2021年08月22日

短編小説 「聞こえるじゃん!」 第1話

 ボクの周りは、なんか、おかしい気がする。もしかしたら、みんな特殊能力の持ち主なんじゃないかと思うこともある。だって、みんな、「言わなくてもわかる」って言うんだ。

「そんなことは、言わなくてもわかるだろ?」


 ボクは、この言葉をよく言われる。みんな、言わなくてもわかるんだろうか?ボクにはわからない。ちゃんと、言ってもらわないと分かりっこない。どうして、人の考えていることがわかるというのだ。そんなの、特殊能力の持ち主じゃないと、分かりっこない。大人も子供も同じことを言う。ボクと同じように、ちゃんと言われないとわからない人はいるんだろうか。とっても不思議なのだ。


「言われんでも、わかるようになれよ。」

そんなん、無理だ。

「なんで、お前はこんなことできないかな?」

そう思うなら、最初からちゃんと言っておいてくれよ。


 同級生も先生も、自分の親までも、同じことを言う。いい加減、こんな連中と付き合いたくなくなるよ、まったく。会社勤めをするようになってからも、同じだった。

「なんで、こうしないんだ。言われなくても分からんかな?」

分かるわけないやろ。

「このお得意先には、先にこうすべきだろ。なんで、わからんかな?」

そうなら、先に言っておいてくれよ。


 あ、ボクは青木健太郎。ボクは、毎度、この不毛なやり取りにゲンナリしながらも、仕方なしに社会生活を営んでいる。本当に言わないでもできる人っているんだろうか?って、こういうことを言う人は、それができるんだろうか?でも、その人も上司に同じことを言われてたりする。結局、自分もできないじゃん。じゃ、なんで、そんなこと言うんだろう。


 「言われなくてもできる」ということは、言っていないことに気が付くってことか?ボクは言われていないことに耳を澄ました。でも、そんな声なんか聞こえてくるわけなんかない。でも、ボクに、それが聞こえてくることになったのだ。


「おい、この資料、明日の15時までに作っておいてくれ。」

「はい。」

(本当は明日の10時までなんだ。)

えっ、なんで嘘をつく必要があるんだ。これで、ボクが10時の段階でできていなかったら、なんて言われるんだろう。

「明日って言ったら、午前中、それも10時くらいまでに終わらせておくべきだろう。なんで、分からんかな?」

それじゃ、単なるいじめじゃないか。ボクは今日中にその資料の作成を終わらせた。明日、なんて言われるんだろう?


「おい、資料できてるか?」

「はい、これです。どうぞ。」

「おっ?そうか。ありがとう。」

(なんでやってあるんだ?いびれないじゃんか。)

いびる??てめ~、そういうことか。

「じゃ、明日、訪問する〇〇商事の資料も作っておいてくれ。」

(本当は××商事だけどな。)

「はい、わかりました。」

今度はわざと言い間違えて、ボクに責任を押し付けようとしている。でも、まる聞こえだから、ちゃんと、××商事の資料を作っておこうっと。


 翌日、やっぱり、ボクを陥れようとして、こう言ったのだ。

「ちゃんと、××商事の資料できてるか?」

「はい、どうぞ。」

「えっ、なんで・・・」

なんでもくそもないよ。おまえの嘘には、もうだまされないぞ。


 なんで、わかんないかな?っていうことは、ボクのような存在を陥れて、いたぶる言葉だったのだ。でも、なんで心の声が聞こえるようになったんだろう?そんなことはどうでもいいや。とにかく、今までのボクへのいじめは、これですべてなくなるのだ。


「おい、青木。今週の金曜、うちの部門の懇親会あるから、空けとけよ。時間と場所はあとで、連絡すっからな。」

(こいつには、違う場所を伝えておこうっと。)

またかよ。よっぽど、ボクに恨みでもあるのか?それもと、単にいじめたい対象だと思っているんだろうか。でも、正しい場所はすぐにわかったから別にいいけどね。



つづく





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2021年08月23日

短編小説 「聞こえるじゃん!」 第2話

 取引先の窓口の課長さんもそうだ。同じように、ボクに嫌がらせをしてくる。よっぽど、ボクはそうしたい対象なんだろうか。

「青木さん、次回の打合せは、××月〇〇日の11時からでいいでしょうか?」

「はい、ちゃんと空けておきますので、大丈夫です。」

「じゃ、それでお願いします。」

(他のメンバーには、10時って、伝えておこうっと。)


