ボクは小さい頃から、問題を抱えていた。その問題が原因で、友達ができない。ボク自身がおとなしい性格だから、いじめの標的にされることが多かった。でも、そうされることで発生するその問題のせいで、みんなボクから離れていった。だから、いつも一人きりだった。
両親はその問題を知っている。うまくコントロールして、その問題が出ないようにしなさいと言うのだけど、いじめられるとコントロールなんかできやしない。たぶん、大人になっても、コントロールすることなど、とうてい無理に決まっていると思っていた。だから、ボクはいつも一人きりでいた。
中学も高校も、おとなしいボクは、決まっていじめの標的にされた。ボクはできるだけ、感情を荒げずにいることが必要だった。そうじゃなかったら、ボクをいじめてきた連中が大けがをしてしまうんだ。
トイレに入っていると、いきなり水をかけられる。教室に入ると、机にいたずら書きがされている。体操着はぼろぼろにされているし、教科書も使えない状態にされる。ボクはそれを持って、職員室へいくのだが、先生はもっと周りの生徒となかよくしなさいと言う。なんか、ボクが悪いみたいだ。一度、教室で言ったことがある。
「お願いだから、ボクをいじめないで下さい。」
「何言ってるの?誰もそんなことしてないよ。」
「みんなが大けがするから。」
「はっ?何それ?おかしいんじゃない?」
「お願いです。これ以上、やめて下さい。」
ボクは真剣にみんなにお願いしたけど、誰も取り合ってくれなかった。その後も、ボクへのいじめは続いた。ボクは一生懸命、自分の感情を抑えたが、それも無理な状態になった。両親には、できるだけ我慢するとは言ったが、もう限界だった。
ボクは、背中に生ごみをかけられたことが、引きがねになってしまった。瞬間、ボクへのいじめの声を察知した。その声の主らは、ことごとく腕や足の骨が砕かれた。あ~あ、またやってしまった。教室でうめき声がたくさんした。ボクをいじめていた連中は複雑骨折で、その場に倒れていた。他のみんなはボクを恐ろしい目で見ていた。だから、言ったじゃない。ボクはそう言いたかったけど、黙って、教室から出て行った。そのまま、職員室へ行った。
「先生、教室で数人が骨折しています。救急車を呼んで下さい。」
「その前に、おまえ、えらい臭いな。なんなんだ?」
「ああ、背中から生ごみをかけられたから、臭いんですよ。」
「なんでそんなことに?」
「いじめられているから、なんとかしてほしいっていったでしょ?」
「めちゃ臭いな。」
「そんなことより、救急車を呼んで下さい。」
だが、先生は、一向にそんなことをする素振りを見せない。でも、しばらくして、クラスの女子らが、やってきて、ボクと同じことを言った。
「先生、大変。救急車を呼んで下さい。」
「ほらね。早くお願いします。」
教室では、6名が骨折で倒れていた。まあ、当分、学校に来れないだろう。
「いったい、誰がこんなことを?」
でも、誰もボクだとは言わなかった。だって、言うと、同じような目に合うかも知れないって、思っているからだろう。中学の時も、そういう事件が起こってしまうと、その後はいじめられなくなる。
ボクはその時、自分がどうなっていたのかは知らない。でも、周りのクラスメートは、それを目撃していた。ボクの形相が変わって、いじめていた連中の手足が変な風に折れ曲がったらしい。ひそひそ話が聞こえた時に、どうやらそういうことで、ボクを怒らせると、命があぶないということになっている。だから、お願いしたのにね。
「この制服、生臭いよ。」
「だって、生ごみかけられたんだもん。」
「あんた、まさか・・・」
「仕方ないよ、限界だったもん。」
「我慢しなさいっていったでしょ。」
「何度も、やめてってお願いしたんだよ。」
「だけどそのうち、モンスター扱いされるわよ。」
確かにそうかもしれない。ボクがやったと思っている人たちは、少なくともボクをモンスターと思っているだろう。でも、これで平穏は高校生活が送れるというものだ。ボクは竹内学(たけうちまなぶ)、よろしくね。
大学へ進んでも、ボクはひとり静かに行動していた。あまり、誰とも話をせずに大学生活を送っていたが、ここでも強制的に邪魔をする人たちがいた。例えば、応援団の方々だったり、空手部の方々だったり、運動部の人たちだ。
「君は何年生かな?」
正直に言うと、間違いなく、部室へ連れていかれる。
「経済の2年です。」
「そうか、じゃ、〇×先生の経済学は取ってる?」
そうくるか。困ったな。仕方がない。
「済みません、毎日アルバイトしているんで、部活はできないんです。」
「やっぱり、1年か、ちょっとおいで。」
「これから、アルバイトですから、ごめんなさい。」
「まあ、そういわずに。」
ボクは無理やり、部室に連れていかれた。アルバイトの話もウソなのだが、この際それが頼みの綱だ。
「本当に困るんです。アルバイトあるんです。」
「この際だから、入部しなよ。」
「じゃ、ボクがアルバイトで稼ぐ金額を、みなさんが出して頂けるんですか?」
「それは自分でしないとね。」
「じゃ、無理です。ごめんなさい。」
最近の体育会系はそんなに強制しないみたいだ。ボクは解放された。
1年、2年の間は、そんなに友人をつくらないでもなんとかなったけど、3年になると、ゼミとかあるんで、そうはいかなくなった。ボクは厳しいと評判の教授のゼミをとった。このゼミは多分、選択する学生は少ないと思ったからだ。つまりは、付き合う学生も最小限で済むというものだ。だが、希望が通らなかった学生もこのゼミにくることになったので、総勢10人ほどになった。ボクは3~4人程度を期待していたのに、残念だ。あとは変なヤツがいないことを望むだけだ。
(つづく)