまで長い時間がかかる。彼女たちはどこに居場所を作るのかな。まあ、そのうち植物たちが教えてくれるだろう。

 ある時、ボクはいつものように、のんびりと風景を楽しんでいた。空気がシンと冷えていて、まじりっけなしのきれいな風景が見えていた。こんな日はそんなにない、最高の瞬間だ。するといきなり大きな音が聞こえた。その瞬間、背中からドンと強いチカラで突かれた感じがしたので、振り返った。
「えっ?」
からだにチカラが入らない。そのまま倒れた。なんで?倒れた自分の下にあったかい水が流れてくるのを感じた。血・・・だんだん、気が遠くなってくる。近くで犬が吠えている。ロッキー?いや、そうじゃない。違う犬だ。人の声が聞こえてる・・・



(つづく)


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