 この課長も同じだ。ボクを攻撃の対象にしてくる。ボクを担当から外したいのか、ボクの会社との取引を止めたいのか、本意は分からないけど、ボクのメモには、ちゃんと10時と書いておこう。それに打合せに使用する資料も言われていないけど、持ってきてないことを罵倒するつもりみたいなんで、しっかり用意しておこうっと。


 当然、当日、ボクは遅刻するはずもなく、打合せに必要な資料もちゃんと人数分用意して持って行ったので、何事もなく無事に済んだ。ボクを陥れようとしていた課長は、当てが外れたみたいで、嫌な顔をしていた。これからは何度やっても無理ですよぉ~っだ。


 だけど、それからのボクは、相手の心の声がちゃんと聞こえるので、いい人なのか、悪い人なのかがわかるようになった。それに、道行く人が、すれ違い際に心の声が聞こえてくる。みんなって、こんなもんなのかな。

「今日も疲れたなぁ。」

「あ~あ、なんかいいことないかな。」

「彼女が欲しいなあ。」

「また、今日も一人、淋しいなあ。」

「絶対、あいつを殴ってやる。」

「お金がほしいなあ、給料日まで持たないや。」


 あんまり、不要な声は聞こえてほしくないな。ボクに関係する人の声だけでいいのにな。でも、こういうのって、やっぱり、普通の人には聞こえてこないものなんかな。それじゃ、これをうまく使えないだろうか。


 ボクはこの能力を何かに使えないか、考えた。まあ、自分を貶めたい連中からは、回避できる。それでいいんじゃない?って、考えもあるけど、うまく利用できれば、毎日が楽しいかも?


 本当にたまたまなんだけど、会社の懇親会の時、ボクはたまたまサイコロを持っていた。みんなに何かやれって言われて、ふと思いついた。

「じゃ、課長、このサイコロの好きな数字を上にして机の上に置いて、手で隠して下さい。私がその数字を当てます。」

「お、マジックか?」

「いいぞ、やれやれ。」

「じゃ、後ろ向いて、目をつむりますからね。」

その間にサイコロを机に置いて、手で隠した。

「オッケーだ。」

「じゃ、私がその数字を当てますね。」

(2にしたなんて、絶対、分かりっこないじゃん。)

「課長、サイコロは2ですね。開けて見せて下さい。」

「お、おお~!」

てな感じで、そのサイコロ・マジックは、その場に居合わせたメンバーにかなり受けた。誰がやっても、絶対に当たるので、どんなトリックなんだ?という話になって、種明かししろなんて言われたけど、それは絶対に言えないのだ。


 それから、ボクは接待には必ず呼ばれて、サイコロ・マジックをさせられた。取引先のお客さんもかなり喜んでくれた。そうなると、次なるマジックを考えないといけないな。


 次に考えたのは、数字だ。0から9までの数字で、好きな数字を言い当てるんだ。でも、いくらボクが正しい答えを言っても、わざと間違えた答えを言ったら、当たらなかったということになる。どうしようか。そうだ、ボクが紙に書いておいて、相手に答えを言わせた後に、その紙を見せればいいんだ。そうすれば、絶対にワザと間違えるなんてことはできない。これは、数字だけじゃなく、例えば、アルファベットとか、でもできる。そうなると、ボクのマジックの範囲は広がった。みんなに結構楽しんでもらえるから、宴会とかの集まりではボクが必ず呼ばれることになった。


「青木のマジック、すごいよな。」

「それに取引先でも必ず受けるから、いい余興になるしな。」

「何年くらい練習したんだろう?」

「どんなトリックなんだろう?」

「教えてくんないよ。」

「オレもなにか覚えようかな。」

だけど、あんまりやり過ぎると、墓穴を掘りそうだから、それ以上、新しいパターンは止めといた。



(つづく)


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2021年08月24日

短編小説 「聞こえるじゃん!」 第3話

 たまに、ふと原点に戻ることがある。ボクがこんな能力が身についたのは、周りのみんなが「言われなくても分かれよ。」って、言っていたことが始まりだ。あんなことを言われなかったら、ボクはこんな能力が身につくことはなかったのかもしれない。とにかく、自分へのいじめ防御と、宴会盛り上げのゲーム用に使っていればいいってことだ思う、たぶん。


