2021年01月10日

人なんか嫌いだ! 第21話

 それから、ボクらは、ツリーハウスの周りを、もう少し使い勝手の良いように改良することにした。近くに水も引いたし、お風呂も入れるようにした。まあ、元々小川が近くに流れていたので、それをさらに近くにしたまでだ。テーブルやいすも作り、ハウスへ上げた。なんとなく、本当の家のようになってきた感じだ。

 愛子さんは、マンションの整理をするために、一旦帰った。ボクはまた、いい景色を求めて、山歩きにでた。彼女が帰ってくるまでに、サプライズの場所を見つけておきたいなと思っていた。

 まあ、だけど、ここらへんもいい加減歩きまわっているし、いい景色の場所も調べ尽くしている。あまり遠くなると、ずっと家をほったらかしになってしまうので、近場で行ったことのない場所を求めて、歩くことにした。

 そういえば、崖の裏側って、行ったことなかったな。いつも、崖の上からの景色を楽しんでいただけだったので、ぐるりと回って、崖の下側に行ってみることにした。下側からは、岩場から水が滴っていた。これは、ちょっと、雨が降ったら滝になっているかも。確かに、その場所の下には、今は水溜まり程度だけど、これもここから川になって流れていくのだろうな。そこの水は結構冷たく、ちょっと入っていくと、結構深かった。さすがに今は寒いので、飛び込めないけど、楽しそうな感じだ。夏場にはいいかもしれない。

 あれ?ボクは耳を澄ませた。何か鳴いている。どこだ?その声をたどって行ってみると、子犬だ。たぶん、雑種なんだろう。でも、なんでこんなところにいるんだろう。良く見ると、ケガをしていた。仕方がないね、連れて帰るか。

 家に帰ると、ロッキーも食べるトマトをあげてみた。何とか、その汁をなめている。いけるかな。卵は食べるかな。適当に焼いて、食べさせてみた。大丈夫だ、食べる。コイツ、甘い汁はなんでも飲みよる。本当は牛乳とか、ヤギの乳とかあればいいんだけど、まあ、仕方がない。

 数日すれば、しっかり、元気になった。ケガの具合も良くなった。若いと治りが早いよね。子犬と遊んでいると、愛子さんが帰ってきた。
「どうしたの、その子?」
「ケガしてたんで、連れて帰ってきたんだ。」
「かわいいわね。」
「うちの家族にしてもいい?」
「もちろんよ。」
というわけで、愛子さんにも気に入ってもらった。

 その日の夕方、食事を終えてから、家でのんびりしてたら、彼女はぽつりぽつり話をし出した。あのマンションは解約したそうで、荷物も処分したとのこと。必要最低限だけ、リュックにつめて、持ってきたみたい。
「本当にそれでよかった?」
「もちろんよ。」
ボクはその気持ちが嬉しかった。

 愛子さんは、ずっと契約社員で、ある程度お金が貯まったら、自然の中に出かけていたとのこと。いずれは、ミキさんのように自然の中で暮らしたいと思っていたとのこと。

 ボクはそうじゃない。人が嫌いでひとりになれる山で暮らしていた。誰にも邪魔されないように、この山だって自分で買った。でも、あんまり、境界が分かっていないけどね。たまに、気が合った人に会うのは大丈夫だけど、人が常時いる村とか町では無理だ。

「へえ、すごいのね。この山はすべてあなたのものなのね。」
「うん。安いけどね。だけど、侵入者もたまにくるんだ。」
「どんな?」
「例えば、迷子の子供だったり、大人も迷子になってたりするし、自殺者とか、遭難者とか、航空機事故とか、密猟もたまにあるよ。」
「なんか怖いわね。」
「そうなんだ。いろいろとあるんで、あの駐在さんのところに話を持っていくから、駐在さんとも仲良くなったんだ。」
「なるほどね。」
「あの、ちょっと気になっていたんだけど。」
「なにかな?」
「トシくんのおなかに大きな傷痕があるでしょ。」
「ああ、これね。これは熊に襲われたんだ。背中の傷は、散弾銃の痕。」
「そんなことが・・・」
彼女は涙を流した。ボクは慌てて、こう言った。
「でも、ちゃんと生きてるでしょ。」

