2021年05月26日

短編小説 「夢の先の人生」 第1話

 小さい時は、誰でも夢を見ると思っていた。


 ボクは田舎に住んでいる。ここらへんの田舎にしては、小さな家に住んでいる。両親はいない。ボクが中学3年の時に、二人とも亡くなった。峠の道を軽トラで走っていて崖から落ちたらしい。ボクが実際に見たわけじゃないから、詳しくは知らない。


 ボクの兄弟はいない。つまり、ボクは中学卒業間近から、ひとりぼっちになってしまったから、ひとりでこの小さな家で暮らしている。親戚もいないから、ボクを引き取ってくれる人もいなかったので、ひとりで生きている。畑で見よう見まねで野菜を作って、近所の人からお米やお肉を分けてもらったりして、なんとか生きている。


 ボクは小さい時から、いつでも夢が見れた。誰もがみんなそうだと思っていた。でも、みんなが、夢は寝ているときにしか見れないって、言うもんだから、じゃぁ、ボクが見れている夢はなんで、昼間に見えるのか、不思議でならなかった。


 ボクの見れる夢は、自分でない人になれること。ん~、ちょっと違うかな。自分なんだけど、自分でない考えをして、自分でない行動ができる・・・どう説明していいのかわからないや。とにかく、自分でない人になっている夢を見る。昼間でも。ボクがぼ~っとしてしまうと、いつの間にか夢を見ている。だから、ぼ~っとしていることが多い。


 昼から畑仕事していて、ぼ~っとしてたら、夜になっていたとか、しょっちゅうだ。でも、その間、ボクは夢を見ている。この前の夢は面白かった。行ったことのない都会で、でっかいビルの上の方にエレベータで上がって、パソコンを操り、見たこともない資料を作っている。自分が何を言っているのか、ちゃんとした日本語なんだろうけど、理解できない言葉をしゃべって仕事をしている。ボクはいったいどんな仕事をしているのだろうか。さっぱり、わからない。


 でも、見たこともないものばかりだし、こんなふうに生きていけるんだなぁって感じていたよ。夕方になると、颯爽と上着をきて、そのビルから飛び出して、仕事仲間と食事をしに行く。お酒を飲んで、多少、酔っ払いながら、でも、理性的に仕事の話をしている。


 ハッと気が付くと、当たりは真っ暗。ボクは昼から畑仕事をしていたはずなのに、何にも進んでいない。あ~あ、今日もやっちまったな。まあ、誰に怒られる訳でもないから、まあいいっか。


 とにかく、毎日夢を見る。そんなんだから、しなくちゃいけない仕事がなかなか進まない。おかげで、野菜を枯らしたときもある。だから、ボクは自然栽培にすることにした。こうしたら、あんまり手入れをしないで済むけど、ん~、っちょっと、小さいが何とか野菜が取れる。


 今朝は歯磨きしているときに、夢をみた。ボクはカッコいいくるまを運転している。本当はまだ免許なんてもっていないけどね。でも、運転はとても上手なんだ。大きな広い道路を、すごいスピードで走っている。遅いくるまはバンバン追い抜いてく。心地よい風を浴びて、気持ちいい運転だった。と、想ったら、もうお昼だ。ボクはぼ~っとして、ずっと歯磨きをしていたみたいだ。


 まあ、一日に1回とか、2回とか、夢を見ることはしょっちょうだ。こんなんもあった。

ボクはコンビニ強盗の一味になっていた。3人で襲った。気分的にはこんなことしたくはなかったけど、夢だから仕方がない。なんか、もたもたやっているうちに、パトカーがやってきて、ドジなボクは捕まってしまった。警察って、まじ、殴るんだね。リアルに痛かったけど、夢だから、目が覚めるとどこも怪我していない。痛いとこもない。


 ある時は、なんか女を手玉に取るイケメンになっていたりした。でも、その女性の一人が悲壮な顔で、ボクに迫ってきた。まあまあ落ち着けって言ったけど、彼女はいきなりナイフでボクを刺したのだ。いて~、めちゃ、いて~。手で押さえても、血が止まらない。あまりのリアルさにびっくりして、我に返った。ボクはいつもの通り、なんともない。やっぱ、夢なんだね。


 そう思っていたけど、これが夢じゃないことに気付いたのはもっと後のことだった。

中学を出てから高校にも行かないで、農作業をやっていたけど、いろんな夢を見てたので、ボクはいろんな社会学習ができていた。はじめは何が何だかわからなかったことも、分かるようになっていた。そんな時だった、これが夢じゃないってことに気が付いたのは。


(つづく)

