2021年12月19日

短編小説 「トラブル・アトラクター」 第19話

「じゃ、晩御飯、行こうか?」

「はい。」

しかし、この子、こんなオレと本当に旅するつもりかな?

「今日は、ありがとうございました。」

「大した事してないよ。」

「いえいえ、助かりました。」

「このディナー、結構するんだけど、大丈夫?」

「え、本当ですか?」

「冗談。」

「もお~。」

「ところでさ、名前はなんていうの?」

「あっ、ごめんなさい。本当ですよね、私、高山睦美って言います。」

「オレは小林渉。」

「なんで、一人旅を?」

「複雑な理由があるんだ。君は?」

「私は、卒業旅行なんです。みんなに1人旅するんだって、出てきたのはいいけど、心細くなって。で、小林さんは?」

「彼女と一緒にヨーロッパ旅行にいくはずだったんだ。」

「なんで、1人なんですか?あ、途中で出会うとか?」

「彼女はもうこの世にいない。亡くなったんだ。だから、オレは一緒に行くはずだったヨーロッパを回ってみたかったんだ。」

そういうと、彼女はいきなり泣き出した。

「おいおい、これから食事なのに泣くなよ。」

「だって、可愛そうなんですもの。」

「ごめんな、正直に話すべきじゃなかったな。」

「そんなことないです。」


 食事がでてきて、しばらくすると彼女は落ち着いた。

「ごめんなさい、せっかくのお食事ですものね。」

「そうだな、楽しく食べようか。」

それからは彼女の独壇場だった。よく喋る。自分のこと、そこまで個人情報、喋りまくっていいのか、ってくらい、よく喋った。飯も食えよ。


 食後、オレは言っておいた方がいいと思った。

「なるほどな。で、卒業後は、商社の事務が決まってるんだね。」

「はい。小林さんは何をされているんですか?」

「個人事業主だよ。」

「すごいですね。」

「すごくないよ、でも自分で決めて休みも取れるし、仕事したければ、休み返上で働ける。すべては自分次第さ。」

「へえ~、そうなんですね。」

「あと、君とは明日の朝までだからね。」

「えっ、なんでですか?もっと一緒に旅したいです。」

「オレはトラブル・アトラクターなんだ。」

「どういうことですか?」

「オレのそばにいると、トラブルに巻き込まれる。それで、オレの彼女は殺されたんだ。」

「怖い。」

「だろ、だから、明日の朝食後はお別れだ。」

「・・・」

彼女は黙ってしまった。そこからは、あまりしゃべらないまま、それぞれの部屋へ戻った。


 翌朝、オレは早めの朝食を食べに行った。思った通り、彼女はまだきてなかった。まあ適当に好きなものを取って食べ、食後のコーヒーを飲んでいたところに、現れた。

「おはようございます、早いですね。」

「おはよう。オレ、もうでるよ。」

「えっ、待って下さい。」

「昨日話したろ。危ないから、今日から1人だ。」

「そんなぁ・・・」

オレは部屋に帰り、荷物を持ってチェックアウトした。




(つづく)



posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | トラブル・アトラクター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月18日

短編小説 「トラブル・アトラクター」 第18話

 声を殺して泣くって、こんなに辛いものなのか。今さっきまで、オレのそばで笑っていた、かおりちゃんにもう二度と会えないのだ。霊安室で、オレはかおりちゃんのそばにずっといた。顔はもう冷たくなっていた。ありえねぇ。途中、かおりちゃんと仲が良かった看護師さんたちも訪れた。みんな、一様に泣き崩れていた。多分、オレより付き合いは長いはずだ。そんな友達が居なくなったんだ。泣かないわけがない。


 オレは、警察に状況を話した。前田刑事も飛んできてくれた。だが、オレの憔悴しきった顔をみて声を掛けれなかったみたいだ。犯人のチンピラはすぐに捕まった。いくら、こんな能力をもっても、愛する人を助けられない。


 かおりちゃんの身内の方が来られたので、オレは病院を後にした。


 しばらく、何もせずに暮らしていた。ほとんど、部屋の中にいた。それから、ずっと働いた。休みなく。貯まりに貯まったお金を持って、オレはヨーロッパに出かけた。かおりちゃんと行くはずだった、ヨーロッパに。