 ボクらは、お互いのことを話した。面白いのは、ボクも彼女もちゃんと家族がいるのに、自分だけが、こういう自然で暮らすことが好きなこと。家族のうちひとりだけ、まったく違う生き方をするなんてことは、ボクらの共通点だ。

「ここではスマホも入らないから、連絡とれないけど、いいの?」
「全然、大丈夫よ。年に1回は家族に顔を見せるという条件付なんだけど。」
「了解。その時はゆっくり楽しんでおいで。」
「何言ってるの?あなたもいくのよ。」
「そりゃ、無理だよ。人嫌いなボクがそんな中に入っていけないよ。」
「じゃ、最初の1回だけ、お願い。あとはなんとかするわ。」

 1回は行かなくちゃいけないのか。でも、世間で言う結婚式もしないし、婚姻届も出さないし、そんな必要があるのだろうか。ということは、ボクの家族にも、彼女を紹介しておく必要があるのか。

「じゃ、ボクの家族にも会ってもらわないといけないのかな。」
「当然だと思うわ。いつ、行く?すぐでもいいわ。」
「ちょっと待ってよ。まあ、手紙でも書くわ。」
「わかった。私もそうする。」
ボクらはお互いを紹介するため、それぞれの実家に手紙を書いた。
「ねえ、ここの住所はどうしたらいいの?」
「○○の山中、ツリーハウスでいいよ。」
「そんなんでいいの?」
「なかなかいいでしょ。そういえば、昔、ボクのおじが田舎に移住したときに、家の前に大きな木があったので、チロリン村のクルミの木ということで、散々、ふれまわってたら、それで郵便物が着くようになったことがあったんだって。」
「そうなの?そんなこともあるの?すごいね。」



(つづく)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | 人なんか嫌いだ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月11日

人なんか嫌いだ! 第22話(最終回)

 それからしばらくして、駐在さんがやってきた。
「お~い。」
「あ、こんにちわ。お元気ですか?」
「登っていい?」
「どうぞ、どうぞ。」
「へえ~、なかなかな家だね。」
「今日はどうしたんですか?」
「おお、そうだった。手紙が来たんで、郵便屋さんの代わりに持ってきたんだ。」
「ありがとうございます。」

 それは、愛子さん宛とボク宛の手紙だった。それぞれ、先方の都合が書いてあったので、それに合わせていくことにした。
「そうか。お互いの家族に顔見せをしにいくんだね。」
「まあ、なんとか行ってきますよ。」
「頑張ってな。」
「ありがとうございます。」

 そんな訳でまずは、ボクの方から行くことになった。親父の葬式以来なんで、多少の懐かしさもあるけど、また、ぐちゃぐちゃ言われるのがうっとおしい気持ちの方が大きくなってきた。ああ、行きたくない。

 毎度、駐在さんちで服を借りていく。
「やっぱり、どきどきしちゃうわ。」
「すぐ、帰ろうよ。」
「そんなわけにいかにでしょ。」
やっぱ、そうか。仕方がないね。

 家に着くと、お袋が出迎えてくれた。
「お帰り。その方が愛子さんね。」
「初めまして、よろしくお願いします。」
中から、兄貴夫婦も現れた。
「よう、久しぶり。」
「あれ、来てたの?」
「いや、ここに住んでる。」
「そうなんだ。よかったね。」
兄貴はここに戻ってきていた。
「ところでこの住所、ほんとに届くの?」
「ちゃんと来ただろ?」
「愛子さん、本当にこの人でいいの?」
「はい。毎日、楽しく暮らしてますよ。」
「で、結婚式も披露宴もなしでいいの?」
「はい、何もなしでいいんです。」
晩御飯の席では、そんな話ばかりで、やっぱり、うっとおしかった。
「ところで愛子さんはおいくつなの?」
そういえば、ボクも知らない。
「32になります。」
えっ、ボクより年上だったの?だんだん、いろんなことが分かってくるな。

 次の日、お昼前にはお暇することにした。次が控えているからね。一旦、ツリーハウスに戻って、しばしゆっくりした暮らしを送った。でも、またすぐ町までいかなくてはならない。今度は愛子さんの実家だ。今度はボクが緊張していた。