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2021年05月27日

短編小説 「夢の先の人生」 第2話

 ボクは他人の意識に入り込んで、密かにその他人と同化していたのだった。今まで、その人が考え、からだを動かしていたのだが、ボクにもそのからだを動かすことができることに気が付いたのだ。


 あるとき、夢のボクは、スリで、電車の客からサイフをすっては、中身を抜き取り、そのサイフを元に戻すことをしていた。だから、ボクは心の中で叫んだ。「そんなこと、しちゃだめだ。」彼はびっくりしていたが、しっかり、サイフをすろうとしたので、ボクはその手を止めた。つまり、そいつがからだを動かすことと、ボクがそいつのからだを動かすことが同時に起こったので、からだは固まった。


 そんなことがあって、ボクは確信した。いままで夢と思っていたことは、人の意識に入り込んでいたんだって。そのうち、強く念じれば、特定の人の意識に入り込んでいけることもわかった。こんなことできるのって、多分、ボクだけなんだろうな。


 だけど、自分からやろうと思わなくても、勝手に誰かの意識に入り込んでしまうのは、本当に困ったものだ。今までは夢だと思っていたから良かったのだけれど、それが他人の意識だと分かったときから、嫌になってきた。ボクの気持ち通りに考え、動くならいいのだが、絶対にそんなことはない。やきもきしちゃうので、つい手を出してしまいたくなるのだ。


 だから、勝手に他人の意識に入ってほしくないのに、いったいどうなっているんだろう。小さい時からずっとだったんだ。何か意味があるんだろうか。ボクにはよくわからない。


 そういえば、ボクが他人の意識に入り込んでいるとき、自分はいったいどうなっているんだろう。あまり、そんなことは考えてもみなかった。畑仕事をしている時にそうなった場合は、多分、そのまま畑に立ち尽くしていたみたいだし、寝ているときには、そのまま寝てたみたいだし、昼も夜もいつでも、そんな状態に突然なってしまう。そうなったら、ボクはずっとそのままの状態でいるみたいだ。まあ、夜にそうなるのなら、家にいることが多いから、問題ないけど、昼間は困ったものだ。恐らく、他人からみれば、ぼーっと突っ立っているんだろうな。


 ある時、山道を歩いていたボクは、その道を踏み外して崖から落ちた。でも、その瞬間、ボクはまた夢をみてしまった。その人は都会で仕事をしている女性だった。結構、事務仕事は気楽なんだな。


 いやいや、そんなどころじゃない。ボクは崖から落ちたんだ。早く戻らないと思ったが、戻れない。最近は自分の意識で自分に戻れたのに、なんで戻れないんだ。どうしよう。ボクはこのままこの女性の意識に仮住まいするのだろうか。仕方がないので、様子を伺うことにした。


 私は商社の事務をしている。田舎から出てきて一人暮らしをしている。事務は売上の入力を中心に雑多なことも多い。同じ部内に4人の女性がいて私はその一人。


 今日は売上が少ないせいか、入力があまりない。だから結構暇なの。営業部員が営業に持っていく販促物を用意するくらい。あとは4人でお話しをすることが多い。部長も今日は不在だから当然ね。


 この4人は仲がいい。だから、チームワークもいい感じ。本当に必要な時の推進力は抜群だと思うわ。でも、今日みたいにのんびりできるときは、完全に気が抜けているの。


ボクは、だいたいそんな状況がわかってきたけど、まだ自分に戻ることができない。


「ねね、お昼、何食べる?」

「そうね、今日はあそこの食堂でもいく?」

「あそこのお弁当買ってこようか。」

「あそこの定食もいいよね。」


 この4人はたいがい外食らしい。いくつかの定番があって、そのパターンのどれかにするかで迷っているようだ。まあ、女の子らしいちゃ、らしいよな。ボクにしてみれば、そんなことより、自分のからだの方が心配だ。いったいどうなったんだろう。で、なんでもとに戻れないんだろう。困ったな。



(つづく)

