ボクの周りは、なんか、おかしい気がする。もしかしたら、みんな特殊能力の持ち主なんじゃないかと思うこともある。だって、みんな、「言わなくてもわかる」って言うんだ。
「そんなことは、言わなくてもわかるだろ?」
ボクは、この言葉をよく言われる。みんな、言わなくてもわかるんだろうか?ボクにはわからない。ちゃんと、言ってもらわないと分かりっこない。どうして、人の考えていることがわかるというのだ。そんなの、特殊能力の持ち主じゃないと、分かりっこない。大人も子供も同じことを言う。ボクと同じように、ちゃんと言われないとわからない人はいるんだろうか。とっても不思議なのだ。
「言われんでも、わかるようになれよ。」
そんなん、無理だ。
「なんで、お前はこんなことできないかな?」
そう思うなら、最初からちゃんと言っておいてくれよ。
同級生も先生も、自分の親までも、同じことを言う。いい加減、こんな連中と付き合いたくなくなるよ、まったく。会社勤めをするようになってからも、同じだった。
「なんで、こうしないんだ。言われなくても分からんかな?」
分かるわけないやろ。
「このお得意先には、先にこうすべきだろ。なんで、わからんかな?」
そうなら、先に言っておいてくれよ。
あ、ボクは青木健太郎。ボクは、毎度、この不毛なやり取りにゲンナリしながらも、仕方なしに社会生活を営んでいる。本当に言わないでもできる人っているんだろうか?って、こういうことを言う人は、それができるんだろうか?でも、その人も上司に同じことを言われてたりする。結局、自分もできないじゃん。じゃ、なんで、そんなこと言うんだろう。
「言われなくてもできる」ということは、言っていないことに気が付くってことか?ボクは言われていないことに耳を澄ました。でも、そんな声なんか聞こえてくるわけなんかない。でも、ボクに、それが聞こえてくることになったのだ。
「おい、この資料、明日の15時までに作っておいてくれ。」
「はい。」
(本当は明日の10時までなんだ。)
えっ、なんで嘘をつく必要があるんだ。これで、ボクが10時の段階でできていなかったら、なんて言われるんだろう。
「明日って言ったら、午前中、それも10時くらいまでに終わらせておくべきだろう。なんで、分からんかな?」
それじゃ、単なるいじめじゃないか。ボクは今日中にその資料の作成を終わらせた。明日、なんて言われるんだろう?
「おい、資料できてるか?」
「はい、これです。どうぞ。」
「おっ?そうか。ありがとう。」
(なんでやってあるんだ?いびれないじゃんか。)
いびる??てめ~、そういうことか。
「じゃ、明日、訪問する〇〇商事の資料も作っておいてくれ。」
(本当は××商事だけどな。)
「はい、わかりました。」
今度はわざと言い間違えて、ボクに責任を押し付けようとしている。でも、まる聞こえだから、ちゃんと、××商事の資料を作っておこうっと。
翌日、やっぱり、ボクを陥れようとして、こう言ったのだ。
「ちゃんと、××商事の資料できてるか?」
「はい、どうぞ。」
「えっ、なんで・・・」
なんでもくそもないよ。おまえの嘘には、もうだまされないぞ。
なんで、わかんないかな?っていうことは、ボクのような存在を陥れて、いたぶる言葉だったのだ。でも、なんで心の声が聞こえるようになったんだろう?そんなことはどうでもいいや。とにかく、今までのボクへのいじめは、これですべてなくなるのだ。
「おい、青木。今週の金曜、うちの部門の懇親会あるから、空けとけよ。時間と場所はあとで、連絡すっからな。」
(こいつには、違う場所を伝えておこうっと。)
またかよ。よっぽど、ボクに恨みでもあるのか?それもと、単にいじめたい対象だと思っているんだろうか。でも、正しい場所はすぐにわかったから別にいいけどね。
つづく