「あなたは何も気にしないで、でんと構えていればいいんだから。」
そういわれても、びびりそうだ。
「まあ、なんとか頑張るよ。」
「ありがとう。あとは私がするからね。」

 そういっていたのは、こういうことだったのかと分かるのは、彼女の実家に着いてからのことだった。彼女の実家は北海道。こんなことも、今頃知った。広大な大自然という雰囲気だが、実家は街中だった。

「帰ったわよ。」
「おかえり~。」
「なんだ、そいつは?」
「ちゃんと、手紙で説明したよね。見てなかったの?」
「わしは知らん。」
「じゃ、そのまま知らん顔しててよ。」
「まあ、まあ、帰って早々、ケンカしないで。」
「いい?私はこの人と結婚してるの。今日は、私の旦那様を紹介しにきただけ。」
「なんだと。」
「とうさんが何言ってもむだだから。」
「絶対に認めんぞ。」
えらいことになってきた。
「初めまして、トシと言います。」
「この男は苗字もないのか!」
「そんなことどうでもいいでしょ。」
愛子さんは強烈だな。
「苗字は、今はありません。自然の中で暮らしていますので、トシだけで十分なんで。」
「こんなヤツのどこがいい?」
「もう、どなってばかりで、ちょっとは冷静に話できないかな?」
「そうですよ、おとうさん。ちゃんと話を聞いてやってくださいよ。」
「ほとんど、自給自足の生活をしています。愛子さんも共感して下さっているので、ご一緒させて頂いています。」
「手紙でも書いた通り、これからは私もトシさんと一緒に暮らしていきます。」
「なんで、そんなことに・・・」
「昔っから、自然の中で暮らしたいって、私、言ってたよね。何も聞いてなかった?」
「おかあさんはちゃんとわかっているけど、おとうさんがね。」
「まあいいわ、彼も紹介したし、私の決意もお話ししたし、もういいわね。」
「よくない!」
「じゃ、どうしろっていうの?」
「わしは認めんからな。」
「もっと、具体的に言ってほしいわ。」
「だめだと言ったら、だめだ。」
「また、これよ。話にならないわ。」
この親子の話を聞いていたら、愛子さんがどんな人なのかわかってきたような気がする。
「おかあさん、毎回、帰ってくるたびにこの調子なら、帰ってくるのやめるわ。悪いけど。」
「愛子、そんなこと言わないで。」
「だって、せっかく、気分良く帰ってきても、初めからこれでは、ここにいたいと思えないもん。」
「・・・」
ボクもそう思う。
「トシさん、帰ろう。」
母親が止めるのを振り切って、ボクらは、帰途についた。

「愛子さん、よかったのかな?」
「ごめんなさいね。私と父親とは、犬猿の仲なのよ。いつも、ああなの。」
「そうか、ボクもその気持ちはよくわかるよ。だから、山の中で一人暮らしを始めたんだからね。」
「そうよね。」

 いくら血縁であっても、性格が合う、合わないがある。世間では、勘当ということばもあるし、兄弟の仲たがいも多くある。相続というときには骨肉の争いになったりする。多分、お互いのテリトリを侵さないくらいのそばにいて、相手の気持ちを害さない程度の干渉しかしない、そんな関係が心地いいんだろうな。ボクらは同じ価値観を持っているし、何時間でも好きな景色を見てられる。

 一緒にいるということは、お互いに自然に気を遣ってあげられるかが大事だと思う。「こうしなくっちゃ」じゃなくて、自然に、いつの間にかやっている気遣いができる相手だからこそ、多分、いつまでも一緒にいられるんだろうな。

 また、ツリーハウスは、ボクら二人の・・・おっと、新入りがいたっけ。子犬のまだ名前がないけど、三人で暮らすことになった。ボク一人で出歩くこともあれば、愛子さん一人で行くこともある。三人でいくときもある。何かを作るときは、一緒に楽しむ。ボクらは、山の中でそんな暮らしをしている。時たま、ミキさんとロッキーが遊びにきてくれる。駐在さんたちもだ。これが、ボクが憧れていた暮らしなんだ。

 今日もまた、ツリーハウスから、綺麗な夕日が見える。三人でずっと眺めていたいもんだ。




(おわり)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☁| Comment(0) | 人なんか嫌いだ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする