それからしばらくして、駐在さんがやってきた。
「お~い。」
「あ、こんにちわ。お元気ですか?」
「登っていい?」
「どうぞ、どうぞ。」
「へえ~、なかなかな家だね。」
「今日はどうしたんですか?」
「おお、そうだった。手紙が来たんで、郵便屋さんの代わりに持ってきたんだ。」
「ありがとうございます。」
それは、愛子さん宛とボク宛の手紙だった。それぞれ、先方の都合が書いてあったので、それに合わせていくことにした。
「そうか。お互いの家族に顔見せをしにいくんだね。」
「まあ、なんとか行ってきますよ。」
「頑張ってな。」
「ありがとうございます。」
そんな訳でまずは、ボクの方から行くことになった。親父の葬式以来なんで、多少の懐かしさもあるけど、また、ぐちゃぐちゃ言われるのがうっとおしい気持ちの方が大きくなってきた。ああ、行きたくない。
毎度、駐在さんちで服を借りていく。
「やっぱり、どきどきしちゃうわ。」
「すぐ、帰ろうよ。」
「そんなわけにいかにでしょ。」
やっぱ、そうか。仕方がないね。
家に着くと、お袋が出迎えてくれた。
「お帰り。その方が愛子さんね。」
「初めまして、よろしくお願いします。」
中から、兄貴夫婦も現れた。
「よう、久しぶり。」
「あれ、来てたの?」
「いや、ここに住んでる。」
「そうなんだ。よかったね。」
兄貴はここに戻ってきていた。
「ところでこの住所、ほんとに届くの?」
「ちゃんと来ただろ?」
「愛子さん、本当にこの人でいいの?」
「はい。毎日、楽しく暮らしてますよ。」
「で、結婚式も披露宴もなしでいいの?」
「はい、何もなしでいいんです。」
晩御飯の席では、そんな話ばかりで、やっぱり、うっとおしかった。
「ところで愛子さんはおいくつなの?」
そういえば、ボクも知らない。
「32になります。」
えっ、ボクより年上だったの?だんだん、いろんなことが分かってくるな。
次の日、お昼前にはお暇することにした。次が控えているからね。一旦、ツリーハウスに戻って、しばしゆっくりした暮らしを送った。でも、またすぐ町までいかなくてはならない。今度は愛子さんの実家だ。今度はボクが緊張していた。
「あなたは何も気にしないで、でんと構えていればいいんだから。」
そういわれても、びびりそうだ。
「まあ、なんとか頑張るよ。」
「ありがとう。あとは私がするからね。」
そういっていたのは、こういうことだったのかと分かるのは、彼女の実家に着いてからのことだった。彼女の実家は北海道。こんなことも、今頃知った。広大な大自然という雰囲気だが、実家は街中だった。
「帰ったわよ。」
「おかえり~。」
「なんだ、そいつは?」
「ちゃんと、手紙で説明したよね。見てなかったの?」
「わしは知らん。」
「じゃ、そのまま知らん顔しててよ。」
「まあ、まあ、帰って早々、ケンカしないで。」
「いい?私はこの人と結婚してるの。今日は、私の旦那様を紹介しにきただけ。」
「なんだと。」
「とうさんが何言ってもむだだから。」
「絶対に認めんぞ。」
えらいことになってきた。
「初めまして、トシと言います。」
「この男は苗字もないのか!」
「そんなことどうでもいいでしょ。」
愛子さんは強烈だな。
「苗字は、今はありません。自然の中で暮らしていますので、トシだけで十分なんで。」
「こんなヤツのどこがいい?」
「もう、どなってばかりで、ちょっとは冷静に話できないかな?」
「そうですよ、おとうさん。ちゃんと話を聞いてやってくださいよ。」
「ほとんど、自給自足の生活をしています。愛子さんも共感して下さっているので、ご一緒させて頂いています。」
「手紙でも書いた通り、これからは私もトシさんと一緒に暮らしていきます。」
「なんで、そんなことに・・・」
「昔っから、自然の中で暮らしたいって、私、言ってたよね。何も聞いてなかった?」
「おかあさんはちゃんとわかっているけど、おとうさんがね。」
「まあいいわ、彼も紹介したし、私の決意もお話ししたし、もういいわね。」
「よくない!」
「じゃ、どうしろっていうの?」
「わしは認めんからな。」
「もっと、具体的に言ってほしいわ。」
「だめだと言ったら、だめだ。」
「また、これよ。話にならないわ。」
この親子の話を聞いていたら、愛子さんがどんな人なのかわかってきたような気がする。
「おかあさん、毎回、帰ってくるたびにこの調子なら、帰ってくるのやめるわ。悪いけど。」
「愛子、そんなこと言わないで。」
「だって、せっかく、気分良く帰ってきても、初めからこれでは、ここにいたいと思えないもん。」
「・・・」
ボクもそう思う。
「トシさん、帰ろう。」
母親が止めるのを振り切って、ボクらは、帰途についた。
「愛子さん、よかったのかな?」
「ごめんなさいね。私と父親とは、犬猿の仲なのよ。いつも、ああなの。」
「そうか、ボクもその気持ちはよくわかるよ。だから、山の中で一人暮らしを始めたんだからね。」
「そうよね。」
いくら血縁であっても、性格が合う、合わないがある。世間では、勘当ということばもあるし、兄弟の仲たがいも多くある。相続というときには骨肉の争いになったりする。多分、お互いのテリトリを侵さないくらいのそばにいて、相手の気持ちを害さない程度の干渉しかしない、そんな関係が心地いいんだろうな。ボクらは同じ価値観を持っているし、何時間でも好きな景色を見てられる。
一緒にいるということは、お互いに自然に気を遣ってあげられるかが大事だと思う。「こうしなくっちゃ」じゃなくて、自然に、いつの間にかやっている気遣いができる相手だからこそ、多分、いつまでも一緒にいられるんだろうな。
また、ツリーハウスは、ボクら二人の・・・おっと、新入りがいたっけ。子犬のまだ名前がないけど、三人で暮らすことになった。ボク一人で出歩くこともあれば、愛子さん一人で行くこともある。三人でいくときもある。何かを作るときは、一緒に楽しむ。ボクらは、山の中でそんな暮らしをしている。時たま、ミキさんとロッキーが遊びにきてくれる。駐在さんたちもだ。これが、ボクが憧れていた暮らしなんだ。
今日もまた、ツリーハウスから、綺麗な夕日が見える。三人でずっと眺めていたいもんだ。
「お~い。」
「あ、こんにちわ。お元気ですか?」
「登っていい?」
「どうぞ、どうぞ。」
「へえ~、なかなかな家だね。」
「今日はどうしたんですか?」
「おお、そうだった。手紙が来たんで、郵便屋さんの代わりに持ってきたんだ。」
「ありがとうございます。」
それは、愛子さん宛とボク宛の手紙だった。それぞれ、先方の都合が書いてあったので、それに合わせていくことにした。
「そうか。お互いの家族に顔見せをしにいくんだね。」
「まあ、なんとか行ってきますよ。」
「頑張ってな。」
「ありがとうございます。」
そんな訳でまずは、ボクの方から行くことになった。親父の葬式以来なんで、多少の懐かしさもあるけど、また、ぐちゃぐちゃ言われるのがうっとおしい気持ちの方が大きくなってきた。ああ、行きたくない。
毎度、駐在さんちで服を借りていく。
「やっぱり、どきどきしちゃうわ。」
「すぐ、帰ろうよ。」
「そんなわけにいかにでしょ。」
やっぱ、そうか。仕方がないね。
家に着くと、お袋が出迎えてくれた。
「お帰り。その方が愛子さんね。」
「初めまして、よろしくお願いします。」
中から、兄貴夫婦も現れた。
「よう、久しぶり。」
「あれ、来てたの?」
「いや、ここに住んでる。」
「そうなんだ。よかったね。」
兄貴はここに戻ってきていた。
「ところでこの住所、ほんとに届くの?」
「ちゃんと来ただろ?」
「愛子さん、本当にこの人でいいの?」
「はい。毎日、楽しく暮らしてますよ。」
「で、結婚式も披露宴もなしでいいの?」
「はい、何もなしでいいんです。」
晩御飯の席では、そんな話ばかりで、やっぱり、うっとおしかった。
「ところで愛子さんはおいくつなの?」
そういえば、ボクも知らない。
「32になります。」
えっ、ボクより年上だったの?だんだん、いろんなことが分かってくるな。
次の日、お昼前にはお暇することにした。次が控えているからね。一旦、ツリーハウスに戻って、しばしゆっくりした暮らしを送った。でも、またすぐ町までいかなくてはならない。今度は愛子さんの実家だ。今度はボクが緊張していた。
「あなたは何も気にしないで、でんと構えていればいいんだから。」
そういわれても、びびりそうだ。
「まあ、なんとか頑張るよ。」
「ありがとう。あとは私がするからね。」
そういっていたのは、こういうことだったのかと分かるのは、彼女の実家に着いてからのことだった。彼女の実家は北海道。こんなことも、今頃知った。広大な大自然という雰囲気だが、実家は街中だった。
「帰ったわよ。」
「おかえり~。」
「なんだ、そいつは?」
「ちゃんと、手紙で説明したよね。見てなかったの?」
「わしは知らん。」
「じゃ、そのまま知らん顔しててよ。」
「まあ、まあ、帰って早々、ケンカしないで。」
「いい?私はこの人と結婚してるの。今日は、私の旦那様を紹介しにきただけ。」
「なんだと。」
「とうさんが何言ってもむだだから。」
「絶対に認めんぞ。」
えらいことになってきた。
「初めまして、トシと言います。」
「この男は苗字もないのか!」
「そんなことどうでもいいでしょ。」
愛子さんは強烈だな。
「苗字は、今はありません。自然の中で暮らしていますので、トシだけで十分なんで。」
「こんなヤツのどこがいい?」
「もう、どなってばかりで、ちょっとは冷静に話できないかな?」
「そうですよ、おとうさん。ちゃんと話を聞いてやってくださいよ。」
「ほとんど、自給自足の生活をしています。愛子さんも共感して下さっているので、ご一緒させて頂いています。」
「手紙でも書いた通り、これからは私もトシさんと一緒に暮らしていきます。」
「なんで、そんなことに・・・」
「昔っから、自然の中で暮らしたいって、私、言ってたよね。何も聞いてなかった?」
「おかあさんはちゃんとわかっているけど、おとうさんがね。」
「まあいいわ、彼も紹介したし、私の決意もお話ししたし、もういいわね。」
「よくない!」
「じゃ、どうしろっていうの?」
「わしは認めんからな。」
「もっと、具体的に言ってほしいわ。」
「だめだと言ったら、だめだ。」
「また、これよ。話にならないわ。」
この親子の話を聞いていたら、愛子さんがどんな人なのかわかってきたような気がする。
「おかあさん、毎回、帰ってくるたびにこの調子なら、帰ってくるのやめるわ。悪いけど。」
「愛子、そんなこと言わないで。」
「だって、せっかく、気分良く帰ってきても、初めからこれでは、ここにいたいと思えないもん。」
「・・・」
ボクもそう思う。
「トシさん、帰ろう。」
母親が止めるのを振り切って、ボクらは、帰途についた。
「愛子さん、よかったのかな?」
「ごめんなさいね。私と父親とは、犬猿の仲なのよ。いつも、ああなの。」
「そうか、ボクもその気持ちはよくわかるよ。だから、山の中で一人暮らしを始めたんだからね。」
「そうよね。」
いくら血縁であっても、性格が合う、合わないがある。世間では、勘当ということばもあるし、兄弟の仲たがいも多くある。相続というときには骨肉の争いになったりする。多分、お互いのテリトリを侵さないくらいのそばにいて、相手の気持ちを害さない程度の干渉しかしない、そんな関係が心地いいんだろうな。ボクらは同じ価値観を持っているし、何時間でも好きな景色を見てられる。
一緒にいるということは、お互いに自然に気を遣ってあげられるかが大事だと思う。「こうしなくっちゃ」じゃなくて、自然に、いつの間にかやっている気遣いができる相手だからこそ、多分、いつまでも一緒にいられるんだろうな。
また、ツリーハウスは、ボクら二人の・・・おっと、新入りがいたっけ。子犬のまだ名前がないけど、三人で暮らすことになった。ボク一人で出歩くこともあれば、愛子さん一人で行くこともある。三人でいくときもある。何かを作るときは、一緒に楽しむ。ボクらは、山の中でそんな暮らしをしている。時たま、ミキさんとロッキーが遊びにきてくれる。駐在さんたちもだ。これが、ボクが憧れていた暮らしなんだ。
今日もまた、ツリーハウスから、綺麗な夕日が見える。三人でずっと眺めていたいもんだ。
(おわり)