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2021年05月28日

短編小説 「夢の先の人生」 第3話

「だれ?」

「突然、どうしたの?」

「男の人がなんか変なこと言ってる。」

「男なんてそばにいないじゃない。」

「でも、聞こえるの。」

「どうしちゃったの、ケイコ」

「わからないけど、聞こえるの。」

まだ、この人の意識に話しかけたわけじゃないから、聞こえてないはずだけどな。


「でも、聞こえてるのよ。」

えっ、まじか。

「そう、まじよ。」

「ケイコ、どうしたの?」

「誰か分からないけど、男の人が私に話しかけているの。」

「どこから?」

「そんなこと、分からないわ。」

「そうよね、近くに誰もいないしね。」

「初めて聞く声だから、会社の人じゃないわ。」

この人はボクがしゃべりかけなくても、思っているだけでわかるみたいだ。


「どういうこと?」

多分、信じてもらえないよ。

「じゃ、私に話しかけないで。」

「ケイコ、本当に大丈夫?」

「うん、大丈夫。でも、男の人に監視されているみたいで、嫌な感じ。」

「え~、いったいどこから監視してるん?」

「わかんない。」

困った。自分にはもどれないし、どうしたらいいんだろう。


「困った、困った、うるさいわね。」

まわりの女の子たちは、ケイコの言動にびっくりしている。


(あの、声に出さなくても、考えるだけで、ボクに伝わるから、そうしてくれる?)

(そうなの?)

(うん。)

(いったいあなたはどこから話しかけてきてるの?)

(君の意識の中にいる。)

(どういうこと?)

(ボクは崖から落ちて、意識が飛んで君の中に入ってしまったんだ。)

(なんで?)

(ボクにもわからない。)

(このままずっと、この状態なの?)

(それもわからない。ボクが自分に戻れれば、君はもとの状態にもどるんだけど。)

(それがいつになるのか、わからいということね。)

(そう、だからしばらくよろしくね。)


(よろしくって、だいたいあなたは誰?)

(ボクは江川秀一、○○県××村に住んでいるんだ。)

(そんなところから、来たの?)

(そういうことになるみたい。)


(ん~?私の意識と同居してるのよね?)

(その通りです。)

(つまり、もしかして私が見えるものは、あなたも見えるってこと?)

(そうです、その通りです。)

(もしかして、私がコップを持てば、あなたもコップを持っている感覚があるってこと?)

(はい、その通りです。)

(え~っ、困るわ。それじゃ、トイレにも、お風呂にも入れないじゃん。)

(はい、一緒に入っている感じです。)

(どうしようもないの?)

(ボクにはどうしようもないです。あっ、そういえば・・・)

(そういえば、なによ?)

(ボクが寝ている時は、あなた一人です。)

(そっか、それじゃ、いつ寝るの?)

(多分、あなたと一緒かも。)

(ばっかじゃない。それじゃ、意味ないじゃん。)

(ですよね。)



(つづく)

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2021年05月29日

短編小説 「夢の先の人生」 第4話

 ボクは彼女のからだを動かせることも知っているけど、それもやっぱり話した方がいいかな?


(あの。)

(なによ。)

(ボクがあなたの意識に同居しているんで、ボクがあなたのからだも動かせます。)

(え~っ、本当に?)

(はい、でも、それは緊急でない限りしないつもりです。)

(当たり前じゃない。やめてよ。)

(だけど、思っていることがあなたに筒抜けじゃないの?)

(そういうことになりますね。)

(ひど~い、なんで私だけがこんな目になるのよ?)

(諦めて、現実を直視して下さい。)

(うるさい。)


「ねえ、ずっと黙りこんでるけど、大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ。」

「何、怒ってるの?」

「私の中に変な男が入り込んできたのよ。」

「どういうこと?」

「言葉の通りよ。」

「やだ~、気持ち悪~。」


 ボクはお互いの考えが通じ合わないようにするにはどうしたらいいのかを考えていが、それは無理みたいだった。

(何が無理よ。なんとかしなさいよ。)

(じゃ、ボクの考えを無視して下さい。ボクもそうしますから。)

(どういうことよ。)

(どちらかがしゃべっていても、自分が何かの考えに集中してたら、その人の言ったことなんか覚えてないでしょ。そういうふうにするんです。)

(そんなこと、すぐにできないわよ。)

(やって下さい。)


 ボクはそこから先は、自分の考えに集中することにした。彼女が何か言っても、無視して自分に集中した。とにかく、自分の戻る方法を探さないと、自分に戻れない。自分のからだはどうなってしまったのかを確認しないといけないよな。あの地域の事故のニュースを確認してみないと。


(そうね、わかったわ。確認してあげる。どこだっけ?)

(○○県××村。)


 彼女はネットのニュースで××村の情報を検索した。でも、そんなニュースはどこにもない。まだ、ニュースになっていないのかもしれない。っていうか、ボクは崖から落ちたままになっていて、誰にも気付かれていないのかもしれない。もし、自分のからだが死んでしまったら、どうなるんだろう?このまま彼女と同居ってことだろうか?


(そんなの嫌よ。)

(あなたが帰るからだを探してあげるから、ちゃんと帰ってよ。)

(ありがとう。)


 ボクらは、ニュースというニュースを調べまくったが、全然そんな話はなかった。それにかなり時間が経ってきているので、ボクのからだがだめになっている可能性さえ、考えはじめていた。


 彼女の仕事の都合で、○○県××村なんていくことができない。そうなると、益々もって自分へ帰れる可能性がなくなってきているような気がしてきた。


(そんな弱気でどうするの?)

(だって、全然動いてくれないじゃん。)

(仕方ないでしょ、私だって仕事してるのよ。)

(じゃあ、このまま同居するということで、よろしく。)

(あん、そんなの嫌よ。)


(つづく)


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2021年05月30日

短編小説 「夢の先の人生」 第5話

 ボクのからだがどうなったのか、調査が進まないうちに、ボクはあることに気が付いた。

それは、彼女から別の誰かに移動できることだった。


 ボクは彼女が一人になりたいときには、彼女から別の誰かへ移動することにした。移動するのは自由にできる。でも、当初の自分の体へは移動ができない。


 ある日のこと、ボクは誰とはわからない人に移動した。その人はからだはあるのだが、意識がいない。あれ?おかしいな。こんなことは初めてだ。意識のいない人のからだに入るなんて、これじゃ、ボクがこのからだを意のままに操れることになる。でも、そうでもなかった。からだが動かないのだ。目さえも開けれない。いったいどうなっているんだろうか?


 まあ、一旦戻る事にしたのだが、どういうわけだが戻る事ができない。あれっ、なんで戻れないんだろう。どんなに頑張っても彼女のからだに戻れない。何回もトライしてみたが、無理のようだった。じゃあってんで、元の自分に戻ることも試してみたが、こちらも全然だめだった。もしかして、このからだから出れないの?ボクは疲れて果てて、そのまま眠りについてしまった。


 その次に、目を覚ます前に夢を見た。元の自分に戻って崖から這い出し、何とか元の生活に戻った夢だった。でもこれは、本当に夢であって、意識の移動ではなかった。目を覚ましたボクは、ボク以外の意識のないからだにいることに気が付いた。いったい、どうなるのだろう。彼女に戻れないことは、彼女にとっていいことなんだろう。でも、ボクはどうなるんだろう。いろんなことを考えたが、どうなるものでもないと諦め、このからだを動かすことから始めることにした。


 まず、目を開けることだ。腕や足は全然動かない。このからだはいったいどうなっているんだろう。せめて、目だけでも開けたい。そのうち、たまに誰かが自分の手を触っている感覚がわかるようになってきた。


 それから、音が聞こえるようになってきた。誰かがしゃべっているのが聞こえる。人の話声から、どうやら、ここは病院のようだと気が付いた。ということは、このからだは何らかの事故なのか、病気なのかの原因で、病院のベットに寝ているのだろう。


 たまに、誰かを呼ぶ声が聞こえる。それが自分のことなのか、まだ良くわからない。いつの間にか、耳の感度が良くなって、ボクはそれに集中していた。からだを動かすことより、今は耳に集中した。すると、少しづつ状況がわかってきた。まず、このからだの主は貴志という名で、事故でこの病院に運び込まれてきた。どうやら、長い間、目を覚ましていない。たまにくる家族がいることと、それが母親とお姉さんだということがわかった。


 あとは、なんとかからだを動かしたい。


 お姉さんが来ている時に、なんとか目を開けようとがんばった。でも、なかなか開かない。それでもと、懸命にトライしたら、ようやく少し目が開いた。天井が見える。ボクはメッチャ感動していた。少しだけど、目を見開いた。目を左右に動かしてみた。動く。右側に女の人が見える。多分、お姉さんだ。すげぇ~、見える、感動だ。長らくトライしてきたことができるようになるってことは、本当に感動する。


「あっ、貴志、私のこと、分かる?ちょっと待ってね、看護士さん、看護士さ~ん。」

お姉さんは看護士さんを呼びに行った。その間にボクは頭を上下左右に動かせるのか、やってみた。なんとか少しできる。これで、コミニュケーションが取れる。


 看護士さんがやってきた。

「貴志さん、わかりますか?」

ボクは頭を上下に動かした。ほんの少しだけどね。

「わかるみたいですね。先生を呼んできます。」


 看護士さんはいなくなって、お姉さんだけになった。

「やっと、目が覚めたね。よかったね。」

ボクは頭を上下に動かした。お姉さんは結構美人だ。

「私の言うことわかる?」

また、頭を上下に動かした。

「わかるのね。よかった~。」


 今度はしゃべりたくなったが、それはまだ無理だった。当面、頭の動きでイエス・ノーを伝えるしかないようだ。先生もボクを診察した。少しづつ良くなると言っていた。



(つづく)

posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | 夢の先の人生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする