2021年03月30日

短編小説 「ほっといてくれ!」 第1話

 ボクは小さい頃から、問題を抱えていた。その問題が原因で、友達ができない。ボク自身がおとなしい性格だから、いじめの標的にされることが多かった。でも、そうされることで発生するその問題のせいで、みんなボクから離れていった。だから、いつも一人きりだった。


 両親はその問題を知っている。うまくコントロールして、その問題が出ないようにしなさいと言うのだけど、いじめられるとコントロールなんかできやしない。たぶん、大人になっても、コントロールすることなど、とうてい無理に決まっていると思っていた。だから、ボクはいつも一人きりでいた。


 中学も高校も、おとなしいボクは、決まっていじめの標的にされた。ボクはできるだけ、感情を荒げずにいることが必要だった。そうじゃなかったら、ボクをいじめてきた連中が大けがをしてしまうんだ。


 トイレに入っていると、いきなり水をかけられる。教室に入ると、机にいたずら書きがされている。体操着はぼろぼろにされているし、教科書も使えない状態にされる。ボクはそれを持って、職員室へいくのだが、先生はもっと周りの生徒となかよくしなさいと言う。なんか、ボクが悪いみたいだ。一度、教室で言ったことがある。


「お願いだから、ボクをいじめないで下さい。」

「何言ってるの?誰もそんなことしてないよ。」

「みんなが大けがするから。」

「はっ?何それ?おかしいんじゃない?」

「お願いです。これ以上、やめて下さい。」


 ボクは真剣にみんなにお願いしたけど、誰も取り合ってくれなかった。その後も、ボクへのいじめは続いた。ボクは一生懸命、自分の感情を抑えたが、それも無理な状態になった。両親には、できるだけ我慢するとは言ったが、もう限界だった。


 ボクは、背中に生ごみをかけられたことが、引きがねになってしまった。瞬間、ボクへのいじめの声を察知した。その声の主らは、ことごとく腕や足の骨が砕かれた。あ~あ、またやってしまった。教室でうめき声がたくさんした。ボクをいじめていた連中は複雑骨折で、その場に倒れていた。他のみんなはボクを恐ろしい目で見ていた。だから、言ったじゃない。ボクはそう言いたかったけど、黙って、教室から出て行った。そのまま、職員室へ行った。


「先生、教室で数人が骨折しています。救急車を呼んで下さい。」

「その前に、おまえ、えらい臭いな。なんなんだ?」

「ああ、背中から生ごみをかけられたから、臭いんですよ。」

「なんでそんなことに?」

「いじめられているから、なんとかしてほしいっていったでしょ?」

「めちゃ臭いな。」

「そんなことより、救急車を呼んで下さい。」


 だが、先生は、一向にそんなことをする素振りを見せない。でも、しばらくして、クラスの女子らが、やってきて、ボクと同じことを言った。

「先生、大変。救急車を呼んで下さい。」

「ほらね。早くお願いします。」

教室では、6名が骨折で倒れていた。まあ、当分、学校に来れないだろう。

「いったい、誰がこんなことを?」


 でも、誰もボクだとは言わなかった。だって、言うと、同じような目に合うかも知れないって、思っているからだろう。中学の時も、そういう事件が起こってしまうと、その後はいじめられなくなる。


 ボクはその時、自分がどうなっていたのかは知らない。でも、周りのクラスメートは、それを目撃していた。ボクの形相が変わって、いじめていた連中の手足が変な風に折れ曲がったらしい。ひそひそ話が聞こえた時に、どうやらそういうことで、ボクを怒らせると、命があぶないということになっている。だから、お願いしたのにね。


「この制服、生臭いよ。」

「だって、生ごみかけられたんだもん。」

「あんた、まさか・・・」

「仕方ないよ、限界だったもん。」

「我慢しなさいっていったでしょ。」

「何度も、やめてってお願いしたんだよ。」

「だけどそのうち、モンスター扱いされるわよ。」


 確かにそうかもしれない。ボクがやったと思っている人たちは、少なくともボクをモンスターと思っているだろう。でも、これで平穏は高校生活が送れるというものだ。ボクは竹内学(たけうちまなぶ)、よろしくね。


 大学へ進んでも、ボクはひとり静かに行動していた。あまり、誰とも話をせずに大学生活を送っていたが、ここでも強制的に邪魔をする人たちがいた。例えば、応援団の方々だったり、空手部の方々だったり、運動部の人たちだ。