 何の目的もなく、どこへ行くやらわからない、行き当たりばったりの旅。本当に適当だった。当日泊まる宿も何も決めてなかった。なのに、言葉は全然喋れない。実際にそれが、間近になって初めて、慌ててるオレがいる。だいたい、オレはヨーロッパのどこにいくんだ?適当にヨーロッパならどこでもいいと言って、適当に乗った飛行機だったが、到着する国はどこだっけ?オレは乗務員にこの飛行機はどこに向かってる?なんて聞いたもんだから、隣に座っていたご婦人が、ハイジャックされたのかと恐れおののく始末。結局、目的地はパリだった。オレは英語さえ、ままならないのに、大丈夫なのか?


 空港に着いて、税関も済ませ、まあ、にこやかに笑って「サイトシーン」と言えばなんとかなると思って臨んだんで、何とかなった。で、問題は食事に、宿だ。観光なんて後回しでいい。適当に歩いていると、レストランを見つけた。みんなが食べているのを見て、指さし、お願いした。なんとかなるもんだということがわかった。で、今度は、お金の支払いだ。これも言葉で言ってもわからないから、紙に書いてもらった。字に特徴があるから、数字もわかりずらい。でも、なんとか、支払いも済ませた。


 今度は宿だ。これだって、指で、ゼスチャーでなんとか、シングルを取れた。支払いも請求されるまま、支払った。なんか、朝飯はついているみたいなことはわかった。部屋はベットにシャワー、トイレがついていた。十分だ。とにかく、一度、やってみれば、なんとかなることがわかった。


 2日目は、列車に乗って、ドイツへ行ってみた。地図で見た、駅名をカタカナで言うと、案外わかってくれた(と思うのはオレだけかも?)。移り行く景色は綺麗だが、今度はどんなことが待ち受けているのか、少々不安だったが、考えてみれば、日本のあんなチンピラどもを前にしても、平然としていたオレなのに、何ビビッてるんだ。そう思うと、なんでもなくなってきた。


 駅に着いて、まだ早い時間だったので、町を散策した。そこで、オレは問題を確認した。なんと、レストランとか、店はあらかた閉まっているのだ。そっか、今日は休日なんだ。なら、どこで、飯を食えばいいんだ。なんとか、開いていたのは、日本にもあるハンバーガー屋さんだった。まあ、多少は金額が違うけど、問題なく食事ができた。そこへ、若者3人がオレを取り囲んだ。なにやら、言ってはいるけど、オレにはさっぱりわからない。かなりすり寄ってきたので、多少は警戒したが、しっかり、スマホを掴んでいた。オレはその手を爆破。オレのカバンを持って行こうとしたヤツは足を爆破。もう1人はいったいどうしたんだって、顔をしてたが、2人を見捨てて、走り去った。オレは平然とスマホとカバンを帰してもらった。こんな外国でも。相変わらずトラブルはあるんだな。


「あの日本の方ですよね?」

「そうだけど?」

「よかった。私、言葉もあんまりわからないので、困ってたんです。」

オレとおんなじじゃん。

「オレも全然しゃべれませんよ。」

「え、そうなんですか?」

当てが外れたって感じだな。

「まあ、旅は道連れっていうから、構わないですよね?」

結構、図々しいな。

「まあ、いいけど。」

「で、どこまでいくんですか?」

「特に決めてないよ。」

「え~、そうなんですか?」

「悪い?」

「そんなことないですけど。すごいなって思って。」

「じゃ、君は?」

「私もです。」

「じゃ、君もすごいじゃん。」

「そうかな。」

変なヤツ。

「オレはそろそろ宿を見つけにいくけど、どうする?」

「一緒にいきます。」

ということで、ドイツで変な日本人の女の子の一人旅と一緒になった。適当なホテルを見つけて、フロントに行っていつものゼスチャーでお願いした。

「すごい、そんなゼスチャーで、ちゃんとシングル2部屋取れたんですね。」

「金額は知らんけど。」

「そうなんですか。」

「自分の分は自分で払えよ。」

「当然ですよね。」

結局、外では飯にありつけないので、ホテルのディナーと朝飯をお願いした。彼女もそれでいいと言ってた。





(つづく)



posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | トラブル・アトラクター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月17日