 ある日、ボクが帰宅途中に、小学生らしき男の子とすれ違った。

(家に帰りたくない。)

ん?どうしたんだろう。

(また、叩かれる。)

それって、虐待?どうしようか。とにかく、声をかける方がいいかな。でも、誘拐とかに勘違いされたら、ボクがやばいかも。結局、何もできずに通り過ぎた。もう、こういうことは聞こえなくていいのに。自分が聞きたい人の声だけでいいのにな。でも、あの子、どうなったんだろうか。気になるけど、どうせ何もできないんだし、忘れようか。もう、こんなことで悩むなら、聞こえない方がいいじゃん。でも、周りからまたターゲットにされるだろうし・・・。困ったもんだ。


 会社帰りの電車の中で、また声が聞こえた。

(どうしよう。こんな時に、お腹が痛くなってきた。)

ボクはその声の主を探した。あのおばさんだ。こういうことならと、思わず席を立って、おばさんのもとへ行った。


「ボクが座っていたあの席に座って下さい。」

「えっ?あ、ありがとうございます。」

ボクはそのおばさんに座ってもらった。

「なんで、わかったんですか?」

「なんとなく、調子悪そうに見えたもんですから。」

「本当にありがとうございます。」

よかった。こういうことなら、問題ないだろうし、変な容疑をかけられる心配もない。最近の世の中は、良かれと思って、やっても怒られることもあるもんな。


 今度は、会社へ行く途中の電車の中で起こった。

(嫌だ、痴漢。)

えっ、ボクはその声に主を探した。若い女の人だ。もしかしたら、大学生くらいかも。じゃ、痴漢はどこに?

(ぐへへ、いい感触。)

誰だろう。あ、こいつだ。3、40くらいのスーツ姿の男だ。だけど、これは微妙だ。変にかかわると、ボクが痴漢になってしまうかも知れない。こんな時に、こんな声は聴きたくなかったなぁ。


(やめて。)

(いいケツしてんな。)

だけど、ボクのいる位置は、ちょっと離れているし、その女の人には手が届かない位置だ。

「おっさん、何触っとんのや?」

思わず、言ってしまった。その男は慌てて、手を引っ込めたから、周りの人に当たったみたい。

「こいつか。」

まわりの男たちに、捕まった。最初のとっかかりをつくったら、あとは任せるってえのもいいもんだ。ボクはそのまま、会社へ向かった。


 なんか結構使い道ありそうだな。ボクはそんな気がしてた。会社帰りのコンビニで、ビールのおつまみでも買っているときのことだ。

(どうしよう、お金が足んないや。)

ボクの前の女子高生がレジで精算している。まあ、そんなこともあるだろうな。ボクだったら、最後の1品をあきらめるだろうな。

(これどうしても買ってかえらないと・・・)

ん?なんだろう。後ろから見ると、シュークリームが4つだ。

(私の分がなくても、あの子たちとお母さんの分は絶対・・・)

そうか、この子、優しいんだな。それなら・・・

「これ、落ちましたよ。」

ボクはかがんで、千円札を拾う振りをした。

「えっ?」

「はい、確かに渡しましたよ。」

(私、落としてないのに。)

まあ、いいでしょ。これくらい、ボクの自己満足の範囲だからね。その子は、申し訳なさそうにその千円を使って、支払いを済ませた。

「ありがとうございました。」

「いいですよ。」

ボクがレジを済ませて、店をでると、その子が待っていた。


「ごめんなさい。私、お金ないこと知っているんで、落としたんじゃないはずです。」

「あれ?確かに落ちてきたのを見たのにな。」

「そんなはずないです。あれ、あなたのお金ですよね。」

「違いますよ。」

「もういいです。わかってますから。」

やっぱり、バレバレか。

「じゃ、そのまま受け取っていいよ。」

「そんなわけにはいきませんよ。ちゃんと、お返ししますから。」

「女子高生なのに、義理堅いなぁ。」

「明日、また、この時間にここで、待ってますから。」

「わかったよ。」

まあ、なんでお金がないことに気が付いたのかは、追及されなかったのでよかった。



(つづく)


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2021年08月25日

短編小説 「聞こえるじゃん!」 第4話

 人の声が聞こえるってことは、便利なようで、そうでないこともある。会社で、人事考課の時なんかは上司の声なんかは、聞きたくない。

(青木は、今回、あきらめてもらおう。)

あきらめるかってんだ。

人事面談では、しっかり食い下がった。

「ボクはこんだけ実績を上げているんです。なのに、この考課はひどくないですか。」

「そう言っても、周りのみんなも同じように頑張ったから、仕方がないんだ。」

まあ、こう言っておけば、たいがいあきらめるしかないよな。

なんて上司だ。

「だけど、今回はボクの方が成績は上なのは明白ですよね。みんなの営業成績は、あそこに貼ってますから。」

しまった。そうだった。

「だけどね、今回はね、・・・」

言い訳なんかできないぞ。どんなにいい加減な査定をしていたのかが、よくわかった。こんな上司の元では、いつまでたっても、給料なんか増えないや。それなら、こちらもいい加減に仕事をするだけだ。


 最近、休日はよくインターネットでゲームをしている。そのゲームの中で知り合った人と、チャットで話ができるから、結構おもしろい。本来、いろんなクエストをやっていって、いろんな敵を、それも一人で倒したり、チームを組んで倒したり、みんなで成長して、最後の強敵を倒してゲームは終了するみたいなやつだ。いわゆる、RPGというやつだ。当然、ゲームの中ではゲームのキャラクターになっているので、男か女かわからない。それに年齢すらも、わからない。どんな人が、そのキャラクターになりきって、遊んでいるのか、興味はあるけど、知らなくていいことだ。所詮、ゲームの中の知り合いってことだけだからね。


 でも、そのゲームの中で、特に仲良くしている人が、ちょっと気になりだした。ボクより、先にやっていたみたいで、ボクよりレベルはかなり上だ。だから、いろんな局面で助けてもらえることが多いし、いろんなアイテムをくれたりする。


「そんな、悪いよ。こんなすごいアイテムはもらえないよ。」

「いいって。もう、それを装備するレベルじゃないしね。」

「ホントにいいの?悪いね。」

「そのレベルになったら、使ってね。」

「あざーっす。」


 ゲームの中で、拾えるアイテムならいいが、実際にお金をかけて購入したアイテムなら、気が引ける。ボクはそこまでゲームにのめり込んでないから、お金をつぎ込むことはしない。でも、その人はたまに有料アイテムをくれたりする。まあ、性格的に優しい人なんだろう。いろいろとチャットで話をする限り、まったりできるんで、気が合うかもしれない。いったい、どんな人なんだろう。ボクは気になりだした。


 ボクがゲームに参加すると、すぐに声をかけてくることが多い。

「待ってたよ。」

「ごめん、今日はそんなにできないんだ。」

「そっか、わかった。」

ボクらは、狩場へ行って狩りをした。

「いつもありがとう。」

「早く、レベルが近づいたら、もっと楽しめるよ。」

「そうだね。」

「あ、」

「どうしたん?」

「雨が降り出した。洗濯取り込んでくる。」

こっちも降り出した。ということは、近くに住んでいるのかな。それとも、偶然か。


「なんとか、間に合った。」

「こっちも雨が降り始めたよ。」

「えっ、もしかして、近くに住んでる?」

「かも・・・」

「一度、会おうか。」

えっ、向こうから言ってきた。ボクも会ってみたい気がする。でも・・・

「いや、この世界だから楽しいんだと思うよ。」

「そっか。」

なんか、残念がっている気がした。


(会いたい。)

えっ、聞こえる?それにボクでいいのかな。

「でも・・・」

「でも?」

(会ってくれるのかな?)

期待されてる。

「近くなら、会ってもいいかもね。」

「よかった。」

(よかった、会ってくれそうだ。)


 なんか、かなり嬉しそうだ。ボクらは、互いに近所の駅を言い合った。そしたら、まったく同じということがわかった。本当に近所に住んでいる。すっごい、偶然だ。

「じゃ、今度の日曜、その駅前に11時でどう?」

「OKです。」

「で、目印は?」

「てか、お酒飲める歳?」

「あ、うん。」

「じゃ、夕方どう?18時とか。」

「わかった、いいよ。」

「で、目印はどうする?」

「黒のキャップをかぶっていくよ。」

「じゃ、こちらは青いキャップで。」



(つづく)


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2021年08月26日

短編小説 「聞こえるじゃん!」 第5話

 いよいよ、バルサ(あ、キャラクタの名前ね。)に会うことになった。ボクのキャラクタの名前は、マックスだ。お互い、本当の名前は知らないけど、このキャラクターの名前で十分だ。


 当日、ボクは黒のキャップをかぶって、駅前で待った。青いキャップの人はどこだろう?ちょっと待っていると、割と背の高い、スタイルのいい、青いというか、紺色のキャップをかぶった人、女性?を発見した。ボクが176だけど、どっこいどっこいだ。女の人なら、かなり背が高い。マスクしてるし、サングラスしてるし、男か女か、わからない。でも、ボクの方に近づいてくる。


「マックス?」

「バルサ?」

声は女性だった。

「じゃ、予約してるから、行こ。」

「うん。」

バルサはボクの方をあまり見ないで歩いていく。ボクも遅れないようについていく。足が速いな。路地を入ったところに1軒の居酒屋があった。こんなところに、へえ~、洒落てるな。店を入ると、すぐに個室へ案内された。


「こんなところに、こんな雰囲気のいい店があったんですね。」

バルサは何も言わず、キャップをとって、サングラスを外し、マスクもとった。えっ???ボクは凝視してしまった。そこにいるのは、紛れもない山口佳純さん本人だ。(山口佳純さんは女優さんだ。)マジか。びっくりした。で、隣にいる人は誰?


「ごめんなさい、びっくりしたでしょ。」

「はい。でも、よくオフで会おうと思いましたね。ゲームの中なら、ずっと分からないままだったのに。」

「私の気まぐれね。なんとなく、会いたくなったの。あ、こちらはマネージャーの小林恵子さん。」

「どうも、はじめまして。」

「ごめんなさいね、どうしても佳純があなたに会いたいっていうから、今日は同席させてもらうわ。」

「いえ、女優さんですから、そんなものかと・・・」

「でも、バルサでいいですよね。」

「そうね、マックス。」


 このお店は彼女の御用達みたいで、何も言わないでもどんどん料理や飲み物を持ってきてくれた。ボクたちは、ゲームの話題に終始した。その方が気が楽だろうと思ったからだ。彼女も楽しそうだった。でも、彼女のキャラクターはアマゾネスっぽくて、めちゃ強いけど、本当はこうなんだよな。横で、小林さんはニコリともしないで、ボクらの話を聞いて、一人で食事をしている。それで、いいんだろうか。


「マックスは、サラリーマンなの?」

「そうです。営業やってます。」

「パソコンとか、わかる?」

「まあ、普通の人よりはですけど、大丈夫ですよ。」

「じゃあ、今度私のパソコンで教えてほしいとこあるんだけど。」

「いいですよ。」

「ありがとう、今度、お願いね。」

(よかった、マックスは信頼できそう。)

そう思ってくれるとうれしいな。こういう人は、絶対秘密にしてあげないと、いけないんだよな。


「ねえ、ほんとの名前と年齢、聞いてもいい?」

「青木健太郎と言います。26歳です。」

「青木さんね、私は本名だし、年齢も公表している通りよ。」

と言っても、年齢は知らんし。今度、ネットで調べておこうっと。


 ボクらは結構長い時間、ゲームの話をしてた。彼女はボクのように、実際に会ってもいい人かどうか、ゲームの中でいろんな人と話をしていたらしいけど、ボクのように話ができる人はいなかったらしい。でも、結構楽しく話ができた。彼女も満足気な様子だった。でも、いつも小林さんはお地蔵さんのように隣に座っているんだろうか。ボクはそっちも気になった。


「今日はありがとう。」

「いえいえこちらこそ。」

「また、お会いしましょうね。」

「そうですね、よろしくです。」

帰り支度をしていたが、一向に会計する様子もない。

「あの、お会計は?」

「あ、いいの。メグがやってくれたから。」

えっ、いつの間に?でか、メグって、小林さんのこと?恵子(ケイコ)だったよな。

「そんなわけにはいかないでしょ。せめて割り勘にさせて下さい。」

「ホントに大丈夫だから。」

ボクは彼女に押し切られてしまった。


 帰りは駅まで行って、別れた。でも、なんとなく、帰ったらすぐに、ゲームでつながりそうな気がしてたが、やはり、その通りだった。

「やっぱり、来ましたね。」

「そっちもね。」

ボクは決してゲーマーというわけじゃないけど、彼女と楽しむ、唯一の手段として、利用しているって感じだ。



(つづく)


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