前田刑事か。ふと思い出した、彼に連絡を取ってみよう。
「もしもし、前田刑事ですか?」
「はい、あ、その声は、小林クンかな。」
「はい、お願いがあります。」
「どうした?まさか、今、例の状態なのか?」
「いえ、実は・・・」
オレは、今のオレの状態を話した。かおりちゃんのことも。
「だから、かおりを守ってほしいんです。」
「状況はわかった。だが、その取引現場にも警察を送り込まないとな。」
「わかりますが、くれぐれもかおりをお願いします。」
「わかった。」
取引の日、オレは連中とその現場へ向かった。こちらの親分はニヤニヤが止まらないらしい。前回の状況をしっているからだろう。だが、今回は状況が変わっていたことに、オレも気が付かなかった。
大きなカバンを受け渡しし、それぞれが中を確認したときだった。銃声が聞こえた。その直後、オレは何かに突かれたような衝撃を受け、すっころんだ。胸の当たりが熱い。見ると、服はもう真っ赤だった。オレが倒れてから銃撃戦になった。どれほどの弾が頭上を飛び交っただろう。
そっか、オレの情報は相手にも伝わってたんだな。オレがいるから、またやられると思って先にオレを撃ったんだ。そう思ったとき、警察の突入があったみたいだ。もうそんなこと、もうどうでもいいや。オレはどんどん意識が遠のいていった。このまま、オレは死んでいくのだろうな。
どれくらい経ったのかわからないけど、オレは目を覚ました。もう病院ってことは、すぐにわかった。何回も入院しているからね。とにかく、助かったんだということが、今回はうれしかった。ふと、見ると、誰かがオレのベッドに頭の乗せて寝ている。かおりちゃんだ。すぐにわかった。オレは軽く頭を撫でてやった。かおりちゃんも無事だったんだな。よかった。
「あ、起きたのね。よかったぁ。もう少しズレていたら、心臓だったのよ。」
「そっか、悪運も強いってことだよな。」
「付き合い始めた彼氏がこんなにも早く亡くなったら、ショックが大きすぎよ。」
「すまんかったね。」
「トラブル・アトラクターって言ってたもんね。あ、私もね、刑事さんに助けられたの。」
んっ?どういうことだ?
「病院に入院している振りして、私に危害を加えようとしてた人がいたのよ。」
なんでも、他から転院してきた人(=暴力団)が、かおりちゃんを見張っていて、オレが意にそぐわない行動にでたら、すぐにかおりちゃんを拉致しようとしていたらしい。で、拉致できない場合は、ヤッてしまえってことだったらしい。なんて連中だ。まあ、でもオレの頼みを聞いて、警官が潜入していたので、事なきを得たということだった。
「ワタルさんは、救急でこの病院に運ばれてきたの。私もちょうど救急外来で働いていたから、びっくりしたわ。血の気が引くって、初めて経験したのよ。」
「何度も、心臓止まるし、出血多量だったし、もうダメかと思ったけど、あなたは強い人ね。ちゃんと生還してくれたわ。」
「そうか。オレも今度ばかりはもうあかんかもって思ってたもんな。」
そこへ前田刑事さんが現れた。
「よう、生きとったな。」
「おかげさまで、なんとか。」
「この看護師さんが彼女?」
「はい。」
「どちらも助かってよかったよ。」
「お世話になりました。」
「この方がオレを助けてくれたんだ。」
「ありがとうございます。」
たくさんけが人が出ることを想定して、救急車も待機していたらしい。そのおかげで、オレは助かった。
結局、暴力団からは、一銭ももらってない。まあ、あんなことでもらうと、ろくなことにならないだろうしな。それに今回のことで、オレのバックに警察がいることが広まったらしい。おかげで、トラブルに巻き込まれることが少なくなった。
「あれ以来、平穏ね。」
「ああ、なんか拍子抜けしてるけどね。」
「また、巻き込まれたいの?」
「いや、もういいよ。」
「そうでしょ?」
オレの体は、トラブルの度にキズだらけになってきた。もうそれも、勲章とは思えなくなってきている。今はかおりちゃんの勤務に合わせて、オレが休みをとるようにしている。
「さあ、明日から2日はお休みよ。」
「じゃ、今晩は外食いく?」
「うん、いくいく。」
ということで、オレたちはいつもの居酒屋へ。
「お、今日は彼女連れかい?」
「大将、いつもの2人前、頼むよ。」
「あいよ。」
「何、いつものって?」
「出てくれば、わかるよ。」
オレたちは大将の料理に舌鼓を打って、美味しいお酒を飲み、楽しい時間を過ごした。
「なんか、久しぶりに美味しかったぁ~。」
「そいつはよかった。」
オレたちは、ほろ酔い気分でオレんちへ向かっていた。ところが、オレたちの前に、いかにもっていう風体の2人組のチンピラが現れた。やっぱり、オレはトラブル・アトラクターなのだ。
(つづく)