「君は何年生かな?」

正直に言うと、間違いなく、部室へ連れていかれる。

「経済の2年です。」

「そうか、じゃ、〇×先生の経済学は取ってる?」

そうくるか。困ったな。仕方がない。

「済みません、毎日アルバイトしているんで、部活はできないんです。」

「やっぱり、1年か、ちょっとおいで。」

「これから、アルバイトですから、ごめんなさい。」

「まあ、そういわずに。」

ボクは無理やり、部室に連れていかれた。アルバイトの話もウソなのだが、この際それが頼みの綱だ。


「本当に困るんです。アルバイトあるんです。」

「この際だから、入部しなよ。」

「じゃ、ボクがアルバイトで稼ぐ金額を、みなさんが出して頂けるんですか?」

「それは自分でしないとね。」

「じゃ、無理です。ごめんなさい。」

最近の体育会系はそんなに強制しないみたいだ。ボクは解放された。


 1年、2年の間は、そんなに友人をつくらないでもなんとかなったけど、3年になると、ゼミとかあるんで、そうはいかなくなった。ボクは厳しいと評判の教授のゼミをとった。このゼミは多分、選択する学生は少ないと思ったからだ。つまりは、付き合う学生も最小限で済むというものだ。だが、希望が通らなかった学生もこのゼミにくることになったので、総勢10人ほどになった。ボクは3~4人程度を期待していたのに、残念だ。あとは変なヤツがいないことを望むだけだ。



(つづく)


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2021年03月31日

短編小説 「ほっといてくれ!」 第2話

 最初の日、思わぬことにびっくりした。なんでかわからないが、ただでさえ少ない経済学部の女性陣が全員、このゼミ来たのだ。10人のうち6人は女性だった。まあ、変な女性がいないことを期待した。厳しいはずの教授は、結構にこやかに接してくれた。これからやっていくことの方針や方向性を説明したのち、みんなで懇親会へいくことになった。ボクはほとんど、しゃべったことがない人たちばかりだった。みんなもボクを知っている人はほぼいなかっただろう。それほど、ひっそりと学生生活を送っていたからだ。


 懇親会で、10人も自己紹介すると、結構時間がかかる。でも、それぞれの特徴もわかったし、多分、嫌がらせをしてくる人はいないだろう。もう、大人だしね。ボクはできるだけ、みんなと関わらないようにしたかった。だから、極力短めに自己紹介した。だが、ボクを知らない人が大半だったので、興味本位でいろんなことを聞いてくる。でも、ボクは根暗なヤツを演出すべく、頑張った。おかげでなんとか、みんなは、ボクが暗い性格なヤツと思ってくれたみたいだった。その方があんまり一緒にあれこれすることもなかろう。ボクはおとなしく一番端っこでこっそり居座った。だが、なかなか思うようにはいかないもんだ。


「いままでほとんどお話すること、なかったですね。」

「ええ。」

「1年からいました?」

「はい。」

「彼女、いらっしゃるんですか?」

「いいえ。」

「それなら・・・」


 ボクは嫌な予感がした。さっきの自己紹介でとても印象的だった女子がいた。おそらく、その子をくっつけようとしているんだろう。なんとか、せねば。

「でも、当面、彼女は作らない予定です。」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。」

「なんでですか?せっかく、お似合いの人がここにいるのに。」


 やっぱり、あの子か。さっきの自己紹介でものすごくスローモーにしゃべっていた子だ。普通の速度じゃない。じっと、聞いているのが、苦痛になりそうなスピードでしゃべるのだ。なかなか、お目にかからない子だと思う。


「すみません。勉強に集中したいもので。」

そんなことを言うボクも、変わり者だと思われるんだろうな。

「ええ~、そんな人、いるの?」

「変わってるぅ~。」


 懇親会の席で、完全に変人扱いされてしまった。まあ、そのほうがいいかもしれない。だが、変人は変人同士ということで、例の彼女が隣に座った。座ったというより、無理やり、ボクの隣に座らされたという感じだ。

「あの・・・」

「初めまして、竹内です。」

「栗原です。よろしく・・・」

栗原さんは、とっても美人というわけではないけれど、整っている目鼻立ちとふわっとした髪形でかわいい感じはする。まあ、これも人の感じ方によるのだろう。裕子という名前に合っている感じだ。


 まあ、あんまりいろいろ質問されるより、いいのかもしれない。今日のところは、彼女を相手にしておこう。だが、ほとんど、無言だ。まあ、そのほうがいい。みんなは適当にしゃべって盛り上がっているんで、ボクは聞き役に回って、彼らのいうことを聞いていた。経済学部の男どもが、こんなに多くの女子と一緒にいるのは、うれしいことなんだろうな。でも、ボクは女子からも嫌がらせをうけたことがあるんで、そんなに気にしてなかった。


「あの・・・」

隣で例の彼女が一生懸命に、ボクにしゃべりかけようとしている。

「はい、なんですか?」

「あの・・・」

ボクもここまでスローモーな子は初めてだ。でも、まあ十分待ってられる。

「竹内さんは、どこにお住まいなんですか?」

ここまで言うのに、そんなにかかるかってほど、時間をかけてゆっくりしゃべった。

「ああ、××町ですよ。」

「私も同じです。」

彼女はほっとしている。まあ、会話としてなんとか、成立したからね。でも、そこから続かない。仕方ないから、ボクからも話してみた。

「ひとり住まいですか?」

「はい。」

「〇〇丁目のバス停から近いですか?」

「はい。」

ボクんちと近いじゃん。なんで?という質問では、なかなか答えが返ってこないだろうから、イエス・ノーで答えられる質問ばかりした。


「やっぱり、気が合うんじゃん。」

隣の女子が、こう言った。

「えっ、そうなんだ。」

「じゃあ、くっついちゃいなよ。」

おいおい、そうくるか。でも、彼女は顔を赤くしている。おいおい、まいったな。懇親会が終わる頃、ボクたちは一緒に帰ることになった。まあ、家が近いんで、それくらいはしてあげないといけないんだろうな。でも、遅くなって、バスもない。歩くには30分くらいはかかる。まあ、しかたないか。ボクは、初めて、イエス・ノー以外の質問をしてみることにした。


「今日はどうでしたか?」

この間が長い。

「楽しかったです。」

そうなのか?

「どんなことが、楽しかったですか?」

「竹内さんと、話ができて・・・」

それを言うと真っ赤な顔をしている。ボクは多分、社交辞令だと思った。

「ボクも同じです、話が出来てよかったです。」

それを言うと、彼女はますます、顔を真っ赤にした。社交辞令だってば。


 でも、帰り道は長い。彼女は歩くのも、ゆっくりだ。まあ、いいか。

「ずっと、ゆっくりな話し方なんですか?」

「はい。」

「普通の人だと、嫌がられるでしょう?」

「はい。」

そうだろうな。

「ボクはそんなに気にならないよ。」

「あ、ありがとう。」

まあ、この道のりの暇つぶしになればいいのだ。


「私は、竹内さんがいたこと、知ってましたよ。」

えっ、そうなのか?ボクに気づいていた人、いたんだ。かなり、息をひそめてたんだけどな。

「そうなんだ。ありがとう。」

「このゼミ、なんで選んだんですか?」

「竹内さんがこのゼミを希望したのを、見たので。」

また、顔を赤くした。ボクに興味、あんの?

「それは、ボクに興味があるということ?」

「はい。」

おお、そうなのか。だけど、ボクに変な能力があるとわかったら、多分、引くと思うな。



(つづく)

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2021年04月01日

短編小説 「ほっといてくれ!」 第3話

「そんなことないです。」

えっ?ボク、言葉にしたっけ?

「いえ、してないです。」

(わかるの?)

(わかります。)


 彼女は自分と同じような能力を持ったボクに、興味をもったみたいだった。ボクは滅多に人の心を読むことはしないけど、彼女は勝手にどんどん入ってくるらしい。だから、言葉に出していうのが苦手になったようだった。だけど、言葉にしなくても、この方が普通の速度で話ができている。


(傍からは黙ってるように見えていても、ボクたちにはこの方がいいね。)

(ほんと、いいと思います。)

(だけど、ボクみたいな人がいるとはね。)

(私もびっくりしちゃいました。)

(最初はどうやってわかったの?)

(いろんな人の思いが勝手に入ってくるんで、ほんと嫌気がしてたんです。でも、あなたからの思いは、言うなれば、色が違ったので。)

(色?)

(そう。私と同じ色だったんです。)

(そっか、そういうことか。)

(だから、早く、一緒に話がしたかったんです。)

(その能力は家族とか誰か、知ってるの?)

(いいえ、誰も知りません。)

(ボクんちは両親とも、知ってる。)

(そうなんですか、いいですね。)

(今度、ボクんち、遊びにくるか?)

(いいんですか?)

(全然いいさ。)

(行ってみたいです。)

(歓迎するよ。)

(ありがとうございます。)

だけど、ボクは多分モンスターだ。感情が爆発したら、手が付けられない。そんなことを彼女が知ったら、どう思うだろうか。でも、いつか言わないといけないんだろうな。


 その後、ボクと彼女は結構仲良くやっていたもんで、ゼミの仲間の間では、あの親睦会で「くっつけ大成功!」と思われていた。

「君ら、よかったね。」

「私たちがキューピットよ。」

「お似合いだね。」

好きに言ってくれていいけどね、その通りだから。ボクは今まで、友人はいなかった。彼女は友人なのか、恋人なのか、同じ仲間なのか、自分でもよくわからないけど、まあ、とりあえず仲の良い人ということなのだ。


(夏休みにボクの実家に来るかい?)

(行きたいです。)

そんなわけで、ボクは彼女を連れて実家に帰った。予め、連絡しておいたけど、ボクの両親は興味津々の様子だった。

「あんたが女の子連れてくるなんて、初めてね。」

「かわいい子じゃん。」

「ほっといてくれ。」

「初めまして、お世話になります。」

「あんまり、いじめんといてな。」

晩御飯の時に、ボクは彼女がボクと同じだと、両親に告げた。両親はともに、そんなに気にすることもなかった。

「まあ、あんたが連れてくるなんて、多分、そうだと思ったよ。」

「でも、彼女さん、気にしないでね。」

「この子は大変だったのよ。」

おいおい、その話かよ。まあ、いいか。

「小さい時はいじめられっ子で、よくいじめられてたのよ。」

「そうなんですか。」

「でもね、本当に怒った時が大変だったの。」

「この子ったら、いじめてた子たちをみんなやっつけちゃったのよ。」


(感情が抑えきれなくなると、いじめてた連中みんな、大けがしたんだよ。)

(なんで?)

(その時にしか使えない、能力なんだ。)

(そうなの?)


「そうなんですね。」

「そうそう、だからその後は誰もこの子をいじめたりしなくなるの。」

「からだ中の骨、ボキボキだもの、大変だったのよ。」


(やりすぎね。)

(ボクも制御ができなくて、仕方ないんだ。)

(じゃあ、私がちゃんと抑えてあげるわ。)

(そんなことできるの?)

(任せておいて。)


「すごかったんですね。」


 晩御飯後、コーヒーをふたりで飲んで、ゆっくりしてた。

(まあ、ボクらの能力なんて、ほとんど気にしない両親だから、気が楽だろ?)

(ほんと、いい家族ね。)

(君んとこは?)

(このことは知らないので、多分、知ったらどうなるのかわからないわ。)

(そっか。じゃ、言葉にして話していく方がいいのかもね。)

(うん・・・)

彼女はあんまり、気が進まない感じだった。


 その夜、ボクの母親は、一つの部屋に二つの布団をくっつけて敷いてくれていた。彼女は真っ赤になって、別にしてほしいと懇願してた。ボクは別にどっちでもかまわないんだけどな。近くでも遠くでもそんなに気にならない。だって、距離なんて関係なく、話ができるしね。だけど、彼女の言う通り、別の部屋になった。


(ごめんな。ボクの両親、あんな調子だから。)

(いえいえ、いいご両親よ。多分それが普通だと思うわ。)

(そうかな。)

(だって、息子が女の子を連れてきたのよ。どんな親だってそうするわよ、きっと。)

(そんなもんかな。)

(そうよ。)

明日は、ふたりで近所を散策しよう。



(つづく)

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2021年04月02日

短編小説 「ほっといてくれ!」 第4話

 実家の近所は、歩けばすぐに自然が広がっている。だから、誰もいない林の中に入っていける。まあ、人に出会わない方がいい。特に、ボクの能力を発揮する場合はだ。

(物を動かすことは少しならできるかな。だけど、感情が爆発するとえらいことになるんだ。)

(そうなんだ、あんまり無理しなくていいわ。)

(うん、だからこんなふうに話をするだけにしよっ。)

(これで十分じゃない?)

(そうだね、これがいいかも知れないね。)


 こんなふうにゆっくり話をしたのは、初めてかもしれない。言葉で話をするより、ボクらにとってはこの方がとっても楽でいい。周りに人がいると、なかなかこんなふうにはいかない。彼女も声に出してのおしゃべりは、得意ではない。

(ボクらって、なんでこんなことができるんだろうな?)

(どういうこと?)

(普通の人たちみたいに、こんな能力なくたっていいのに、なんでこんな能力があるんだろうね?)

(あんまり考えたことなかったわ。)

(そうか。)

(これが当たり前かと思っていたわ。)

(普通の人が持っていない能力を持っているのに?)

(多分、生まれながらにして、難聴とか、目が見えないとか、腕がなかったとか、そんなことの一種だと思っていたから。)

(なるほどな。)


(そういえば、ボクの感情爆発の能力を止めれるって言ってたけど?)

(うん、できるわよ。)

(それは、どういうこと?)

(人の考えが勝手に入ってくるんで、その人の感情の動きもわかるの。)

(そうなんだ。)

(でね、その感情を沈めてあげることもできるみたいなの。)

(ほんとに?)

(以前、ある人がやっていることにものすごく腹を立てている人がいたんだけど、その人、危害を加えそうなくらい、感情が高ぶっていたの。)

(それで?)

(だから、私、なんとかしなくっちゃと思って、その人の感情を抑えてあげたの。)

(すごいな。)

(多分、お馬さんをドウ、ドウと静める感じ?だと思うわ。)

(そっか。じゃ、ボクはお馬さんなんだな。)

(決して、嫌な意味じゃないわよ。)

(わかってるって。)


 ボクはこの子と一緒にいれば、自分を制御してもらえるから、他人を傷つけることはないってことだよな。まあ、最近はそんな激怒することもないけどね。でも、抑えが効かないことが、もしあったら、ちょっとした爆弾が爆発したみたいになってしまうだろうな。ボクには彼女の存在が重要なのかも知れないな。そう思うと、彼女との出会いはボクにとってラッキーだったというしかない。


 家に帰ると、ボクがトイレに行っている隙に、母親が彼女と話をしていた。

「ねぇねぇ、あなた達は黙っている時が多いけど、言葉にしないでしゃべっているんでしょ?」

「あ、はい、そうです。」

「やっぱりねぇ、そうだと思った。」

「でも、いいねぇ、そんなふうに話ができたら、まわりがたくさんいたって、関係ないでしょ。」

「はい。」

「ところで、いつから付き合ってるの?」

「いえ、まだそんな・・・」

「え~、そうなの?」

「はい。」


「おいおい、ボクのいない間にどんな話をしてるんだ?」

「あんたとのなれそめを聞いていたのよ。」

「残念でした、友人同士です。」

「ほんとにそうなの?」

「はい。」

「なぁ~んだ、つまんない。」

「困った親だぜ。」

(楽しいご家族ね。)

(うるさいだけだけどね。)


 まあ、そんなこんなで、また大学近くのアパートへ戻った。ゼミはやっぱり、にこやかな顔をしている教授だったが、内容はかなり厳しかった。夏休みもしっかりやっていかないとヤバい感じなのだ。ボクたちは何回か、予習のような、復習のような、とにかく、勉強していかないと無理と感じていたので、ふたりで示し合わせて、大学の図書館で勉強した。


 休みが終わって、授業が再開したが、やっぱり、あの厳しいゼミについてこれるのは、ボクたちだけだった。

「なんで、あんたたちだけ、教授の話がわかんの?」

「だって、夏休みに勉強してましたから。」

「マジ?」

「ありえないよ。」

「だって、何もしてないと絶対ついていけないと思ったからね。」

「あんたら、おかしいんじゃない?」

「逆に、何もしないなんて、ありえないでしょ?」


 いくら言ってもこの話は平行線だ。でも、夏休みにやっただけのことはあった。ボクらふたりだけ、前期は「優」をもらった。この教授のゼミで「優」は、ほとんどいないらしい。むずかしさのあまり、何人かはこのゼミをあきらめた。だから、このゼミはしっかり勉強しないとどうしようもないのだ。それが普通だよな。学生の本分は勉強なのだから。



(つづく)

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2021年04月03日

短編小説 「ほっといてくれ!」 第5話

 結局、男女3人づつ6名のゼミになった。はじめからこのくらいの人数がいいと思っていたし、その通りになったのだ。だが、何を勘違いしたのか、ついていけなかった連中の一人が、ボクらのせいだと思い込んでいた。

(ゼミをやめたあの人、気をつけた方がいいわ。)

(んっ?なんで?)

(私たちのせいだと思ってる。)

(そうなのか?困ったやつだな。)

ボクは他人の気持ちをほとんど読めないから、そんなことわからないけど、彼女は自分になだれ込んできる気持ちをどうしようもないので、わかってしまうのだ。


(とにかく、気をつけてね。)

(わかった。)

とは言うものの、いつでも気にしているわけにはいかない。だが、久しぶりにいじめに合った。学食でお昼を食べている時だった。不意に頭から水をかぶった。

「ごめん、つまずいた。悪かったな。」

わざとのくせに。

「ああ、いいよ。そのうち乾くから。」

「へえ~、寛大なんだな。」

「じゃ、これは?」

そう言うと、うどんの汁を頭にかけてきた。さすがに熱くなかったけど、これはシミになる。ボクはカチンときた。

「ボク、何かしたかな?」

「おまえのせいで、ゼミを落としたんだ。」

「ボクのせい?自分がさぼっていたからだろ?」

「いや、おまえのせいだ。」

こいつは完全にボクのせいだと思い込んでいる。

「覚悟しろ!」

この上に何をするつもりなんだ。と思ったら、うどんの器をボクに投げつけてきた。よけたつもりだったが、額に当たった。さすがに限界だ。もう、自分を止められない。ボクの感情が爆発した・・・だが、不意に彼女の優しい声が聞こえた。

(大丈夫、大丈夫・・・)


 ボクは我に返った。あぶね~、またやってしまうところだった。

(ありがとう、止めてくれて。)

(よかった。)

周りを見ると、彼女がいた。でも、ボクの額は大きなたんこぶができていた。この光景を学食のみんなが見ていたから、ボクは被害者で医務室へ連れていってもらった。


 アイツは、その事態を目撃した教務員の証言により、結局、退学になった。

(よく我慢したね。)

(というか、君に止めてもらったんだぜ。)

(それでも、我に返らないケースもあると思うの。)

(そうなのか?)

(うん、だから、あなたが自分で、自分を収めたのよ。)

(そっか。)

本当にそうなのかはわからないけど、やっちゃうよりよかったな。


 それからは、ゼミの中で、ボクらふたりは一目置かれる存在になった。教授もボクらには優しい感じがした。元より、顔は優しそうな感じだしね。


 4年になって、就職の時期になると、ゼミの教授の紹介もあり、ボクら共に同じ企業に推薦されることになった。その企業は流通関係の企業で、ゼミでやっていた勉強が活かせる企業だった。ボクは彼女がそばにいてくれることで、感情爆発せずに済むので、最近安心感が増していた。だけど、そうはうまくいかないもんだ。その企業はボクだけを内定して、彼女を落としたのだ。仕方ないので、ゼミの教授は、彼女に別の企業を紹介した。彼女はそこに内定できた。


(せっかく、ふたりでやっていけると思ったのに、別々になっちゃったね。)

(まあ、すべてうまくいくことはないもんだよ。)

(そうね。でも、大丈夫?)

(まあ、会社なんだから、学生みたいなことはないだろうと思うよ。)

(そうかしら、案外、きついかもしれないわよ。)

(多少は我慢できるから大丈夫だと思うんだけどね。)

(でも、どうしても無理そうなら、呼んでね。)

(ありがとう。)


 いよいよ、社会人だ。ボクは何を担当することになるのか、多少の不安と期待を感じていた。ボクの配属された部署は、なんと肉体労働の部署、つまり倉庫管理だった。早速、フォークリフトの免許を取りに行かされた。1週間で取得。くるまと取り回しが逆なので、最初は戸惑ったが、慣れると問題なく操れる。だが、周りに人がいないか、十分注意しないと、事故しそうで怖い。


 出荷や入荷の作業に、倉庫整理、管理等の仕事になった。これじゃ、あんまり大学で勉強した知識はいらないやん。フォークリフトだけの作業なら、汗もかかないけれど、実際の段ボールの箱はかなり重くて、1ケース20キロくらいある。それを手作業でパレットの上に積み降ろしする場合は、全身汗まみれだ。しっかり水分を補給しないと、絶対ひっくり返ると思う。また、わからないことが多いのでモタモタしてると、先輩社員にどやされる。


「何、悠長にやってんだよ。」

「それじゃ、定時になっても終わらんぞ。」

「もっと、腰入れて持たんか!」


 結構厳しい。こういう肉体労働の方々はタバコを吸う人も多い。ボクはいままで吸うことはなかったので、隣にいるとかなりむせる。食事や休憩のときに彼らが吸い出した時は、遠慮するようにした。でもまあ、感情爆発することはない。こういう仕事も楽しいもんだ。はじめは全身筋肉痛で大変だったけれど、今はかなり楽に荷物を運べるようになった。



(つづく)

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