短編小説 「トラブル・アトラクター」 第17話

「ヒュ~、ヒュ~、見せつけるね、お2人さん。」

「邪魔せんといてくれるかな。」

「出すもん出したら、消えてやるよ。」

「残念ながら、さっき全部使っちゃったよ。」

「じゃ、お姉ちゃんを頂こうかな。」

「どうする?」

「嫌よ。」

「だってさ。ガキはケツ洗って家に帰れ。」

「おっさん、ええ加減にせぇや。」

2人とも、しっかり、刃物持ってるやん。前田刑事に電話している暇ないし、しょうがないねぇ。オレは刃物を握っている手の骨を爆弾化した。

「いいか、さっさと、帰れよ。そうしないと、かなり痛い目に合うことになるぜ。」

「じゃかましいや。」

1人が突っ込んできたんで、爆破した。ソイツは激痛に顔をゆがめて、刃物を落とし、手を抱えた。

「ど、どうしたんだ?」

「手が、手が・・・」

「だから、言わんこっちゃない。さっさと帰りぃや。」

「えっ、何なの?」

かおりちゃんも状況が呑み込めずにいた。でも、チンピラが痛そうにしていたので、恐らく職業意識がそうさせたのだろう。

「私に見せて。看護師よ。」

「やめろ。」

オレの制止も聞かずに、彼の元に走った。だが、もう1人のチンピラが、走り込んでくるかおりちゃんに刃物を向けた。かおりちゃんには、患者しか見えてなかったに違いない。もう1人のチンピラがかおりちゃんを刺した。それは、オレからは死角だったので、対応しようがなかった。

「えっ?」

そういうと、かおりちゃんは倒れた。やっと、オレはことの重大さに気づいた。瞬間、もう1人も爆破した。刃物はかおりちゃんの腹に刺さっていた。先に救急車だ。オレはすぐさま連絡した。そして、刃物は抜かずにそのままにした。下手に抜いたら、出血多量になる恐れがある。


「大丈夫か?」

「なんとか。」

「救急車よんだから。がんばれよ。」

「わかってるって。」

オレたちがそんなやり取りをしている隙に、チンピラはずらかっていた。

「オレが、トラブル・アトラクターなばっかりに、すまんな。」

「私は知ってて付き合ってるんだもん。」

「じゃ、絶対に生還しろよ。」

「あたりまえじゃん。」

そんな声が弱々しい。見ると、ちょっと出血が多い。

「元気だせよ。」

「じゃ、結婚してくれる?」

「わかってるって。嫁ハンにしたるよ。」

「よかった。」

オレはかおりちゃんの手首を握った。脈拍が弱々しい。まずいぞ。救急車はまだか。

「かおりちゃんは、洋風がいいか、和風がいいか、どっちだ?」

「私はね、ウェディングの方がいいかな。」

「似合ってるだろうな。じゃ、新婚旅行はどこがいい?」

「ヨーロッパにいきたいな。」

「よっしゃ、連れてったる。」

「うれしいなぁ。」

「元気だせよ、もう少しや。」

ようやく、サイレンが聞こえてきた。でも、かおりちゃんは、意識がなくなってしまった。オレは救急隊員にすべてを託した。


 救急車が着いた病院は、かおりちゃんの病院だった。みんな顔見知りだ。

「刺されたのは金子だって。」

「絶対、生還させるよ。」

「わかってるって。」


 オレは、廊下の長椅子に座って、天に祈っていた。長い長い時間、ずっと座っていた。その間、何度も看護師さんたちが走り回っていた。しばらくして、オレの前に誰かが立った。見上げると、恐らく、執刀医だろう。涙を浮かべながら、こう言った。

「残念ながら、生還させられませんでした。」

「・・・」

見ると、周りの看護師たちも泣いていた。オレも抑えることができなかった。




(つづく)


posted by たけし at 12:00| 兵庫 ☔| Comment(0) | トラブル・アトラクター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする